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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
1章 動き出した白と黒
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6話 アンリレの秘宝

 フルが地下に潜って約10分。

 地下室は瓦礫の山が積まれており、以前見た設計図がどこにあるのかが見当もつかない。

 

 「ハァ〜。本当にあの爆発のせいだわ! ここに色々と資料が置いてあると思ったら何もないし! あるのは瓦礫の山よ瓦礫の山!」


 フルは鬱憤を大声を発して解消しようとする。

 が、効果はもちろんなく、より鬱憤を募らせただけだった。

 フルは瓦礫をどかしながら何か残ってないか見る。

 この時フルは最悪設計図が無くても、ヘリアンカ関連の資料があればいいのではと内心思い始める。


 が、カンナに設計図があると言ってしまったのだ。

 フルは嘘つき呼ばわり、もしくは嘘を着くのが大嫌いなほど馬鹿正直な娘だ。

 「絶対に見つけてやるんだから!」とフルは顔を叩いて瓦礫をどかして行った。


 それからさらに30分経過。ようやく瓦礫が片付いたあたりで、以前見かけたヘリアンカと書かれた設計図が見つかった。


 「やった! 見つかったわ! えっと、なになに?」


 フルは古代文字と幾何学的な図形で書かれている設計図に書かれていることを読み上げる。


 『これはヘリアンカの望む自由を実現するべく、アンリレ主導のもと開発せり装置なり。

 この装置は高濃度の魔力を用いて鉄壁の盾を生み出す。

 使用するものは近年カラクリ師によって人工的に作れるようになった魔結晶を使用する。

 魔導士たちが生み出す魔法石とは違い、膨大の魔力を保管できるからだ。

 この装置の使い手は魔力が使える部族の血が入っていながらも、魔力が少ないものでも扱えるもので、主にスタルシア人を対象とする。

 注意:この装置は魔力が体内に微塵もないピト族、ケモフ族と天空人は操作不可能

 開発責任者兼自由使徒 アンリレ」


 長ったらしい文章を読んだフルは一度息を大きく吸う。

 設計図から分かったのはエリオットが持っているあのバリアを張ることができる魔道具はアンリレと呼ばれる人物が開発したもの。

 フルはそのことを踏まえて情報をまとめた。


 「えっと、要するにエリオが持っている魔道具は魔力が少ない部族でも使えるように作ったもので、目的はヘリアンカを守るためってことね。でも、最後の自由信徒アンリレが一番気になる。そもそも自由信徒の意味って何よ? て、そういえばエリオってピト族よね。この設計図の通りなら魔道具は使えないはずでしょ!?」


 その時、フルの髪の毛が風になびかれた。風は地下室に入るところからではなく、方向から考えても地下室から吹いていた。


 「次はなに!? 地下室から風?」


 フルは疑問を感じて辺りを見渡す。

 するとフルがさっき入ってきた階段の後ろに小さな穴が空いていた。

 その穴は大人の男性が一人ようやく通れるほど小さいものだった。

 フルはその穴に頭を入れる。


 「うんっしょ。入り口は狭いだけで中は広いわね」


 穴の中はとても広く、壁はぼんやりと不気味な輝きを放っている。

 フルはその光に少し嫌悪感を抱きながらも好奇心と言う獣を食い止める事はできず、ズカズカと穴に入り、散策した。



 「あーもう! 何かあると思ったら何にもない! つまんなーい!」


 散策してからおよそ5分。

 きっと何かあるに違いないと希望の眼を輝かせていたフルの目はすっかりと世界の真実に気づいた人のように、どんよりと光を失っていた。

 理由はただ長い一本の道で、ちょっとした段差や、小さな沢を越えたりと冒険をしている感じ、もしくはあの廃墟に関連した異物が一切なかく、本当にただの洞窟だったからだ。

 

 フルのテンションも穴に入る前と比べてガタ落ちで、ため息をついた。 

 次の瞬間靴音があたりに響き渡った。

 

 フルの正面からサングラスをかけた大男が歩いてきたのだ。

 大男に気づいたフルは振り返り、睨みながら少しづつ下がっていった。

 大男は自身の髭を撫でる。


 「ふむ。お前が持っているのはアンリレの秘宝か? それとも設計図か?」

 

