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ヴァクトル  作者: 皐月/やしろみよと
2章 女神のレイライン

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24話 神代の記録

 博物館の奥へとカンナとフルは進む。

 博物館の奥の研究所には近代からのなのある学者たちが残した遺産である膨大な数の論文が棚に収められていた。

 その量はフルが見たかぎりカンナが研究で使用している研究室よりもはるかに膨大な論文が保管されている。

 フルはそれらを目を輝かせながら見惚れる。

 

 「これってずっと昔からの論文なんですか?」


 「せ、んせいに聞いたら。こ、れは帝国の起源、か。神は、古の英雄、って考えた調査記録、もある」


 「なるほど。確かにスタルシアでも歴史の授業ではケウト帝国がずっと出てきますし。スタルシアではケウトはよく内戦で皇帝の権威を使って宰相の位を取り合っていたって聞いていたんですが実際はどうなんですか?」


 「大体、あってるよ」


 フルはなるほどと言葉をこぼす。


 それから博物館の奥へと進んでいくと今まで発掘されて保管され続けていた遺物が入った部屋に入った。

 

そこにはサーシャがとっくに束となっている紙を机の上に乗せていた。

サーシャはカンナを見る。


 「これがヘリアンカの日記を解説した論文だ。原本はどうやら厳重に守られて取り出すのが禁止されているみたいだ」


 「わ、かりました」


 「で、特に今私は怒っているんだ」


 サーシャは鋭い目つきをフルに向ける。


 「どうして部外者がいる? 部外者は出ていくんだ」


 フルはすぐに状況を察知した。例えば今この状況を見るとフルはどう考えても部外者だと理解する。

 フルはとっさに言い訳を考えた。


 「私はカンナ先輩の助手です!」


 「じょ、しゅです」


 カンナはフルを擁護する。

 サーシャはまだフルに疑いの視線を送っていたが、カンナの熱意のこもった視線を見て呆れて息を漏らす。


 「分かった。ここは引いてあげよう。で、部外者ちゃんの名前は?」

 

 「私はキタレイ大学一年生のフルです! スタルシアからの留学生でカンナ先輩と同じ国史学部神話専攻です!」


 「ほう。スタルシア人か。なら君はこれを読めるか? これは博物館に展示されていたヘリアンカの日記とされていた石板に書かれていた文章を私が書き写したものだ。もしこれを読めたら現段階で君は私公認のカンナの助手に認めよう」


 サーシャは少しフルを煽っているかのような顔をする。そして先程から握っていた封筒から冊子を一つ取り出した。

 フルはその挑戦を受ける形でサーシャから模写した紙を受け取った。


 これは余談だが現在フルはサーシャのことを全く知らず、突然喧嘩を売っていきた変な年上の人としか思っていない。


 フルは受け取った紙を読む。そこに書かれていたのはフルが小さい時に知り合った見知らぬ学者がフルに教えた今から500年前まで使われていた中世スタリシア語で書かれていた。

 フルは読みながら少し思い出にふけった。


 それは今から12年前、フルがまだ7歳の時だ。

 7歳の時フルはわんぱく娘で普段から母親を困らせていた。

 そんなある日学校が休みの時フルは母親であるフィアレとピクニックに行っていた。


 フルは楽しそうに山道を登る。


 「お母さん早く! 置いてっちゃうよ!」


 「フル! 迷子になるわよ!」


 フィアレ大きな声を出してフルを止めようとするがフルは止まらなかった。


 「大丈夫大丈夫!」


 フルはそのまま母親を置いて山道を登っていった。


 それからフルは一人で奥まで進んでいった。そして頂上まで来ると不思議な石像が立っていた。その石像は苔が多いしげり、所々ぼろぼろでと多い昔に放棄された様だった。

 フルはその石像に近づく。


 石像は台座の上に立っており、高さは3メルンで人間の平均身長が1メルンのため約三倍の高さだ。


 「わー! 高ーい!」


 フルはその石像を見て大きな声を出して一人で大はしゃぎした。



 「これこれ。ここで暴れるのはやめなされ。台座に書かれた文字が消えてしまうだろうに」


 すると石像の後ろから一人の品のある服を着た初老のお爺さんが回ってやってきた。お爺さんは耳が尖っておらず、背中には羽が生えているため天空人だろうとフルは気づく。

 お爺さんは頭皮が露出した頭を撫でる。

 

