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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
2章 女神のレイライン

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34話 我らが救世主

 広大で不毛な平原に聳える死んだ山、そこには岩肌と不毛の土色に合わせたコンクリートの建物のが勇敢にも聳え立っていた。

 その建物はほとんどが地面に埋まった屋根が円形上のもので、外から見れば防空壕にも見える。


 それが円形上に並び外敵から身を守る一種の要塞としてこの場に存在していた。

 

 そしてその要塞の前に黒いローブを着て馬に乗る集団がやってきた。そのうちの一人は少女を抱えており、少女は気絶していた。

 集団は馬を降りると要塞からかなり高い階級と思われる綺麗な軍服を着た若い軍人が出てきた。

 その軍人は長髪の美男子で、男を見る。


 少女を抱えた男は若い男に近づくと敬礼した。


 「少佐。彼女を保護しました」


 少佐はゆっくりと男に近づくと少女の顔を観察し、髪色を見る。


 「そうか。だが、あなた方の服に血がついているのと、少しばかり人数が減っていませんかね?」


 「はい。これはこの子を保護する際、近くにいたオドアケル人の血です。我々が彼女を連れて行こうとすると抵抗したのでその場で殺害——」


 「結構です。——しかし私はこう命じたはずだ。人は殺すなと。特に、その子のそばにいたのなら尚更だ」


 少佐と言われた男は少女を脇に抱える男に銃口を近づけた。少佐は口は笑みを浮かべているが目は笑ってはいなかった。


 「お前たち。まずその少女を綺麗な牢獄に暖かく迎え入れろ。そしてこの反逆者たちは本日をもって……銃殺刑だ」


 「なっ!」

 

 男とその後ろに立つ配下はざわめく。


 少佐はそういうと要塞の出入り口を見る。その少佐の合図を確認してか、入り口に待機していた部下たちが出て少女を保護するとその男たちを連行した。

 少佐は哀愁を漂わせた顔で空を見た。


 「全く。あのバカどものせいで計画が台無しだ……」


 少佐はそういうと要塞の中へと戻っていった。


 ———牢獄の中で黄緑色の髪の少女フルは目を開けた。


 「——う〜頭が痛い」


 フルは口を漏らしつつ辺りを見渡す。

 その場所の情報は簡潔にまとめると鉄の柵の牢獄であろうにも関わらず絨毯が敷かれて高級そうな机と椅子が設置されていた。

 そして現在フルは綺麗なフリルの寝巻きに着替えさせられベッドの上に寝転んでいるのをフルは理解した。

 逆にこの状況はそれしか理解しようがない。


 布団を触るとかなり暖かい。フルは自分はかなりの時間眠っていたのを理解した。


 ——あれ? はい?