 大男はフルが手に握っている紙に指をさす。

 フルはもしかしたらこの廃墟の管理人ではと思いつつ、もしかしたら危ない人のことも考え、フルは設計図を自身の服の中に入れた。


 「あんたはここの管理人? そうだとありがたいんだけど」


 「いや、ただ仕事で訪れただけだ」


 「あんたは誰よ。それにアンリレの秘宝って知らないわ」


 それを聞いた大男は軽く笑う。


 「はっ。アンリレの秘宝は魔道具だ。その魔道具は魔結晶が使われ、鉄壁の壁を生み出せるものだ。ただここを探しても見つからないのだ。そして設計図があると言うことは近くにその魔道具があるはずだ」


 「残念ね! もう取ってあるわ! ——しまった!」


 大男はそういうとニヤリと笑みを浮かべる。


 「まぁ、別にいいのだが」


 「良いの!?」


 「ありかを知れただけでも良いことだ。もし悪い奴らが持っていたら……な?」


 大男は圧のこもった声を発する。


 「この世の生きる物は皆心で分かる。善たるものか邪たるものがな。お前は善だ。長年生きた感だ」

 

 男は意味深なことを言うとそのまま口を閉じた。


 フルは大男に視線を向けながらも逃げ道を探すが、出口は大男に塞がれて逃げる場所がない。

 一応フルの後ろにも逃げ道はあるが多分すぐに追いつかれるのが分かる。

 それにしてもこの大男の声にどこか聞き覚えがあると無意識下で感づく。

 大男はフルの髪の毛に触れる。


 「黄緑……か。なるほど、お前か」


 大男は一歩下がり、手を前にしてお辞儀した。


 「私の名はウマス。覚えなくても良い」


 「ウマス……さんね」


 張り詰めた空気の中、フルはなんとか冷静を保つ。

 大男はもう用が済んだのかフルの後ろに指を刺した。


 「ここから立ち去れ」


 大男はそう言うと腰からヒスイの針を取り出し、フルの肩を掴み、後ろに突き飛ばす。それから大男が針を地面に突き刺すと土が盛り上がって壁になった。


 フルは唖然としたまま石のように見る。


 「えっと、は?」


 フルは右手に握られた設計図を見る。


 「え〜と。設計図は手に入ったし……。これで————」


 次の瞬間出口から爆発音が響き渡った。

 フルは音がした方を振り向く。


 「あれ行っても大丈夫かな……。けど、行くしかないわ! 逆に道は塞がれちゃったんだしね!」


 その時遠くから「フルー」とカンナの声が響き渡った。それも爆発した方向から。

 フルはおおよそ自分を探しにきたのだろうと思い、カンナの元に駆け足で向かった。



 フルが見つかってホッとしたカンナはフルの頬をつねる。

 フルは涙目で「ごめんなさーい」と謝るが、カンナは離さなかった。


 「フル、危険なこと、いけない」


 「うー分かりましたよ〜。あ、でもカンナさんは爆破して荒らした——」


 「フル」


 カンナは怒りが込められた笑みをフルに向ける。

 その笑みは世のにも恐ろしい鬼人とも呼ばれるキバラキであることを分からせるように、2度と見たく無い恐ろしいものであった。

 フルはそれを見てふざけたらいけないと気がついた。

 「ご、ごめんなさい」と、フルは少し怯えながら謝った。


 フルはその後キタレイ大学のカンナの研究室に連れて行かれ、中に入るとエリオットが相変わらず魔道具をいじっていた。

 カンナの研究室はまとめるのが面倒くさかったのだろうかガサツに机の上に紙が置かれ、内装は壁紙と床のカーペットは古典的な民族模様が施されている。


 「あ、お疲れ様です。——あ」


  エリオットはフルとカンナの服の汚れを見て大体察しがついたのかカバンからタオルを出した。


 「あの、よかったら使います?」


 「あり、がと」


 「ありがと……」


 フルは不貞腐れながらタオルを受け取り、汚れを取る。

 

 エリオットは二人の安全を確認できて安堵の息を吐く。

 そしてエリオットはカンナを見る。

 

