26話 朽ちた学者
図書館での会話の後、フルはユニーネから大学の庭にあるボロ屋に来て欲しいと言われフルは大学の庭の中にあるボロ屋に来た。
そのボロ屋は軍と反帝国連盟との戦いが生々しく残っており、屋根は何かが落ちてきたのか大穴が空いている。
その大穴には羽がついていた。
フルはその羽を拾って観察する。その羽は綺麗な白色だ。
「この羽の大きさ的にもしかしたら天空人たちのかな? もしかして反帝国連盟との戦いで負傷した?」
フルは少し暗い気分になりながらも羽を地面に置いて深呼吸を一度した後体を伸ばした。
「とりあえず、ユニーネさんが話していたのはここね」
フルは大きく息を吸うとボロ屋の扉を開けた。すると中にはユニーネと初対面の人物二人がいた。
その二人は共にピト族で片方は以前フルがケイオスで見たようなオドアケル人が来ていた赤い服に筒の様な形をした帽子を被った若々しい黒髪のミステリアスな男。
もう一人は愛嬌を感じる子供みたいな顔を中性的でな人物で、性別は際どいが胸の小さな膨らみとふっくらとした腰回りからおそらく女性。服装は先程のミステリアスな男の色違いみたいな服を来ており、髪はツヤのある黒色の首筋までの長さ。
フルは二人をじっと少し観察した後ユニーネを嬉しそうな顔で見た。
「ユニーネさん。ここで合ってるかしら?」
「うん! 合ってるよ。まぁ、遠慮せず座って!」
フルはユニーネに言われるがまま無駄に新品な椅子に座った。
ボロ屋の中は壁床と共に苔が生え、それに対して机と椅子だけは新品だった。
ユニーネはフルを見ると両手をあげた。
「じゃ、自己紹介しよっか!」
ユニーネはそういうとミステリアスな男に指を差す。
「はぁ、どうして俺からだ。……俺はアシャルカ・フェルガだ。君がお望みのオドアケル人だ」
「フェルガさんね。今日はよろしく」
フェルガはため息を吐く。
フルはそれを見てむすっとした顔になる。
「な、何ですかその吐息は」
「君はケウト史を学べば歴史を知れると言う言葉を信じてここに留学したんだろうな。確かにこの国は6000年の歴史があるし古今東西この大陸に覇を唱え続けてきた……。が、君の探究心は認めてやる。喜べ」
「唐突に何が何がか知らないけどあ・り・が・と・う!」
フルはフェルガに対抗心のこもった目を向けると隣に立っていた愛嬌のある女が片手を振ってヘラヘラ笑い始めた。
「あはは〜。二人とも喧嘩はよしなよ〜」
フルはその性別不明の人物を見る。するとその人はフルを見てウィンクした。
「ワタシの名前はモンガーリ・カラクル! 砂漠の民だよ!」
「君はフルと言ったな。早速良いことを教えてやる」
フェルガは懐からメモ帳を取りだす。
「オドアケル人の苗字は大体が自身の出自。俺の場合はアシャルカが出自だからアシャルカだ」
それを聞いたフルは満足げに頷いた。
「ということはカラクルさんはモンガーリ砂漠の人という解釈で良いんですか?」
「うん! そうだよ!」
カラクルは首筋まで長い髪をあるくるんと上下に揺らした。ユニーネはこの子可愛いっしょ! とフルに言葉を飛ばしたためフルはとりあえず会釈した。
フルは少し考えた後フェルガに目を合わせた。
「えーと。フェルガさんの言うとおりにするとオドアケル人の苗字は出自……」
フェルガは何か言いたいことがあるのか手を挙げた。
「付け加えるのならオドアケル人は自身の出自ともしくは祖先の名前。または部族名を用いる。ただし、オドアケル人は広範囲の民族だ。遠くに移動して訛っている可能性もあるから注意しろ」
「——なるほど」
フルはカバンからメモ帳を散りだすとしっかりメモした。
そしてフルは今度はカラクルを見た。
「それとカラクルさんはその……オドアケル人ですよね?」
「そだよ〜」
「では何か伝承とかご存知でしたら教えてくれませんか!?」
フルは机に乗り出してカラクルを見る。カラクルは肘を机に乗せて頭を左右に揺らしてフルの顎を撫でた。
「ひゃっ! 何するんですか!?」
「ごめんねー。可愛かったからつい」
カラクルは笑いながら手を振る。
「まぁ、ワタシはオドアケル人だけど伝承は知らないよぉ。だって小さい時に誘拐されて戻ってきたら里から排斥されたもん。だけど育ての親がいるからのびのびと過ごせてるよ〜」
「地味に重いの来た!」
フルはカラクルは何と為に来たのか気になったが、ユニーネにそもそもオドアケル人の知り合いと話したいと言ったため、それ通りに過ぎなかった。
