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なんだ?
子どもはほうと息をつき、黙ったままの坊主を見上げた。
「・・すみません・・・勝手な願いを、いたしました・・・」
眉を寄せて子どもを見下ろす男は何も言わない。
見かねた絵師が、おいスザク、といらついた声をかける。
「シュンカはおまえを選んだんだぞ。なんつうか、―― しかたなくでもあるけど・・」
「し、しかたなくでは、ありません」
焦ったような声で否定した。
「本当に、スザク様の従者になら、なりたかったのです。でも、その、・・・おれみたいな子どもが、勝手に、スザク様に聞きもしないで、ミカドに、・・その、スザク様、・・怒ってらっしゃるのでは・・・?」
最後は小さな声になり、自信もなく坊主に問う。
目が合った男は、まだ眉根を寄せたままだが、ようやく何かに気付いたようにこう言った。
「 ・・・なあ、『従者』ってなんだ?」
六年以上、一人で坊主業をこなしてきた男が、そういう存在を知るのは、これからのことだった。




