ひとことよけい
だが、先に気遣うようにいわれてしまう。
「あの、赤い石は、母が嫁いできたときに持ってきたものです。・・・スザクさまに拾っていただけて、ほんとによかったです・・・」
「シュンカ、そんなことであの坊主に恩義を感じることはないぞ」セリが扇子を左右に振って命じた。
「そうだ、帝に会ったあと、里に帰るなら、おれもいくよ」
絵師がそう言ったとき、部屋の入り口に大きな影が現れた。
「里にはどうせ今日からシャムショの奴らが入ってんだから、おめえがいくこともねえだろ」
また、無神経なことを。
振り返って睨んでやったのに、坊主は絵師を無視して子どもを側で見下ろすと「ほお」と笑った。
「お袋殿に、そっくりだ」
「・・・・」子どもが唇をかむ。
この馬鹿どこまで、と思ったとき、懐から出した石を、坊主が子どもににぎらせる。
「すまなんだな。どうも、『思いやり』とか『相手の身になる』とかがわからなくってな。ただ、本当のことしか言ってねえ。腹が立ったならコウセンみたいに殴ればいいし、悲しいなら泣けばいい。それでも、なにも元にはもどらねえが」
・・・だから、ひとこと余計なのだ。この男は・・・
絵師が呆れたとき、「スザクさま」と子どもが男をみあげた。
「ありがとうございます。父を背負ってくださいまして。それと、真実を教えてもらえて、良かったです・・・悲しいですけど、おれがちゃんと受けとめないと・・・」
ぎゅ、と手の中に母親の形見をにぎった子が、坊主をみあげると、珍しく薄く笑った坊主が、子どもの頭をぽん、と撫でるよう叩いた。
「・・・・スザクが、気色悪い笑い方をしたぞ・・・」
セリと絵師が身をよせあい、坊主をながめていれば、さてではゆくか、と待女姿のこどもを、荷物のように肩にかつぎあげた。
「・・・やはり、どう笑おうともこんなものよ」
呆れた声の女にまた同意し、セイテツは後を追った。




