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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
5章 女神の再臨

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58話 神話の大地

 フルがウルク帝国大学のスタルとジャルカラの研究補佐として努めて早くも7日が経った。

 フルの勤務時間は大体早朝の五時から午後の十八時までとなった。

 もちろん休みはあるが仕事自体がフルの好きなことのため連日仕事と言ってもいい。そして現在昼過ぎフルは昼食を済ませた後一人図書館に入場し膨大な書物に頭が混乱していた。


 「こ、ここ本がたくさんある……」


 キタレイ大学にももちろん図書館はあり、本や資料も集まっている。しかし、ウルク帝国大学は国内はたまた世界で頂点に君臨する大学と冠するレベルで、図書館の大きさが桁違いだった。

 まず五階建てで隙間なく本棚が敷き詰められており、上の階へ移動する際には中央にある螺旋階段を登るか外側の階段を使うのかのどちらかだ。

 フルは一度唾を飲み込むと奥へと進んでいった。

 フルはまずヘリアンカが夢で語っていたイガシリについて書かれた風土史の書物を見つけ読み始めた。


 「まずイガシリはアンリレの時代には集落が存在し、地元の伝承では賢者ヴァーガ生誕の地とも称されている。マトミお姉様はここの出身だったわよね」


 フルはリアートに来た当初マトミにふと聞いたことがあった。その際故郷の話題になりマトミがイガシリと口にしたのだ。

 フルはニヤリと笑う。


 「もしかしたらここにアンリレの秘宝の情報が眠っているかも! リアート人の伝承も見られるのなら調査する価値があるわ!」


 フルは本を閉じると棚に戻し、図書館を後にする。ジャルカラの研究室に向かった。中に入るととっくに二人は石版の解読作業をしていた。


 「今来ました!」


 「じゃ机に置いてある分をお願いね」


 「分かりました!」


 フルは研究室に設けられた自分の席に座る。そこにはざっと五枚ほどの石板があり表面には細かい文字が小さく書き記されていた。

 この石板はジャルカラからアンリレの日記の原本らしきものと言われて解読を進めていたが、文体は全てアンリレを客観的に見た内容だった。


 「ふぅ。ねぇ、そう言えば図書館で面白い資料を見つけたんですよ」


 「え、何?」


 スタルは手を止めるとフルを見る。ジャルカラは作業を続けていたが耳は向けているようだった。


 「イガシリって集落ご存知ですか?」


 「あぁ、確かウルクからだいぶ南に行って東エデルバという国の国境線付近にある所ね。そこがどうしたの?」


 「ほら。私が報告した内容はアンリレとオドアケル人。主にリアート人の子孫の集落に関連した場所に重大な伝承や異物が眠っていたじゃないですか。で、このイガシリにはアンリレやヤスィアと関連していると思われるヴァーガゆかりの場所なんです!」


 するとジャルカラの手が止まる。


 「なんや? その言い方やと今から行こうやぁみたいに聞こえるぞ?」


 「そんなつもりです。見た感じアンリレの秘宝の手掛かりを見つけているようですが少しばかりこのままだと研究の本質についていけない気がするんです」


 「そうね。私とジャルカラの本来の研究はヘリアンカに関すること。いわばヘリアンカは本当に実在したかの研究ね。アンリレが遺した資料にはヘリアンカの名前が数多く載っているから今から六千年前には確実に生きていると考えてジャルカラが私を誘って始めたの。ね、ジャルカラ?」


 スタルはジャルカラに話題を振る。


 「まぁ、確かにアンリレの秘宝の場所にヘリアンカについての手がかりがあるからと言ってそっちに力を入れすぎているという感じではあるな。少しは別の資料を読んだり参考にした方がええかもしれんわ」


