母親似
昼がすぎ、子どもが目を覚ましたとき側で書物を読んでいたセイテツは、近付かないで、足は痛いか?と聞いた。
首をふり、ありがとうございます、と礼を言うこどもに、何をいったらいいのか、わからない。
先にこどもが、「スザク様は?」ときいた。
「・・・あ~、あの馬鹿に、一言ぶつけたい気持ちもわかるけど」
「いえ・・・まだ、お礼もきちんと言えていないので。―― セイテツさま、ここまで連れてきてくださって、ありがとうございます」
「おれはなにも」
「帝にお会いしたら、里に帰ります」
「だ、・・って」
「みんなに、謝らなきゃ」
「・・・・・・・」
笑うように口をとじた子に、絵師は何もいえなかった。
セリが来て、子どもが挨拶をし、それを受けた女がいつものようにたくらみをのせた笑みをうかべいいはなつ。
「よし、風呂にはいろうぞ」
「・・・・はい?」
「おまえの足は皮がずるむけだから、普通の湯ではまずい。薬湯をつくったから、一緒にはいるぞ」
・・・一緒にって・・だれと?なんて子どもが首をかしげるあいだに、サモンが現れて
「君がシュンカかあ。よくがんばったねえ」と状況を飲み込めぬこどもを抱え上げ、三人で湯殿方面へと消えていった。
一時間ほどして、様子を見に戻ったセイテツに、なんだか機嫌の良い女が「はよ、ミカドのところに連れて行ってやれ」と側の椅子に座る待女を指した。
「・・・・・シュ・・シュンカ?」
完全に遊ばれて、待女の格好をさせられた子どもが赤い顔でこっくりうなずく。
「子どもの大きさの着物がないからな。これでよかろう?サモンもはじめは『ふびんだ』などとつぶやいたが、最後はただ、うないずいておったからな」
確かに、昨日までの汚れも煤も何もかも落ちた子どもは、色味が違い肌は白く髪は明るい茶色だ。
しかもきっと『美人』な母親に似ているのだろう、待女の格好が似合っている。
その大きな目の瞳は、不思議な色をみせる。
「みどり?いや、薄い水色、金茶もみえる。きれいな眼だねえ」
「その、母も、こういう眼で・・・」
「・・・・・そっか。なあ、シュンカ・・」坊主の無礼をどう、わびたものか・・・。




