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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
2章 女神のレイライン

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31/83

30話 ウルル

 昨日の各自の発表が終わり、次なる目標であるウルル山の遺跡へ向けての用意に各大学が総力を上げて即日に用意をして当日。

 その日は晴天で尚且つ朝日が登るか登らないかの時間帯だ。

 そんなとき屋敷の扉が開かれ、中から黄緑色の綺麗な髪をした上下ともに渋い衣装を身につけているエルフィンのスタルシア人の少女ことフルが出てきた。

 早く起きてしまったフルは屋敷から出て体を伸ばす。


 「うーん。よく寝た!」


 フルは深呼吸して屋敷を囲む森を見渡した。


 「懐かしいわね……。スタルシアもこんな風景がずっと奥まで続いていて、動物のパレードを見るのが楽しかったわね。——まだ時間があるし行って——」


 「おや? フルさんもう起きたのかい?」


 「——え? あ、オズバルグ先生!」


 後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。フルは振り返って見てみるとそこにいたのはオズバルグだった。

 フルはオズバルグと目が合うとすぐに体をオズバルグに向けて頭を下げた。


 「おはようございます!」


 「うん。おはよう。それにしてもその服装は初めてみるね」


 「あ、そうなんです! 実は最近遺跡の調査に行く用に丈夫なズボンと服を買ったんですよ!」


 フルは自慢げに服をオズバルグに見せる。オズバルグはそんなフルを見て穏やかに笑った。


 「それは良かったよ。それと、もう用意は大丈夫かい?」


 「大丈夫です! あ、それよりもオズバルグ先生はいつここに到着したんですか?」


 「あぁ、丁度来たとこだよ」


 「そうなんですか。お仕事お疲れ様です!」


 「うん。ありがとう。それじゃエフタル殿下に挨拶しに行かないといけないから先に失礼するね」


 「分かりました!」


 オズバルグはそう言って屋敷の中にゆっくりと入っていった。オズバルグが中に入るのを確認したフルは再び森を見た。

 

 「よし。今度こそ森に入ろ——あれ? あの林に人がいる?」


 フルは林の奥に黒髪の人影が目に入った。その人影は何かに集中しているのかフルには気づいていないようだ。


 「——不審者?」


 フルは人影の後ろに回るため森に入ってゆっくり近づく。そして近づくことでその人影の解像度が上がっていき、まず女性で黒髪、そして右腕は義手という特徴まで分かった。


 「——」


 フルはその特徴から特定の人物と比定した。


 ——絶対クラちゃんだ。


 フルは心の奥でその当該人物の名前を言った後ゆっくりクラレットに近づき耳元に口を近づけた。


 「クラちゃんエリオに会いたいの?」


 「ひゃっ!」


 フルはクラレットの意外な驚く声でびっくりして尻餅をつき、クラレットの声は森中に響き渡り、木で寝ていた鳥は一斉に飛んだ。

 クラレットは相手がフルと分かるが否や顔を赤くして義手をフルに見せる。

 フルは手のひらをクラレットに向けた。


 「クラちゃん一旦落ち着こう。平和大事。ラブアンドピース。ウィーラブピース」


 「——」


 クラレットは穏やかな顔で義手から刃物を出しゆっくりフルに近づく。


 「えーと……。私、クラちゃんと親しくなれたかと思っていたからしたんだけど……ごめんね?」


 するとクラレットの足が止まるとクラレットは少し戸惑った顔を見せた。フルは少し困惑の表情を浮かべ、首を傾げた。


 「——クラちゃん?」


 「色々と罪悪感溢れる語録を連発しないでください?」


 クラレットは刃物を義手に戻した。フルは安堵の息をつく。そしてゆっくり立ち上がった。


 「え〜と。クラちゃんは多分エリオに会いたかったのよね?」


 「それ以外にありますか?」


 「いや、てっきりクラちゃんのことだから私を冥土に送りにきたのかと」


 「——すると思いで?」


 クラレットは素っ気なくフルから視線を逸らす。フルはそれに少し心が傷つくが笑って誤魔化した。


 「まぁ、とにかくクラちゃん。ここにいると捕まると思うから早く撤退した方がいいよ?」


 「問題ありません。その間に泥棒猫に兄さんが捕まったら責任取りますか?」

 