 「で、お嬢ちゃんはどうして一人でいるんだ?」


 「——」


 「お嬢ちゃん」


 フルはお爺さんにそっぽを向く。


 「お母さんに知らない人と喋るなって言われてるから喋らない!」


 「真面目だねー。だが心配しなくてもいいよ。ワシはただ歴史を愛しすぎている学者だよ」


 「学者なの?」


 フルはフィレンの言いつけを破ってお爺さんに近づいた。お爺さんも手には鉛筆と用箋挟に紙を挟んで何やら文字を書いていた。

 フルは紙を覗き見る。


 「お爺さんそれなに!?」


 「これはこの文字を写しているものなんだ」


 お爺さんは台座に指を指した。フルは台座を見ると何やら文字というか何か線が引いてあるのが見えた。フルがそれに触れようとするとお爺さんに腕を掴まれる。


 「触っちゃダメだよ。この台座は何千年も前のものなんだ。とても風化してるから壊れやすいんだよ」


 「ふーん」


 フルはつまらなそうに声を漏らす。

 フルはそれからお爺さんが文字を書き終えるまで待った。


 「よし。これで終わりだ」


 「お爺さんそれ楽しいの?」


 フルがそうつまらなそうに聞くとお爺さんは逆に笑顔になった。


 「なーに。考古学や古文の解読は地道にやるから面白いんだよ」


 「そうなの?」


 「あぁそうとも。たとえばこの石像の台座に書かれている文字は君たちスタルシア人がかつて話していた祖スタルシア語の特徴の原型が残っている上代スタルシア語で書かれているんだ。だけど今君たちの喋っているスタルシア語はケウト語からの影響が強くて祖スタルシア語の特徴の多くが失われているんだ」


 フルはお爺さんの話についていけず混乱する。だがフルは少しだけ考古学と古文に湧いてきていた。

 かつて自身の先祖が話していた言葉がここに刻まれている。だがその言葉は普段の生活では使われずほとんど姿を消した。

 だがこうしてその失われているものを自身が見ているんだとフルは幼いながらも単純にどこか感動を覚えた。


 お爺さんはフルの唖然とした顔を見てにっこりと笑う。


 「お、興味を持ったのかい? まぁ、単純にいうと歴史というのはかつてこの大陸に足跡を残せなかったものたち、残したものたちの生き様を知るということなんだ。生物史を研究する人だって同じ気持ちさ。言語学者も同様に。彼らは昔の動植物の生き様を知りたい。その勇敢な志をみんなに教えたいという単純な気持ちなんだ」


 「へぇ〜」


 フルは困惑しつつもお爺さんが歴史大好きなのが伝わった。そしてお爺さんは頭とペンを鞄に戻すとゆっくりと立ち上がる。


 「それじゃワシはもう行くよ。君は早く親御さんの元に戻るんだよ」


 「はい! 気をつけてねお爺さん!」


 フルはそう言っておじいさんと別れた。フルが今も感じている後悔はお爺さんの名前を聞かなかったことだ。

 

 そして時は12年後の今現在に戻ってフルは歴史が好きになって今まさに大学の先生から渡された古文書の解読を終了させた。


 「出来ました!」


 フルは大きな声を出す。

 サーシャはでは答えてみろと言わんばかりに席に座って足を交差させた。


 「これ多分スタルシア人の日記だと思います」


 「ほーう? 証拠は?」


 「まず文体が祖スタルシア語で書かれているのと。内容自体ヘリアンカとは全く無関係のものだからです。それに一人の男性について多く書かれていて多分恋心を抱いている少女のものだと思いますが」


 「ふむ、そんな内容だったのか」


 サーシャはゆっくり立ち上がる。


 「流石だな。これは実は我々がほぼ諦めていたヘリアンカの日記と題されて展示されていた遺物だよ。けど、スタルシア語を解読できるとは高得点だ。いいだろう。フル、君はこれからカンナの助手と名乗っても大丈夫だ」


 「やった! なぜか知らないけどこれでカンナ先輩の正式な助手になれましたね!」


 「そう、ね? 先生、フルは多分、知らない」


 「あ、そうだった」


 「え?」


 サーシャは軽く咳き込みをする。

 フルは何かやらかしたかと少し怯えた顔でカンナの服の袖を握る。


 「私はサーシャ。カンナの研究を指導する教員の代理。そして国史学部の准教授だ。逆に君が私を知らないとは驚きだぞ」


 「え……あ」


 フルはかすかに入学式の時のことを思い出す。だがその場にはサーシャはいなかったはずなのだ。

 

