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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
6章 再びここへ帰る

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74話 雷鳴轟く

 ——スタルキュラによるスタルシア王都包囲から三ヶ月が経過した。

 王都地下壕の病院には負傷兵たちの苦しみの声で充満し、防空壕には女子供が怯えながら過ごしていた。

 

 王都はすでに瓦礫の山となり、市街戦によるゲリラ戦を行おうにもまともに入り戦える建物は片手で数える程度しか残っていない。

 兵士も包囲戦初期は百五十万人はいたが今では百万人程度。食料もそこが見え仲間の死肉を食わねば生きていけない状態だった。


 一方その頃王都の惨状はすでにヘリアンカたちの元に届いていた。

 ヘリアンカたちは現在フタマタ半島から脱出しウルクに向かってあらかじめ用意していた装甲車十両に分かれて乗車し、移動をしている。

 ただ、当初は一ヶ月で着く予定だったが度重なるゲリラとの戦闘で二ヶ月の遅れを出している。


 ヘリアンカは現在トゥサイ、フローレスと他三名の兵士たちと装甲車に乗り二両目の装甲車に乗車して前後に挟まれる形で移動している。


 ヘリアンカは窓から外を見る。


 「トゥサイさん。スタルシア王都には増援を送らないのですか?」


 「あぁ、今各地の戦線で激しい攻撃を仕掛けるスタルキュラ軍への対処が間に合っていない。期待の海洋国オシュルク民国も国内のカイザンヌ派によるゲリラ攻撃で混乱している。それがなければ空軍で攻撃や援護はできるんですがね」


 トゥサイは苦虫を噛み締めた顔をする。

ヘリアンカはしばらく外をじっと見てみると遠くに黒い点が見えた。ヘリアンカは目を凝らして確認するがよく見えない。


 「あの、トゥサイさん。あれはなんですか?」


 「——あれはケウト=カイザンヌ解放戦線っ!」


 トゥサイが確認する前に上から顔を出して当たりを監視していた一人の兵士がその存在に気づく。

 兵士は声を震わせながら次々と報告をしていった。


 「か、各装甲車に連絡! 北西方向にケウト=カイザンヌ解放戦線の部隊およそ五十名を発見!」


 「——あぁ、これは面倒臭いぞ」


 トゥサイは頭を掻く。

 ヘリアンカはフローレスを見て「ケウト=カイザンヌ解放戦線とはなんですか?」と聞いた。


 「あれはケウト中央でゲリラ活動をしていたテロ組織だ。私は詳しくは知らないが……数十年前に姿を消して解散したと聞いたのになぜ?」


 「全車両に告ぐ、戦闘態勢に入れ」


 トゥサイは無線を片手に指示を出し、ハッチから顔を出した兵士は機関銃を構え車両に乗っている兵士は小銃を手に持った。


 「しばらく前に進み丘を越える。そして死角に入り攻撃を仕掛ける。武器はランチャーを使え」


 「了解!」


 「分かりました!」


 運転手はそう返事をして速度を上げ、上部ハッチから敵車両を見ている兵士は下の兵士よりランチャーを受け取った。

 ヘリアンカを守る前後の車両は両脇に移動した。その間にもケウト=カイザンヌ解放戦線の車列は近づいてくる。

 彼らの車列は旧式で、撒けるのは簡単だがトゥサイは確実に殲滅すると決断した。


 トゥサイは無線を手にハッチの兵士とやり取りする。


 そして車両が丘を降ったあたりでトゥサイは息を大きく吸った。


 「ヘリアンカ様。とりあえずこれ付けてください」


 「耳栓ですか? 良いですけど」


 トゥサイはヘリアンカが耳栓をつけたのを確認すると無線を口に近づけ、丘のてっぺんにケウト=カイザンヌ解放戦線の車両が見え始めたあたりで「撃ち方始め!」と指示を出した。