 「あ、そういえば廃墟はどうでした?」


 「何も、無かった」


 カンナは残念そうな顔をする。

 それを見たエリオットも残念そうな顔をしている中、フルはすぐに自分が設計図を持っていたことを思い出し、カバンから設計図を取り出した。


 「いや、ありました! 設計図ありました!!」


 「あ、たの?」


 フルはそれをカンナに渡す。

 カンナは受け取ったものの、目が見えないと言うことを思い出したフルは「すみません!」と謝り、設計図に書いてあることを読み上げた。


 カンナはそれを聞いて顎に手を当て、それを近くにあった紙に殴り書いてまとめる。

 反対にエリオットは知っていたかのように目を輝かせていた。

 フルとしては無視して良さそうだったものの、何か言いたげだった事もありフルは軽く笑う。


 「エリオは知ってるの?」


 フルの言葉を聞いたからかエリオットは今までに見せたことがないほどの笑みを浮かべた。


 「あぁ、もちろんだよ! なんたってアンリレは今の魔道具の大元になる技術を開発した偉人なんだ! 特に有名なのがピト族やケモフ族や天空人などの魔力がない種族でも扱えるように、魔結晶を使用できるような装置なども開発したんだ! 最後にアンリレはスタルシア人初となるカラクリ師で有名なんだよ」


