つぶすなよ
昔話風ファンタジーめざしたBL風味の血生臭いはなしとなっております。
残虐、残酷、流血、場面多し。ご注意くださいませ
ぐしゃり、と嫌な音がした。
「―― 何度も言うがな、潰すなよ」
坊主は顔をしかめて腕を振る。
ぶ ん、と振り切った刃物が背中に納められた。
「ああ、悪い。とんだか?」
「くせえ」
黒くどろりとしたそれを、坊主は顔から拭う。
相方の男が今回も、作りだした氷の板で、妖物を挟んだからだ。
「てめえのその、虫を潰すみてえなやり方、直せねえのか?」
「だって、おれは誰かとちがって、腕に自信もないし、特技といったらこんなもんだしねえ」
それに、早いだろう?とやる気がないように小さな氷を作って口に入れた。
「じゃあ今度、サモンの刀を役神にでも仕立てて連れてこい」
「あのぶっとい刀を?・・・やめておく。きっとかわいくない人型になるよ」
元神官の男は、やろうと思えば大抵のモノをヒトの型へと仕立てられる。
やろうと思えば、だが。
「それに、―― この頃の妖物は、どうにも力が弱いよ」気のせいじゃあなければね、と自分でつぶしたそれに顔をしかめ、早く消してくれと坊主をせかした。
「 」
坊主が《滅する(めっする)》経をみじかく発すれば、月明かりのもと、息絶えて、ぬめり、とてかっていた残骸が、一瞬で水気をなくし、砂のようにくずれた。
元神官が塩をまけば、じゅう、と音をだした砂があぶくをだしながら土に吸われていった。
思い出して、坊主の顔にも塩を投げつけると、残っていたものが、やはり、じゅう、と音をだし、男の足元に消えていった。
「・・・すまん。痛かったか?」
けっこうな勢いで塩を当てたことをあやまれば、ああ、と無表情にこたえる。
あまり、感情というものがない男なのだ。