 次の瞬間まるで稲妻が落ちたかのような轟音があたりで鳴り響き、丘の上から姿を見せ始めた敵車両が爆発する。


 「後方の敵車両爆破確認!」


 「後続は?」


 「煙から出てきました」


 トゥサイは無線を通して敵の位置と損害を確認する。その間にも後ろから銃声が聞こえてきた。


 「とりあえず全員ハッチを閉じろ。車を全力で走らせて撒くぞ」



 トゥサイが司令を出した後装甲車は草原を駆けウルクに向かって退却を始めた。

 それから更に一週間経過し、ウルクとの距離が近づきなんとかウルクの軍部と連絡が取れるようになった。


 その日の晩トゥサイは周りが寝ている中一人で無線でウルクとの通信を試みる。


 「こちらヘリアン・ウルル。ケウト軍部応答せよ」


 トゥサイはこれを三十分繰り返した。そしてようやく、無線の先から声が聞こえた。


 『こちらケウト軍部。その声はヤニハラか?』


 トゥサイはその声を聞いてすぐに誰か分かり、安堵の顔を浮かべ口角を少し上げた。


 「あぁ、俺だ。ヘリアン・ウルルが陥落した。ヘリアンカ様はこちらにいる。すまないが宮殿に保護をお願いして欲しい」


 『陛下にか? 了解した。お前たちが来るまでには許可を取りつける。ヘリアンカ様を意地でも無傷にお連れすること』


 「了解だ。感謝する」


 トゥサイは無線を切ろうとすると『少し待ってくれ』と言われトゥサイは手を止め再び無線を顔に近づける。


 「なんだ?」


 『今晩、今から数時間後にスタルシア王都退却作戦を行う。その際お前たちに向けての遺言が軍部に届いている。現地に到着したら聞いてくれ』


 「——分かった」


 トゥサイは無線を切ると息を大きく吸いゆっくり吐いた。そして空に浮かぶ月を意味深な顔で見つめた。


 すると周りに何かが近づいていることに気づく。


 「ヤニハラ! 周りに騎兵が!」


 「騎兵だと? ライトを付けろ!」


 トゥサイの指示で仮眠をとっていた兵士が起きて一斉に灯りをつける。そのおかげで部隊を包囲している者の正体が分かった。


 「——我はヤスィ・トクト。ヤスィアの一族の末裔なり!」


 「——あんたは!?」


 トゥサイはその顔でウルル山でエフタルたちと同行した際にいた族長の顔を思い出した。その族長は2年前と変わらず元気そうだったが、その時よりも顔つきは武人のようだった。

 

 「——占い師がここにヘリアンカ様がいると申したから来てみたがもしかしてゲリラ部隊か?」


 ヤスィはトゥサイに疑いの目を向ける。トゥサイはここで回答を間違えたら殺されかねないと判断し、ヘリアンカがいることを伝えようとした時、眠そうな顔をしたヘリアンカが装甲車から出てきた。


 「——ヤスィさんですか?」


 ヘリアンカはヤスィを見るとすぐに名前を出した。ヤスィもヘリアンカのことは知らないものの、フルのことは覚えていたため剣をトゥサイに突きつけた。その時周りの騎兵は銃を取り出し、トゥサイを守ろうとヘリアン・ウルルの兵士たちはヤスィ含めた騎兵に銃を構え一発触発の危険な状態となる。


