やめないよ
今日もまた、朝陽も昇らぬうちから、役神どもがさわがしい。
うたえ、とか、わらえ、だとか命じているのを耳にして、坊主は舌打ちとともに身を起こす。
伍の宮の中、扉をあけた廊下に怒声が響き渡った。
「 っめえらあ!いいかげんにしねえと 塩漬けにして化け猫に食わせんぞおっ! 」
きゃあーと高い声をあげた小さな役神たちが逃げる。
転んで泣き出すものを、拾った子どもが助け起こして坊主を振り返る。
「スザクさま、すみません、おれが」
「そうだ。てめえが甘い顔してるから、そいつらが調子にのんだ」
「・・・はい・・」
うなだれる子どもの手からとびおりた役神が、たたた、と坊主の足元に走った。
「・・・おい。いてえぞ・・・」
「わああ!す、すみません!」
男の脛に食いついたそれを、駆け寄った子どもが慌てて取り、何度も頭を下げるのを、大きな息を吐いて坊主は止めた。
「―もういい。こいつらのまとめは神官どもだ。セイテツに話に行かせる」
いいおいた坊主の背が扉のむこうに消え、子どもはそっと役神を下へおろす。
小さな人形のような役神が、心配そうにみあげてきいた。
『クソ坊主、嫌?シュンカ、やめる?』
「やめないよ。せっかく認めてもらえたんだから」
そうなのだ。
坊主と絵師に会ってここに来たのがもう三月ほど前。




