22話 始まった
カンナとフルとのいざこざがあったもののなんとか修復できて一週間。
名実では二人は仲直りしているものの、お互いまだ普段通りの会話ができないでいた。そこで本日昼までしか無かったフルは——。
「とりあえず暇だしエリオでも捕まえて散歩しようかしら」
そう言う感じでフルはエリオットと暇つぶししているところだった。
現時刻、太陽が一番高い時間帯にフルとエリオットはそろそろ暑くなってきたリアートの露店が立ち並ぶ大通りに出て魔道具店に行き、少し買い物をした後あたりをぶらついていた。
エリオットは大きな袋に魔道具を入れて満足げに歩く。その横でフルは教材などが詰まっている手提げの鞄を肩にかけながら欠伸した。
「海外に行ったの今年が初めてなはずなんだけどもう地元みたいになってきたわ」
「まぁ、そうだね。ここら辺はまだ寒し時もあるけど。スタルシアはどうなんだい?」
「スタルシアはもう暑いぐらいよ。ジメジメとした暑さだからここの気候のカラッとした暑さが羨ましいぐらい」
「なるほどね。まぁ、ケイオスもここよりかは暖かいけど」
エリオットは相槌を打つ。
フルがため息まじりで幸せそうな顔で返した。
すると前から黒ずくめの男数名が前から走ってきた。彼らの手には大きな袋が握られており、フルが視線に入ると袋を広げた。
一人の男が先に全速力ではしりフルにタックルするとフルはなす術がなく吹き飛ばされ、少し宙に浮いた後地面に転がり電柱に頭を勢いよくぶつけた。
フルの視界がぼんやりと握る。
「フル!?」
フルの耳に微かにエリオットの声が入ったきた。
男はフルを少しみた後すぐに袋をフルに被せようとした。
「やめろ!」
フルの視界の先でエリオットと男が揉み合い、激しいビリビリと言った音が耳に入ってきた。その音を聞いたフルの視界が徐々に戻ってきた。
だが次の瞬間エリオットは鉄パイプで殴られそのまま地面に倒れた。
「エリオ!」
フルは痛む体を無理やり立たせるが男はエリオットの口にガムテープをつけて袋に入れるとその場を全速力で走る。
フルは激しい頭痛と擦りむけて血が出ている足の痛みに耐えながら追いかけたが男たちは車にエリオットを詰め込むとそのまま走り去っていった。
フルはその光景に呆然とするしかなかった。
この場に残されたのは傷だらけのフルとカラッとした風だけだった。
「嘘でしょ……。あ、警察に、警察に言わないと!」
フルはフラフラな足取りで大学に戻っていった。
大学内に入ったフルをどうしたものかと学生たちがチラチラと見るがフルはお構いなく本校舎の中に入り、学生課へと入っていった。
フルが入った途端大学内が騒がしくなった。
「君! どうしたんだ!」
真っ先に女性の先生がフルに近づいた。
「と、友達が、友達が知らない人に誘拐されたんです!」
「えぇ!」
女性の先生の声に反応して事務室は慌ただしくなる。
「何かされた? その誘拐犯の特徴は——」
ここからしばらくフルは犯人のついて説明し、保健室へと連れて行かれた。
それから少ししてフルは保健室から出た。フルは大学から出て空き部屋に座らされた。
「エリオ……これも私のせいなのかな」
フルは俯いてボーとする。すると後ろの窓が音を鳴らした。フルは最初は雑音かと考えたが、ずっとなり続けるため気になって振り返った。
窓を見ると誘拐された友人、エリオットの妹ことクラレットが窓に張り付き、叩いていた。
フルは目をパチパチさせる。
するとクラレットは今度はバンバンと強くたたき始めた。フルはびっくりして「分かった分かったって!」と声に出して窓を開けた。窓を開けるとクラレットはフルの胸ぐらを掴んだ。
「兄さんの在処は警察署を傍聴して分かりました。ついて来てください」
「はい!?」
フルは抵抗したがクラレットに亀甲縛りで抵抗を不可能にされ、そのまま外に連れ出された。
さりげなく大学で起きた女子高生による女子大生誘拐をよそに外国を監視している外事課から緊急連絡が入ってモラモイノ遺跡の裏にある針葉樹の森に特別警備隊十人が向かっていた。
彼等が乗っている車両に一人の女性兵士フローレスがやんごとなき人物として同行することになった。