 ヤスィはトゥサイに詰め寄る。


 「貴様ら何故この少女を攫った!」


 「待て、誤解だ誤解」


 「誤解で済まされるか!」


 「待ってください。ヤスィさん。落ち着いてください」


 ヘリアンカはトゥサイとヤスィの間に入る。二人をそれを見て少し後ろに下がり離れた。

 ヘリアンカはしばらく考えた後ヤスィを見る。


 「——私は見た目は一緒ですが中身は異なります。それと探しているのは私でしょう?」


 「いや、我々はヘリアンカ様を探しに——」


 「私がヘリアンカと言ったら?」


 ヤスィはヘリアンカの言葉に固まる。その顔は疑心暗鬼に溢れているもので信じたくないと言いたげな顔だった。

 だが、ヘリアンカの目には曇りはなく、ヤスィもここで下手に争いになるのは避けたかった。


 「——分かった。どこに向かう? それまでは我々が護衛する」


 「ウルクだ」


 トゥサイの言葉にヤスィは少し頷いた後馬に跨った。


 「では、今からついて来れるか?」


 「おう、少しかかるが待ってくれ。——それと、まさしく古の勇者ことヤスィアさながらだな」


 「——ふん」


 トゥサイはヤスィの反応を少し楽しんだ後、兵士に指示を出し、トセーニャに少し怒られながらも移動の準備に取り掛かった。


 同時刻、スタルシア北部、王都とは北の河川を三つ挟んだ都市、ジンギルを千両にも及ぶ戦車と装甲車。更に大砲一万門が王都に向かって移動している。

 そして上空では暗闇の中を二千機の戦闘機が王都に向かって飛ぶ。

 その戦闘機の後ろには輸送機が続いて移動していた。


 輸送機に乗っている空挺部隊隊長テハウは窓から下を見る。

 その後名簿を見ながら部下を一人一人順番に確認し作戦について話し始めた。


 「これより要塞に降下して敵を混乱させる。味方はその隙に川を越えて王都に向かい包囲をされている味方を救出後車両に乗り込み脱出する。異論はないな?」


 テハウの言葉に各兵士は頷く。


 その後テハウは一人一人の兵士の名前を言っていく。


 「オスニ、メルス、シフケ、アンタケ、ヤマン。特に君たちの活躍が鍵となる。良いな?」


 「問題はありません隊長。それに——」


 オスニは隊長の後ろで気をつけの姿勢で待っている四人の天空人に手を向ける。


 「彼らもいる。彼らが我々の降下を支援し行動を共にするのです。それに我々が攻略する要塞を攻めるのは十人ではない、三万人だ。緊張はしなくても大丈夫です」


 「——そうだな」


 テハウはオスニの冷静な顔を見て安心する。すると指揮官が操縦席から顔を出す。


 「間もなくも目的地到達。各員降下準備。残り三十秒」


 ハッチ前にいた兵士は扉を開け、無線機からはカウントが進んでいく。

 そしてゼロと言ったのと同時にテハウを先頭に一斉に降下を開始した。


 テハウたちは要塞からの激しい銃撃を避けて少し離れた森に降下後、パラシュートを取り外しその場から要塞に向かって移動を始めた。

 無線にはそれぞれ降下を完了した部隊からだった。

 テハウは無線を繋げ、後から降下し要塞を強襲する天空人たちに繋げた。


 「こちら要塞襲撃部隊。お前たちは大丈夫か?」


 『こちら陽動問題ありません。現在目標地点の山から要塞を目視。隊長の判断でいつでも攻撃が可能です』


 「了解した。朝日が来たのと同時に攻撃を頼む」


 テハウはオスニたちを見る。

 そして森の中を進んでいき着実に要塞に近づく。その間地雷、有刺鉄線など罠が設置してあった。


 そしてようやく森を抜け要塞が見えた。

 テハウは再び無線を繋げ、王都につながる橋と川を守る十ヶ所の要塞を同時攻略作戦を実地するに当たっての確認を司令部と行った。

 そこでテハウは要塞を強襲し、今こちらに向かっている味方の先遣隊が既に待機しているのを確認した。

 テハウは無線を切り、大きく息を吸った。


 その時、要塞目掛けて天空人たちが兵舎に突入したのを確認しテハウはロケットランチャーを構えるメルスと、双眼鏡から見える範囲で他の部隊が包囲を完了しているのかを確認する。