フルはこれ以上カラクルに話さないほうがいいと判断すると息を整えた。
「では少し研究に付き合ってくれてありがとうございました! これで何とか進みそうです!」
フルがそういうとフェルガはそっぽを向く。
するとユニーネが手を挙げた。
「フルちゃん! もう話したいことない?」
「うん。大丈夫よ」
フルは満足げにメモ帳をカバンに直した。するとカラクルが突然フルの後ろに回り込むと抱き付いた。
フルは少し驚いて体をブルルと震わせた。そしてフルの鼻に香水の匂いが入ってくる。
フルは後ろに手を伸ばしてカラクルの背中を軽く叩いた。
「えーとカラクルさん。何してんですか?」
「ううん。その黄緑色の綺麗な髪。ワタシの育ての親にそっくりだからね。つい甘えたく」
「……そうなんですか」
カラクルが離れるとユニーネがカラクルに「もー! カラちゃん!」と言って袖を掴むとカラクルをフルから離した。
「カラちゃん! フルちゃんに近づきすぎ!」
するとカラクルは「あらあら〜」と声を出してその場をくるりんと回ると一度お辞儀した。
「あ、今更だけどこう見えてワタシは男だよ。元だけど。1歳の時に誘拐されて女の子として過ごさせられてそのせいで体つきまでこうなっただけなの。あ、もっと詳しい話聞きたい?」
カラクルは頬に手を当てて体をうねうねさせる。フルは反応に困った顔をしつつも、若干苦笑いする。
「え? ——いや、良いです」
この時フルは理解が追いつかず頭の中が真っ白になった。そしてフルは一度頭を振る。
「ええーい。では最後です! フェルガさんとカラクルさんに一度聞きますがヘリアンカについて知ってますか!?」
「——!」
するとカラクルとフェルガが少し反応した。その中でもカラクルはやましいことがあるのか少しフルから目を逸らした。が、フルはその目を逃さなかった。
「むっ! カラクルさん、何か知ってますよね?」
「え、えぇ〜と……」
カラクルはオドオドとしてゆっくりと扉から出ようとする。その時フェルガがカラクルの服の袖を掴んだ。
「カラクル。知っているだろ? 以前俺に話したことを言えば良いだろ」
「け、けどぉ〜」
「カラクルさん。お願いします!」
フルは全力で頭を下げる。カラクルはその場でフルとフェルガを交互に見て困惑し、やがて諦めて息を吐いた。
「良いですよ。言えば良いんですよね」
「はい。お願いします」
カラクルはそう言ってゆっくりと話し始めた。
それから三日が過ぎてフルはカンナと共にケイオスに向かった。
そして駅から降りるとフルは地図を取り出した。
降りてから改札で駅員に切符を切ってもらい、フルはカンナにカラクルから聞いた情報を伝える。
「まずカラクルさんが言うには今まであったオドアケル人の中でも、特定の部族はヘリアンカの名前を口に出してはダメで、アンリカという別の呼称を用いるみたいです。聞けばモンガリーに住むオドアケル人も同じみたいです」
「け、ど。悪い、こと。したね」
カンナは少し言いたげな顔をフルに向ける。
「あ、あー。確かに口に出したらダメなのに無理矢理言わしてましたね……」
「あや、まるんだよ?」
「後日きちんと謝ります……」
フルは若干冷や汗をかきながらカンナにカラクルへの謝罪をすることを誓う。それからフルは地図を見て以前ケイオスでエリオットと祭りで見たオドアケル人の歌を思い出す。
——確かその歌では流星の民という言葉があった。
「カンナ先輩! とりあえずケイオスにはオドアケル人が祭りで来るんです。なのでまずはオドアケル人を探しましょう!」
「——うん」
カンナはどことなく楽しそうに当たりをキョロキョロ見渡した。そしてカンナが美味しそうな屋台を見つけたのを察知したフルはカンナの袖を掴んだ。
「先輩。調査終了したら寄りましょう」
「で、も……」
「我慢です!」
フルはカンナの食欲を静止させて目的地に向かう。その場所はただの公衆電話でボックスの中には電話が入っていた。
フルはその中に入ると電話番号や個人の住所などが書きまとめられた本を持ち出した。
「ここから探すんです!」
「え、と。どうして?」
カンナが困った顔を浮かべるとフルが解説した。
「それはですね。簡単にまとめるとリアート人の血を引く可能性が高い集団がここにいるからです。理由はここに来ていたオドアケル人の男性が祖先はレーアト人と言っていました。なのでそれの順した名前があると思ったんですよ。フェルガさんが話した法則を元に考えると」