 「まぁ、入学式の段階で自己紹介の場に寝坊してこなかったし。この学部自体教授が多いから分からないのも無理はない。だが、今後は覚えておくように」


 「はい!」


 フルは冷や汗を書きながらも大きな声で返事をした。そしてずっと待っていたカンナは暇そうにサーシャとフルの二人を見る。


 「調査してもいい、ですか?」


 カンナの声には茶番に付き合わされてどこかめんどくさいという怒りの感情が込められた声が入っていた。


 「構わない。私は別室でやりたいことがあるから日記は自由にやってくれ。終わったらここを出て突き当たりを左ににまっすぐのところにある部屋に来てくれ」


 サーシャはそういうとこの部屋から出ていき、中にはフルとカンナの二人だけが残された。カンナは安堵の息を漏らす。


 「じゃ、始めよ?」


 「はい!」


 二人は今からやく六時間ほどかけて調査を始めた。

 ヘリアンカの日記は何の神秘性もない、普通の文章で所々捏造と考えられるところがあるだけでとても人間臭かった。というのが鉋とフルの感想だった。


 その中でフルは解読したうちの自身が気に入った一文を口に出して読む。

 「——私はクッツオの神殿に住んで早くも千年。時というのはとても早く進む。その間起きた私の思い出を短くまとめる。まず私はよく毛皮を体に巻いて寝るのですがすっごく気持ちいです。なのでクッツオでのいい思い出は寝る時だけ。一番辛い思い出は天空人の狩人が生肉を出してくれて食べたのですが、三日間ほど動けなくなったのはいい思い出です。これからは肉は絶対焼いて食べようと本当に決心しました」


 フルは音読をやめた。隣では聞いていたカンナは点字を指でなぞって必死に解読していた。フルは少し息を吐く。


 「ヘリアンカって学べば学ぶほど親しみが感じるのは気のせいなんですかね?」


 「さぁ、だ、けど。いい人、なのは間違いないよ」


 カンナはどこか楽しそうに解読を進めていった。そして博物館がそろそろ閉館する時間になる。フルとカンナはメモ帳にヘリアンカのことをまとめて作業を中断した。そしてカンナはサーシャを呼びに行くといてフルに待ってと指示を出して部屋から出て行った。

 フルは椅子に座って腰を伸ばす。


 「う〜ん。解読は楽しいけどすっごく疲れるわね。——私はそもそも考古学を目指したのは小さい時に会ったお爺さんの影響だけどあの人が読んだ文章って何だろう。一度帰省したら読んでみようかな……」


 フルは腑抜けた顔から顔を少し険しくする。


 「サーシャ先生が最初に見せてくれたヘリアンカの日記と言われていたものはうっかりスタルシア人の日記と伝えたけど……。あの文体と言い場面と言いヘリアンカを第三者視点で見ている人物のもの……」


 フルは読んだ内容を思い出しながら口に出す。


 「——本日ヘリアンカ様は神殿にて罠を設置なさった。これで注意はもう何百回。歴代の侍女長の日記にもある情報をまとめるともう何万回と及ぶ。たまに罠に掛かった侍女が怪我をするからやめて欲しいです。

  ——訂正します。ヘリアンカ様はやはり素晴らしいです! 私の気持ちが伝わったのかなんと罠を設置した理由が狂信者から私たちを守るためとおっしゃってくれました。なら尚更私たちはヘリアンカ様のために働きます! ……ただ、ヘリアンカ様は先日より体調が優れず嘔吐と頭痛に苦しんでいます。なのでこの神殿とはおさらばでウルクの皇帝陛下がお住みになられている宮殿の中央に神域を設けそこに住まわせるようです。

 ヘリアンカ様、どうかご無事で」


 フルはメモを取る。

 フルとしてはあの日記はおそらくヘリアンカのそばにいた侍女長が書いた日記であるのはわかるが、なぜヘリアンカが体調不良なのかがいまいち分からない。

 この日記に全容はカンナに一応は聞いたが先生から聞いたことしかわからないと言っていた。

 