 「私は別にエリオは取らないけど」


 「いや、あなたのことじゃないですし。あなたは監視処分ですから泥棒猫ではないです。少なくとも」


 クラレットは素っ気なく言うともみあげを弄る。


 「それと、私は少なくともあなたを信頼してますから。あなたがいるのならお兄様は多少は大丈夫だと信じてますよ……あと、その服装はなんですか?」


 「え?」


 フルは自身の服装を見てクラレットが何を聞きたいのかを理解したのかこれからすることをかなりぼかしてクラレットに説明した。とりあえず少し遠い場所へと調査に行くことと、エリオットも同行すると言うことを含めてフルは丁寧にクラレットに説明した。


 クラレットも最初は疑いの目を向けていたがフルの言葉に納得したのかため息をついた。


 「——まぁ、それは頑張ってください」


 クラレットは珍しくフルに頑張れと告げるとその場から走り去った。フルはそれを見届けると屋敷に戻って行った。


 フルは屋敷に戻って集合時間まで読書を楽しみ時間が来てフルは荷物を持って屋敷の外に移動した。

 蒼穹のお膝元に位置する屋敷はとても綺麗で森からは野鳥の美しい歌声が屋敷に響いた。


 フルはカンナに「おはようございます!」と大きな声で挨拶するとそのままの勢いで飛びついた。


 「カンナ先輩! いよいよですね!」


 「そう、だね」


 カンナはフルの頭を撫でた。すると隣で反応に困っていたエリオットが「おはようフル。朝から元気だね」と挨拶した。


 「エリオもおはよう。あ、いきなりの調査になっちゃったけど予定大丈夫だった?」


 「僕は大丈夫だよ。だけどクラには伝えれなかったのが辛いけどね。クラは寂しがり屋だから付いて来そうだし」


 エリオットは冗談だと軽く笑うがフルは半笑いで気まずそうな顔をする。


 ——あれ本気で付いてくる勢いだったんだけどね。と頭の隅で思った。


 それからエフタルによる簡単な朝礼が始まり、今日の予定と調査内容を話した後これより来るブカラバと呼ばれる長距離移動するための大きな車に乗るようフルたちは指示を受けた。

 

 「ねぇ、エリオ。ブカラバって確か街でよく見かける人をたくさん乗せる乗り物よね?」


 「うん。そうだけど何か気になるの?」


 フルはアゴに手を当てる。


 「えーと、ウルル山ってウルクに行く時通るあの山脈のところにあるのよね? そこまで車?」


 「そうじゃないかな」


 「——何で電車じゃないのよ〜」


 フルは長距離のブカラバでの移動に苦言を呈してから数秒ほど経って屋敷と森の出入り口を繋ぐ道の先から大きな車、ブカラバが3台やってきた。

 ブカラバは一般の車と違って高さがあり後部座席もその倍あり、乗れるのは運転手を含めて最大20人ほどだとフルは予測した。


 ブカラバはエフタルの前に止まる。エフタルは振り返ってフルたちを見た。


 「良いか。我々はこのブカラバに乗ってウルルに向かう。ウルルまでは二日ほど掛かる見込みだ。その距離になった内訳はケウトは北回りで行くと集落が少なく、食料の補給ができないからだ。異論はないな? バルシス」


 「はい」


 バルシスはエフタルから紙を受け取ると顔の前に持ってきた。


 「これよりブカラバに乗るのは先日の発表会の後エフタル殿下が話されたグループごとで乗車してもらう。学生諸君は一番後ろから——」


 フルたちはバルシスの説明に従って一番後ろのブカラバに乗車した。

 ブカラバは後ろからキタレイ大学、ウルク帝国大学、テイレイ大学の3校のチームが乗車し、2台目はヴァカ大学、テーレー芸術大学、タンスタン総合大学のチーム。最後に先頭には万が一武装集団に襲われた時のための護衛の兵士と現地に行けないウマスの代わりのカラクリ師二名が先頭に乗車。


