心配
セイテツは、驚いた。
黒く長い蓬髪が見苦しいのも、顔を覆う無精ひげがひどいのも、いつもどおりだったのだが、この四宮の大臣が、伍の宮に来るなど、めったにないことだ。
自分の宮にさえめったに戻らないという。
理由は、誰もいないから。
だから、人がいて、活気があるシャムショでほとんど毎日を過ごし、よほど疲れたときか用事があるときでなければ、己の宮に帰らないと聞く。
それが、どうしたことか・・・。
「セイテツ、口が開いたままだぞ。おれだって用があればここに来るんだよ。ほら、シュンカ、手をだせ」
子どもは言われたとおり、女物の着物の袖をあげて手を出し、髭面の男はそこへ、ころりと、何かを転がした。
「飴だ。ヒョウセツっていう、弐の宮の奴が作ったものでな、―― 気分が、落ち着く」
そう言って子どもの手を、握って振った。
セイテツは、―― そんな飴を、この、酒好きの男が、ヒョウセツに作ってもらっているのを知ってしまい、・・・なんだか切なかった。
ありがとうございます。と頭を下げた子にむけるまなざしは、父親そのものだ。
「何か困ったら、すぐにおれに言いに来いよ?こいつら、ほんっと常識ねえからよお。おまえが伍の宮の住人になったのが《伝わった》ときには、思わず記録の紙を破いちまおうかと思ったぐらいだ」
そんなに心配?おれたちって・・・と絵師は思ったが、愚問だと返されそうなので聞かずにおいた。なにしろ自分だって、あの坊主の態度が、この先も心配なのだ。




