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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
6章 再びここへ帰る

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68話 神の身から出た錆

  ——今から六千年前、ヘリアンカは死んだ。

 彼女の死後、世界は言葉に表す事ができないほど凄惨なものだった。ヴァレラガとアンリレの抗争、さらにハザルによるカラクリ師に対しての弾圧とそれに伴って生まれた皇帝崇拝と対抗するべく生まれたヘリアンカ崇拝。

 最初はこの二つの宗教が争い、やがて皇帝崇拝が徐々に弱体すると今度はエルフィン諸部族、ピト族諸部族などに思想の違いが生まれ大陸中至る所で悲鳴と血生臭い匂いが充満した。

 人々はこの凄惨な世界にも関わらず、空虚の存在であるヘリアンカの教えを信じ続け、やがて訪れる救済の時を待っていた。

 これから話すは数少ないとある皇帝崇拝者の家族のもとで育った男の話である。


 男が生まれた時代は産業が発達し、鉄道、飛行機など工業が産業の中心となった産業革命の世界だった。

 男が生まれた国は最近武官による時代が終わり、遠い昔より天下を治めていたと伝わるケウト皇帝が座するケウト帝国。

 男は5歳であったがケウト帝国の極東にあるど田舎で貧しい生活を強いられていた。

 そんな男の名はカイザンヌと言った。


 ——極寒の夜、男は丸太でできた家の中で母親が作った具のないスープを震えながら飲む。


 「お母さん。お腹膨れないよ」


 「我慢しなさい」


 母はそう口にすると静かにスープを飲んだ。カイザンヌは文句を言いたげだったが机に置いてある一切れだけの干し肉をスープでふやけさせて齧る。


 「お母さん。お父さんは今何をしているの?」


 「今お父さんは狩りに出ているわ」


 「でもなんで夜なの? 昼にみんなで行けばいいのに」


 「それは無理よ」


 母はタンスの上に飾られた石像に指を差す。石像の顔はまるで優しそうな顔をして男の顔で、どこか悟っているようだった。


 「あの石像は古の皇帝、ハザルを表しているの。ハザル様はヘリアンカの死後混沌に満ち溢れるであろう世界に光をもたらそうと、皇帝を長として信仰を作り出した。だけど、偉大なるハザル様は殺されたの。ヘリアンカ崇拝者たちの手によって」


 カイザンヌは母の話を聞いて首を傾げる。


 「ヘリアンカを信じる人はみんな悪いの?」


 「えぇ悪いわよ。死んだヘリアンカの教えを好きなように解釈して自分たちの民族が優秀やらヘリアンカ様の理想を最も追求できているやらと託けて各地で戦争をしている。だから彼らは心の奥底では何も崇拝していない。彼らは崇拝していると勘違いしている大馬鹿者の集団よ」


 母はそう告げるとハンカチでカイザンヌの口を拭う。


 「だからお父さんは彼らと共に行動しないの。私たち一家はヘリアンカを数多の神の一人として祀っているけど、それより上はハザル様。皇帝の下で皇帝について行き、お守りするのを絶対とするから。ねぇ、カイザンヌ。貴方は大きくなったらおじいさんのように皇帝陛下にお使えしなさい。世間が邪魔しようとも、お母さんたちは絶対に——あら?」


 すると外から悲鳴が聞こえ、焦げ臭い匂いが充満した。母は咄嗟に椅子から立ち上がると窓から外を見る。すると同時にあたりに爆音が鳴り響き、窓の外が真っ赤に染まった。


 「カイザンヌ!」


 母は何かを察し、カイザンヌを抱き上げるとドアを勢いよく開けた。するとその先には複数人の男が立っていた。


 「あ、あなたたちは!?」


 すると男たちは母の髪を掴むとカイザンヌを奪い家の中に投げ入れた。


 「ぎゃっ!」


 「カイザンヌ!」


 母は必死に男から逃れようとするが力及ばず、口を押さえられた。

 カイザンヌ頭から血を流し、は吐き気と激痛に耐えながらも母を見る。

 

