空からの迎え
次の日に、リョウゲツを送るための儀式が、天宮でとりおこなわれた。
本来下界では、人が亡くなれば、まず荼毘に付され、それから坊主が呼ばれ、経を唄いあげ、近親縁者で見送る弔いをする。
リョウゲツは、天宮のやりかたで、見送られることとなった。
シャムショの奥にある、高台になったそこには、儀式を行うための、石で造られた台があるだけだ。
天宮には、どこにだって緑があり、常に何かの花が咲き、実をつけた植物がそこかしこにあるのだが、この広い場所の乾いた赤い土には、草さえも生えてはいない。
天宮の大臣たちは人間ではないので、寿命は尽きない。よほどのことがなければ、病にもかからない。
なので、この石にのせられるのは、なにかのはずみで思いがけず亡くなった役神か、シャムショに務める下界から来た人間か。
もしくは、リョウゲツのように、縁あって、ここに来てしまった亡骸か。
その石に、今日送られる、リョウゲツがのせられている。
柔らかな白い布が敷かれた木の箱に収まった父親と、子どもは、最後の別れをする。
コウセンが、シュンカを抱き上げ、しっかり父親と会えるようにしてやり、こどもは、箱の中の男に白い花を添え、顔をなで、腹の上に置かれた手を一度だけ、しっかりと握る。
あとはただ、その顔だけを、見つめ、そうして、最後に、なにかをこらえるように、頭を下げた。
抱えたコウセンが、それをせつないように眺めてから、続けて礼をし、一歩さがると、空いた片手で文字を綴って腕を振る。
ぱしん
と、遥か上の方。空で音がした。
ほお、と思わず声をあげたのは、参の宮大臣のセリだ。隣に立つ壱の宮サモンも、これはまた、と空を見上げる。
「・・初めてみた」
「おれもだ」
セイテツとスザクもそれを目にして驚いた。
音をだした空、はるか上のほうから、降りてくるそれらが見えた。
天宮で亡くなったものには、《空から迎え》がくるのはいつものことだが、下界でなくなった人間には、このような迎えは来ないはずだ。
「親父殿、・・・どうも、天上人だったことがあるようだなあ」
空に『穴』を開け、むこうを呼んだコウセンも、降りてくるそれを認め、天帝が知り合いだったという話を思い出す。
子どもは、なにも答えられずに、ただ口を開いて空を見上げていた。




