妖物のしわざでない
みまわして目に入ったすべての者を二人で埋葬することもできないので、スザクが経を唄いながら里をまわり、セイテツが骸の数を数え、いったん引き上げることとした。
二人とも、何もしゃべれなかった。
坊主が里の真ん中の辻をまわったとき、いきなり経を唄うのをとめ、後ろをふりかえる。
「どうした?」
絵師が聞いてもそのままで、しばらくしてから
「―― あいわかった。たしかに」
誰かに返事をした坊主が、数珠を振った。
絵師に向き直った男は、何かを手に握っている。
どうした、と再度きけば、「なに、美人に呼び止められただけだ」と坊主はそれを懐へ押し込んだ。
「『よろしくおねがいいたします』と、何かの想い出の品だろう。埋葬するときに、これもいっしょに埋めるさ」
「・・・そうか」
自分達ができるのは、そんなことくらいだが、それでも、できることがあってよかったと、セイテツは里をみまわした。
「スザク、・・・どうだよ?」
さっきから聞きたくてしかたがなかったことだ。
坊主は鼻を動かしてから、「ちがうな」と顔をしかめた。
やはり、と絵師の顔も歪んだ。
これは、妖物のしわざでは、ない。