 フルたちはブカラバに乗車して一番後ろの座席に座った。

 フルは真っ先に窓側に座るとすぐに外を見て目を輝かせた。


 「ふ、る、隣いい?」


 「もちろんです!」


 フルはカンナの隣に座る。ブカラバの一番後ろの席は五人乗れるため、横一列はキタレイ大学一同の特等席となった。

 そして全員がブカラバに乗車すると二日間の旅路に出発した。


 この二日間のバス内の生活は最初はフルにとっては楽しかったが、過密状態のため度々衝突寸前になったりしたもののブカラバは多少のトラブルを除くと順調に進んだ。一日半が過ぎた頃エリオットが窓を覗いた。


 「あ、あれはウガラ山脈だ! フル! ウルル山まで後少しだよ!」


 「——」


 フルは不機嫌そうにエリオットを見る。フルはブカラバの中でここまでの道のりで不良もかなり引くぐらいの回数をジャルカラと喧嘩してかなり不機嫌となっている。その原因はフルにもなくはないが大半はジャルカラによるフルに対しての差別的言動だ。


 「はぁ……。私はケウト人じゃないので知りませ〜ん」


 「——先生。これフルすっごく不機嫌ですよ」


 エリオットはオズバルグに助け舟をお願いするが、オズバルグは少し諦めたような顔で眉間を抑えた。


 「困ったねぇ……」


 すると前の席に座るスタルとジャルカラの研究を担当するウルク帝国大学のピト族の教授ケーダは後ろを覗き見ると申し訳ない顔をした。


 「本当にすいませんオズバルグ先生。うちの学生が不手際を……」


 「いえ、ケーダ先生は悪くないですよ」


 「——しかし……」


 ケーダはジャルカラを見る。スタルは自分は関係ないとばかりに寝ているジャルカラを見るとジャルカラのスネをワザと蹴る。ジャルカラは「いった!?」大きな声を上げて起きた。ジャルカラはスタルを睨むとスタルの長い髪を掴んだ。


 「おどりゃ何しとんじゃ!」


 「さぁ。あとブカラバの中で騒がないで?」


 「——っ!」


 ジャルカラはスタルの圧に負けるように静かになった。


 それから半日が過ぎてようやくブカラバはウルル山の麓に到着した。そこにはエフタルが話していたように一つの集落があり、ゲルと呼ばれる移動式の住居が点々とあるのが見える。

 到着した時間は運よく昼のため外は暖かい。

 各チームは一度部から場から降りると一度全員エフタルの前に集合した。


 「よし、ここが今回我々が調査するウルルの遺跡の近くのオドアケル人の集落だ。バルシス、話はつけてあるな?」


 「はい。族長より許可は降りています」


 バルシスはエフタルに頭を下げる。


 「ということだ」


 エフタルが話し終えると奥のゲルから族長と思わしき髭が長く、背丈が低いお爺さんが馬に乗ってエフタルの横にやってくると馬から降りた。


 「殿下! よくぞお越しくださいました!」


 「確か聞いた話では名はヤスィ・トクトか? 少しの間よろしく頼む」


 「はっ! 殿下のためならば! お前たちーっ!」


 トクトが大きな声を出すと数名の男たちが馬に乗ってやってきた。


 「学生と教授、それからエフタル殿下と兵隊さん。カラクリ師の皆様をゲルに案内しておくれ」


 「分かりました!」


 男たちはトクトに頭を下げると一人が前に出た。


 「それではついて来てください! あなた方が今回お泊まりになるゲルはこちらが用意してあります!」


  男はそういうと先に進む。フルたちはその男に続いたエフタルに続くように各大学ごとのゲルに案内された。

 フルたちが案内されたゲルの内装はとても豪華まではと言えず、人数分のベッドに机が置いてあった。

 フルは真っ先に入ると荷物を下ろした。


 「この後って何もないんだっけ?」


 フルの質問に対してエリオットは「少し待ってね」と言ってエフタルから配られた冊子を見る。


 「確かこのあとは何もなくて夕方になったら集落の人たちと食事を一緒にして眠り、明日早朝から実際に探索だね」


 「ふ〜ん。勝手に一人で行ってもいいかな?」


 「だ、めだよ。ふ、る。絶対迷うから」


 「いや、迷いませんてカンナ先輩!」


 フルはカンナに抗議の声を投げる。その光景をオズバルグは幸せそうに眺めながら荷物を下ろすとフルに近づいた。


 「まぁ、行ってもいいと思うよ。だけど、約束は守ってもらうよ?」


 フルはオズバルグを見ると首を傾げた。 


 オズバルグがフルに言った約束とはまず一つ目はカンナを同行させること。次に護身用の武器を持っていくこと、そして最後の一つは道が分かれていても直進しかしてはダメと言うものだ。