 そして双眼鏡を鞄に戻す。


 「撃て!」


 メルスがランチャーを打つと他の部隊も続いて発射し、要塞の壁は木っ端微塵に破壊され穴だらけとなった次の瞬間テハウたちは要塞に突入した。


 だが、その奥には塹壕があり、敵は一斉に攻撃を始める。

 テハウたちの部隊は前に進み匍匐前進で応戦して進む。

 あたりでは銃声が鳴り響き要塞からは煙が上がって辺りは既に見えなくなっていた。


 テハウはやっとの思いで塹壕にたどり着くと辺りの敵を拳銃で撃ち制圧してく。


 「大丈夫か!」


 「問題ない!」


 「こちらもです!」


 オスニに続いてメリス、シフケ、アンタケが塹壕に隠れる。

 後ろからは味方がぞろぞろと塹壕に入り奥に進んでいった。


 「待て、一人は?」


 「——頭をやられた。進むしかない」


 オスニは何処か悲しさを感じさせる口調であったがテハウは気にせず要塞の奥に進むと手で伝える。


 「——分かった。続け!」


 テハウは砲撃の中、土埃に包まれた塹壕を感を頼りに奥に進んでいく。

 要塞は丘を囲むようにできており、味方の支援攻撃でなんとか進めるが油断はできない。

 テハウは塹壕の中を走り続けその間にも砲撃は続き、敵との遭遇戦で後続の部隊が壊滅していった。


 塹壕網を抜けた辺りには味方と敵の兵士の死体が散乱しており、どれも原型を留めていない。


 テハウは銃を撃ち目の前の敵を撃つことに躍起になる。

 その時近くに砲弾が落ち片耳がやられた。


 「——くそっ!」


 「——っ!」


 テハウの背中に暖かい液体がかかる。振り返ると喉を撃たれたアンタケが口から血を拭いて倒れテハウにもたれかかる。


 「隊長、砲台襲撃部隊は破壊できないのか!?」


 オスニは珍しく声を荒げる。


 「それはこっちのセリフだ!」


 すると上空に敵機が見えた。


 「伏せろ!」


 それに気づいたオスニはテハウに覆い被さると自身の頭があった位置に機銃の弾が当たり煙が立った。


 テハウは息を荒くしてオスニを見る。


 「すまない。助かった」


 「いや、こっちこそだ。でもどうする? もしかしたら襲撃部隊が壊滅したのか?」


 「——」


 テハウは考えた。

 そしてオスニとメリス、シフケを見た。


 「なら、我々四人が砲台を破壊し要塞を無力化する。いけるか?」


 「——いえ、行きます」


 「行きましょう」


 「——はい」


 テハウの言葉にオスニが続いたことで同意を得ることができた。テハウは腰につけている手榴弾を撫でる。


 「では行くぞ」


 テハウは激しい銃撃と砲撃の中突き進んでいく。

 それから三時間が経過しテハウはその後合流した味方三百人と砲台に向かい、トーチカを破壊しながら進んでいった。

 

 ようやく砲台が目と鼻の先になった時、テハウは肩に激痛が走った。


 「何っ!」

 

 テハウが倒れたのと同時にオスニは声を出す。するとテハウは何も言わずに手榴弾を渡した。


 「……いいから行け。砲台を無力化するんだっ」


 「了解。指揮権は俺が引き継ぐ。行くぞ!」


 テハウは先に進んでいくオスニを見て口角をあげる。そして朦朧とする中砲台がある方向から爆音が聞こえたのを見て安堵の息を漏らし静かに息を引き取った。


 ——要塞攻略作戦から二十時間後、その頃スタルシア王都はスタルシア軍の他にケウト、大共同体、ハングラワーなどの列強軍の他に民兵と警察、消防団までも銃を持って戦っていた。

 王都は既に崩れた瓦礫の煙に包まれ、最悪なことに立ち登る炎たちのせいで敵と味方の区別がつきにくくなっている。

 そこで指揮を取って戦っているハンバムラは苦虫を噛み締めた顔で司令室にいた。


 「司令官。現在アパートなど住宅を使ってのゲリラ攻撃が功となって敵の攻撃を防げています。さらに、敵の拠点を攻撃し物資を奪っているため今年はなんとかなるかもしれません」