 「ヘェ〜。アンリレってそんなすごい人だったんだ」


 「え、あ……。あはは」


  エリオットは早口で喋りすぎた事に気づいて照れ臭そうに笑う。

  フルはアンリレのことを考えながらも、ウマスという男について疑問を感じていた。


 「あ、エリオ。ウマスっていう人知ってる?」


 「うーん。ごめん、知らないかな。それよりも今僕が持っている魔道具がアンリレの作ったものというのが驚きだよ」


 エリオットは本心から喜んでいるのか、彼の瞳は発明王よりも発明王をしているような視線を放っていた。


 「それはよかったわ」


  カンナは置いてけぼりにされて嫌だったのか、フルとエリオットの服の袖を掴む。


 「手伝いは今日はこれで、大丈夫。学執会の仕事に、行かないと」


 「はい、分かりました! あ、明日もお手伝いに行っても良いですか?」


 カンナはその言葉を聞いて少し固まる。


 「いい、の?」とカンナは震えた声で聞く。


 「はい! むしろワクワクと新しい発見がいっぱいで楽しみです!」


 カンナにはフルの顔は分からない。しかし口調から見て喜んでいるのが分かった。


 「僕は魔道具の方ですが、もし手伝えることがあればいつでも呼んでください!」


 エリオットもフルと同じような口調で返す。


 「何よ。来れないの?」


 「いや、学科違うし理事長から担当教授の許可がないと他学科のものは使用したらダメって言われてるだろ?」


 「あ、そっか。あれ? カンナ先輩嬉しそうですね」


 「あ……」


 カンナはフルに言われてから自身が嬉しそうにしている事に気づいた。

 カンナは不器用な笑みを浮かべながら「行き、ますよ」と言った。


 翌日、春とはいえ寒帯に属し、未だに厳しい寒さが襲う。

 太陽が南から西に向かう夕方、フルは約束通りカンナがいるカンナの研究室に来た。

 エリオットは用事があるらしく先に帰宅し、フルは一人でカンナの研究室に向かった。

 フルがノックをすると中から「いいで、すよ」と声が聞こえ、フルは静かに戸を開けて中に入った。


 「お疲れ様ですカンナ先輩! 今日は何をするんですか?」


 フルは先程から何かを書いているカンナに目をやる。

 カンナは今日何をやってもらおうか悩む仕草を見て、決まったのか一冊の分厚い本をフルに渡す。


 「あの、これは?」


 「ヘリアンカ、のこと。調べた、こと。まとめたい」


 「ふむふむ。あ、もしかして会議とかでよくある、お偉いさんの言葉を一言一句正確に記録するのと同じようなことをしろと?」


 正解だったのかカンナは嬉しそうに首をふる。

 どうやら合っていたみたいだとフル自身も嬉しくなった。

 そしてフルは筆箱からペンを取り出し、椅子に座って本を開いた。


 「さぁ! いつでも来てください!!」


 フルは自信満々の顔をカンナに向けるが、その顔はカンナには見えなかった。


 それからかなり時間が経って、気づけばもう外は暗かった。

 フルは筋肉痛で痛むのか、ペンを握る右手を震わせる。

 対してカンナは満足げな顔をしてあくびをした。

 フルは右手の痛みに堪えながらカンナを見る。


 「せ、先輩ぃ。流石に無休で二時間弱筆を動かすのは厳しいですって。それに先輩喋るのが早くてぇ〜」


 「あら、ご、めんな、さい。気づかな、かった」


 カンナの申し訳なさそうな声を聞いたフルは少し胸が痛む。


 「ま、それにしても卒論書き出すのは早くないですか? それもずっと前から研究していたみたいにすごく内容が濃かったのですが」


 「私、ずっと調べてた。ヘリアンカの、こと。だから思い出しながら、口に出したかった。これを元に、調べることが、絞れるから」


 「あー口に出すと色々と記憶が鮮明になりますもんね」

 フルはカンナの言葉に同意する。


 その時フルは今日見た夢のことを思い出す。

 夢の内容は草原に上に座っていると、突然自身が複数に分裂し、同じような雰囲気を漂わせながらも、見た目が完全に異なっていると言うものだ。

 その分裂したフルは摩訶不思議で髪はみんな黄緑なのにそれぞれ種族が違ったのだ。

 ツノの生えたキバラキ、背中から翼が生えた天空人、獣の耳を生やしたケモフ族、そして人ことピト族がいたのだ。

 一番不思議なのはカンナそっくりの人物がいたことで、最初は赤の他人と無視しつつも突然「フル?」と聞かれ、驚いている時に目が覚めた。

 

 フルは夢の内容を思い出しながらカンナの髪を見た。


 「先輩の髪の毛は黒色か」とフルは心の中で言う。


 だが確かに夢で現れたカンナの髪の色は黒ではなく黄緑色だったのだ。


 「う〜ん。もしかしたらもっと先輩といたいって言う私の本音なのかな〜」


 フルは夢をポジティブにそう解釈する事にしているのだが、やっぱり腑に落ちない。


 「そろ、そろ。帰る?」


 カンナは一人で悩むフルに心配そうな口調で聞く。


 「あ、大丈夫です。帰りましょう!」


 フルは元気がこもった声でカンナにそう答えた。


 フルとカンナは研究室から出て夜の校舎を歩いた。

 キタレイ大学は古城であるが故に普通の大学と異なった雰囲気を漂わせる。

 例えばコインをチャリンと落とせばそれがすごく反響し、まるで幽霊の声と同じように恐怖が体を舐め回す。

 それに外は強風が吹いているのか窓はガタガタ震える。

 フルは怖いのは平気で、堂々と歩いているがカンナは苦手なのかフルの腕に抱きついていた。

 体格から見ればフルは小柄で、カンナの方が大きいのだがこの光景を第三者が見ればフルの方が先輩に見えてしまうだろう。


 フルはカンナの弱いところに気づいたのか、フルもカンナに抱きついた。


 「カンナ先輩! 何かあったら私が守るんで安心してください!」


 「え、そそう。あ、ありがと、とう」


 カンナは少し恥ずかしそうに答える。


 フルは自信満々に歩みを止めず、校舎の正面口に到達した。

 その時、扉が軋む音が響き渡った。

 カンナはここで過ごしてこれが何を意味しているのかすぐに理解でき、フル自身理解が追いついたものの、早く帰りたいと言う願望に負け、扉を開けた。

 すると強風が館内に入り込むのと同時に、極寒の冷気、そして雪が大量に雪崩れ込んできた。

 そして目の前に見えるのは雪の山。

 

 「さっむ!」とフルは悲鳴混じりの声をあげて扉を振り絞り、ここは大学だと言うことを再度認識しながら重い扉を閉めた。

 カンナを見てみると彼女は気まずそうな顔をした。


 「た、ぶん。今夜、は。吹雪。たま、にある。校舎に、と、閉じ込めら、れるの」


 「へ、へぇ〜。よくあるんですね。と言うことは流れ的に助は来ませんかね?」


 「校舎、の。電気つければ。来る。2、回目。だから」


 カンナはそういうと1人どこかに歩いていった。

 フルはとりあえずカンナの後ろを歩く。


 その時、1人とはまた別の靴音が館内を響き渡る。

 音の反響から1人ではなく、大勢だ。

 その音を聞いて、まだ残っている人がいるのかとフルは安堵したが、カンナはフルの腕を掴むと、階段裏の隠し部屋に潜んだ。

 

