こんなに重い
「セイテツ、くそ坊主がまた、だだこねてんじゃねえのかあ?」
絵師は笑ってごまかした。
それが答えと見て取った男が、今度は逆を殴ってやろうかと口を曲げれば、「コウセンさま!それは、おやめください!」と子どもが男の着物を掴む。
なんとも嬉しそうな顔をした男は、冗談だ、やらねえよ、子どもの手を取って笑う。
「・・・シュンカはスザクの従者だものな」
「はい。ですが、・・・スザクさまはそれが嫌なのだと・・」
すぐさま絵師が、あれは単なるわがままだ、と断言。
「・・・まあ、あの馬鹿も、他人を受け入れるのに時間がかかるからなあ。シュンカも少し、辛抱してやれ」
そう言って、ぐしゃぐしゃと待女のように整えられた髪をかきまわし、身をすくめるようにして、はい、と答える子を、いきなり絵師の腕から奪い取った。
「ほお。大きいなあ、子どもも、十より上になれば、こんなに重いのだなあ。いや、おれの子は、六つでいなくなってしまったので、比べたら悪いがなあ」
驚いた顔をしたシュンカは、きゅうと口を結び、「コウセンさまは―」と問うた。
「―コウセンさまは、・・そのとき・・、お子を、・・・ちゃんと、見送りができましたか?」
突然、大切な人が、先にいってしまって・・・・。
男は、少しだけ、痛そうな顔をして、そこから無理に笑いをだした。
「・・ほんとうは、な、おれは、・・・なくなった子と妻とを、追いたくて、しかたがなかった・・」
セイテツは、普段、己のことなど何も語らぬ男の声を聞きながら、自分がここで聞いていて良いのか迷ったが、立ち去れなかった。