「で、フローレ殿。この道で間違っていないか?」
フローレスの隣に座る額にツノが生え、長く黒いボサボサした顎髭を持つ男イシュミルがフローレスに確認を取った。
「間違いない。森は私の故郷の砂漠より道は覚えやすい。それにここだったらアイツらからはわからないはずだ」
「そうなのか。で、アイツらとは外事課から通報があったケウト人民平等協会が絡んでいる奴らだよね?」
「まぁそうなる。あの協会は事実上反帝国連盟の資金源の一つだ。不祥事が見つかることで規制が容易にできるから潔癖症の枢密院は大喜びだろう」
フローレスの言葉に車両の中にいる十人は一応会釈した。彼等は一応外事課からフローレスのことは耳を挟んでいたため、事情を知っていたからだ。
フローレスは周りの空気を見てため息をつく。
「同情なんていらない。ただ、エポルシアにいた身分としてはこの国は綺麗で平和だ。だから自分の故郷と同じ運命になってほしくないから亡命しただけだ」
「それは……すまなかったな」
イシュミルはか細い声で謝る。それからリアートの郊外に出てモラモイノ遺跡の裏にぐるりと周り森に入るとちょうど高く聳える崖の下にフローレスは車を止めさせた。
フローレスが降りるとイシュミル率いる部隊が続いて降りた。フローレスは彼等を見た後k花の先に指をさす。
「この崖の上にある拠点は人数は多いが殆どが戦闘経験のないど素人たちだ。戦闘経験のある奴はここには配備されなくて、ここにいるのは情報収集するものたちだけだ。だからここでは無線は使わないで欲しい。確実に聞かれる」
フローレスは冷静な口調で説明する。そしてフローレスは拳銃を抜く。
「とにかく武器は小銃もしくは拳銃だけで前を正面突破した後拠点に催涙ガスをお願いします」
イシュミルは頷く。
「分かった。よし、全員小銃に剣をつけよ! ——突撃のタイミングはどうする?」
「もちろん。今に決まっている」
「分かった。——よし、進め!」
フローレスはイシュミルの号令に合わせて崖に登っていった。崖を登るとそこには昔目にした大きなアンテナがあった。
フローレスはそのアンテナに近づくとアンテナの側に黄緑色の髪のエルフィンの少女がポツンと座っていた。
「——?」
フローレスが一瞬止まると後に続いて登ってきた隊員たちが近づいた。
「どうかしましたか?」
「いや、あれはどう表現すればいい?」
「え? ——亀甲縛りされた少女が一人……ですか?」
「——」
フローレスはため息をついてその少女に近づく。その少女を見るとついこの間見た顔だった。
「あ、どうも」
少女は反応に困ったように頭を下げた。
フローレスは何も言わないで少女から縄を解いた。
フローレス含め隊員たちは静かになった。
「これで全員登った……。これは……」
最後に登り終えたイシュミルは少女をみる。
「君の名前は?」
「え、フルです」
フルは気まずそうに頭を下げた。すると次の瞬間坂のしたで激しい銃声が響き渡った。
「——! 総員警戒! 増援が来るまで待て!」
隊員たちはイシュミルの指示に従って隊列を組んで音がする方向に銃を構えた。フローレスはアンテナの後ろにフルと共に隠れた。
「君がなぜここに居るのかは問わない」
すると次の瞬間悲鳴と共にと肉が引き裂かれる音が生々しく聞こえてきた。フローレスは冷や汗を流しながら唾を飲む。
すると崖の下から複数台の車が近づく音が聞こえてきた。
「フローレス殿。とにかく——」
「ちょうど増援が来たな。この子を保護してくれ」
「フローレス殿!? いや、増援が到着した次第前に進む。拠点にはまだ入るなよ」
フローレスはフルをイシュミルに保護をお願いして少し笑みを浮かべ親指を立てると走って銃声がする方向に走っていった。
林の中を進むとそこは凄惨な光景で、地面は足を踏めば音が聞こえるほど血溜まりができ、所々油を踏んだ感触が感じる。
辺りにはここを陣取って監視していた敵だろうかバラバラで地面に転がりおち、前が蜂の巣にされたのもちらほらいる。
