いいかげんにしろ
コウセンは気付かないふりで、どうしてだ?と聞いた。
「・・かあさ、母が、里で待ってるから・・」
「・・そうか」
「はい・・父が亡くなったのも、早く、知らせないと・・・」
「いねえよ」
「スザク!」
子どもを抱えて強張った顔をしていた絵師が止めるが、遅かった。
「おまえのお袋殿も、もう、この世にはいねえ」
「・・え、なんで・・」
「おまえのいた里は、焼かれてる」
「そ、それは知っています、が、おれと父さんは、あいつらをひきはなすように、すぐに山のほうに逃げ込んで」
「せっかくだが、それでも里は丸焼けだ。人間までな」
「スザク、いいかげんにしろ!」
絵師が怒鳴ったとき、坊主が懐から何かをだした。
「これを、持っていた女を知っているか?」
「 そ 」
「黒く焦げた里人と一緒に埋めるつも―」
いやああああああああああああああああ!
セイテツの腕のなか、子どもが取り乱して叫び暴れ、坊主は無精ひげの男に殴り飛ばされた。
「 ―― いいかげんにしろクソ坊主。子どもいじめてどうするよ?」
ふるった拳を振って開いた男は、今度は子どもへ、その手をのばし頭をつかんだ。
こどもはぐたりと気をうしなう。
「・・・この子はしばらく眠らせておけ。事の説明にはセイテツをよこせ。今おまえを見たら、また殴りたくなっちまう」
石畳のむこうで身を起こした坊主に指をつきつけ、シャムショの責任者は横たえられた骸へ寄っていった。