 ハンバムラはその報告を聞いて苦笑いする。


 「かつてテロ組織と戦って身につけたゲリラ戦がこうも活躍するとはな」


 そう言って地図をじっと見て各地区の部隊に指示を出し報告を受ける。一人の兵士は地図に置かれたコマを動かす。


 「ハンバムラ司令。現在西地区の地雷原を敵が強行突歯しようと試みており、物資不足もあって防ぐので定一杯です。なので北の河川を見張っている部隊の物資を西に回し、慢性的な物資不足を解消しましょう」


 「待て、どの方面も厳しい状況だ。負傷兵の数も増えて総兵力百万人のうち六十万人以上が重軽傷を負っている。ただでさえ商業で発展したこの町では封鎖されたら物資がない。もうこれ以上の抵抗はできません。降伏も視野に入れるべきでは?」


 「馬鹿を言うな! ここでもし降伏したら国の恥だ! 意地でも包囲を瓦解して脱出するのが先決だろう!」


 「ならどうする! そもそもお前が王都防衛に拘って、退却する決断を遅らせたのが原因だろう! 味方はどこにいる! 数ヶ月も守っているのに、まだ来ないではないか!」


 ハンバムラの目の前で各国の将校たちが言い争いをする。

 そして十分ほど言い争った後ハンバムラが手を挙げそれを見た将校たちは静かになった。


 「とりあえず我々がここを守っていたのはここを抜け、河川を越えられた森林の先がケウトだからだ。森林は起伏が少なくゲリラ戦には向いているがここを落とされたら間違いなく各方面の士気が下がる。だが、百万人が死んだらそっちの方が士気が下がる。生きてた方が各国は我々を英雄視し、プロパガンダで利用するから士気は逆に上がるだろう」


 「ならどうする!?」


 ハンバムラは息を大きく吸う。その時間は一分だったのか三十分と言ったほんの一瞬だけだが、ハンバムラと将校たちに取っては三ヶ月分の決断だった。


 「王都を捨て、スタルシア北部に退却する!」


 その言葉に将校たちと、司令室の外で中の声を聞いていた兵士たちは決心した。

 それからハンバムラの指示で三日掛けての総退却作戦の準備が始まった。

 歩くことが不可能な民間人と軍人の負傷者を優先的に車両に乗せ、歩ける兵士は徒歩で移動。しかし、それでも圧倒的な数の負傷者を運ぶことが出来ず、十二時間後に安楽死を望む場合は安楽死を実行する方針に変わった。