 ジャルカラは少し腕を組んで考える。フルは席から立ち上がると堂々と手を挙げた。


 「なのでイガシリに向かいましょう!」


 「けど俺たちは授業あるんやぞ?」


 「研究目的の欠席は奨励されてるから。学生課の許可さえ取れれば行けるわよ」


 「あぁ、そうやったな」


 フルは胸を撫で下ろす。もしかしたらいけないと考えていたが、行けるのなら話は別だ。


 「では、早速行くのでしたらイガシリ出身の人いるんで聞いてきます!」


 「そう? なら宜しくね」


 「はい! ——あ、電話どこにあります? あと許可が出てから実際に行けるまではどのくらいかかります?」


 フルは研究室の扉に手を掛けながら振り返りジャルカラとスタルを見る。


 「電話なら学生課にあるわよ。許可自体は一週間あれば行けるわよ」


 「ありがとうございます!」


 フルは即座に研究所から飛び出すと学生課に向かった。学生課に着くとフルは受付の先生に現和の貸し出しをお願いし、借りることができた。

 フルはそこで早速マトミに電話をかけた。電話はしばらく時間を置いて繋がった。


 「もしもしマトミお姉様ですか!?」


 『まぁ、フル。どうしたの?』


 「えっと先ほど今私が勤めている研究室でイガシリに行くことになりまして……。色々調べても泊まる場所もないのでどうしようかと思ったんです」


 『そういうことね。泊まるのなら私の実家に泊まりなさい。お父さんとお母さん。それから弟と妹にも伝えておくわね。一応人数は決まっているの?』


 「今のところは私含めて三人ですね。男一人の女二人です」


 『そう。分かったわ。けど時間は3日程ちょうだいね。あといつ来るか決めてる?』


 「そうですね。遅くとも一週間後に今いるウルクから出発します」


 『了解。なら、気をつけてね。あと、ウルクでの生活はどうかしら? リアートとは違って街が整備されていて大きいから混乱したでしょう』


 「確かに大きいですね。けど、大学近くにマトミお姉さまが賃貸住宅を持っていてくれてよかったです。——本当に家賃はタダですか? 大家さんは信じてくれましたがそれだけが不安で……」


 『えぇ、タダよ。流石に親友の娘にただでさえ高いウルクの家賃を請求するはずがないわ。だけど、この話は内緒ね?』


 「勿論です!」


 フルは電話を切ると受付の先生に頭を下げてスタルたちが待つ研究室に鼻歌を歌いながら上機嫌で向かった。

 そしてスタルたちにイガシリについた際に泊まる場所の確保と向かうルートを話し合ってから一週間が経過した。

 フルは朝の三時に起きると荷物がぎっしりと詰まったバッグを背負って家から出る。

 ウルクは早朝でまだ日が出ていないにも関わらず明るい。

 それは街灯が街を照らしているからだ。フルは巡回の警察官に挨拶しながらウルク駅に着く。そこにはスタルとジャルカラの二人が立っていた。


 「あ、もう来ていたんですか?」


 「えぇ、少なくともジャルカラが一番最初ね。私は2番目だったし」


 「そんなん言わんでええわ! ほら、行くぞ」


 ジャルカラは恥ずかしさを紛らわすように大声を出すと駅の改札くぐった。フルとスタルは顔を合わせると軽く笑い後を追った。

 それから三人は列車に乗り3日程かけてイスマン駅に向かう。そして三人はイスマンに着くと列車から降りて駅から出た。

 イスマンはウルクと打って変わって木造建築が多い地域で自然が多い。


 「ねぇ、スタルさん。イスマンてどんな街なんですか?」


 「イスマンは林業が盛んな街で民族もウルクやリアートとは違うの」


 「ここら辺の民族はオシュルク人の所や。基本的に習俗はテーレー人と同じ農業や遊牧を営んでいるがこの大陸の住民では珍しく漁業を最も営んでいる民族でもあるんや。けど、ここらではオドアケルの単語を使うな。本当に怒られるぞ」