フルは話しながら本をペラペラ捲る。カンナはその言葉にとりあえず納得したのか何も言わなかった。
それから三十分かけてフルは読み終わった。フルは顔を真っ赤にして体をプルプル震わせている。そしてカンナをゆっくりと振り返って見た。
「な、無かったですぅ……」
カンナはフルの言葉を聞くと「お疲れ、さま」とだけ言って優しい笑顔を浮かべた。
それからと言うもののフルとカンナはオドアケル人の足取りを見つけていたがなかなか見つからずとうとう三時間が経過した。
フルとカンナはとりあえず今いる広場の噴水に腰をかけた。
「これほど探しても見つからないのはダメですよ〜」
「図書館、あった……けど」
フルとカンナは一応図書館も回ったがそこになかった訳ではないが、リーアト人については一切記述がなかった。
フルはこれは本当に歴史に呑み込まれて消えた民族ではと考えて内心意欲が落ちていた。
フルは珍しく暗い顔で誰が見ても分かるぐらい暗い気分となった。
「カンナ先輩ごめんなさい。ここに行けば何かヒントがあると信じたのですが」
「気に、しないで。ミス、は。あるものだから」
するとカンナとフルの目の前を品のある服を身につけた初老のお爺さんが通り過ぎた。するとカンナは突然立ち上がるとその初老のお爺さんの服の袖を掴んだ。
「教授……?」
すると初老のお爺さんはカンナ先輩を見ると少し驚いた反応を見せた後穏やかに笑った。
「あぁカンナさんか。ここに来ておったのか」
そして初老のお爺さんはフルを見た。
「で、君は多分フルさんだね。私の授業をサボったのは」
「あ」
フルは座ったままお爺さんから目を逸らす。するとお爺さんは声を出して大笑いした。
「あっはっは! なぁに。気にしてないよ。緊張しなさんな。さて、改めて私はレアト・オズバルグ。キタレイ大学国史学科の学科長さ」
フルはオズバルグの顔を見るためゆっくりと見上げる。
「え、えーと。もしかしてカンナ先輩の研究の補佐をしているのって——」
「それは別の先生だね」
「そうなんですか?」
「せ、んせいは。私が一年生の時から、気にかけてくれた、恩師、なの」
カンナは少し恥ずかしそうに俯きながら解説した。それを聞いたフルはカンナの言葉を信じて頷いた。
「分かりました」
するとオズバルグは「で、君たちはどうしてここに?」と首を傾げて質問した。
カンナはフルに変わってオズバルグに説明をした。オズバルグはふむふむと相槌を打ち、カンナ先輩が話し終えるとフルを見た。
「フルさん。運が良いね。私が君が望んでいるオドアケル人だよ。それもレーアト人の血を引いたね」
「そ、そうなんですか!」
フルは興奮のあまりオズバルグに厚かましく飛びついた。
「ま、言っても詳しいことは知らんがな」
「——あぁ……」
「そうそう。今から私はちょっと友人の遺品の整理に行くんだが手伝いに来てくれんか?」
「え、手伝いですか?」
「うむ。多分君たちにとっても素晴らしい発見になるぞぉ」
フルとカンナはお互いを見た後、オズバルグの後ろを歩いてその友人の家に向かった。そこに行くとその家は石造のカラフルな家だった。木の扉を開けて中に入ると中はとても綺麗で机の上には紙の束、本棚にはさまざまな文献が遺されていた。
オズバルグは紙の束を整理するとそのうちの一枚をフルに渡した。
フルはそれを口に出して読む。
「えーと。言語学を地名から見てその地にどのような民族が居住していたのかを推定した——」
フルは一枚ページをめくる。
「調べてみると分かったのはエルフィンとピト族は言語から見ても同列ではなく、祖語の段階でかなり違っている。さらにピト族より古い種族はケモフ族でピト族の後の民族が天空人だが天空人はピト族から派生している——」
「もういいよ。これを見て分かったと思うがこれを書いた男は時代が違えば近代考古学の父と讃えられていたであろうな」
そしてオズバルグは一枚の写真を胸ポケットから取り出す。
「この写真を撮った日が彼と最後に酒を飲んだ時だ」
「——え?」
フルはその写真を見ると脳裏に小さい時に歴史の面白さについて教えてくれたお爺さんを思い出した。
白黒の写真だからわかりずらいが顔がかなり似ている。
——もしかしたら学科長の友人ってもしかしてっ……!