 「まず内容自体はカンナ先輩が話してくれたことと一致しているわね。確かヘリアンカのぞばにいた人物の日記で、内容は私が解読したのは一番最後でその間にあるのは主にヘリアンカに対しての愚痴。まぁ、日記に愚痴を書けるほど親密な感じだったのよね。カンナ先輩が親しみを感じるというのも分かるかも」


 すると扉が開く。フルはメモを書く手を止めて顔を上げるとサーシャとカンナがいた。

 

 「フル。もう大丈夫か? ないか書いていたようだが」


 「はい大丈夫です! こちらこそ完全部外者なのに許してくれてありがとうございました!」


 フルは頭を下げる。


 「いい、んだよ。フル、は。良い子、だから」


 カンナは嬉しそうにフルを見る。フルはカンナの優しい顔を見て少し涙を流しそうになる。

 サーシャは時計を見た。


 「よし。私は片付けるからカンナは明日昼に帰るから先に宿に戻って荷物をまとめて置け。で、フル。君はどうするんだ? 授業放棄してるだろ?」


 「あ」


 フルは冷や汗を流しながらサーシャから目を背けた。サーシャはゆっくりをフルに近づき、頬を引っ張った。


 「いたーい!」


 「全く。一年生には四年生からの研究に活かせるように基礎を教えているというのにいい度胸だな!」


 「違いますもん! 学執会の会長の許可ありですし!」


 「だとしてもサボるのは良くない。世の中にたまに居るのだ。そこ知れぬ才能がありながらもそれを活かそうとはせずに怠慢にふけって最終的に才能が開花せずに一生を終えるものがな」


 サーシャは意味ありげな顔をフルに見せると深呼吸をしてカンナとフルを部屋から追い出して「お前たちは帰る用意をしろ」とだけ言って扉を見せた。


 フルとカンナはお互い顔を見合わせて苦笑した。


 「えっと、カンナ先輩。私も明日帰りますね」


 「うん、分かっ、た。あ、あと——」


 カンナは肩に掛けているカバンから冊子を取り出した。


 「明日、正午、に。帰るの。だ、から——。そ、れまでに行きたいところ、ある、の。一緒にどこか行く?」


 「観光ですか?」


 ——せっかくウルクを観光できるんだったから回ろうかしら?


 フルは少し頬を赤めらせながらニマニマと頬を緩める。カンナは子供みたいに口籠るフルをいて少し癒された気分に浸かる。

 

 「いい、の?」


 「はい! ぜひお供させてください!」


 フルは鼻をふんふんと鳴らしながら興奮気味に返答した。

 それから1日が過ぎてフルはカンナから先日博物館から出て手渡された地図を頼りに朝方少し大きな宿の玄関前にやってきた。

 フルは宿の中に入る。

 宿の中はとても豪華で国宝級の差繊細な絵が描かれた壺が台座に丁寧に置かれ、床には赤色の絨毯が敷かれている。

 壁はフルをぼんやりながら鏡のように映るほど丁寧に磨かれている。


 「とても豪華な宿ね。スタルシアだったらいくら高くても一般の大学生が止まるなんてこと出来やしないわ」


 すると前の受付の左側の螺旋階段からカンナがゆっくりと手すりをしっかりと握りながら降りているのが見えた。フルは即座にカンナの元に来て足を踏み外さないようにお腹を支えた。