 「今オドアケル人と言ったか貴様!」


 すると駅の出入り口にもたれてタバコを吸っていたガタイのいい男は急に立ち上がるとジャルカラの胸ぐらを掴んだ。すると男と比べて背の低いジャルカラは少し浮く。


 「貴様はオドアケル人のなんや? あぁ!?」


 ジャルカラは苦笑いしながらフルを見る。


 「ま、まぁオシュルク人とオドアケル人は少なくともかなり仲が悪いからな。対立を避けるためにはオドアケル人とか言うなや……」


 「聞いてんのかボケェ!」


 「と、とりあえず止めないと!」


 フルとスタルは男を説得する。男は不貞腐れた顔になるとジャルカラを投げ捨てて唾を吐き捨てた。


 「けっ小僧ども。何しに来たんやここに。殺されたいのか? あぁ?」


 男はフルに詰め寄る。フルは面倒臭かったが我慢して笑みを浮かべる。


 「大学の研究でこちらに伺ったんです。もし良ければイガシリへの行き方を教えてくれませんか?」


 「へっそれならさっき後ろを通った行商人に送ってもらうんだよ」


 男は馬鹿にしたように吐き捨てる。フルは拳を強く握る。


 「へ、へぇ〜。なら、次はどうすればいいんですか〜?」


 「なら俺に足を開いたら考えてやるかもなぁ?」


 「あ?」


 フルは男の胸ぐらを掴む。男は咄嗟の出来事でタバコを地面に落とす。スタルとジャルカラはフルの方に手を乗せた。


 「別にこいつに構わんでも誰かに聞けばええやろ」


 「そうよ。ほら、あそこにエポルシア人の愉快な男の人がいるじゃない」


 「けどこいつがいなければ行けたんですよね?」


 「え、ま、まぁそうだけど」


 フルは大きく息を吸うと男を見下ろした。


 「ならアンタが送りなさいよ。無理とか言わないよね?」


 「へっ、だから足を開いたら——」


 フルは鞄からビリビリくんを取り出し、男の股間に電撃をくらわした。

 急所を攻撃された男は声が発せないままその場で気絶した。フルは無表情のままビリビリくんを鞄に戻すとスタルとジャルカラの方に振り返った。


 「う〜ん。どうしましょうか。送ってもらう分の金はさっきの行商人が持って行きましたし。けど、待ってくれてもいいじゃないですか。目もあっていたんですし」


 「フルさん。イスマンは結構こういうことが多いいから気をつけないといけなかったのに、私とジャルカラが悪かったわ」


 「いえ、二人は別に……」


 「あ、フルちゃーん!」


 突然の大きな騒音に三人は耳を塞ぐ。フルは振り返ると後ろにはラスターが立っていた。


 「久しぶりだぜ!」


 「あ、ラスターさん。——その格好は何ですか」


 フルはラスターの服に目を向ける。今までの派手な服とは打って変わりまるで行商人のような服装だ。するとラスターはカッコつけたようなポーズを決める。


 「イカしてるだろ? 俺は今ユニーネが転入した大学の学費を手に入れるために行商人のもとで働いているんだぜ!」


 「——今からイガシリに行きますか?」


 スタルはラスターに質問する。するとラスターは親指を立てた。


 「行くぜ!」


 「なら三人で向かいたいのですけど良いですか? 大学の研究で向かっている最中にトラブルが起きてしまって」


 フルは少し目をウルウルさせて言うとラスターは嬉しそうに腕を組むと「勿論いいぜ!」と叫んだ。

 フルはラスターに2台に乗せてもらうと移動した。

 荷台の中は色々と交易品が入っており、その2台を動かしているのは初めて見るコブが背中に二つついた四つ足の生き物だった。

 

 「あの、ラスターさん。この生き物は何ですか?」


 「コーバっていう生き物だぜ。可愛いだろう? 動物好きの俺に惚れたか?」


 「いえ別に。あ、これ金入ります?」


 「別に良いぜ。そもそも金を取る行商人は悪どい奴だぜ。行商人は商品を人に売る職業であって人を運ぶのには金は取らないぜ」


 「フルちゃん。その方とお知り合い?」


 スタルはフルの方を突いてから質問する。

 