こんな凄惨なところだが定期的に銃撃戦が起きているのが分かる。フローレスは口を覆い隠すとさらに奥に進み三十分ほど走って拠点を見つけた。
拠点はカブンナ遺跡と呼ばれる遺跡を少し小さくした程度で、中を見るとまるで要塞のようだった。
中からは銃声が響いて聞こえ、血生臭い匂いも一層強くなった。
「一体何が起きているんだ……」
「フローレス殿! ただいま到着しました!」
フローレスが振り返ると後ろにはイシュミルを先頭に五十人程度の部隊がいた。
「よし、それでは中に入るぞ」
フローレスを先頭に隊員たちは次々と中に入っていった。
拠点の中は異臭が充満し所々で退院のうち何人かが体調不良で外に運び出された。
廊下には体を両断された死体が無惨におかれ、階段には足がないしたいなど猟奇な殺人者が中にいるという恐怖が隊員たちを襲った。
フローレスはこの異常な空間でイシュミルを見た。
「未だに敵はいない。まずは人質の発見を急ぎ、無線を使用しましょう」
「そうだな。全員無線を付けてるな。これより各自分散して人質を探せ。もし危険人物がいれば戦わず無線で知らせ退却せよ」
「了解!」
隊員たちは返事をすると各々探索に向かった。一人は右へ、また一人は奥に進み、そして最後の一人は階段の上かしたかの具合で向かう。イシュミルはフローレスを見て肩を叩くと奥に進んでいった。
「——よし」
フローレスは微かに階段の下から聞こえる金属が擦れる音がする方向を目指して進んでいった。
探索を始めて数時間足らず無線では叫び声が聞こえてきた。
『あ、足が! 足がない人が助けを求めてます!』
『こちらには腹を引き裂かれた死体が!』
『か、顔がない! 顔がない死体が!』
その叫び声はどれも悲鳴が混じっていた。フローレスは少し無線を切った。すると前からカチャ、カチャと不気味な音がする。
フローレスは身構えた。すると次の瞬間前から鋼の剣がフローレスの前に現れたが難なく交わす。
そして続けて斬撃が繰り広げられ、フローレスはナイフで応戦した。
「誰だ!?」
フローレスがそういうと月の光が部屋を満たした。そこに現れたのは血をかぶって真っ赤に染まったワンピースを着た黒髪の少女だった。少女の右腕は鋼の義手で、刃はその義手から出ていた。
そしてフローレスは身構えた。なぜなら少女の目は充血し、不気味な笑みを浮かべていたからだ。
「——兄さん……。兄さん。兄さん。——兄さん兄さん兄さん!」
少女は再び刃で斬りかかったが、フローレスは少女の義手を掴むと隙間にナイフを差し込む。すると義手の外装が剥がれ、力がなくなったように動かなくなった。
「な!?」
少女は驚愕の顔をした。フローレスはその隙を見逃さず少女の顔を殴り、少女は威力の負けて遠くに吹き飛ばされた。
が、少女は体制を立て直しすぐにフローレスに飛びかかった。
「この程度ですか?」
「——」
フローレスは鞭のようにしなる義手をナイフで防いだ。すると少女は義手の方に触れて少し肩をあげるとガチャンと音が鳴り響いた。
「実はこれ、簡単に直るんですよ!」
少女は目をカッと開けるとフローレス目掛けて走り出し、フローレスは足を蹴ろうとしたが少女は飛び上がって斬りかかる。
フローレスは姿勢を低くして前にスライディングし発砲したが少女は銃弾を義手で防ぐ。
「兄さんを助けるのは私です!」
少女はフローレスの急所目掛けて刃で突く。フローレスは脂で滑りやすくなった床でなんとか刃を交わす。
刃物が地面に突き刺さり、地面に落ちていた何かの肉塊が避ける音が生々しく聞こえた。
「大体パターンは分かった……!」
フローレスは次々と繰り出される少女の斬撃を交わしていき、一瞬の隙を見つけると少女の義手を掴むと地面に押し倒した。
「抵抗はやめろ。もう無駄だ」
フローレスは銃口を少女の頭にくっつけた。
「そうですか?」
少女は腰から棒を取り出すとフローレスにくっつけた。次の瞬間フローレスの全身に電流が走る。
「くっ!」
フローレスは視界がぼやける。
「けどそろそろ限界そうですね。兄さんを助けたかったのですがお巡りさんが後はしてくれると信じましょう。それでは、裁かれてくださいね?」