 フルは困惑する。


 ——私、今遺跡ですごい吐き気に見舞われてからそれ以降の記憶ないんだけど……。


 すると牢獄の鉄柵からコンコンと音が聞こえる。振り返るとボロボロの軍服を着た中年の男が盆に美味しそうな料理を乗せてやってきた。


 「——先ほどは申し訳ありません。これは少佐より謝罪の意を込めての食事です」


 男はそういうと牢獄の料理を入れる小さな隙間から盆をフルのいる牢獄の中に入れた。

 料理はサンドイッチで、肉と卵が挟まれているだけだった。


 フルはサンドイッチを手に取ると男を見た。


 「ちょっと待って。あの、ここどこです?」


 フルは男に聞く。

 男ははっとした顔になってまるで騎士のようなお辞儀をきた。


 「すみません。申し遅れました。ここはヘリアンキ自由信徒の要塞でございます。訳あってこちらに駐屯しているところです」


 フルは感情をなくしたような顔で目をパチパチさせる。


 「……すみません。よく聞き取れませんでした。ヘリアンキ自由信徒軍って言った?」


 「はい。ヘリアンキ自由信徒と言いました」


 フルはおでこから冷や汗を流す。

 よりにもよって今いる場所がケウトに来たばかりに自身の生命を脅かしてきたやばい集団の拠点にいるのだと。


 男はフルを見る。


 「では、私はこれで」


 男は頭を下げるとこの場から去ろうとする。

 するとフルは柵から腕を出すと男の服を掴んだ。


 「ちょっと! 出しなさいよ! 何する気なの!」


 「——あなた様の安全を確実に保証するまではこちらに滞在してもらいます。それまではどうか……ご容赦を」


 「いや、ここにいる時点で安全なんて保証できるかー!」


 男はフルの言葉に耳を貸さずにその場から後にした。

 フルの場に座り込むと涙を流した。


 「——どうして、どうしてこんな目に合うのよ」


 フルは涙を流しながらサンドイッチを平らげ、脱出するための手段を考えることを決心した。


 その頃オドアケル人の集落にてヤスィは帰りが遅いナテッドを心配して戦士たちに出動令を出そうかと悩んでいた。

 するとその時、地平線から一頭の馬が見えた。

 その馬は血だらけでにも関わらずヤスィに向かって走っていた。


 「なんだあの馬は?」


 その馬をよく見るとナテッドの愛馬であるラメントで、血まみれで帰ってきたのだ。

 ヤスィはそれを確認するとラメントに駆け寄った。


 ——ナテッドがいないだと!?


 ヤスィはそう思いながらラメントに近づくと、ラメントの口にはプランプランと無惨にも切り落とされた何者かの腕があった。


 「——! ナテッド……っ!」


 ヤスィは全てを察すると後ろで待機している戦士たちを見た。

 戦士たちもかなり動揺していた。


 ヤスィは冷静に一度目を閉じて——。


 「エフタル殿下をお呼びせよ……」


 そう口に出した。


 それから十分が過ぎてヤスィから報告を受けたエフタルはすぐに全学生と教授を一つのゲルに集めて保護。それから自身の護衛の兵士を集めてこの集落を守りを堅くし、その後自身はヤスィの家に入った。


 エフタルが中に入るとヤスィは悔しそうな顔で床を殴った。


 「くっ!」


 「族長様。これ以上興奮なさると……」


 「これを怒らずしていられるか!」


 ヤスィは側近に少し当たると顎を撫でる。エフタルはそれを見るとゆっくりと床に座った。

 ヤスィはエフタルを見る。


 「——エフタル殿下。この地でいったい何が起きているのですか? かつてと同じようになろうとしていますが」


 「——落ち着いてくだされ。おそらく敵は指定の武装集団でしょう。族長殿はこの場にいて襲撃してきた敵はおりますか?」


 「いや、最近は無かった。本当に今更だぞ」


 エフタルは頭を抱える。

 少なくとも自身には帝位継承権は一切存在ないが狙われないとは言えない。 


 「私は警察と軍に通報しましたがその間にさらに遠くに逃げられるでしょう。今のうちに新たな被害が出るまではここにいることが先決です」


 「……なるほど」


 エフタルはカバンからこの地域の地形図を取り出すと床に広げる。


 「とりあえず私としてはウルル山の遺跡に逃げた方がいいでしょう。あそこは建築学科の学生に聞いてみたところ、構造上かなりの確率で要塞に似通ったものと推測されます。守りは完璧なはずです」


 エフタルはそれを進言した後少し迷いが生じたのか冷や汗を頬を伝って地面に落とした。

 なぜならその場所は彼らオドアケル人にとっては聖地。異郷の集団を入れたくはないと推測できたからだ。


 しかし、ヤスィの顔には別に嫌悪感は見えず、協力的な感じにエフタルは見えた。


 「——あそこは我が部族の聖地。あまり入れたくはないが勇者ヤスィアなら守るためなら構わないと申すかもしれぬな」


 「では……っ!」


 エフタルは嬉しそうに声をあげる。それを聞いたヤスィは嬉しそうに笑った。


 「問題ありません。では、早速避難経路を考えましょう」


 ゲルの中ではヤスィとエフタルの会議する声が外にも漏れるほど大きな声で行われていた。

 その声を陽気なカラクリ師が盗み聞きしていた。

 カラクリ師は会議の内容を聞き終えると兜を脱いだ。その素顔は髪を短く切り揃え、外見だけは美形で良い若い男——短く言えば公私混同は絶対しない男、トゥサイは笑みを浮かべた。


