いっきに 落とす
震える男の指先が、数度ひどくふるえ、かくんと力をなくすと、こどもの近くにいた若者が突然消え、代わりに、飴色の石が転がった。
「・・・そうか。親父さんんがしたてた役神か」しゃがんだ絵師が石を拾い上げる。
「―― 父親は死んだか」
ホムラが忌々しげに舌を打った。
子どもは目にしていることが受け入れられないのか、ぶらりと手を下げた父親を、固まったように見つめたままだ。
坊主が「ゆくぞ」と背負いなおし、セイテツに目をながした。
生き残った兵たちが動こうとするのをなぜか黒い男は指先で止めた。
絵師は、固まったままの子どもの肩に手をやり、その背をそっと押すと、ホムラをみることもなく断言した。
「この子は連れてゆく」
声はどうにか平静を保てたが、腹のなかは沸き立っている。
社をまわったところで、その溜めていたものを一気に落とすことにした。
ど ずん
重いものが落ちる音と少しの悲鳴がまじった。
先をゆく坊主がくっと笑い、いい『土産』だなとめずらしく褒めるが、褒められた絵師の男は、子どものようすが気になって、何もこたえられなかった。