 「お母さん!」


 カイザンヌは体を引きずりながら母に近づく。


 「失せろ小僧!」


 すると男は灯油を家の中にばら撒くと松明を投げ入れた。すると瞬く間に玄関が燃えカイザンヌはあまりの恐怖で失禁し、後ろに下がった。

 走行しているうちにドアが閉まり、母が泣き叫ぶ声がカイザンヌの耳に入る。


 「し、死にたくない……っ!」


 カイザンヌは腹を押さえながら裏口に向かい、外に出た。その直後炎が家全体に周りカイザンヌの服に移る。


 「あぁぁ!」


 カイザンヌはその場で暴れ回った。同時に炎が全身に広がる。カイザンヌは服を投げ捨てると火傷で暑くなった体に雪を付けて、あまりの痛みに泣き叫びながら森の中を走った。

 外に出ると血生臭い香りが漂い、カイザンヌの行く先々に死体が転がっていた。

 カイザンヌは振り返らずただ命懸けで林の中に入っていった。朝日が森を照らす、極寒の中森を駆け抜けたカイザンヌは今にも死にそうな足取り。すると目の前に大きな寺院が見えてきた。


 「あ、あぁ……」


 すると寺院から出てきたあるカラクリ師はカイザンヌに近づくと側に駆け寄った。


 「君! 大丈夫!?」


 そのカラクリ師はまるで昨夜死んだ母のように優しい声で、手の温かさに誘われるようにゆっくり目を閉じた。

 それから3日ほど過ぎカイザンヌは目を開けた。体を見ると包帯が巻かれており、動くたびに痛みが走る。痛みに耐えながら首を横に向けると椅子に座っている一人のカラクリ師が眠っていた。

 その視線に気づいたのかカラクリ師匠は目覚める。


 「むぅ……はっ! 起きていたんですか!?」


 そのカラクリ師はカイザンヌに気づくと申し訳なさそうに頬をかいた。そのカラクリ師は腰まである長い黒髪に20代前後の綺麗な人だった。


 「私の名前はタリア。あなたは?」


 タリアはそう口にするとカイザンヌは暗い顔をしながら掠れた声で「カイザンヌ」と言った。

 両親を失ったカイザンヌはこの寺院で生活をした。

 それからしばらくしておよそ五ヶ月が経過した。

 カイザンヌの体の傷が癒、包帯をとり、リハビリを始めた時タリアからカイザンヌが住んでいた集落のついて情報を得た。

 それはあの集落を襲撃したのはヘリアンカ絶対主義ピト族派と呼ばれる組織で、カイザンヌの集落を燃やし住民を皆殺しにしたという。

 それを聞いたカイザンヌは感情が爆発しそうなのを抑え、タリアにひとつ質問した。


 「カラクリ師はヘリアンカを祀っているんですよね? そんな僕がいても大丈夫ですか?」


 「え? 別に問題ないわよ」


 それを聞いたカイザンヌは驚きの顔をする。


 「どっちかというとこの寺院はあなたのいた集落の思想に近いのよ。だから怖がらなくいいから安心してね」


 カイザンヌは何気ないタリアの言葉に感動を覚えた。

 それは生まれのせいで人と扱われない生活を強いられていたカイザンヌにとっては、タリアのその言葉は想像できないほどの幸福をカイザンヌの胸の内に生み出した。

 タリアのその言葉がきっかけでカイザンヌはタリアと一緒に生活ができるこの環境こそが癒しとなり、ずっと彼女のそばに立つことを誓った。


 あれから十年が過ぎカイザンヌが15歳となった。


 カイザンヌはあの後タリアのそばに立ちたいという想いからカラクリ師となり、必死に勉学に励んでいた。

 そんなある日、昼食を食べているカイザンヌのそばに一人の男が座った。その男は耳が長く、すぐにエポルシア人というのが分かった。


 「隣、良いかな?」


 「——どうぞ」


 男はカイザンヌの隣に座ると一冊の本を渡した。


 「——神からの解放。世界には神はあらず、あるのは人のみ。それがどうしたんだ?」


 「お前はこの世の中が不条理だと思わないか? 人は心の拠り所を持ったせいで争いを続ける。神とかいう空虚の存在を崇めるばかりに自分の利益のために考えを変え、同じ心の拠り所の民族であっても考えの違いで殺そうとする。その争いは金持ちどもが行い、その金持ちの元で働かないと死ぬ人々、労働者が誕生した。昔はのんびり農業と狩りで生きてきたのに、資本家どもの都合で食い物は取られるは、金も税として奪われる。おかしいだろう? 神、ヘリアンカは平等を謳った割りに資本家の存在がその考えを冒涜している」


