ひでえな
きさまら、西の将軍、ケイテキ様のお通りだ、のけ、と言われた坊主が「しるかよ」と答えた。
あーあ、と思った絵師も退く気はなかったが。
すると、ひどく激昂した相手が、いきなり刃物を抜いたのだ。
坊主にあっさりのされたのを見た周りが騒ぎ出したとき、「やめておけ」と良い声が響き、兵が動きを止めた。
それが、将軍『ケイテキ』だった。
かなりいい年であるはずの男の髪はまだ黒々とし、日に焼けた顔も生気にあふれていた。
先に通るぞと二人に宣言した将軍は、そのまま兵をつれ、横をすぎた。
「・・・ひでえな・・」
見送った坊主が、囁いた。
「後ろに、ごっそり、ヒトのうらみつらみが見んぜ」
「背負ったままか?」
絵師の問に、ありゃあ、と数珠を触る男が言った。
「ヒトからの負の感情を喰っていける人間だ」
おっかねえなあ、かかわりたくねえぞ、と二人でそれを見送った。
「ケイテキ、か。たしか、元神官を軍に抱えていると聞いたな」
コウセンが絵師に目をやった。
「おまえと違い、なにやら『禁』を破って辞めさせられたらしいが」
「そういう奴は、神官の力を取り上げたほうがいいんじゃないのか?」
壱の大臣サモンが心配そうに手をとめた。
天宮においてこの世をおさめる帝は、そういうことには全く手を出さない。
あれほどの力をもっているというのに、人間の問題には全くかかわらないというのが、やつの方針だ。