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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
1章 動き出した白と黒
9/83

8話 キタレイ大研究棟占拠事件

 キタレイ大学研究連占拠事件が起きる数時間前。

 トゥサイは吹雪の中他の中央情報局員三名とケウト極東軍の兵士四百三十名と共にキタレイ大学へ向かっていた。

 カラクリ師からのリークでキタレイ大学には中央情報局、ケウト陸軍によって編成された治安部隊が廃墟近辺に待機していた。

 トゥサイは無線を手に鬼軍曹ことハンバムラに繋げた。


 「ハンバムラ少佐。こちらトゥサイです」


 「うむ、トゥサイか。列車ハイジャックの傷は癒えたか?」


 ハンバムラは冗談を混ぜてトゥサイに言う。

 トゥサイは余裕そうな顔をして頭を掻いた。


 「えぇ。少佐のありがたい謹慎のおかげで。作戦は先ほど治安部隊隊長が話していたことで間違い無いですか? 先に天空特戦隊に本校舎を制圧させ、避難民の保護。その後我々中央情報局が天空特戦隊の別の班の手を借りて窓から突入……と? ですが内容的に窓からは俺とガナラクイが突撃と。そういえば——ガナラクイってあの髪が黄緑色の天空人ですよね」


 トゥサイは先ほど言われた命令を確認する。


 「あぁ。ガナラクイはそいつだ。そういえば列車の時も任務を共にしてたな」


 ハンバムラは無線越しで無機質な口調で話し「それはそれだ」と続けて話す。


 「とにかく数年前のよりかは簡単だろう」


 ハンバムラは安堵したかのような声をトゥサイに投げた。

 トゥサイは苦笑いを浮かべ、「失礼します」と言い無線を切った。


 それから数時間が経過し吹雪がほんの少し弱まった。とは言っても雪はいまだに降り続け、視界を遮る。

 だがこの状態こそ好機だとトゥサイは思った。

 トゥサイの隣には遮光器を二人分持っている一人の天空人女兵士、ガナラクイがいた。

 ガナラクイは真剣な眼差しでトゥサイを見上げる。


 「トゥサイ殿。まもなく作戦開始です。遮光器はいりますか? 雪が目に入ると思いますが」


 「——いや、大丈夫だ。砂嵐よりかはマシだろ」


 トゥサイは無線をハンバムラに繋げた。


 「こちらトゥサイ。作戦を開始します」


 無線の奥からは自信に溢れたハンバムラの「健闘を祈る」と言う声が聞こえる。


 ガナラクイはテラスの柵を人一人分が通れる広さを破壊し、トゥサイは柵があった場所に立つ。


 「トゥサイ殿。最後の確認ですが私たちが突入するタイミングは日の出直前。今から数分後です。その後は研究棟内部で最長十分の間で遊撃戦を行い撤退します」


 ガナラクイがそう告げて数秒足らずでトゥサイの目の前からそのガナラクイが言った天空特戦隊が一斉にこちらに向かい、本校舎を超えたと思った途端銃撃戦が始まった。

 それを聞いたガナラクイはトゥサイに抱きついた。

 「おっと、こんな状況下で告白か?」とトゥサイはてっきりガナラクイが怖がっていると思って少しふざけたが、当のガナラクイには余計なお世話だったのか無言だった。


 「なーんてな。大丈夫だ」


 ガナラクイは何も返さず、体をトゥサイと密着させて紐で胴体が離れないように結ぶ。

 