すると少女は闇の中に消えていった。
フローレスは無線をつける。
「階段下に行くな! 重要危険人物発見!」
『了解! 階段の下を探索している隊員は即座に退却せよ』
フローレスは逃げることに集中した。
するといつの間にか目の前にあの少女が立っており、右腕をしならせてフローレスの首を狙って振った。
「くそっ!」
フローレスはゆっくりと立ち上がった。少女の顔にどこか見覚えがある感じがした。
「義手に黒髪……」
フローレスがそう考えているうちに隊員がやってきた。
「はぁ……はぁ……大丈夫ですかフローレス殿」
フローレスが後ろを見ると息を切らした数人の隊員がいた。
「すまない。人質はどうだった?」
「救助できました。ここに残っているのは我々と生存者の捜索をしている一部のみです」
「分かった。なら出よう。血生臭くて敵わない」
フローレスは隊員たちとともに拠点の外に出た。
拠点から出ると外には野営地が置いてあり、何やら騒がしかった。
するとどこからかイシュミルが大慌てでフローレスの元に向かった。
「フローレス殿!」
「どうかしましたか?」
イシュミルはフローレスの前に来ると息を切らしながらぽつりぽつりと話した。
「たった、今。——生存者が見つかりました。その男は外事課より要注意人物にされていた男……」
フローレスの背筋が固まる。それはまるでもうに土留めにもしなかったものが近づいているような存在に対しての恐怖の証でもあった。
「あ、今後ろにいます」
「——」
フローレスは振り返った。振り返るとそこには長身のエポルシア人と思われる老人の亡骸を担架で運んでいた。
フローレスはゆっくりと後ろに下がる。
「彼こそが外事課より言われていたエポルシア人民党軍部顧問……カーロング・アンドルフの遺体です」
「そうか」
するとイシュミルは生々しく血がべっとりとついた紙をポケットから取り出し、フローレスに渡す。
「一度目を通してください。もちろん今すぐにです。見終わったら一度こちらに持って来てくださいね」
イシュミルはそういうと持ち場に戻った。
「——ようやく死んだか……クソ親父」
フローレスはカーロングを見ながら紙を握りしめて誰にも聞こえない声で呟き、紙に目を通した。
——————。
石造の拠点の地下深くで女性兵士と戦闘を繰り広げたクラレットは奥に進んでいった。
「そういえばあの人もしかしたらフローレスさんじゃありませんでしたっけ? だとしたら厄介ですね。バレてなければいいのですが」
クラレットは少し心配しながらも走り進んでいった。すると目の前に数名の敵がいた。そのうちの一人は長身のエポルシア人だった。
「だ、誰だ貴様!?」
兵士が銃を向けた瞬間フローレスは長身のエポルシア人の男以外を有無も言わずに射殺した。
すると一人の威厳がありそうな顎髭を生やした老人が姿勢良くクラレットを見下ろした。
「——貴様、何者だ?」
「それはこちらのセリフです。あなたこそ私の大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。大好きな。——お兄様をさらってどうするつもりでしたか?」
長身のエポルシア人の老人はそれを聞いて嘲笑った。
「愚かな。貴様みたいな小娘に知る権利などない。大人しくここから立ち去るが良い!」
老人がそう言った瞬間フローレスは一気に詰め寄ると一瞬で老人の両腕を切り落とした。
老人は何が起きたか理解できてない顔を見たクラレットは笑みを浮かべた。
「兄さんを返せ。兄さんを返せ。兄さんを返せ。兄さんを返せ。兄さんを返せ。兄さんを返せ!」
クラレットは老人を縦に一刀両断した。
老人は腹から色々と落としてゆっくりと地面に落ちる。それを見届けたクラレットは老人の胸ポケットから紙が出ているのに気づき、取り出した。
「えっと——。
『我が愛娘は私を許すだろうか? 今日もまた汚れ仕事を請け負ってしまった。もうこの仕事には飽き飽きだ。早いところ亡命したいがいつになるかは分からない。それで今頃ケウトに亡命した愛娘は好きな服を着たり、好きな人ができたりと幸せな清潔を送っているだろうか?