 隠し部屋からは外は見えないものの、とりあえず大勢の人がこの校舎にいる事はわかる。

 その時、若い男の声が一度咳をする音が聞こえた。


 「我々は今夜中に準備をし、解放戦争をこの大学で実行しないといけない。これはワタシの指示ではない。偉大なる指導者、カイザンヌからのご命令だ。確認だが準備に不備はないな?」


 「はい。この大学で3年間のに渡り、新入生の中に我々の組織のものを潜ませ続け他おかげで彼らを中心に革命思想を広めることができ、その数は教授も含め670人。そこから増援もふむめると700人となります。戦闘を行う人数としてはここ数年で最大となっております」


 「うむ。では決起の時刻は?」


 「ご連絡してくださった通りのお時間で」


 「分かった。……偉大なる指導者。カイザンヌ万歳!!」


 「「カイザンヌ万歳! カイザンヌ万歳!」」


 フルはこの声から男以外にも女も大勢いる事に気がついた。


 大勢の男女は少し間を開け、靴音を鳴らす。


 「「反帝国連盟万歳!!」」


 と、大きな声で叫んだ。


 それから少しして集団はバラバラにその場から離れて行った。

 フルはおそらくここを拠点として大学を占拠しようとしているこのではと考えた。


 カンナは隠し部屋の扉を開け、外に出た。

 カンナとフルは安堵の息を漏らさず、辺りを警戒した。

 フルはまた変なことに巻き込まれたと、少し自身を恨む反面意外にもワクワクするという好奇心がフルの心を揺さぶった。

 が、反対にカンナはフルと違って好奇心を沸かさなかった。


 「フル。と、りあえず。助け。呼ばな、いと」


 「助け……。あ、電気をつけるんですね!」


 「静かに」


 フルは口をカンナの綺麗な手で蓋をされた。


 「き、たら。とって? 責任」


 「ご、ごめんなさい」


 カンナはフルの口から手を離した。


 「だったらどうするんですか?」


 「て、ある」

  カンナはゆっくりと立ち上がり。裾についた埃を払った。


 「あの、吹雪。乗り、越える」


 「え?」


 フルはカンナは何を考えているんか分からないまま腕をカンナに掴まれ、そのまま正面口前の扉まで歩く。

 そしてカンナは有無を言わせないまま猛吹雪で変な音を立てている扉を開けた。

 扉を開けて雪がフルとカンナを問答無用で凍てつく寒さで苦しめようとする。

 フルは寒いのが苦手で、体を丸くする。


 フルはカンナとともに真っ暗闇の猛吹雪の中小走りで校舎から離れた。

 その時、フルの後ろから怒鳴り声が聞こえ、それから程なくして乾いた音がカンナとフルの後ろから聞こえ、そして雪が高熱でジュウと音を立てているのが生々しく聞こえた。


 「カンナ先輩! これ無茶じゃないですか!?」


 フルはようやく口を開く。


 「カンナ先輩! 目が見えないのにそんな無茶したら!」


 「音の、反射……。あと、研究棟は本校舎、の裏。迷わない」


 「絶対この猛吹雪の中じゃ見えませんよね! う〜ん。どうしたら。だけどこんなところで止まっている場合じゃないし」


 フルは全方位から来る吹雪、そして背後から近づいてくる乾いた音から逃げないといけない。


 「待って。キタレイ大学は本校舎を中心に各学科の研究室がある。そしてこのカンナさんの研究室がある校舎は本校舎の真後ろ。あ、このまま一直線か!」


 「だ、から。大丈夫。本校舎、人、必ずいる」


 カンナは雪で重くなった足を上げて、本校舎へ向かって歩き始めた。


 その時乾いた音と、殺気立った音が耳をついた途端カンナの体が一度大きく揺れ、足を止めた。

 視界が悪く、フルも何が起きたのか分からず「どうかしましたか?」聞いた。

 カンナを見ると少し青ざめた顔だったものの、フルに対してを笑顔で返した。

 フルはカンナの足が重くなっている事に違和感を持ちつつも、フルはカンナに肩を貸して本校舎に向かった。


 本校舎に着き、フルは本校舎の明かりを見ると安堵した——。訳でもなく、上から研究室のあった校舎と同じように乾いた音が連続で鳴り響く。