 「作戦開始時刻です。そのまま飛び降りてください」


 ガナラクイはトゥサイと共にテラスから無理心中、ではなくトゥサイがテラスから飛び降りた。

ガナラクイは少し曲線を描くように上昇し、それから空を目指して翼をはためかせ、自身より大きいトゥサイをものともしないで高く飛び上がった。


 空はまだ薄暗く、地面は雪化粧をしてその化粧の粉である雪が敵と味方関係なく視界を悪くした。

 研究棟は常時なら学生が研究をしているため明かりがついているはずだが外からはその光自体見えない。


 そしてしばらく周りを偵察した後、ガナラクイは建物の屋根に降り立った。 


 「トゥサイ殿。突入は最初にトゥサイ殿を入れた後、私も続けて入りますので」


 「分かった。早いとこケリをつけるぞ。そして出来れば敵の大将の首は取っておきたい」


 トゥサイは少し息を吐いた後強張った顔を柔らかくする。


 ガナラクイはトゥサイの言葉を聞いて少し笑みを浮かべた。

 トゥサイは屋根から飛び降り、ガナラクイは高く飛び上がった後、研究棟の裏に回った。

 よく見ると研究棟の北西に別の一回り小さな建物が見えた。


 「ガナラクイ、あの小さな建——」


 トゥサイが口に出そうとした瞬間その建物は爆発した。


 「——!」


 次の瞬間研究棟の窓が建物の爆発音を聞き捨てて一気に開いた。

 よく見ると貧相なヘルメットに絹に派手な柄が入った民族衣装を身に包んだ反帝国連盟と思わしき学生と教授が銃を抱えてこちらを見ていた。

 彼らは銃をこちらに向けた。


 ガナラクイは突然の出来事に唖然としていた。


 「——! ガナラクイ!」


 トゥサイはガナラクイの腕を掴む。


 「すぐに投げろ! 早く!」


 「——え? ……分かりました!」


 ガナラクイはトゥサイの指示に従い、一度高く飛び上がる。

 同時に変帝国連盟の隊員は一斉に銃撃を行なった。


 風を切る音が耳の近くを通る。

 銃弾はガナラクイの羽に掠ったのか羽毛がトゥサイの前に散っていた。


 「ガナラクイ! 俺だけでも突入する!」


 「しかし!」


 「大丈夫だ。だが来るのはなるべく早めにな」


 トゥサイは表情はないものの言葉にはどこか暖かさが入っていた。

 そしてガナラクイは申し訳ない顔をしながら急降下する。

 

 ガナラクイが急降下を始めると敵は的が近くにきたと射線の正確性が高くなり、ガナラクイは軌道をずらしながら降下した。


 「——もうダメです! 必ず向かいますから!」


 ガナラクイはトゥサイを離した。

 計算上少なくとも4階、もしくは3階に突入することが出来る。


 トゥサイは腰から拳銃を取り出し撃ち始め、5名ほどの敵に命中させた。

 トゥサイは表情を変えずにそのまま窓から研究棟に突入し、受け身を取る。

 隙を見せずに腰からナイフを取り出し、周囲を囲う敵に向けた。

 敵はジリジリとトゥサイに近づいていくが、トゥサイは表情を変えなかった。


 その時怯えた敵が一人叫び声を上げながらトゥサイ目掛けて斧を持って突撃した。


 「け、カイザンヌ同志万歳!」


 敵の一人はそう言って斧を振りかざしながら走ってきた。

 トゥサイは慣れた手つきで敵の腕を掴み斧を奪うと背負い投げで地面に叩きつけた。

 

「——」


 叩きつけられた敵は一言も発さずその場で気絶した。

 

 トゥサイは周りにいる敵を睨む。

 数だけ見ればトゥサイが不利だが、実践経験で言えばここにいる反帝国連盟に所属している学生と教授は実践経験のないど素人。

 現に今のトゥサイの動きだけで腰が抜けて地面に座り込んでいる者もいる。


 そして敵の装備は単発式の銃、もしくは斧、刀だ。

 少なくともトゥサイの前にいる敵だけでも十人はいる。

 

 「少し面倒だが——!」

 

 トゥサイはそう言うと正面に突撃し、銃を構えてきた敵にはナイフを投げて足に刺した。

 少しこの状況は不利すぎる。

 だったら走り回って敵の隊列を見出そうと言う寸法だが多分このまま逃げていてもいずれ殺されるだろうとトゥサイは理解した。


 「わざわざ来客をこんなにもてなしてくれるんだ。お礼をしないとな!」


 トゥサイはそう言って敵の足元に銃を撃つ。

 そしてその後腰に付いているケースからヒスイの針を取り出し、そして白色の魔結晶を取り出す。

 トゥサイは魔結晶にヒスイの針を突き刺すと魔結晶はすごい光を放ち始めた瞬間トゥサイは魔結晶を真上に投げ、自身は敵の正面に突撃した。


 そして瞬きをするまもなくトゥサイの背中から強烈な光が辺りを襲う。

 敵は目を覆うものや銃を乱射するものなど出てきたが、トゥサイは問答無用で道を開けるために数人程度を撃ち、地面に倒れた敵を飛び越えてその場を後にする。

 