 ————三十二時間後、退却時の兵士と避難民は総勢が八十万人と決まった。


 ハンバムラは司令室で兵士たちの報告を聞いて暗い顔になっていく。その時、一人の兵士が入ってきてハンバムラに報告した。


 「司令、北方河川方面を監視している部隊から国籍不明の大部隊を確認しました。およそ十時間後に王都近郊に到達する模様です」


 「——国籍の不明の部隊? しかも北からか?」


 「はい。高確率に味方でしょうが、もしかしたら国内で暗躍しているゲリラ組織の可能があります」


 「——そうか。ではとりあえず軍使を派遣し相手を確認しろ。敵にバレないように」


 「了解です」


 ——夜、王都北方の河川を泳いで渡る一人の兵士ランドルフは報告のあった国籍不明の部隊を確認するために移動していた。

 ランドルフは汗水を流して川を渡った後、林に隠れながら進んでいく。


 「動くな」


 「——っ!」


 ランドルフは後ろから聞こえた声に両手をあげる。そしてしばらく身体中を触られた後、複数人の兵士が囲んだ。

 兵士の耳は尖っているものもいれば尖っていないピト族もいるし、ツノを生やしたキバラキもいる。


 「——その耳? ピト族か?」


 「——いや、少し違います。私は王都防衛隊、河川監視部隊隊員ランドルフ。国籍はハングラワー。種族はスタルシア人です」


 「王都防衛隊? ——味方か!」


 ランドルフを取り囲んでいた兵士は銃を下ろした。


 「我々はスタルシア=ケウト連合部隊。今現在我々が先遣隊として王都の救援に向かっている。その様子だとまだ王都は陥落していないのだな?」


 ランドルフは予想外の反応に困惑し、頷くことしかできなかった。

 ランドルフは兵士から色々と話を聞き、体調の元へ案内される。


 この部隊が陣をとっていたのは森の中にある丘で辺りに蛸壺を掘って上に着くと装甲車と戦車が五十両置いてあった。

 そして天幕の中に案内されるとそこは隊長と思われるケウト軍の国章がつけられた大柄の男がいた。


 「君は?」と隊長はランドルフを見てそういうと、兵士が敬礼し紹介する。隊長はしばらく考えた後、少し頷くとタンドルフに近づく。


 「なるほど。君は王都防衛隊の隊員なんだね」


 「はいっ! ハンバムラ司令の命により国籍不明の部隊を偵察せよと言われ馳せ参じました!」


 「ふむ、なら安心したまえ。我々は後続が到達次第三十万人で敵の包囲網を一時的に破り、君たちを救出する。攻撃日時は——明日に昼だ」


 隊長は壁に飾ってある王都近辺の地図をランドルフに見せると、緩やかな地形の西側を指した。


 「我々は王都北西を攻撃し、その後王都の突入し負傷者と民間人を救助後一時退却し軍医の再編を行う。そのため君たちも北西方向の平原に攻撃して欲しい」


 「——了解です!」


 ランドルフは隊長が話したことを一言一句頭に入れた後、そう返事した。

 そしてランドルフは味方の拠点を後にした後、敵兵の目を盗んで王都まで退却すると、司令部に報告した。


 この報告を受けた司令部には歓喜の声が響き渡った。


 ——翌日、昼。

 王都の部隊は北西方面に集中し攻撃を開始した。

 無論敵もただやられるばかりではなく反撃する。その間敵は王都を落とそうと一斉攻撃を始め損害が増えるばかりであった。


 司令室でも戦況が伝わり、司令部付近にも爆発音がいつに増して大きく鳴り響いた。

 数時間後、北方の戦線では敵が壊滅し王都に救援部隊が突入したと報告を受け避難民を疎開を率先して行なっていた。


 次に西部、東部と敵が退却し始め、その間際に空襲で大きな損害を負ったものの味方hが続々と王都に入っていった。

 それぞれ王都の包囲が解かれたとの報告を受けたハンバムラは味方部隊の指揮官と合流した。


 ハンバムラはその指揮官を見てすぐに名前を出した。


 「ハイナ。救援部隊は君だったのか」


 ハイナはハンバムラを見ると敬礼した。


 「ハンバムラ大佐。車両は用意しております。敵の増援が来る前に早く」


 「分かった。その反応は北の要塞群を破壊したのか」


 「はい。十万人の兵士が犠牲になりましたが、彼らの勇姿のおかげで突破ができました」


 「うむ。では、全部隊に司令。退却開始」


 ————四時間後。


 太陽はすでに西に傾き始め、王都にいた総勢百万は一斉に退却を始めた。その退路は決して安全ではなく後ろからは敵の戦闘機の的となった。


 退路の中続々と味方の車両が爆破されていく。その退路はすでに装甲車と戦車の破片、それから火薬とガソリンに臭いで充満している煙に覆われていた。

 装甲車から機関銃を撃ち敵機を撃ち落とそうと抵抗している兵士たちは目を充血させながら暗夜になる前に敵機を全て撃ち落とそうと奮戦する。


 彼らの耳に入るのは戦闘機が墜落する音と激しい銃声、最後は戦友たちが乗っている車両が爆発する音だけだ。

 車両の中には兵士たちだけでなく、女子供もいる。

 

 ——数時間後。


 外が薄暗くなってきた頃。味方の陣地付近にもう時期到達する時突如として車列の後方がまるで昼になったかのような爆炎が見えた。


 「嘘だろ?」

 