「フル、顔青いよ?」
「え、ううん。大丈夫です」
フルはカンナに無事を伝えたが内心とても焦っている。理由は単純だ。一度きりとは言え自分の中では恩人に近い存在がまさかのすでに死去していたからだ。
オズバルグはフルのそんな心境を知らずに写真を胸ポケットに直した。
「こいつは最後君たちに見せた論文を発表してそれを講演していたときに、ナイフで襲われてな。一度たりとも起きずに……そのまま」
オズバルグは手を震わせてる。
「こいつはただ、ヘリアンカについての証明をしたかったんだ。エポルシア人はヘリアンカを絶対視するが本当にそれほど素晴らしい神だったのかを。だが彼らは知るのを恐れた。自身らエポルシア人、いや、スタルシア人を含めたエルフィンはただ海の彼方から来た渡来人であることを」
オズバルグは腰を下げると棚の下のタンスから一枚の紙と何やら球体の道具を取り出した。そしてこれらをフルに渡す。
「私とこいつの出会いは何十年も前だ。彼も君たちと同じようにヘリアンカを探していた。その最中に見つけた魔道具、そしてこの紙を渡そう。こいつはいつも言っていたんだ。会うたびに同じ研究をしているやつに渡してくれってな」
「ヘリアンカの研究ですか……」
フルは魔道具とオズバルグが呼称した球体の道具を見る。この形状はどう見てもエリオットが持っているバリアくんと同じようだった。
「こ、れは? 何?」
するとカンナは球体から生えている一本の管を指さす。その管の口にはレンズが入っていた。その穴を除くと中は真っ暗だったが、突然エリオットが見えた。エリオットはどうやら今は家の中で魔道具をいじっているようだ。
「えっと、どうしてエリオがこの中に?」
「この魔道具は今のテレビと同じものだ。それも遺跡から見つかったものだが、違う点があるといえば今頭の中に浮かんだ人物を投影して今何をしているかを映すらしい」
「へ、へぇ〜」
フルは少し悪いことを思いついたが顔をするが、すぐにカンナに取り上げられた。
「だ、め」
カンナは少し眉間に皺を寄せてフルを見る。フルは少し笑いながら嘘ですと誤魔化した。カンナは紙をと魔道具を大きなカバンにしまう。
「これ、だけでも。収穫」
「そうですね。私助手としての初仕事頑張りました!」
フルは大喜びのあまり手を上げる。
オズバルグはそれを見て嬉しそうに微笑んだ。
「若い研究者の卵がこれほど熱心だと。こいつは報われるな」
オズバルグはゆっくりと腰を上げる。
「それではそろそろ帰ったほうがいいぞ。明日は学校だろ」
「そう、ですね。フル」
カンナはオズバルグの言葉に従ってフルの袖を掴む。フルは外を見ると太陽は夕焼け色を発ししていた。
「あ、もうこんな時間なんですか……」
フルとカンナはオズバルグに今日はありがとうございましたを伝えるとこの場を後にして駅まで歩く。
「けどカンナ先輩。今日は本当に良かったですね。私このまま見つからなかったら助手をクビにされるかと思いましたよ!」
「別に、しないよ?」
「本当ですか!?」
フルは子供みたいに目を輝かせるとカンナを抱きしめた。
「私やっぱりカンナ先輩のお嫁さんになりたいです」
「う、ん。良いよ」
カンナはフルの言葉をうまく流す。その時前から来た人に肩をぶつけた。
「きゃっ」
カンナは倒れなかったがフルはバランスを崩して倒れる。
「む、すまない。大丈夫かお嬢さん」
ぶつかった人はすぐに向き直るとフルに手を伸ばした。フルはいたたと口に出しながらその人物を見る。
その人はエポルシア人で金色の長い髪をした若い男だ。服装は黒のローブを包んでおり、黒い品のある帽子をかぶっている。
「いえ、大丈夫です」
「だい、丈夫?」
カンナは心配そうにフルの体を見る。
「本当に申し訳ございません。これを私からの罪の償いとして受け取ってください」
男は突然フルに飴を渡した。これを見たカンナはフルを自身の後ろに逃す。
「不審者」
「——確かにそう思われてもしょうがありませんね。では自己紹介をしましょう」
不審な男は帽子で脱いで胸に当てるとゆっくりとお辞儀した。
