献上するのか
実際、人間が会うときの天帝は、かなり体裁をつくろっている。
謁見するにあたっては、大臣がどの大臣かが必ず立ち会うことになっているし、薄布を通した距離でしか人間とは会えないことになっている。
スザクたちの住まう宮があるところから、さらに長い階段をのぼれば、帝の住まう上宮に着く。
その階段を目指す際、絵師の助言により、子どもは肩に担がれた型から、片腕で縦にかかえる型に変えられたのだが、ゆきつくまで、たくさんの役神が坊主と絵師と子どものおかしな三人組を見物しに集まり、やれ、坊主が嫁を抱えておる、とか、さらわれてきたのか、かわいそうに、などと、大きな男の足元で騒いだ。
「うるせえ。嫁のわけねえだろ。だいいちおれは坊主だぜ?」
種を残すことを禁じられているから、嫁をとるなど、できないことだ。
抱えられた子は、その小さなものに目を奪われたようになっている。
「見たことないか?親父殿も、仕立てただろう?」
そうだ、と思い出した絵師は、飴色の石を取り出して子どもに返した。
こどもはそれをにぎって言った。
「・・・『コハク』は、いつでも若い男でした。それ以外に仕立てたことは、なかったです」
「・・そうか」
意識して、父親の話を過去形にしている子に、それ以上は聞けなかった。
足元では役神どもがしつこく「その娘、心地よいな」「さわらせろ」「ひとりじめするな」
と騒いでいる。
邪魔だ、と坊主が足でのけると、ひゃああ、とあちこちへ散る。
その様子に、シュンカが初めて、くすり、とした。
「・・・・」坊主が立ち止まり、騒いでいた役神どもまで動きを止めた。
神官のセイテツでさえ、それを感じた。
「・・・す、ごいな。なんだ?」
心地よい『気』が子どもから流れでたことは確かだ。
すると役神たちがきーきーとわめきだす。
「ミカドに献上か?」「ずるいぞ、ずるい」
「・・・しねえよ」
だれがあんな化け猫に、と坊主は石段を登り始めた。