 この声はハンバムラの耳に入った最後の兵士の声で、どの車両のものかも分からなかった。


 その後には稲妻のような衝撃波と、太陽が何億個分の熱さが襲う。それも一度ではなく、五回ほど連続して光り、後ろに近ければ近いほど車内の温度が上がり喉が焼けて呼吸困難になる者と、装甲車がどろりと溶けて中に乗っている人ごと蒸発するものなどがあった。


 車列は散開して戦闘機の攻撃のまとになる部隊と分かれ攻撃を開始した。

 戦闘機はバタバタと墜落していったが、先程の協力の爆弾が続々と落とされ、攻撃能力が著しく下がった。


 ハンムバラはその間装甲車で必死に指揮を取り何としてでも退却するべく自身も銃を手に持って戦っていた。


 「司令! 危ないです!」


 「他が戦って逃げるとは武人の恥だ!」


 ハンムバラはハッチから体を出し機銃を撃つ。

 そして戦闘機が一気墜落したのを見届けた。


 犠牲者は不明ながら少なくとも約二十万人が消し飛んだという。


 ——王都脱出作戦が行われて数時間後、ウルクにヘリアンカを乗せたヘリアン・ウルルの車両が到達した。

 ヤスィ率いる騎兵隊とは郊外で別れ先に進んだ。

 宮殿前に止まるとトゥサイは先に降りてヘリアンカの手を優しく掴んで下ろす。

 トゥサイはあたりを見るとガナラクイとフローレス、トセーニャとなんとか生き残った百人の仲間たちを見た。


 「よし、なんとか到達したな」


 「——来たか」


 トゥサイは宮殿前をみると豪華な服に身を包んだ兵士が立っており、トゥサイに近づいた。


 「ヘリアンカ様。陛下がお待ちです。あなた方も疲れているでしょう? 陛下より休ませるよう命じられておりますので案内致します」


 「はい、ありがとうございます」


 ヘリアンカは遠路でずっと草食動物のような浅い睡眠しか取っていなかったが、表情を一切変えず、トゥサイたちを見て優しく微笑む。


 「皆様。ありがとうございます」


 トゥサイたちはヘリアンカの言葉に少し驚く。なぜなら自分たちの方が迷惑をかけていたからだ。ヘリアンカを命の危険に晒し、挙句に何ヶ月も狭い空間にほぼ監禁状態にしていたのだ。

 だが、ヘリアンカは何も思っていなかった。


 「とりあえずこの移動の間に色々と知ることができました。取り敢えずトゥサイさん。私に指揮権はないのは分かっているのですが、今すぐに部隊を率いてスタルシアに向かってくれませんか?」


