それでいい
「・・だがなあ、そりゃあ、だめだった」なにが、『だめ』だったのかは、いつものように語らずに、ただ、緩く笑ってみせる。
それを見つめる子どもは泣きそうな顔だ。
「なあ、シュンカ。 おれたちみたいに、大事な人にゆかれてしまい、残った者ができるのは、ひとつしかないような気がする。 ―――― 生きようぞ 」
子どもの大きな眼が、男へこぼれんばかりに見開かれる。
「見送りが、ちゃんとできそうになく、心配か?大丈夫だ。生きて、日々、弔いながら見送ればいい。おれなぞ、いまだに、ちゃんと見送れてやれなくてなあ。・・だが、あのクソ坊主に、それでいいといわれて、初めて心が休まった」
二人にそんな会話があったのかとセイテツはまた、そっと驚く。
「明日、親父殿を、見送ろうな」
「・・・はい」
泣きそうな顔でも、子どもはしっかりと返事をする。
「うむ。このまま、ちょっと顔を見にゆこう。男前な親父殿だ。使い込まれたあの棍は、おまえが引き継ぐといい。よくぞ、最後まで、おまえを守りきった。立派な方だ」
はい、とこたえたシュンカは、コウセンにしがみついたまま、震えるように泣き出して、もう、顔もあげられないようだった。
子どもの背を、優しく叩き、振り返って絵師にひとつうなずくコウセンの顔は、ひどく、照れくさげで、セイテツは、そのまま二人を見送った。
大事なものをなくしてしまったあの二人が寄り添うそこに、自分がかけられる言葉はなにもなかった。




