どうか ここに
天帝に会い、先走ったことを口にしてしまったとうなだれる子と、わけがわからない顔の坊主が絵師に追い立てられるように伍の宮へと戻り、『従者』がなにかも知らなかったスザクに、セイテツが簡単な説明をほどこし、それの意味を理解した坊主はあっさり、「断る」と子どもに言った。
「今更、誰か連れてまわるなんて、性に合わねえ」と一蹴。
「合わねえかどうか、連れてみなけりゃわからないだろ?おれと組むっていったときも、そういったけど、結局二人で正解だろう?」
「そりゃあ、化け物相手にするのとわけが違う。坊主の仕事は死んだ人間弔うだけだぜ?」
「だからぁ、おまえは高山のほかの坊主のやりかた知らないからそんなふうに言うけど、他の坊主はみんな連れてるんだよ。で、おまえみたいに全部自分でやらねえで、従者に色々と支度させたりするんだよ。 そのほうが、なんとなくえらそうだろ?」
「意味がわからねえぞ」
「おまえが思ってるよりも、下界での坊主の地位は高いってことだよ。だから、経をうたうだけで、あれだけの金をくれるんだ」
「・・・・ふうん・・」
坊主はまったく興味なさそうだった。
あー、もお、っと唸ったセイテツがどうしたものかと頭を抱える。
「あ、あの・・・」 子どもは恐る恐る口をはさんだ。
男二人に見られながら、まだ待女の格好のままの子が、椅子から身を乗り出すようにして聞いた。
「この伍の宮は、お二人しかいらっしゃらないのですか?」
「ああ、まあ正しくは、ここはスザクの宮だからな。おれは居候」
「お二人の、身の回りのことは?」
風呂に入れられた参の宮には、自分と同じ格好の待女がセリの周りにいたし、壱の宮のサモンのところには、いかつい者が多いと女に聞いた。
「ああ、おれたちのところは、おれが仕立てた役神にやらせてるんだ」
セイテツが仕立てるのは、シュンカの父親がやったように、大人の男だという。
子どもがまさしく身をのりだす。
「では、おれも、その役神と同じ仕事をします。それで、スザクさまの、気がむかれたときだけでも、従者にしてください。お願いします。どうか、 ―― ここに、置いてください」
椅子からおり、床に手をついた。
自分には、もう、ここしかいられる場所がないのだ。