「初めまして私はスタルキュラ大公国より来たリベリオンというものです」
「スタルキュラ……。あぁ! スタルシアの南にある緑豊かな国ですよね! 緑豊かでそれに原生林と古代エルフィン族の歴史的遺物が多いんですよね! カンナ先輩は知ってました?」
「うん」
「うぐっ!」
フルは大袈裟にショックを受ける。リベリオンはそんなフルを見ると優しく微笑むと、フルの髪にやさしく触れた。
「——っ。やはり黄緑色か」
「あ、えーと……」
「や、ぱり。不審者」
カンナはリベリオンの前に出て攻撃体制に入る。リベリオンは「失礼した」と謝る。リベリオンは一歩後ろに下がると帽子をかぶる。
「では、私は忙しい。ここで失礼させてもらうよ。——で、そこの黄緑色の髪のお嬢さん」
「——なんですか?」
「髪は綺麗にな」
リベリオンはそういうとこの場から立ち去った。
「ふーん。変な人」
フルはそう口に出し、カンナとともにケイオス駅に向かった。そして電車の中フルはオズバルグから受け取った紙を広げた。
その紙の右側にはオズバルグの友人直筆であろう文章に、左側は薄い紙なのか黒い点が書かれているところ以外は薄く、フル自身のスカートが見えるぐらいだ。
「オドアケル人に流星の民の血を引く部族の存在が確認された。その部族の血を引くものの苗字はレーアトを基準とし、レアト、レアート、レーアンの三つがある。この紙にはそれぞれの部族の集落に点をつけている。後世の若い学者よ、私に変わってこれを読み解くのだ。——いったいどういうことよ」
「——」
フルが前を向くとカンナは小さな大陸全図を見ていた。フルは持っているかみと見比べると形や形状が似ていることに気づいた。
「——あの、カンナ先輩」
「どう、したの?」
「ちょっとその貸してください」
「良いよ」
カンナはフルに地図を渡した。フルはその点の付いた左側と大陸の地図を重ねた。すると綺麗に点が大陸の中に全て収まっていた。
カンナはその地図を見ると少し声を漏らした。
「これ、どうなってるの?」
カンナは不思議そうに首を傾げた。
カンナから借りた地図を見てみるとそこには大陸遺跡全図と書いてあった。そして点を見てみると全て遺跡と大体が一致している。
よく見比べるとフルがヨカチと以前訪れたカナンブ遺跡と一致していた。それもリアート人の伝承があった場所に。
フルは目を輝かせるとカンナの肩を掴んだ。
「カンナ先輩! これヘリアンカの情報が詰まってますよ!」
「そう?」
「はい!」
フルは嬉しさのあまり席を立った。
「やりましたよね! カンナ先輩!」
「うん……!」
フルとカンナは大戦果を胸に刻み、キタレイ大学に戻っていった。
それから一日が過ぎて早朝、カンナは研究成果をいつも通り学科長の中に入りオズバルグに報告していた。オズバルグはカンナから報告書を受け取るとふむふむと頷く。
「まさかあの紙の意味を一瞬で見極めるとは、優秀な助手だね」
「——はい」
カンナは無表情ながらご機嫌なオーラを出す。するとオズバルグはゆっくりと席から立ち上がった。
そして窓の外を見る。
「教授?」
すると突然オズバルグはカンナに紙を渡した。その紙はカンナ専用に点字で書かれている。
「カンナよ。国からの募集だがアンリレの秘宝を探す部隊を募集しているらしい」
「——え?」
フルは困惑する。フルからはアンリレの秘宝自体は聞かれていたがそれを国が探すということでとても驚く。
「この秘宝自体の話は初めてだが、何故か君とフルさん宛に届いていた。理事長はこう言った国からの公文書は無視したがる肩だが、私が守っておいたのだよ」
「——」
カンナは何も答えなかった。
「まぁいい。期限は読んだらわかるが二ヶ月後。それまでには決めておいてくれ」
「——はい」
カンナはオズバルグに返事を返すと学科長室から出た。そして受け取った募集の紙をぎゅっと握り、早足で一限目の授業を行う教室に向かった。
その時の校舎の空気はどこか不穏で、今までで感じたことがないほど冷たい視線がカンナを包んでいた。