 その銃声を聞いてか、敵はその場で腰が抜けて正確な数はわからないが何人かが倒れる音は聞こえた。


 「とにかく動き回って敵を混乱させるしかない! 早く来てくれガナラクイ!」 


 トゥサイは定期的に魔結晶を破裂させて強烈多光を発生させたりと敵を混乱させながら奥に進む。


 研究棟内には革靴の走る音が鳴り響いた。


 同時刻、本校舎の外でケウト軍兵士に気付かれないように白い布をかぶって移動する男女がいた。

 一人は図体がでかく、もう片方は小柄な少女だ。

 小柄な少女——フルは面倒くさそうな顔を図体がデカイ金髪の男ラスターに向ける。


 「あのラスターさん? こんな戦場のど真ん中を通るなんて頭がおかしいと思うのですが」


 「ふふっ! おかしくないぜ! 俺様はこう見えて馬にも乗れるし車も乗れるんだぜ!」


 「——いや、どう考えてもおかしいでしょ! 絶対戒厳令出てますよね! 私とラスターさんは耳が長いエルフィンだから下手に動いたら捕まりますって! それにほら! あそこの校門前の兵隊さんチラチラこっち見てるんですが」


 「俺様はこの辺りは知っている。なぜなら遊牧民の商人らはこの時期リアートの大学近くの宿場に止まってるんだ! それに昨日の吹雪で今ならまだ準備中。それに金払えば乗せてくれるから良いだろ別に」


 「——捕まったら私の分まで罪被ってくださいね?」


 「おう! 可愛い子の願いならしょうがねぇ!」


 フルはラスターの言葉にバカで助かったと安堵の息を漏らしてしまうそうになったが、逆に純粋にバカすぎで罪悪感が感じてしまいそうになった。


 二人は校門から続々と入ってくるケウト兵の目に細心の注意を払いながら雪化粧に紛れ、校門から出た。

 大学の周りには複数の軍の装甲車、そして兵士が囲んでおり野次馬もかなりの数がいた。

 フルとラスターはそれに紛れながら群衆から出て走り出し、ラスターがいう商人たちが泊まる宿場まで向かった。


 ラスターが案内した宿場は毛皮を身につけ、以下にも遊牧民と言う人たちが賑やかに過ごしていた。

 それにエルフィンのスタルシア人の遊牧民やピト族、ケモフ族など多種多様な種族が仲良く過ごしていた。

 同時にフルはこの宿場の主人が人生で教科書以外に初めて見る小柄のドワルフと言う種族を珍しそうに見る。

 無論、主人は若い娘に見られて鼻の下を伸ばしたのか、ドヤ顔で背筋を伸ばしていかにも働いてますアピールを見せつけた。


 だがフルは一度見て満足していざ階段に登ろうとするラスターを見る。


 「そういえば商人さんはどこにいるの?」


 「この上だ。俺様は何度もお世話になってるから分かるぜ」

 

 フルは言われるがままラスターについていき、三階に移動して古びたドアの前に来た。

 ラスターは「見てろよ」カッコつけたそうな顔をフルに一瞬見せると扉を開けた。


 「どうだ! この俺様の読みがあた——。いなーいっ!?」


 ラスターの開けた扉の先の部屋はもぬけの殻で、多分出ていった後であろうと考えられるものが多々あった。


 まずベッドの掛け布団が綺麗に畳まれすぎているし、部屋に置いているものも新しいものだ。

 例えば絨毯はどう見ても掃除されているし机も椅子も綺麗に配置されている。

 フルはため息をついた。

 「どうしてだ!」とラスターが醜態を見せたと涙を流している時宿の主人が大きな袋を抱えて部屋に入ってきた。


 「おーラスターくん。勝手に部屋に入らないでくれたまえ。それと隣にいる女の子は? もしかしてついに牢獄に入りたくなったのかい?」 


 フルは主人の方を見る。


 「ケイオスまで行く手段を聞いたらここに泊まっている商人が連れていってくれると教えてくれたので」


 フルはそういうと主人は自慢の長い顎髭を撫でる。


 「ふむふむ。では犯罪目的ではないか」


 「で、主人さんはなんだよぉ……」


 ラスターは悲しそうな声で主人に質問を投げる。

 