 フルはワクワクしながら遺跡に向かって歩く。


 遺跡は集落の北に一直線に進んだところにある。時間は一時間ほどかかるなど割と洒落にならない場所ではあるが、根っこからアウトドアなフルにとってはあまり苦ではなかった。

 そしてカンナも別に一時間の歩行はしんどくもなかったのかフルと楽しく会話しながら歩く。


 遺跡までの道はかなり整備されていて、もしかすると集落の人たちがここを通っている可能性も考えられる。とフルは推測した。

 ウルル山には木は生えていないものの、草で青く表面が色塗られている。

 そしてだいぶ歩いた先にようやく大きな建物が見えた。

 その建物は灰色の石であるがとても綺麗でまるでエリオットと忍び込んだキタレイ大学前の廃墟と少し形状が似ている感じがした。


 フルは遺跡に指をさす。


 「カンナ先輩! 絶対あれですよね!?」


 「う、ん。そうだよ」


 「かーっ! とっても大きいです! 遺跡というからぼろぼろと思っていたんですけどすごく手入れされていますよね?」


 「——あ、多分……」


 カンナはカバンから一冊の本を取り出す。

 フルはそのカンナの行動にキョトンとした。


 「カンナ先輩どうかしましたか?」


 「こ、れ。ウルル山登場してるの」


 フルは本を受け取る。


 「えーと。タイトルは勇者ヤスィア伝説……ですか。初めて見ました」


 フルは本を開く。


 「こ、れね。勇者ヤスィアがね。賢者ヴァーガから厄災を鎮める宝具を授かってね。それを大陸各地の祭壇に仲間とともに納めに行く、話なの」


 「なるほど。あ、ここはこの本が正しければヤスィアの墓ですか?」


 「そう、なの。旅の起点でもあって、終着点、なの」


 「本当にこの国って色々なお話があって楽しいですね」

 

 フルは本を閉じるとカンナに返した。そして遺跡を見る。


 「ではこの遺跡はざっとウルル遺跡と言ったところですね。では中に入りましょう!」


 フルは元気に走ってウルル遺跡の中に入っていった。


 「——もう」


 カンナは母性あふれる声でやれやれと言った顔をした後、フルに続いて遺跡に向かって走った。


 遺跡の中は静寂で、何も置いていないと言ったところだ。床は石、壁も石、天井も石。どこにも祭事用の道具は置いていなかった。

 フルは頭を掻く。


 「間違えましたかね?」


 「ううん。合ってる。奥にいこ?」


 「ですね」


 フルはそう答えるとカンナとともに遺跡の奥に進んでいった。

 だいぶ奥に進むと蝋燭の火がぼんやりと奥に見える。それも動いていた。フルとカンナは一度止まるとお互い顔を見合わせた。


 「これもしやだれかいます?」


 「——男の人一人」


 「これ帰ったほうがいいですかね?」


 「——分からない」


 すると奥から鈍い音が響いた。それも革靴で石の壁を蹴ったような


 「これ読めるかボケ!」


 後に続いて来た声を聞いたフルは不機嫌な顔になる。フルはカンナの腕に抱きついた。


 「ジャルカラがいるんですけど……。盗掘ですかね?」


 「さぁ? ——火、つけない? ポカポカくん」


 「あ、そうですね。カンナ先輩の聴力に頼りきりでした」


 フルはエリオットから借りたポカポカくんを付ける。するとあたりが明るくなった。するとおくで何かがこける音がする。

 おそらくジャルカラが尻餅をついたのだろう。


 「誰じゃ!」


 奥から靴音が近づき、ジャルカラの恫喝も近づいてくる。そして視認できるほどの距離になってジャルカラがようやくフルの目に入った。


 「お前何入っとんのや! 盗掘か!」


  フルは手が出そうになったがカンナに袖を掴まれたため一度我慢する。


 「私は調査に来ただけです。喧嘩しに来たわけじゃないです。では」


 フルはそのままカンナを引っ張ってジャルカラを通り過ぎようとする。するとジャルカラはフルの襟を掴むとそのまま投げ飛ばそうとしたがカンナの重さには勝てず何かが外れる音がした。