 男は水を一口飲む。


 「資本家を殺し、労働者を解放し心の拠り所をなくした方が良いと思うのだよ」


 「——お前は何者だ?」


 「我が名はガーデ。エポルシア反帝国主義組織の者だ」


 「反帝国?」


 「うむ。ケウトの支援を受けてな。悠久の敵、エポルシア帝国を滅ぼし親ケウトの政府となるのであれば支援すると言われたのだ。で、今日はカラクリ師について学びにきているのだ」


 「ガーデ様。ここはカラクリ師以外の立ち入りは禁止です」


 「おっとすまぬな」


 カイザンヌは声を主を見る。後ろにはタリアがガーデを睨みながら立っていた。タリアは呆れたというべきか、さらに軽蔑の眼差しでガーデを見る。

 ガーデはその眼差しに気づくと荷物をまとめ退散した。机に本を置いたまま。

 タリアはガーデが見えなくなったのを確認するとカイザンヌに近づく。


 「あの人の思想、危険よね」


 「そう、ですか?」


 「そうよ。私はあの人以外の人とも会う機会があったけどどこか不気味。まるで世界を、今までの先人たちが残してきた遺産を破壊しようとしている感じだし……。良い? カイザンヌ君。君はあんな人たちについていったらダメですからね?」


 「う、うん」


 カイザンヌはタリアの圧力に負けてそう返事した。しかし、カイザンヌは内心ガーデの言った言葉に賛同していた。

 自身の家族を殺したのは資本家だ。しかも警察は資本家から金を貰ってまともな捜査をせず。軽い刑罰で済んだ。

 カイザンヌは机にガーデが置き忘れている本を手に取る。


 「とりあえずこの本は処分してくるよ」


 「ぜひそうして。その本を読んで変な思想に染まられると政府に目をつけられるし」


 カイザンヌはその本を手に取ると自分の部屋に隠した。そしてその日の晩本を読む。それから何枚かめくるとガーデが話していた思想の講義会の会場案内が書かれた紙切れを見つけた。

 その日からカイザンヌはカラクリ師の生業をサボり、ガーデと共に行動するようになった。そしてその思想から派生させてカイザンヌ思想を生んだ。


 カイザンヌは徐々に貧困層、労働者階級を味方に付けた。それまでに四年の歳月が立ち、カイザンヌは19歳となっていた。

 気づけばカイザンヌはもう寺院に帰っておらずむしろカラクリ師の勤めで学んだ知識を使ってスラム街の貧しい人々を飢えさせないように手を尽くしていた。農地を作り、学校を作り、さらにインフラを整えたりとカイザンヌは仲間の専門技術を頼りに各地域を貧困から救おうとしていた。


