ぜんぶ うそ
「なるほど。 それは、許せぬ戯言だな」
子どもの口が大きく開いて、何かを言う前に、かがんで息も絶え絶えな男をおこして背に負った。
「あとは任せろ。おれたちがこやつらを天宮までしっかり連れ立てて、天帝にじかにお裁きいただこう。将軍様のお手をわずらわすこともない」
これに笑った絵師も、子どもを守っていた境をたやすく壊し、さあゆこう、と中にいた二人によびかけた。
「とうさん!」
はじかれたように子どもが坊主に負われた男に駆け寄る。
とうさん、とうさん、と叫び、血まみれの父親へとその腕を伸ばしたとき、ばしん!とそれが払われた。
「・・・・・と、う・・・」
寄ろうとした父親にはらわれたこどもは、よろけるようにあとずさる。
「・・・や、・・めろ」
ぜえぜえと継がれる息の間、父と呼ばれる男は、どうにかはっきりと音にした。
「もお、・・・もう、いいん、だ・・。おれ、たちの、・・いんちき・・な、行いは・・これから、ミカドのまえ、で・・裁かれる・・んだ」
「・・とおさん?なに、言って」
「だからっ!」
大きな声のあと、ごふりと噴き出した血にむせるが、やはり、腕をのばし、子どもを近づかせようとしない。
「― だ、から・・・・おまえは・・・・もう、― やるな 」
「とお・・さ」
「みた、で、しょう?」
坊主の背中、半死の男は笑おうとしているようだ。
「おれの、子どもです、が・・、こいつ・・は、結果、張る、力さえ、ね・・んです。おれ、が、・・力で、けが人や、病人、・・なおしてた、んだ・・。でも・・・ガキが、やるほうが、ありがたみが、ある・・・」
だから、と男が震える手をのばし、子どもへ指先をのばす。
「こいつ・・なん、も、できねえん、です・・・ぜーんぶ、おれが、やってた。・・それだって、ぜ、んぶ、幻術だ・・・ぜーんぶ、うそ、だ」
セイテツには、男が微笑むのがみえた。