 「これは少し俺も行かないとダメだな」


 トゥサイはまずそういうと兵士たちが集まるゲルに向かった。そこに行くと数人程度の兵士たちが会議をしていて、トゥサイが来るとある一人の兵士が驚きの顔をした。


 「や、ヤニハラ!? どうしてここに?」


 「ウマスさんの命令だよ。で、早速で悪いが装備貸してくれないか?」


 「そ、装備ですか?」


 トゥサイは逞しい顔で頷くが、兵士は困惑の顔を浮かべていた。


 「情報は少し聞いた限りで学生が拉致られたんだよな。だから俺が代わりに助けるぜ」


  兵士はトゥサイの前に来ると両腕を横に広げて首を横に振った。


 「ダメです。あなたに救助の指令は来てないでしょう? もし渡せば私たちが軍法裁判で罪になります」


 「——大丈夫だろ。人命救助を最優先とした結果。その理由で行けば多分減刑にはなるはずさ。うん」


 兵士は何か言いたげな顔になるが、トゥサイの気持ちは嘘ではないと理解してか、羽田は諦めたのかため息をついた。


 「——納得できませんが渡しましょう。しかし、理由は私どもは脅された結果貸与したで構いませんね?」


 「おう。良いぜ」


 トゥサイはそう言ってゲルに入ろうとすると遠くから天空人のカラクリ師が大慌てでやって来た。

 そのカラクリ師はかなり中性的な声で、トゥサイの服を掴んだ。


 「トゥサイ殿何をしているんですか!?」


 その小柄のカラクリ師は翼をパタパタはためかせながらトゥサイの服の袖を掴むとトゥサイの体を前後に揺さぶった。


 「一体何をしてるんですか! 私はあなたの弟子となっているんですから近くにいてください!」


 「えっと、ヤニハラ。あなたには弟子いたんですか?」


 一人の兵士は困惑の顔をする。するとトゥサイは「違うぞ」と言って天空人の兜を脱がす。

 そこから出てきた素顔は中性的な顔で黄緑色の髪をした少女、ガナラクイだった。

 兵士はガナラクイを見ると驚きの顔をした。


 「ガナラクイさん!? あのキタレイ大学で空中を華麗に舞ったという——狩人の家の若い戦士とは——」


 「そ、そうです……」


 ガナラクイは顔を赤くした。

 トゥサイは少し困った顔をするとガナラクイを引き剥がした。


 「まぁ、お前はここにいろ。俺は少し学生の救助さ」


 「却下です」


ガナラクイは前のめりになってつま先だちでトゥサイに顔を近づけた。


 「私はウマス殿の指令でトゥサイ殿のそばにいるように言われてます。それを反故にできません……それに、私には……もう。戻れる場所なんてありませんから」


 ガナラクイは徐々に落ち込んだように顔を下に下げていった。


 「え? ヤニハラ。どういうことですか?」


 兵士はトゥサイを見る。トゥサイは最初は言いずらそうにしていたが、ガナラクイを一度見ると首を横に振ったためゆっくりと話し始めた。


 「——気にするな」


 「——すみません。配慮が足りませんでした」


 兵士と、そのほかの兵士は首を縦に振った。

 トゥサイはそういうとガナラクイの方を叩くとそのままゲルに二人だけで入っていった。

 その直前、トゥサイは兵士たちを見ると少し離れてくれとジェスチャーでお願いした。


 兵士たちは頷くと少しゲルから離れた。


 ガナラクイとトゥサイ二人だけのゲルの中でトゥサイはガナラクイの肩を優しく叩いた。


 トゥサイの視界の中でのガナラクイの目には光がなかった。

 これはまるで魂を失った肉体が暴走しようとしているようにトゥサイには見えた。

 トゥサイは手を拳にするとガナラクイを平手打ちした。ガナラクイは突然のトゥサイの平手打ちに反応できず、呆気に取られた。


 トゥサイはため息を吐く。


 「馬鹿野郎。落ち着け」


 ガナラクイは赤くなった頬に触れると涙を流した。