 そんなカイザンヌが質素な家で資料を読んでいるとき客人が入ってきた。

 その客人は中年のように奇縁のある顔つきだがまだ若さが残っている綺麗な人だった。カイザンヌはその人物を見てすぐに誰か気づく。


 「タリアっ……!」


 「探したわよ……」


 カイザンヌはタリアが入ってきた途端自身のせきをタリアの近くに持っていき、そこにタリアを座らせ自身は立った。


 「君さ、あの人に会った途端変わったよね。私が何度もその思想を捨てなさいって言ったも聞かなくて、挙句に寺院から抜け出して行方不明」


 「その節はすみません」


 タリアは予想外なカイザンヌの謝罪に驚く。


 「けど、意外と慕われているのね。君の名前を口に出した途端みんな嬉しそうに居場所を教えてくれた。師匠としては怒るべきだろうけど、ちょっと嬉しいと感じちゃった」


 タリアはどこか寂しさを感じさせるような目でカイザンヌを見た。するとカイザンヌはタリアに手を伸ばす。


 「タリア、俺と一緒に来てくれないか?」


 「え、急にどうしたのよ?」


 カイザンヌはタリアの両手を握る。するとカイザンヌは涙を流した。


 「俺は怖いんだ。俺はみんなとは違う。どうしてもあの時のように弱みが露見したら裏切られるんじゃないかと怖いんだ……。だから、タリア。君がいてくれないと不安で仕方がないんだ!」


 タリアは困った表情を浮かべる。

 だが、カイザンヌは話を続けた。


 「お願いだ……」


 タリアはそんなカイザンヌを見てため息を吐いた。


 「分かった。一応そばには居てあげる。だけど約束して」


 「約束?」


 「絶対、過激なことはしないで……っ!」


 「——もちろんだよ。俺は貧しい人々を幸せにするんだから」


 カイザンヌとタリアは結ばれた。しかし、タリアは気づかなかった。すでにカイザンヌはもう人間自体を信用できない状態だったことに。

 カイザンヌは最初は共に作ったものを売ってその稼ぎをみんなで分配していた。だが、同じ量を支給されると知った人たちは働くものが少なくなった。例えるのなら千人いれば九百人がサボっている悲惨な状況だ。

 ケウト帝国はそれを怠慢主義として規制に乗り出していた。


 それから三年が過ぎ、カイザンヌはタリアに内緒でガーデにあった。この時にはガーデはすでにカイザンヌの右腕で、裏でケウトに背き反帝国連盟の総裁をしていた。カイザンヌはガーデを見つけると手を挙げた。


 「ガーデ君か。武器はどうだ?」


 「すでに蜂起してケウト一国は容易で滅ぼせる。だが、お前は天才だな。労働者の解放の限界を気付きすぐに対処するとは」


 「あぁ、人は極限状態でないと働かず、必ず報酬の金がいくら頑張っても同じとなれば、誰も働かない。そうなってくると原始の時代の生活に戻ることは不可能だよ。家畜のようにやくただずの人間はいないんだからね」


 「何を言う。家畜は肉になり、ペットの場合は癒しになる。だが、そいつらの場合はただのゴミだ」


 カイザンヌはガーデの言葉を聞くとケラケラと笑った。


 「うむ、そうであったな」


 そしてカイザンヌは帽子をガーデから被ると深く被った。

 

 「じゃ、数時間後よろしくね」


 「あぁ、任せろ」


————それから数時間後、大陸史上最悪の戦争とも呼ばれるカイザンヌの大乱が発生した。この戦いの後タリアはカイザンヌを見限り投降し、腹に宿した子供を産んだ後その子をカラクリ師の寺院に移した後自害した。


 そして時は戻って七十年後の現代。ヘリアンカはその話をカフラスから最後まで聞いた。カフラスは話を終えると机に置かれたお茶を飲んだ。外はもうすでに暗く、同時にヘリアンカとカフラス、トゥサイたちのいる場所も同様にかなり空気が暗くなっていた。


 「以上が、六千年前から今に至る話です」


 「そのカイザンヌの話は——」


 「先帝がタリアより聞いた話です」


 ヘリアンカは頭を抱えた。まさかのカイザンヌ含めこればで起きた戦いの原因が自身であったことに。ヘリアンカは自身は神と勝手に呼ばれているだけだと思って万年も過ごしてきた。

 その分人々の期待に応えようとして努力してきた。

 だが、六千年間ヘリアンカは眠っていただけでここまでの悲劇が起きたのだ。


 「とりあえず、その事と私の復活がどう結びついているのですか?」


 「あの戦いの後、先帝はイガシリ出身の性をヴァレガと名乗るカラクリ師より、黄緑色の髪を持つも者こそがヘリアンカ様であると聞いたそうなんです。その黄緑色の髪を持つ子は寺院やスタルシアの神殿に隠されていたみたいで特殊な液体で六千年間保護されておりました」


