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おとぎばなし ― ことのおこり ―  作者: ぽすしち
そうして、

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38/52

みおくる

 

 空から、花と雲とを纏う車がよこされるのはいつものことだったが、そこに、薄衣をまとった女達が舞っている。


「本物の、天女てんにょだ・・・」

 色街で、女たちを《天女》だなんだともちあげているが、これはまた・・。これからそんなこと、安く口にだせないなあと、場違いな思いに襲われる絵師は、隣の坊主が何の感慨もないように動き出したので、仕事を思い出し、慌てて動く。



 坊主が取り出した白い布の片側を持ち、二人して、リョウゲツの入る箱がしっかりと覆われるようにかける。


 四隅に重りをつけ、ぴんときれいに布を張ると、サモンが一礼して前に出た。

 整った顔は今日も悲しみで一杯だ。

 コウセンと同じように片手で文字を綴り、一振りする。


「 かえられよ」


    ぶあり と、かけられた布が、大きく膨らみ揺れた。

 


 サモンは一礼して向きを変え、抱きあげられたシュンカの頭を撫でて、下がる。


 セイテツとスザクが、布の四隅につけられた重りが揺れを止めるのを待ち、それをもちあげた。


  箱の中に残るのは、黄みがかった白い粉。


 「シュンカ」セリが子どもを呼ぶ。

 おろされた子どもは、よたつきながら女の側へ。

 白い手が、子どものちいさな手を取り、胸元に挟んであった扇子を持たせた。

 

 そのまま二人、ゆっくりとすすみ、箱の中にある粉を瞬きもせずに見つめる子に、女は囁いた。


「お見送り、しようぞ」

 優しいその声に、子どもはこくりとうなずき、セリは子どもの手ごと扇子をつかむと、ぱん、と一振りで開き、つぶやいた。


「おやすみなされ」


 さああああ 、とその箱の中にだけ風がたち、粉を上へと巻き上げる。


 小さな竜巻になったそれが、天女の飛び交う高さに達すると、空がものすごい明るさで輝いた。

 下のものたちは目を開けられていられない。



「・・・ゆかれた、な」

 ゆっくりと目を開けたセイテツが見たのは、ただの青い空だった。

 いつものように、そこにはもう、何も残ってはいない。


 黙ったままのスザクが、じゃらりと首の数珠をとり手に巻くと、低くゆっくりと、経を唄いだす。


 シュンカはその心地よい声が、空へとあがってゆくのをたどる。

 

 雲さえ浮かばぬその青を、しばらく、ずっと見上げていた。






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