「だからそれを言おうと……。ここに泊まってた商人さんは一週間前に来てな、物価が高いケイオスにすぐ向かったんだよ。今年は良い食材が集まらなかったみたいだからな」


 主人はそう言って大きな袋をラスターの前に置いた。


 「まぁ、ラスターくん。これは商人さんがいつも食材を買ってくれる君に申し訳ないからと置いていってくれたものだよ。言っても全部保存食だが」


 そう言うとラスターは袋に飛びついて。

 「商人さーん!」と叫んでラスターは袋を抱きしめた。

 

 ただフルはその光景を空な目で見ていた。

 そう、フルはさっきから「どうやってケウトに行くのよ」と思っていた。


 「止まれ貴様ら!」


 変な空気が漂っている一室に冷たい空気が流れ込んでみた。

 そして部屋中に響いた女の高い怒声。振り返ると無機質的な悪感を走らせる銃を向けた三人の兵士が扉を塞いでいた。

 中央に立つ背の高い兵士はおそらく胸の膨らみから女性だとフルは思った。

 その兵士の服装からケウト軍で間違いないようだ


 そして一人が前に出てヘルメットを外す。

 ヘルメットを外した兵士は長く赤い髪をふわりと落とし、青い瞳をフルに向けた。


 「ん? 貴女どこかで見なかった?」


 女兵士は首を傾げる。

 フルはその兵士をじっと見る。


 フルの頭の中に耳が長いエポルシア人の女性、そして赤髪、軍人。この三つのキーワードで答えがすぐに見つかった。


 「あ! あの時の!?」


  フルは驚いた反応を見せたが女兵士はただ一直線にフル達を見ていた。

 女兵士は後ろの銃を構える兵士に下ろすように指示を出した。

 そしてフルは安堵の息を漏らす。 


 「あなたたちはここで何をしているの? しかも戒厳令が出ている時に?」


 「——」


 フルは少し不自然に女兵士を見る。

 「もしかして覚えていなかった?」と疑問に思う。

 フルは間違えてしまったのかと内心焦ったが、女兵士自体はなんも反応をしなかった為、気にしてないのかと少し安心した。

 

 フルは女兵士に近づき、小さな声でこう言った。


 「アンリレの秘宝って知ってます?」


 女兵士はフルの言葉を聞くと何か知っているのか「なぜそれを?」と質問する。

 

 フルは読みが当たって笑みを浮かべた。


 「私、場所知ってます。知らずに持ち帰って研究してたんですが、どうやら耳に挟んだ情報だと厄介なことがあるみたいなので。ですがその秘宝は友人が持っていて、何かあったら怖いのです。大変申し訳ありませんが一緒に来て大丈夫か確認してくれませんか?」


 女兵士は少し頷く。


 「万が一のためについて来て欲しいと。分かった。こちらも実際に見て確認できたほうがありがたい。そこまで同行しよう。して、どこに?」


 女兵士は笑みを浮かべながら


 「あ、あのしかし!」


 すると隣にいた兵士がその女兵士に声を掛ける。だが女兵士は首を横に振って大丈夫だと口にした。


 「私たちの任務自体それの所在地を明確にするだ。そしてこの子の身元は特定済みだし今まで怪しい行動はしてないから問題はないだろう」


 女兵士はニヤリと不気味な笑みをフルに向ける。

 隣で抗議した兵士は不満げな顔をしつつも後ろに下がった。


 フルは多分信用しようにも警戒するのはしょうがないかと思った。


 「ケイオスです」


 女兵士はそれを聞くと興味深そうに頷いた。

 そしてフルは女兵士に案内され、彼女らが乗って来たであろう車に向かう。そのままフルが乗ろうとするとラスターが走ってやって来た。


 「おい! 俺様が案内すると言っただろう!」


 ラスターは不機嫌そうな口調でフルに当たった。

 確かにフルはラズターの醜態を擁護していなかった。だとすればラスター自身己のプライドを潰されただけでなんの得にもなっていない。


 フルはそのラスターの心を理解してか心から感謝したかのような笑みをラスターに向けた。


 「ありがとうございました。ラスターさんがこうして一直線に進んでいく信念のおかげでこうやってケイオスへと行く方法が見つかりましたし、もしあのままだったら何も出来なかったです。なので本当にありがとうございました」