彼女は我のことは永久に許さないはずだ。だが、我はお前のことを愛している。唯一の肉親として。
この紙は我が死ねば君に届くはずだ。もしできるのなら、これと一緒に君が小さい時にくれた宝物と一緒にならもっと嬉しいだろう。
ヘリアンカ様。もし許してくれるのなら愛娘に会わせてくれ』……ですか」
するとクラレットは目から涙がこぼれ落ちる。次の瞬間家族を事故で失われ、大声でなく自分自身の姿がフラッシュバックする。
クラレットは目を拭った。
「ま、まるで私が悪人みたいじゃないですか。いえ、私には……私には兄さんがいればいいんです!」
クラレットは冷徹な目を老人に向けると紙を折りたたんで懐に戻した。すると後ろから靴音が聞こえた。
「そろそろ来ますか」
クラレットはした唇をかみしめて拠点から脱出した。
拠点から脱出したクラレットはすでに当たりが警察に囲まれているのが分かった。その時クラレットは既に兄エリオットが救出されたことを察してフルの元に向かった。
しかし、フルは既に警察に保護されていたためアンテナの下にいなかったが、近辺に隠したキャリーバッグから普段着を取り出してそれに着替えた。
「よし、あとは自然にお巡りさんの前に現れて妹というだけです」
クラレットは静かにそう呟くと警察が出入りしているテントに向かった。
警察はクラレットに気づくと一度睨んだ。
「なんだ君は! どこから来た?」
クラレットはゆっくりとお辞儀する。
「兄が在籍している大学より誘拐されたよと連絡があったのです。その後ご友人からここで見つかったと伺ったので大急ぎで馬を走らせました」
「ん? そうなのか?」
警察は疑心暗鬼の眼差しをクラレットに向ける。
「分かった。おい、被害者と会わしてやれ」
「はい。お嬢ちゃん。こっちにおいで」
クラレットは一人の若い警察と一緒にエリオットが保護されているところに向かった。
その保護された場所は車の中でそこには乾パンをかじるエリオットと紅茶をのんびりと飲んでるフルの姿があった。
クラレットは少し苛立ったが表には出さなかった。
「兄さん! 大丈夫ですか!?」
「うん。大丈夫だよ。こっちこそ心配してくれてありがとう。だけどどうして君たちがここに?」
エリオットは首を傾げた。
「えーまぁ……勝手に捜索してたらたまたまビンゴだったオチ」
フルはバレバレな嘘を吐いたがエリオットは「本当にフルは賢いね」と驚いた口調で返した。
「兄さん。それはともかくどうして誘拐されたんですか? 何もされませんでしたか?」
クラレットは前のめりになってエリオットに顔を近づけた。エリオットはクラレットを少し離す。
「何もされてないよ。むしろちょっと魔道具について聞かれて間違いだったという感じで口止め料を貰って家まで送ってもらう感じだったんだ」
「——え?」
殺人鬼は一瞬固まった。がすぐに落ち着いて息を吐いた。
「魔道具で取り合いなんて、兄さん。何もしてないですよね?」
「してないさ。ね、フル」
エリオットはフルに投げかけた。
「そうね。別にそんなトラブルなんて聞いてないわよ」
フルの言葉を聞いたクラレットは少し安心した。エリオットが乾パンを飲み込むと腕を伸ばした。
「とにかく早いところ帰ろう」
車の中では三人のほのぼのとした空気が充満した。
翌日、カンナが指導教員とともにウルクへ向かったことをフルはヨカチから聞いて知った。