 「一応大学の先輩です。一言で言うとヤバい人です」


 「ひどい言われようだぜ……」


 「私はカラクルにしたこと忘れてませんからね?」


 ラスターは露骨に落ち込んだ。一応弁明するならラスターはカラクルが困った顔をしていたため、相談に乗ろうと食事に誘っただけである。


 「へぇ。 前々から思っていたけどフルさんって年上相手にも気軽に話してくれるからとても気が楽だわ」


 「まぁ、多少は敬意を持って欲しいけどな」


 スタルは笑みを浮かべている反面ジャルカラはため息をついた。その時フルはふと頭に浮かんだ。そういえばジャルカラとスタルは思いっきり年上だったことに。

 

 「え、ならこれからジャルカラ先輩と呼びましょうか?」


 「気持ち悪いからやめろ」


 「スタルさんこいつ……殴って良いですか?」


 結局フルは手を出さず二時間ほど経過した。フルたちは荷台から降りるとラスターに手を振った。それはラスターはここは中間地点で目的地は違うと告げたからだ。

 フルはラスターが点となるぐらい遠くなると安堵の息を漏らした。


 「とりあえずユニーネちゃん元気みたいでよかった……。それにしても……」


 フルはイガシリを見渡す。イガシリは思っていた以上に鬱蒼とした場所で、カラッとした空気に包まれていた。

 住民は農業に営み、時折カラクリ師が集落を巡回しているなど昔ながらの風景のように見えてフルは目を輝かせる。


 「よし、では行きましょう!」


 「そうね。それで泊めてくれる人のお宅は?」


 「えーと……」


 フルはカバンからマトミが送ってきた手紙を取り出す。そこには住所と名前。それから地図が書いていた。


 「とりあえずここからずっと西に向かった先ですね」


 フルは一番先頭を歩き二人を案内した。

 フルとすれ違う人たちは外部の人間を見るのが珍しいのか露骨に避けるように歩く。ジャルカラとスタルは慣れているのか気にしなかったが、フルは少し心がモヤモヤした。

 そして前から作物を背中のカゴに入れている女の人を見ると「こんにちわ! これから少し滞在させていただくフルと申します!」と突然大きな声で挨拶した。

 女の人はびっくりして尻餅をつくとフルを見る。


 「いたた……」


 「あ、すみません!」


 フルは女の人の手を取ると肩を貸した。女の人はゆっくり立ち上がると土を払いフルを見た。

 女の人は短い黒髪に前髪は綺麗に切り揃えられていた。


 「あの、突然大きな声を出さないでください」


 「す、すみません!」


 動揺して謝るフルの後ろでジャルカラは呆れたように見ていた。


 「とりあえず良いですけど次は——ん?」


 女の人はジャルカラとスタル、フルの順番で顔を見る。そしてしばらく考えた後「あー」と口に出した。


 「もしかしてフル様御一行ですか?」


 女の人はそうフルに告げた後お辞儀をする。


 「私はヴァレガ・サトです。以後お見知り置きください」


 「こち、こらこそお願いします。私はフル・フリィーペン。右のちびはジャルカラ。左の女の人はスタルです」


 「なるほど。御二方よろしくお願いいたします」


 スタルとジャルカラは釣られるように頭を下げた。

 サトは三人を見ると手招きをする。


 「とりあえず家に案内します。ついて来てください」


 三人はサトに流されるまま家に案内された。

 家はフルが想像していた以上に大きく、中に入ると綺麗に整っていた。サトは三人を客室に案内されそこに待機するように告げると出ていった。


 フルは息をゆっくり吐く。


 「とりあえず不思議な人ね〜」


 「おいフル。さりげに紹介で俺のことなんて言った?」


 「ちびって言いました」


 フルの素直な言葉にジャルカラは唖然とする。


 「素直すぎてもう怒る気が失せたわ……」


 ジャルカラはため息をつくと腕を組んで目を閉じた。スタルはジャルカラがねたのを確認するとフルの隣に椅子を動かした。


 「そういえばフルちゃんはスタルシアのどこ出身? 私は王都イルタ出身よ」


 「うーん私はアンレイランツ出身。場所で言えばスタルシアの北の方よ」


 「あーなら納得した」


