みおくる
空から、花と雲とを纏う車がよこされるのはいつものことだったが、そこに、薄衣をまとった女達が舞っている。
「本物の、天女だ・・・」
色街で、女たちを《天女》だなんだともちあげているが、これはまた・・。これからそんなこと、安く口にだせないなあと、場違いな思いに襲われる絵師は、隣の坊主が何の感慨もないように動き出したので、仕事を思い出し、慌てて動く。
坊主が取り出した白い布の片側を持ち、二人して、リョウゲツの入る箱がしっかりと覆われるようにかける。
四隅に重りをつけ、ぴんときれいに布を張ると、サモンが一礼して前に出た。
整った顔は今日も悲しみで一杯だ。
コウセンと同じように片手で文字を綴り、一振りする。
「 かえられよ」
ぶあり と、かけられた布が、大きく膨らみ揺れた。
サモンは一礼して向きを変え、抱きあげられたシュンカの頭を撫でて、下がる。
セイテツとスザクが、布の四隅につけられた重りが揺れを止めるのを待ち、それをもちあげた。
箱の中に残るのは、黄みがかった白い粉。
「シュンカ」セリが子どもを呼ぶ。
おろされた子どもは、よたつきながら女の側へ。
白い手が、子どものちいさな手を取り、胸元に挟んであった扇子を持たせた。
そのまま二人、ゆっくりとすすみ、箱の中にある粉を瞬きもせずに見つめる子に、女は囁いた。
「お見送り、しようぞ」
優しいその声に、子どもはこくりとうなずき、セリは子どもの手ごと扇子をつかむと、ぱん、と一振りで開き、つぶやいた。
「おやすみなされ」
さああああ 、とその箱の中にだけ風がたち、粉を上へと巻き上げる。
小さな竜巻になったそれが、天女の飛び交う高さに達すると、空がものすごい明るさで輝いた。
下のものたちは目を開けられていられない。
「・・・ゆかれた、な」
ゆっくりと目を開けたセイテツが見たのは、ただの青い空だった。
いつものように、そこにはもう、何も残ってはいない。
黙ったままのスザクが、じゃらりと首の数珠をとり手に巻くと、低くゆっくりと、経を唄いだす。
シュンカはその心地よい声が、空へとあがってゆくのをたどる。
雲さえ浮かばぬその青を、しばらく、ずっと見上げていた。




