よく似てる
「―― だれか、教えやがったな?」
ネズミが後ろ足で立ち、聞いたことのある声をだす。
「ミカド・・・わかっているはずだ。見ていたろう?皆、決まりは守った。だれも、二人のことを教えていない」
ネズミを見下ろすサモンが、珍しく強気な声で言い切り、隣に立っていたセリが、わざと、ゆっくり、かがみこむ。
「どうだ?これで、わたしたちの勝ちだ」
女がネズミをつまみあげ、顔の前にぶらさげてすごんだ。
「―さあ、返して、もらおうぞ」
ぶらぶらと体をゆすったネズミが、「ちっ、つまらん」とくやしそうに、片方の前足を上にあげた。
「つまらんが、しかたねえ。―セリ、スザク、おまえらの、きょうだいの『縁』、返してやろう」
言うなりネズミはゆがんでかき消えた。
「見てろよ。おまえのおかげで、ひさしぶりの、感動の場面だ」
コウセンは笑ってそこをさし、その場面が始まる。
サモンに優しく押された女が、一歩出て笑う。
坊主は、セイテツに肘で押されて、女に向き合う。
女の微笑む顔を見下ろす坊主が、なんともかゆそうに頭をかいてから、しかたねえ、と眉を寄せた。
「・・・・・おい、・・姉上。ひさかたぶりに、もどったぞ」
「おお、愚弟よ。おまえは変わらず、馬鹿よのお」
苦いものを食わされたような弟の頭を、満足そうに扇子でなであげて、姉は笑う。
「よくぞ、当てたものよなあ」コウセンはそんな二人を眺め、抱えたシュンカと改めて目を合わせ、いきさつを話す。
「あの二人が天宮に入るとき、ミカドがその『縁』を取り上げたんだ。取り上げられれば二人が姉弟だったころの記憶もなくなる。 あまりにひどいから、みなで非難したらな、何も知らない者が、おまえらの縁を見破ったらば、返してやるなどとほざいてなあ。・・・セリは大臣になってしまったから、もう人間のように歳をとらなくなったし、五つ離れた姉を、スザクが追い越しちまった。もう、この先はスザクだけが歳をとる。 そんな二人をみて、わかる者など現れまいと思っていたら・・、ほんと、おまえは賢くて素直だなあ」
コウセンがほめたたえるように子どもを高く抱きなおす。
セリが、ゆっくりと近付いた。
「―シュンカよ。礼の言葉が思い浮かばん。こんな似ても似つかん男と、よくつながっておるとわかったなあ?」
「だって、お二人とも、よく似てらっしゃいますよ?」
・・・たぶん、きっと、そんなふうにみれるのは、おまえぐらいだと思うよ、と口にしないで、セイテツとサモンは顔を見合わせる。