 フルは本校舎の扉を全力で叩いた。


 「開けてください! 誰かいますか!!」


 すると本校舎の扉はすぐに開いた。

 中から出てきたのは警備員でもなく、ヘルメットを被りライフルを手に渋い色の軍服を着た白く綺麗な翼を背中に生やす天空人の軍人と思われる女性だった。

 そして玄関口には小銃を持った兵士たちが走り回り、白衣を着ている医者は担架に怪我人を乗せて運んでいた。

 そしてフルとカンナは本校舎の一階にある天空の間と呼ばれる果てしなく広い部屋に案内された。そこには逃げ込んできたのは私だけではなく、ざっと40人はいた。


 その40人は泣いている人、理解ができずボーとしている人など様々だ。

 女性はフルに近づく。

 「君たちは学生?」とその人聞く。


 「は、はい!」


 女性はカンナを見ると大慌てで腰から包帯を取り出した。


 「て、その子怪我をしてるじゃない! ほら、早くこっちに来て!」


 フルはカンナを見る。

 フルは今思えばカンナの息が荒く、一言も言葉を発していなかった事に気づいた。

 それもそのはず。

 カンナは肩から血を流し、顔を真っ青にして苦しんでいたからだ。そして自身の方はカンナの血で真っ赤に染まっていた。


 「カンナさん! カンナさん!」


 女性はカンナの肩に包帯を巻く。

 同時に女性は胸につけている小さな機械を弄り、ボソボソと何かを喋る。

 そして10秒も立たないうちに白衣を着た医者が担架を持ってやって来た。

 医者はカンナを担架に乗せる。


 フルは何が起きたのか理解できず、その場で棒のように経っていた。

 女性はフルに毛布をかける。


 「私たちはケウト天空特戦隊グヴォラ班。私はガラナクイと言います」


 「あ、あの! カンナさんは?」


 「肩に被弾……。いや、あれはぱっと見かすり傷でしょう。なので命には別状はないはずです」


 「見るだけで、分かるんですか?」


 「私は訓練中に何度も怪我しているんで。銃弾が掠った事もありますよ」


 フルはガラナクイの微笑みを見て、安心させようとしているのが分かった。


 「あの、今どう言う状況なんですか?」


 「今は少々厄介な状況です。一昨日に大学付近の廃墟が爆破し、ちょっと危ない組織が大学にいると私たちは大学付近を偵察していました。そして今日研究棟から銃声が聞こえたと通報があり、本校舎にきたら怪我人多数。主に今のあなたの同じような状況の子がほとんどよ」


 ガナラクイはそういうとヘルメットを外す。


 フルはそれを見て驚きのあまり声が出そうになった。

 なぜならガナルクイの髪は黄緑色で、夢で見たあの天空人の少女とそっくりだったからだ。

 ガナラクイはフルと視線を合わせる。


 「それと、貴方。アンリレの秘宝。持っているでしょう?」


 「ひ、秘宝って何ですか?」


 「ご存知じゃなくて?」


 「は、はい……? あ、いえ。設計図はあります!」


 フルは一度騙そうかと考えたがフルは根は馬鹿正直であるため、他国の大地で外国人が嘘ついたら面倒臭い目に遭うのは理解している。

 そこでフルは諦めて馬鹿正直に答える事にしたのだ。


 ガナルクイはそんな態度のフルに若干引き気味の顔を見せる。

 フルはガラナクイの顔を見て嘘をつくのだろうという予想が外れたのだと心の中でガッツする。


 「えっと、設計図は本校舎から離れた——」


 「銃声が聞こえてるところね」


 「そ、そうです」


 「なら良かった。設計図だけなのよね。本物が置きっぱだったら面倒臭い事になってた」


 ガナラクイはそう言うと腰を伸ばし、フルを見下ろす。


 「ここから先は私たちの仕事。心配しないで」


 ガナラクイの言葉はまるでふんわりとしたもので、この緊迫した空気とは程遠い平和な感触がした。


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