 「どうして?」


 スタルは急に立ち上がると体を伸ばした。


 「ほら、貴女がお酒を飲んだ時に歌っていた歌。あれなんでアンリレと言っているのか分からなかったけどアンレイランツでなんとか理解できたわ」


 「えっと、どうしてです?」


 「あそこ、大学の資料によるとアンリレを祀る地域で有名なの。一応だけど現地ではアーリエと言う神様になっているけど」


 「——あー」


 フルは少し思い出せば確かに音が似ていることに気づく。


 「身の回りのことに気付きませんでしたね……」


 「まぁ、しょうがないわよ」


 すると客室の扉が開くと中にサトとどこかトゥサイとテュレンの面影が残っている青年が入ってきた。

 青年はトゥサイとテュレンとは違い髪を後ろにまとめ、真面目そうな顔つきだった。

 

 「俺の名前はヴァレガ・チュルケ。客人方、気楽にお過ごしください」


 「あ、ありがとうございます」


 それからチュルケは三人に色々とイガシリについて教えた。

 イガシリはあまり外部と接触が少ないため外部の人間にかなり警戒していること、さらにヴァレガの家紋が書かれた札は随時持っておく事。

 家の中でのルールはジャルカラはチュルケの部屋で泊まり、スタルは元テュレンの部屋で寝泊まりする事だった。


 説明が終わった後はフルとスタルはサトに案内され、部屋の中に入るとフルは早速くつろいだ。フルはだらしなく足を広げると天井に不自然な隙間があり、紙が少し天井から出ていた。


 「え、あれは……」


 「フルちゃん。いくら気楽にでも流石にのんびりとし過ぎよ」


 フルは起き上がるとスタルを見る。


 「すみません。肩車してくれませんか? 天井に何か突っかかってます」


 「え、良いけど」


 スタルはフルの方に乗せると立ち上がる。フルは天井に手を伸ばすと天井はパカっと開き中を除くと五冊の本があった。

 

 ——この本なんだろう?


 フルは本を寄せてから持ち上げる。


 「取れました!」


 「え、う、ううん……」


 フルはスタルの肩から降りると本を見せた。するとスタルはあたりをキョロキョロと見渡すと「ちょっとだめでしょ!?」と小さな声で耳打ちした。

 フルは本のタイトルを見る。


 題名はヘリアンカから聞いたアンリレが描くヘリアンカの記録『私のヘリアンカ様』と書きまとめられたものだった。


 「フルちゃん。これは?」


 「これ、確信しました。このイガシリには絶対に何かがあります!」


 フルはスタルを見てそう宣言した。

 それから荷物を整理した後リビングに行くとそこで起きていたことは机に二人の男女のカラクリ師が黄金の兜を置いて椅子に座ってジャルカラと話をしていた。

 ジャルカラはフルとスタルに気が付く。


 「おう来たかお前ら。この人らどうやらサトとチュルケの叔父と叔母みたいやわ。色々話聞けるで」


 ジャルカラの言葉に二人のカラクリ師は反応するとフルとスタルを見て椅子からゆっくりと立ち上がるとお辞儀した。

 まず最初に中年ぐらいの女性が自己紹介を始めた。


 「初めまして。ワタクシはヴァレガ・テケリです。こっちは夫のヴァレガ・ダルサンです」


 テケリが挨拶するとダルサンと呼ばれた男はフルとスタリに頭を下げ、お茶を飲んだ。


 「初めまして。紹介の通り私はダルサン。ここいらのカラクリ師を統括している。言わば寺院の長だ。君たちは研究に来たのだろう?」


 「はい。どうです」


 フルがそう口にするとダルサンは嬉しそうに笑う。


 「実に勤勉だ。本当なら遺跡などには入れたくないが、この黄緑色の髪の少女に免じて許可しよう」


 「アナタ、学生だからといって油断したらダメですよ? 万が一異物が盗まれたらどうするんです」


 「大丈夫だテケリ。我が村には言い伝えがあるだろう。黄緑色の髪を持つ少女は慈悲深い神の生まれ変わりだと」


 テケリは疑心暗鬼の眼差しを三人に向けていたが、ダルサンの言葉に折れて納得した。

 こうしてフルたちはなんとかイガシリでの調査を許された。

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