 「と言うことは——」


 ——フルさんは六千年前の赤子だったのか。と、ヘリアンカはなんとか理解できた。

 だが、肝心の理由が分からない。


 「だけど元々の復活理由とは本当は異なるのでしょう?」


 「えぇ、そうです。確かにシュメラ様の時代ではヘリアンカ様を別の体に移して復活するためだけでした。しかし、今回は大きく違い人々にカイザンヌの思想が染まる前にヘリアンカ様が実在することを宣言しケウト帝国の正当性を主張しようと言うものです」


 「要するに政治利用ですか」


 ヘリアンカの言葉にカフラスは固まる。そしてヘリアンカはコップをテーブルに置くとトゥサイを見た。


 「トゥサイ。あなたはどう思いましたか?」


 「——俺としては陛下に逆らえません。しかし、個人的な意見としてはヘリアンカ様は目覚めたばかり。それにたたでさえ六千年前に死んだ女神とされておられるのに、今更言ったところで国を挙げた詐称と列強諸国から言われかねないでしょう」


 トゥサイはそういうとカフラスはため息を吐く。


 「なるほど、やはり厳しいか……」


 「ただ、一つだけいい案があります」


 「案だと?」


 トゥサイは食い付いてきたカフラスを見て、不機嫌ではない反応を見て満足する。しかし、ヘリアンカだけはどこか不満そうにも見える。


 「えぇ、その案はヘリアンカ様を神の声が聞こえる人とするんです。今更復活といえば嘘だと思われかねないので……」


 「あ、トゥサイさん。別にそうしなくても一つ証明できますよ?」


 ヘリアンカはふと思い出したかのように手を挙げると体をトゥサイに向けた。


 「えっと、ヘリアンカ様、それはなんです?」


 「一つ財宝のありかでも教えますよ。まだ望むのでしたら今の時代の科学力でも証明できる考古学的にも重要な遺跡の正確な場所や、神話の中だけとされてきたカーレ帝国の首都カーレーの位置も教えますし」


 「え?」


 最初に声を漏らしたのはカフラスだった、するとカフラスはドアに立っていた家来に一冊に本を持って来させそれを開くとヘリアンカを見た。


 「で、では一つ問題を出してもいいですか?」


 「——陛下、一応ヘリアンカ様の体の主の子はかなりの歴史好きなんで意味ないと思いますよ?」


 「すまないが黙っていておくれ」


 トゥサイはカフラスのいうことを聞き口を両手で塞いだ。


 「えぇ、いいですよ。なんなら一族の中でしか紡がれていない言い伝えならわかるかもです。もちろんシュメラまででお願いしますが」


 「分かりました。では、これをお答えしてくださるだけでいいのですが始祖シュメラの名はヘリアンカ様が名付け、さらに育児もしたのですか?」


 ヘリアンカはカフラスからの問題を聞いた後、しばらく記憶の中を探りぽつぽつと口に出し始めた。


 「名付けたのは事実でその由来は当時の言葉でシュメラは偉大であれという意味だったので名付けました。育児に関してはほとんどが乳母で、私は遊んであげたり絵や音楽について教えていたぐらいです」


 「な、なんと……」


 「もしや違いましたか?」


 「いえ、むしろ本当にヘリアンカ様ということが証明できて良かったです」


 カフラスは満足そうにそういうと本を閉じ、席から立った。ヘリアンカもそれに合わせて立ち上がる。


 「ヘリアンカ様。もしよろしければですが、世界の為に協力してくださるというのであればいつでもよろしのですが再びお越しください。もし、無理でしたら立派な神殿を作りそこをお住まいにしてください」


 「えぇ、ありがとうございます。けど、住処は今の場所で満足なのでお気になさらず。むしろそのお金は国民のために使ってあげてください」


 「——分かりました」


 ヘリアンカの言葉にカフラスは返事をする。


 ——カイザンヌ。彼は私のせいで生まれたのも当然。責任を取るべきなんでしょうか……。


 ヘリアンカは胸にモヤモヤを抱えたまま、トゥサイと共に宮殿を後にした。

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