 フルの心からの感謝を受けてかラスターは心なしか頬を赤く染めて目を逸らした。


 「べ、別に俺様は案内しただけだぜ。だったら俺に対しての感謝を忘れるんじゃないぞ!」


 「はい。また大学でお会いしたら改めて」


 フルはそう返すと車に乗った。

 この時フルはラスターにもし会ったらこのお礼をしようと思った。


 一方その頃キタレイ大学研究棟内部では激戦が繰り広げられていた。

 トゥサイは単騎で突入して反帝国連盟兵士を次々と薙ぎ倒し、攻撃を仕掛けたものは射殺し、降伏を懇願したものは近くの個室に集める。

 そしてトゥサイは四階から階段を降って三階に移動し、作戦を続行していた。


 もうすでに十分以上経っていたが、ガナラクイは未だに来ておらず、波状作戦はすでに始まっており、窓の外を見ると装甲車の裏に盾を持った鎮圧部隊がざっと五十人以上この校舎に迫り、おおよそ何人かは突入したようだ。

 窓側は天空特戦隊が攻撃を仕掛け、空気を切る音が校舎中に鳴り響いていた。


 「これはいつまで交戦かが重要だな。外を見た感じ多分だが鎮圧部隊も入って来ている」


 トゥサイは一室に潜み、頭の中を整理した。


 「だけど一回の波状攻撃で壊滅とは何がしたかったんだ? それに人質も確認出来なかったし。ま、それも早くこの反帝国連盟のこの反乱の指揮官を捕まえないことには始まらないな」


 トゥサイは部屋から飛び出し、再び走り始めた。

 そして階段の近くに来ると下からものすごい数の靴音が聞こえた。

一度階段を見下ろす。すると奥からこちらの階段を登ってくる盾を構えた味方が見え、彼らはトゥサイを見ると一度銃を構えた。


 「その服は中央情報局か?」と、隊長と思わしき男がトゥサイに投げる。

 トゥサイは確認だなと気づき「そこの敵は片付いたか? だったら残りは四階とこの階だけだ」と言う。

 として隊長と思わしき男は一度頷く。


 「私はケウト極東軍鎮圧部隊六班班長タナズ。了解した。我が班と共に応戦を頼む」


 するとその部隊の奥から黄緑色の髪の少女、ガナラクイがトゥサイの目に入った。

 そしてガナラクイはトゥサイを見ると大きく手を振った。


 「トゥサイ殿! すみません、敵の攻勢が激しくてなかなか行けず……」


 「今はそんな暗いこと考えるな。それでタナズ班長、下の階は?」


 ガナラクイは暗い表情をしていたがトゥサイの叱責で我に帰り、何も返さず銃を握りしめた。


 「下はほとんど制圧した。三階はどうだ?」


 「三階は今からです」


 「なるほど。よし、分担して三階を捜索する!」


 タナズはそういうと二人一班に再編成し、トゥサイはガナラクイと組んだ。


 「増援はすぐに来る。だから敵がいても落ち着いて対応せよ」


 各班は一斉に捜索に入った。


 「俺たちも行くぞ」


 ガナラクイは会釈し、トゥサイについていった。

 

 そして部屋を一室一室開けて行くともぬけの殻が続いていた。

 あるのは学生たちの叡智の結晶である研究資料。

 そして悲劇的なのは稀に学生が集団で暴行されたであろう遺体が詰められたものが一室あった。

 だがその一室はかなり荒らされており、紙が一切れもなかった。

 

 捜索から十分が過ぎるとき、残り一室となった。

 トゥサイとガナラクイの班が到達した後、続々と味方がやってきた。

 トゥサイは味方を見ると一度会釈し、一気に扉を開けると中に入って行った。

 中に入ると机の下に隠れていたのであろう、一人の学生が腰を抜かして姿を見せた。

 その学生はケウト軍を見ると銃を持って自分の口の中に入れた。

 

 「まずい——!」


 トゥサイが口を漏らした時、ガナラクイは風のような速さでその学生の元に行き、すぐに銃を取り上げ、そのまま地面に押さえつけた。

 トゥサイは呆気に取られながらもその学生の元に近づく。


 「お前がここを占拠した主導者か?」


 学生は何も返さず、半べそで頷いて返答した。


 トゥサイは机の上に置いてあった書類を受け取る。


 「なになに?