「ひぁっ」


 カンナは少し驚いて声を漏らす。


 「す、すいません。少しこけそうだったので……」


 「う、ううん。す、こしだけ。お、どろいただけ」


 カンナは穏やかな表情のままフルのサポートで階段から降りて宿から出る。カンナの荷物は大きく、フルは見ただけで多分予定表通りに動きたいのだろうとすぐに察した。

 無論、フルもそれを見越して持ってきた荷物は全て持っているため背丈に似合わないバッグを背負っている。


 「さ、いしょ少し丘に行っても、言い?」


 「はい! ノー問題です!」


 フルは元気よく返した。


 それから二人は宿から西の方角へ歩き、ビル街に入る。そしてその奥に進むと大きな公園があり、二人はその公園の小さな丘の上に登った。

 フルは公園の緑豊かな幸せな香りを堪能しつつ深呼吸をする。


 「すーはー。良いですねここは。心が安らぎます。けど、カンナ先輩はどうしてここへ?」


 カンナは少し寂しそうな顔をしつつ、土に手を触れた。


 「ここ、ね。20年、前は。公園じゃなかったの」


 フルはカンナの真剣な顔を見て息を飲む。


 「ここは、大きな街道で、丘は階段だった、の。名前は皇帝の、階段て言うの」


 「皇帝の階段……」


 「私、ね。小さい、頃ウルクに住んでた。ここでね、お父さん、と。お母さん。が、死んだの。クーデター、が起きて」


 「——クーデター……」


 フルはスタルシアの小学校で授業でした内容を思い出した。


 ——確かあの事件はケウトで私が生まれる前に皇帝の住む宮殿に近い皇帝の階段を通る時にその場にいた民間人を虐殺した……。


 フルはそれ以上は考えるのはやめた。そしてカンナはしばらく静かにしていたが話すことが満足できてモヤモヤが晴れ満足げな表情を浮かべた。


 「これ、が。私がウルクに、行きたくなかった理由なの」


 「——」


 フルは何も答えず、ただ少し悲しい気持ちが胸を押さえた。


 「だ、けど」


 するとカンナは突然フルの髪の毛に優しく触れる。


 「フルのおかげ、で。私は、自分から逃げるのをやめ、た。もっと自分、を誇らしく、思えるようになった」


 フルは顔を上げてカンナを見る。カンナは目を潤わせてフルを見ていた。


 「ありがとう」


 カンナは心から嬉しいと感謝の言葉を伝えた。フルは少し心が温かくなる。


 「いえ! カンナ先輩の相談は必ず聞きますから!」


 「私、以外もね」


 「もちろんです!」


 フルは喜びが隠しきれない笑みを浮かべて返答した。


 それから二人はウルクの名物と名所を回った。

 まずフルとカンナが回った場所は学問の女神ヘリアンカの石像で、その石像は片方の脇で本を挟んでいた。

 そして次に向かったのはウルクにある国民議会場。その名はクルルタイ。

 ——クルルタイは近代に起きた今から50年ほど昔に起きた内戦で皇帝が国民会議を開くことを約束したことがきっかけでできたものだと言う。

 フルはカンナから渡されたウルク観光マップでその情報を頭に入れた。


 それから他にもウルク名産の家畜の肉塊を回転させてナイフで削ぎ落とした肉をパンで包んで辛いソースで味付けをしたケバを歩きながら食べたりしている間に昼に回った。

 カンナとフルがウルク駅に着くとサーシャが既にいた。


 サーシャは二人を見るとニヤリと笑う。


 「お、ピッタリきたな」


 「ま、たせました?」


 カンナは首を傾げる。


 「いや、大丈夫だ。そろそろ列車が来る。それとフル。多分だが席を取ってないだろ? 私が払っておいたから大丈夫だ」


 「え、券買ってくれたんですか!?」


 フルは大きな声を出す。


 「ん? 不満か?」


 「いえ、そんなはずないです! ありがたいです!」


 フルは目を輝かせながらお礼を言う。サーシャはそんなフルを面白そうに見る。


 「そうかそうか。では、帰ろうか」


 サーシャは先に列車へと向かう。それに続いてフルとカンナも歩いてリアートへの帰路を辿った。



 列車に乗って車内で食事を取った後サーシャとカンナは眠っていたが、フルだけは眠らずヘリアンカの日記のことをメモにまとめれた分だけもう少し解読していた。

 

 「今わかってるのはヘリアンカと侍女長との関係だけだけど、日記の一番最後のところは誰を見ているの?」


 フルは自身の頭を乱暴に撫でてメモにまとめた内容のうち気になるものを見る。


 「ヘリアンカ。悠久に眠る。かつてとは違って目を覚さぬ。私は大陸の辺境に消える。だから彼女に魔道具の設計図を渡そう。だが、彼女だけに渡しては無理がある。だから三つの魔道具はオドアケル人の一人の兵士に託した。彼には幼い頃から世話になったのと、彼もまたヘリアンカのことをよく知っている——」


 フルはオドアケル人の兵士という文に赤線を引いた。


 「今度はオドアケル人。なんだ。彼らは遊牧民は歴史に飲まれて消えると言っているけど。きちんと生きてるじゃない」


 フルは次の目標をオドアケル人に向けた。

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