うまそうだ
二日あと、シュンカの里の弔いへと、坊主とその従者になった子は、下界へおりることとなった。
里まで行くのに、アラシという僕を呼び寄せることとなる。
「おい、アラシよ。シュンカの里に行きてえんだが」
いきなり空をむいて、まったく普通の声でしゃべりかける坊主を、コウセンにかかえられた子どもはきょとんと眺めた。
が。
突然の大風。
「ほお。これはうまそうな」
「・・・・・」
シュンカの鼻先で、細く赤い舌が揺れる。
黒いうろこでおおわれたからだに、同じく黒くやわらかいはねをもつ巨大なトカゲのような顔のものがいた。
引きつった声をだしてコウセンにしがみつく子どもを、低くからむような鳴声で笑ったアラシが、
「人間は食わんが、おまえは、うまそうだ」と再度怖がらせる。
「その、うまそうなガキの里に行きてえ」
坊主の言葉に長い首をまわしたアラシが、よかろう、とこたえた。
硬い鱗で覆われた首と背の間くらいに綱を巻きつけ、それをつかんで坊主と絵師、子どもを抱えたコウセンが乗る。
鱗のある背から生えた艶のある羽は柔らかそうな毛を散らし、音をたてて開かれた。
ただ、口を開けて見上げていたシュンカが、羽ばたいて浮き上がったところで、ひゃあ、と子どもらしい声をあげてコウセンを笑わせた。
どう解釈したものか、アラシが調子にのってぐるりと体をひねる。今度は絵師が、ぎゃあ、と声をあげ、それに、子どもが笑った。
「―― おう。背が、ふるえたわ。・・・おい、坊主、もっとしっかりと蓋をしてやれ。わしは下界の妖物などと、かかわりを持ちとうないでな」
長い首を一度波打たせ、シモベは命じる。
無言のまま、むっつりとした顔で坊主が腕を伸ばし、子どもの頭を軽く叩いた。
「ほお。おまえら、ずいぶんと合うのだなあ」
「はあ?」
からかうようなアラシの言葉に、坊主は何のことかわからねえと言おうとしたのだが、シュンカが、困ったように、嬉しそうな顔をしていたので、黙っておくことにした。