 「お前は別に居場所を失っていない。ほんの少しだけ世間から隠れて全く別の人物として

過ごすだけだ」


 トゥサイはそういうとガナラクイを優しく抱きしめた。


 「なーに。とりあえず今のお前の居場所は俺が作ってやる。今は無理だから先になるが必ず。だからお前は大人しくしてくれ」


 「——」


 ガナラクイは涙を流しながら顔を赤くしてトゥサイからそっぽを向く。そしてトゥサイはゲルから二つの無線機を取り出すと片方を渡した。


 「けど、そう言っても何かしたいのだろう。だったら、無線で俺の手助けをしてくれ。狩人は自然に詳しいだろう?」


 トゥサイは笑顔を浮かべる。


 「——バカ……ですね」


 ガナラクイは少し嬉しそうな声でそう漏らした。


 そしてトゥサイはガナラクイから離れるとガナラクイの持っていた銃を取り上げた。


 「では俺は今から五分後にここを出発して学生の捜索を行う。ガナラクイは地図を見てこの場にさらった連中がいるのならどこに拠点を置くかを推理してくれ。そしてあとは誰でもいいが馬を持ってきてくれないか?」


 トゥサイがそういうと近くで何も起きないかじっと待っていたであろう兵士がゲルの入り口から顔を覗かせた。


 「馬……? あ、分かりました! では学生の捜索のためと理由で借りてきましょう」


 「すまん。頼んだ」


 トゥサイはそういうとゲルの入っていく。するとその場で足を止めるとガナラクイを見た。


 「おっとガナラクイ。覗くなよ?」


 「の、覗きませんよ!」


 ガナラクイは顔を真っ赤にして反論するとゲルから出ていった。

 トゥサイはガナラクイがほんの少し元気になったのを見て少し安心した。


 ——薄暗い牢獄の中。

 そこではフルは必死に見張り役の男と交渉していた。

 見張り役の男は痩せ細った見た感じ優しそうな中年のエポルシア人の男で、フルの巧みな話術に耐え抜いていた。


 「えーと。まず安全保障ですよね? だったら集落には兵隊さんがいるのでそっちでも良かったのでは?」


 「いえ、我々の責務はあなた様の保護。これは太古より決められた——」


 「だったら春に私に銃に向けた人はどうなんですか。列車をハイジャックした事件の時私中にいたんですけど」


 「——あ」


 見張り役はしまったと口に出しそうな顔をする。


 「もし安全を保障される存在なら私は保護なんてここだとできないじゃないですか。統率取れてない組織なんて危険極まりないですよ。だから出しなさい」


 「それは無理です。私の権限ではあなた様の話し相手までなので」


 「ならより権限がある人物を呼びなさいよ!」


 「——少しお時間を」


 見張り役は諦めたのか無線を取り出すとフルをチラチラ見ながら何かを話す。そしてフルは恐怖よりも苛立ちが勝って柵を蹴りながら舌打ちをして見張り役に圧力を与える。

 そしてしばらくして見張り役は無線を切るフルに近づいた。


 「何よ。ようやく解放かしら?」


 「いや、話しても良い範囲が拡大しただけです」


 「——話しなさい」


 「——」


 見張り役の男は床に座る。フルはこれは長くなるやつかと言って床に座った。


 「じゃ、早速聞くけど私を攫ったのはなんで?」


 「——それは我々自由信徒の今は亡き恩師様の遺言で『黄緑色のものは使徒であるため丁重に扱えまさしく迷える子羊である我らが救世主である』と遺したのです。しかし、その恩師様は内部でも使徒はエポルシア人と同じ金髪であると批判されて処刑されました」


 「——じゃ、あなた達はその恩師の言葉を信じる派閥ということね」


 フルがそう聞くと見張り役は頷いた。


 フルは少し考える。


 ——もしかしたらヘリアンキ自由信徒は派閥があっておとなしい集団もいるということかしら? けど、それだと変よね。調べても出てきたのは残虐な行為だけで良い情報なんて出てこない。