 「ぎゃー!」


 フルは少しよろめいたがカンナが支えたおかげでことなきを得る。

 ちなみにフルは本気でビビって少し目が潤んでいた。


 「だ、丈夫だよ」


 「カンナ先輩ー!」


 フルはカンナに抱きつく。カンナは眉間に皺を寄せてジャルカラを見下ろした。ジャルカラはカンナの鬼の視線に気づくと冷や汗を流しながら後ろを振り返った。


 「な、なんじゃワレ」


 「——肩大丈夫?」


 「な、何心配しとんじゃ! いたたた……」


 「脱臼、してるよ」


 「黙れボケ!」


 「フル、少し離れて」


 「え、助けなくてもいいでしょ!?」


 カンナはフルを引き剥がすとジャルカラの肩を掴むと無理矢理は元の場所に関節を戻した。ジャルカラはあまりの激痛で地面に転がるとジタバタ暴れる。


 「ぎゃー!」


 フルは驚きのあまり呆気に取られた顔をする。


 「——フル、いこ」


 「いや、このまま放置!?」


 カンナはしばらく歩くとジャルカラが見ていたであろう碑文を壁に触って見つけた。そして間も無くフルもその碑文を見つける。


 「えーと賢者ヴァーガと女神ヘリアンカに認められし男、ここにて自由信徒アンリレと会合す——って書いてあります」


 「他には?」


 フルは続きを読む。


 「勇者ヤスィアはヘリアンカの神殿を襲撃して秘宝を複数手にしたあと賢者ヴァーガによって導かれた祭壇場所に隠したとアンリレに話し、その後謝罪した。アンリレはヴァーガの指示と聞いた途端顔を真っ青にしてしばらく寝込んだ——ヘリアンカ大神殿を襲撃したのはアンリレじゃなかったみたいですね」


 「アラクカーナさん、やっぱり……勘違い?」


 フルは床付近に描かれた文字を見つけ、かなり低い姿勢で読む。フルは少し顔を赤くする。


 「す、スカート履いてきたの間違いだったのかもです……」


 「——先に探索用の服、着るからだよ」


 カンナは呆れたようにため息を吐く。フルは姿勢をギリギリまで、胸の地面につける。


 「みえ、見えました! ——追記、この場所はヤスィアの墓と勘違いして毎度参拝者がくるため罠を設置した。言っておくがこの場所は一夜で立てた城のため崩れる危険性がある。一応俺の口からも言うが伝わっていなかったらだれかこの文章を見つけてくれ。以上だ——罠あるみたいです」