 『反帝国連盟:戦略委員会司令書

  本作戦遂行において暴力革命を実践し、君主制の根絶を目指した計画の第一弾としてキタレイ大学の研究棟を占拠し、人質を持ってして我が要求たる君主制放棄し、我が連盟を長としたケウト人民共和国設立を迫れ。

 もし、要求を拒絶するのなら人質を殺し研究棟を破壊してキタレイ大学数百年の研究を灰にするように。

 反帝国連盟カイザンヌ総帥』——あー聞いた話では過激だとは知っていたがここまでとは。で、班長さんや。この要求は届いていたかい?」


 トゥサイは紙に書かれていることを音読し、タナズに確認する。

 タナズが言うには脅迫文自体は以前届いていたらしく、さらに鎮圧部隊が陣地にしている廃墟から物資を運んでいたことがわかった。

 トゥサイはカラクリ師としての上にあたるウマスからは何も聞かされていなかったが、ウマスの行動は廃墟の隠された道を探していたりなど少し思い当たる節があったことを思い出す。

 トゥサイはウマスに爆弾を仕掛けるように言われた理由というか真意であろうことに納得した。


 さらにタナズは反帝国連盟からの要求は中央情報局がこれは人質を使った最後通告を出し、その後連続でテロを起こすと想定し、反帝国連盟に所属する人物が出入りしていたキタレイ大学が起きる場所として天空人特戦隊を配置していたと話した。


 トゥサイは首を縦に動かす。

 

 「とりあえず先に把握していたからこそすぐに対処できたのか」


 トゥサイはもう一枚の紙にも目をやった。


 「アンリレの秘宝? なんだそれ」


 「どうしましたかトゥサイ殿」


 ガナラクイはトゥサイの隣に来る。


 「あぁ。アンリレの秘宝とやらをこいつら反帝国連盟の連中が狙っているみたいなんだが」


 トゥサイがそういうとガナラクイは合間も入れずに返した。


 「それなら問題ありません。とりあえずここにないことは明らかです。それでは早いとこここから出ましょう。班長殿が少し迷惑そうにしておりますので」


 トゥサイはドアの先に目をやるとタナズは「要はすみましたか」と少しやれやれと言いたげな顔ををしていた。


 「あぁ、すみません。すぐ行きます」


 トゥサイはそう言って研究棟を後にした。


 そしてトゥサイは心の奥でアンリレの秘宝についてウマスに質問しようと心に決めた。



 外はだいぶ明るくなり、太陽が高く登り昼を過ぎた。

 キタレイ大学での激戦とはほぼ無関係となったフルは女兵士に同行してもらってケイオスに向かっていた。

 フルは名前も知らない女兵士相手にどんな話題をふっかければいいのか悩む。

 そもそもかける自体非常識と思うがフルはそわそわしているのを女兵士はじっと見ていた。


 「どうした? 近いのか?」


 「今思ったんですがお名前はなんと言うのですか?」


 「名前?」


 女兵士は困った顔をする。


 「フローレス。本名かどうかはあなたに任せる」


 女兵士——フローレスは少し穏やかな口調で言い、そして続けて話した。


 「それと、あなたの名前も聞かないしあなたも名前を聞かないで。それがお互いのためよ。私たちがいつどこで死ぬのかは分からない。情を持ってしまったら余計悲しくなるわよ」


 フルはフローレスの言葉を聞いて少し萎縮する仕草を見せるが、なんとなくフローレスの言葉の真意を理解できたため、彼女の言う通り本名は言わないことにした。


 車は出発してから二十分は経過し、だだっ広い雪原に飽きてきたちょうどその時、一度目にしたら忘れられない光景を目にした。


 「これは……」


 フルが初めて目にしたケイオスはリアートとは違い、いわゆるケウト様式と呼ばれる何重のも木製の屋根を持つ塔を中心に太い丸太に囲まれた大きな家が綺麗に一直線に区画を決められているかのように並んでいた。

 女兵士はフルに声をかけた。


 「それでは、案内頼むよ」


 「分かりました!」


 フルは元気よく返事をした。


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