 ヘリアンカの言葉にトゥサイは最初はしばらく考え、意図を理解すると会釈した。


 「——なるほど。今スタルシアは混乱状態だから乗り込む作戦か」


 「ヤニハラ。取り敢えず今は各地に離散したヘリアン・ウルルの部隊を再結集することが先決だ」


 後ろに立っていたトセーニャがそういうとトゥサイは「そうだな」と口にした。

 ヘリアンカたちはその後九電内に案内され、トゥサイたちヘリアン・ウルルは宮殿の敷地内にある、兵舎に案内された。


 ヘリアンカは宮殿の中へと進むと使用人たちはヘリアンカを見ると頭を垂れた。その時ヘリアンカは自身の体が汚れていることに気づく。


 「——そういえば私汚れていましたね」


 「服をご用意しましょうか?」


 「お願いできますか? ——あ、条件を出しても宜しくて?」


 「えぇ、問題ございません」


 ヘリアンカを案内する兵士がそう口にする。


 「——今まではその気持ちはなかったのですが今は違います。もし、私の服が残っていたら持ってきてください。この宮殿にしかない、祭司の服があるでしょう?」


 「——少しお待ちください」


 兵士は更衣室に立っている女中とコソコソ話した後、女中は手をポンと叩き更衣室に中に入っていった。

 それから数分ほどして女中は更衣室から出てくるとヘリアンカに近づく。


 「ヘリアンカ様。祭司の服でございますね?」


 「えぇ。もしかしたら採寸とかありますか?」


 「はい。私がしかし拝見した服は少しだけ大きいぐらいなので採寸は問題ないかと」


 「分かりました。では、案内してください」


 「はい」


 ヘリアンカは女中に案内され更衣室の中へと入っていった。


 同時刻、兵舎の会議室にトゥサイとフローレス、トセーニャが椅子に座り部隊の再編成を行なっていた。


 「トセーニャ、取り敢えず部隊は何人集まれる?」


 「現在ウルクに到達したのは三十人。現在集めても最大五百人が限界だ。各地のゲリラの対処に追われて下手に動かせない」


 現在トセーニャとその他通信兵が部隊の再編成を無線を使って行い、フローレスは物資の調達を行なっていた。


 「ヤニハラ。物資は全ての部隊で枯渇気味だ。予算もケウト政府の助けがあるとは言えこれ以上は無理に近い。やるなら現状兵力でスタルシアに向かって戦うぐらいだ」


 フローレスの言葉にトゥサイは悩む。

 トゥサイの計画ではスタルシアで奇襲攻撃を仕掛け王都まで進みたかったが、流石に物資不足の中での攻撃は自滅に近い。


 そんな時トゥサイは空を見て、西側に飛ぶ戦闘機を見つけた。


 「——いい案があるが、一度スタルシアに行ったあと秘密裏にスタルキュラに潜入しカイザンヌを暗殺するのはどうだ?」


 「暗殺か? 一体どうやって?」


 トゥサイの言葉にトセーニャが驚く。その時フローレスだけがトゥサイが何をしたがっているのに気づく。


 「ヤニハラ。もしかしてだが5年前のように乗り込むつもりか?」


 「——よく気づいたな」


 トゥサイは少しにやける。


 「もうその手しかない。お前たちはスタルシアの防衛に協力して欲しい。流石に司令官不在はまずいだろう?」


 「ヤニハラ。流石にカイザンヌも対策済みのはずだ。その手はもう通用しないだろう」


 「——なら他にあるか?」


 トゥサイはトセーニャを見る。するとトセーニャはトゥサイの方に手を置いた。


 「これには複数人部隊の方がいい。私とフローレス、ガナラクイとヤニハラの四人による急襲作戦なら勝率は上がる」


 「——スタルシアでの指揮は誰に任せるんだ?」


 「ヤニハラ。彼らを信じてやれ」


 トゥサイはトセーニャの後ろにいる自身のヘリアン・ウルル兵を見る。彼らはトゥサイを羨望の眼差しだけでなく、まるで自身の指揮を取っていたヘヴェリのようにどこか頼り甲斐のある顔をしていた。


 それを見たトゥサイは少し吹き出しそうになるのをなんとか抑える。その時トゥサイの目の前に置かれた黒電話が鳴り響く。

 トゥサイはそれに気づくとすぐに取り耳に近づける。


 『こちらケウト軍スタルシア派遣師団通信兵へヴェリ。ヘリアン・ウルルがウルクに到達したとの報告を受けた。そちらはヘリアン・ウルルか?』


 ——ヘヴェリか。

 トゥサイは声の主に気づくと肩の重みが軽くなる。


 「こちらヘリアン・ウルル最高司令トゥサイ。へヴェリか。今スタルシアにいるのか」


 『あぁ、たった今王都から生還した部隊を再編成して森林地帯の要塞化を進めている。ハンバムラ司令も王都から無事生還だ』


 「そうか。それは良かった。——そうだへヴェリ。すまないが今ヘリアン・ウルルで計画している沢山があるんだが——」


 トゥサイはへヴェリに作戦について話した。そしてその答えをへヴェリから聞いた時、この場にいる全員が安堵の息を漏らし作戦実行に向けて準備を始めた。


 ——それから一日が過ぎ、宮殿内にいるヘリアン・ウルルの部隊はスタルシアに向かって移動を始めた。

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