こっちだ
このあたりから残酷、流血、場面となります。ごちゅういを
里から出て、アラシを呼ぼうとしたのに、僕は来なかった。
空には何の変化もない。
「ちくしょう。いそいでんのに、歩けってことかあ?」
いらついたセイテツの言葉はもっともだった。
アラシにのってすぐ着いたこの山から天宮までの距離は、歩けば軽く三日はかかる。
「まあ、しかたねえ」
本来僕は人間の都合で動くものではないのだ。
自分達は特別で、それだってあちらの気がむいたときだけだと、坊主は理解している。
愚痴る絵師をあしらいながら、山道をすすんでいった。
「―― おい、テツ」
「ああ。また、だ」
ふいに感じた匂いは、今、里でかいだばかりのものだった。
男二人が走りだす。
細い山道を曲がった先に、たおれた兵士をみつけた。
駆け寄った坊主が転がったそれをあおむけさせ、死んでるな、と絵師につげる。
「西の兵士だな」
肩から胸に、紋がついた鉄の鎧をつけ、むこうには槍も落ちている。
「しかし、・・・どこも傷はないようだが・・・」
「この顔見てみろ」
坊主が兵士の兜をとった。
眼も口も、めいっぱい開き、のど元には無数のひっかき傷がある。指先を確認すれば、どうやら己でかいたようだ。
「こりゃ、・・・あれか?」
「息が、できなかったんだろ」
いいおいた坊主は、山道の先をみあげると、とたんに走りだした。
先には、次々と兵士の屍があらわれる。
中には自分の槍や刀を刺されて息絶えている者もあった。
鼻につく匂いは、どんどん強くなってゆく。
「こっちだ」
坊主がいきなり脇道にはずれた。
先の斜面に、くずれかけた石段があり、そこをかけあがってゆく。
着いた先には、下界のいくつかの場所にある、『宝物殿』の社があった。
昔はここに、里人から天宮に対して供物が絶えず置かれていたが、今は年に一度、里人達が祭りをする場所となっている。
「 ―― さんっ !」
悲痛な叫びが響いてきて、二人は社の裏手へ走った。