 「じゃ、最後にあなた達はなんで自由信徒を名乗っているの? アンリレが作った

自由信徒と何か関係があるの?」


 フルはど直球な質問をする。しかし、見張り役の男の表情は変わらず真顔だった。


 「言えるのはこれまでです」


 見張り役はそういうと立ち上がった。


 「え、うそ!?」


 フルはショックを受けた顔になる。

 だが見張り役の顔には悪びれた表情は見られなかった。

 フルは多分本当にあれが言える範囲の中でも最高クラスだったのであろうと理解はできたが、かなりショックを受けた。


 「くっ! なら安全の保証が確実になったら絶・対! 解放してよね」


 「もちろんです——なんだ?」


 フルのいる牢獄で地震が起きる。その後にはズズズと言う何かが爆発して地面を振動させているような音が襲う。

 

 見張り役とフルは天井から落ちるコンクリートの破片と埃を見ると見張り役は無線で話し始めた。


 「何か爆発したか——なにっ! はい。分かりました」


 見張り役は無線を切ると突然牢獄を開けた。

 フルは何が起きているのか理解ができず、ゆっくり立ち上がった。


 「何が起きているの?」


 フルは見張り役から視線を逸らさず何が起きたのかを聞く。

 見張り役の顔はどこか苦しそうだった。


 「——地下へご案内します」


 「ちょっと!」


 見張り役はフルの腕を掴むと殺風景な廊下を歩かされる。その間にも爆音と振動。そして横を通るドアの中ではバリバリバリと言った激しい音が聞こえてくる。


 フルは空いた片方の手で耳を押さえる。


 廊下には銃器を持った黒いローブに身を包んだ怪しい人が走り回り、次ウギと部屋に入っていく。

 たまに部屋からは何かがぶつかった音と、肉が潰れたような音が生々しく聞こえてくる。

 そして見張り役がようやく足を止めたと思えば真っ暗な地下へと繋がっている階段だった。


 「使徒様。私が案内できるのはここまでです。この先にずっと進めばいくつか部屋があります。お好きなところにお入りください。もちろん。入ったら鍵を閉めてください」


 「——これ、そのまま逃げたら危ない案件?」


 「はい。今外では襲撃者と交戦しているところです」


 「一応聞くけど、襲撃者は……」


 「ケウト軍ではない、異国の軍勢といったところでしょう。ご安心ください。もしケウト軍であれば、彼らと確認でき次第貴方を外にお連れし、我々はケウト軍の保護を確認されましたらひっそりとこの場を離れます」


 「そう……。分かったわ」


 フルは顔だけ見張り役に向けると階段から降りていった。

 奥に進むめば進むだけあたりが暗くなり、唯一助かるのは白く小さな灯火となっているランプだった。

 フルはそれを頼りに奥に進んでいく。


 「全く。私はただ研究に来ているのにどうしてこんな目に遭っているんだろう」


 ズズーン。爆音が地下にまで響く。

 フルは天井から降ってくる埃を被りながらもようやく見張り役が話していた複数の扉を見つけた。


 「これどれに入っても同じよね?」


 フルはその中のうち少し頑丈な扉を開けると中に入った。

 するとその部屋はコンクリートの要塞と違ってこの部屋だけは石造になったいた。

 中にあるのはトモスと言う茶色の川に身を包んだ丸っこい作物が大量に入った袋が大量に置かれていたり、また木の棚には大量の箱が置かれていたりしていた。


 フルのその中のうち大きな厚紙の箱を見つけるとその中に隠れた。


 フルは少し深呼吸した。


 「はぁ……。いつになったら出れるのかしら——」


 すると部屋中に電子音が鳴り響いた。

 フルはあまりの煩さで耳を押さえる。


 『こちらケウトラジオ局。繰り返します。こちらケウトラジオ局——』


 フルは先程の音がラジオだと気づくと安堵した。そして段ボールから一度出ると棚の上に赤色の大きなラジオが置かれていた。


 「はぁー焦った。一体そこにおいたのは誰よ。あと、ヘリアンキって調べた限りエポルシア人至上主義でテロを起こすのに蔑んでいるケウトのラジオを使うのはどうかと思うわね」