 「——また……石が落ちるの?」


 カンナは頭を鞄で守る。


 フルはまだ文字が無いか見るが、その職人さんが書いた最後の文以外は見つからなかった。


 「——ふん。下品な体勢とか大学生なのに恥じらいないんか。しかもお子様みたいなパンツで」


 「——は?」


 フルはジャルカラの声を聞くとゆっくり尻を下ろして足し上がるとスカートを押さえる。目に光はない。

 カンナもジャルカラの存在を忘れていたのかこれから起こる出来事を予測してフルに近づく。

 そして天井から雫が落ちたのと同時にフルは手をグーにしてジャルカラに殴りかかろうと飛んだ。


 「変態! 最低!」


 「落ち着いて」


 カンナは間一髪でフルを押さえる。ジャルカラはあまりのフルの豹変に腰を抜かしていた。フルはジタバタと暴れる。


 「カンナ先輩離してください! もう我慢の限界です!」


 「フル、私が気づかなかったの、が。悪いから。落ち着いて」


 フルは息を荒くしながら暴れるのをやめる。カンナは安心してフルを離した。ジャルカラはフルにビビっているのか足をガクガクさせる。


 「な、調子のんなボケ!」


 ジャルカラは壁を殴る。すると殴った部分がなぜか凹んだ。


 「え?」


 「あー! 遺跡壊した!」


 フルはなぜか嬉しそうな顔をする。

 すると天井に水がどんどん貯まる音がする。カンナはフルが背をっているカバンを無理矢理取り外すとフルの頭に置いた。


 「え、カンナ先輩どうしたんですか?」


 「同じ、展開」


 「え?」


 すると先の道から何かものすごい勢いで飛んでくる。

 一瞬光ったと思うと轟音を鳴らしながら何かが飛んできているのが分かった。


 「伏せて!」


 カンナはフルを地面に押し倒すとカンナとフルの真上を長い槍が通り過ぎた。

 フルは少し震える。


 「これ、殺しにきてません? あれ? 天井が開いて——」


 天井は石を擦るような音を出しながら開くと上から水が大量に降り注ぎ、フルたちはびしょびしょになった。


 カンナはゆっくりと起き上がるとフルもそれに続いて起き上がった。

 この場には背中だけがびしょびしょになったカンナと全身が濡れたフル、それから足元が濡れただけのジャルカラがいた。


 フルは体を隠すとカンナから目を逸らした。

 フルは肌が若干透けて見えてしまっているのに気づくと耳を赤くした。

 ジャルカラはそれをニヤニヤしながら見る。


 「これ、う、薄い素材で……」


 「うん。分かった」


 カンナはジャルカラを鞄で殴ったあと、カバンを開けると予備の自身の服をフルに被せた。フルは少し顔を赤くした。


 「え、良いんですか!?」


 「一時間、掛かるでしょ? 風邪ひいちゃう」


 「う……ありがとうございます……! ——?」


 フルは天井を見ると何か輝いているのが分かった。


 「あの、カンナ先輩。天井に何かあります」


 「天井に?」


 カンナは天井を見る。


 「何、も見えないよ?」


 「いえ、確かにあります。少し肩車してくれませんか?」


 「うん」


 フルは足を広げ、その間をカンナが頭を入れてフルを持ち上げた。フルは天井の中を覗き見ると何かの動物の革でできた巻物を見つけた。それも濡れた状態で。

 フルはそれを手にすると「取れました!」とカンナに言う。

 カンナはゆっくりと体を下げてフルを下ろした。


 「何が、あったの?」


 「なんか巻物です」


 フルが手にしている巻物は茶色で濡れたせいか少しヌメヌメしている。それには銀色のフィギアみたいな装飾が施されていたため、これが光って見えたとフルは気づく。

 

 「えーと……」


 「一旦帰ろ?」


 「そうですね……あ、このゴミ(ジャルカラ)どうします?」


 「おんぶして帰るよ」


 「えー!」


 カンナとフルは一緒にジャルカラを連れて拠点に戻るとフルはエリオットとオズバルグに一旦出てもらってカンナの予備の服に着替え、その後オズバルグに遺跡で起きたことを話した。

 オズバルグは一度髭を撫でる。

 オズバルグはフルから巻物を受け取って今まさに解読しているが難航していた。


 「巻物ねぇ。これ書いた人かなり文字を書くのが苦手なのか読みづらいね」


 「そうですか……」


 フルは肩を下ろす。


 「これは私が解読しておこう。君たちは殿下との研究に懸命に励んでね」


 「——ありがとうございます! もちろんです!」


 フルの元気な返答にオズバルグは頷く。


 「それと君が発表した内容。特定の名字を持ったオドアケル人の集落とアンリレの秘宝とやらが見つかった遺跡との部分的な一致は幾ら何でもおかしいよ。もしそれが本当ならあの遺跡はとてもキーポイントだよ」


 「——はい!」


 「それと最後に……」


 「何です?」


 オズバルグはゆっくりと立つ。


 「ここの族長の苗字、ヤスィだから勇者ヤスィアと何か関わりがありそうだねぇ」

 


 「え……。あー!」


 フルは頭を抱えると大きな声を出した。その中でエリオットは少しフルから目を逸らしていた。

そんなエリオの行動を知る由もないフルはベッドの上でドタバタと大きな声を出して現実逃避をした。


 カンナはそんなフルを見ながらおやつを食べながら本を読んでいたのであった。

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