 フルはラジオを切ろうと手を伸ばす——。


 『緊急速報。緊急速報。ケウト各地に点在するヘリアンカを信仰している遺跡や神殿にて観光客を巻き込んだ武力行使が行われたと警察、及び軍部より情報がありました。政府関係者によりますと、宰相ヤスタイはそれに対して直ちに皇帝陛下の許可を頂き軍を出動させ、鎮圧に向かわせたと発表がありました。現在、これらテロ行為に伴う現時点での死者は少なくとも五千名と見られています。負傷者は——』


 フルは困惑の表情を浮かべる。しかし、ラジオは無常にも情報をそのまま続けて発信した。


 『さらに、近隣諸国でも同様のテロが報告されており、スタルシア、スタルキュラ、東西エバルテなどにおきましても死者負傷者は共に多数と報告されています』


 「——ありえない……どうなっているの?」


 フルはドサっと後ろに倒れる。


 「お母さん、お母さんは大丈夫なの?」


 すると突然要塞が揺れる。ラジオはそのまま地面に落ちておかしな音を出した後そのまま止まった。

 

 フルは三角座りになって涙を流す。

 

 それからしばらくして要塞中に銃声が鳴り響く。それに負わせて悲鳴も鳴り響いた。

 フルはあまりの恐怖で先程まで自分が隠れていた厚紙の箱の中に隠れる。


 ——助けてよ! 誰か助けてよ!


 するとドアの外から大きな銃声が聞こえる。

 フルはあまりの恐怖で体を縮ませて悲鳴が出ないように口元を抑えた。


 「——っ!」


 フルは目から涙を流す。

 

 そしてやがてドアがゆっくりと開き、軍靴の音がフルに近づいた。

 フルは死を覚悟する。

 厚紙の箱はあっけなく持ち上げられる。


 フルの目の前に現れた光景は、肩を抑えた見張り役の男の他に、かつてケイオスで出会った長い長髪のエプルシア人の男、リベリオンだった。

 リベリオンはリボルバーを片手に持ちフルを見ると微かに笑った。


 「——少佐」


 「気にしないでください」


 リベリオン——見張り役の男からは少佐と呼ばれた男はフルに手を伸ばした。


 「少なくともこの付近の安全は保証されました。今から貴女が元いた場所にご案内します」


 フルはその手を握る。


 ——一体、どうなってるのよ。どうしてリベリオンさんがこんなところにいるのよ……!


 フルはそんなことを思いながらとりあえずいうことを聞くことにした。

 



 『そ、そそそくほ、う。速報。政府より発表。政府は現在発生中の武力攻撃をエポルシア人民共和国からの攻撃と断定し、被害を受けている諸国と連合軍を結成し30時間経っても謝罪と賠償がなければ武力行使を行うと声明を発表しました——』


 荒野の真ん中で、一点だけ煙をあげる山を見つめながらトゥサイはラジをを切った。

 トゥサイは銃を肩に掛けて馬に乗りながら現在進行形で移動している。


 トゥサイは双眼鏡で煙を上がっている場所を見ながら無線を繋いだ。


 「ガナラクイ。この辺りだと潜伏しやすく、籠城しやすい場所はどこだ?」


 『はい。この辺りだと風が強いのでテントじゃないのか確実です。なので今国が進めているいわゆる蛸壺のように機関銃や砲台を備えた地下要塞と似たようなものを作っている可能性があります』


 「なるほどな。なら踏まえると見渡しやすく籠城に適した要塞を立てられる場所だな」


 『そうなります』


 「——分かった。サンキューな」


 トゥサイは無線を切った。


 すると迷彩服を着ていたのか突然銃を持った数人の男の集団がトゥサイに銃を向けて現れる。

 トゥサイはそれを見るとすぐに腰から拳銃を取り出して数人に向けて発砲し、男たちは無惨にもパタリと地面に倒れた。

 トゥサイはもう一度煙を見る。


 「——あそこか」


 トゥサイは馬の首筋を優しく撫でるとそのまま煙に向かって走り出した。

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