21話 影の王
フルはカンナの気持ちを考えず自分の思いだけを一方的に押し付けた。その結果カンナとの仲を引き裂いてしまうことになった。
しかし、エリオやヨカチたちそしてフルとカンナの二人によって一応仲は以前ほどではないにせよ修復することができた。だがまだ完全に溝が埋まったわけではなかった。
そんな頃一人の男がヘリアンカ神殿へと向かっていた。
「ガナラクイ、もう着くぞ。だいぶ歩いたからな」
「そうですね。私は少しも疲れていませんがトゥサイ殿が疲れているなら休んでもいいですよ」
トゥサイがガナラクイの目をしっかりと捉えた。
「何を言ってるんだ。この程度で疲れるわけがないだろう」
トゥサイは当然のことを何故聞いているのかと不思議そうな顔をした。
「トゥサイ殿を気遣った私が馬鹿でした」
ガナラクイはやれやれと肩をすくめた。
「そんな顔してたらせっかくの美人が台無しだぜ?」
「美人と言われると本来なら嬉しいものですが、トゥサイ殿に言われると複雑な気分になりますね」
クスクスと笑いながらガナラクイが言う。
「そうそう美人はそうやって笑っていなくちゃな!」
トゥサイとガナラクイの二人はヘリアンカ神殿へと任務のため足を運んでいた。トゥサイは高密度の魔結晶を除去するために、ガナラクイはその護衛として派遣されていた。
「私が護衛するまでもなくトゥサイ殿一人で全て事足りるでしょうに。上層部は心配症ですね」
「いや、案外俺は信用されてないのかもしれんぞ」
「何を言いますか。貴方の戦闘センスは目を見張るものがあります。上だってそれを見越しているからこそこの重要な任務にトゥサイ殿を遣わしたのでしょう」
「お! そんなこと言ってくれるとは嬉しいね! だが、任務に私情は挟むべきではないな」
「そうしてくれると嬉しいんですけどね」
ガナラクイは呆れ顔でトゥサイを窘めた。
特に意味がない冗談を言っているうちに二人はアーセ山を登りヘリアンカ神殿の目の前にたどり着いた。
「ここでカラクリ師たちと落ち合う手筈なんですが、見当たりませんね」
ガナラクイはキョロキョロと首を振って周りを確認する。人影は見えず山からの満点の星空が見えるだけだった。
「ガナラクイが大声で呼んだらその美貌に釣られてすぐに来るんじゃないか?」
「そんなことで現れるなら苦労しませんよ」
ガナラクイがトゥサイの子供じみた発想にふっと笑みをこぼす。
「しかし、予定の時刻まであと数刻しかない。現れなかったら仕事にならないな」
「まあ、そうですね。カラクリ師がいないと魔結晶の除去が出来ませんからね」
神殿の柱の陰に黒いローブを被った人物が立っていた。存在感がほとんどなく夜に黒いローブを身にまとっているため闇と同化して一目ではわからなかた。
「おいおい、いるなら声かけてくれよ」
ローブの人物はむすっとした顔をしていた。ローブで顔がよく見えないことも相まってとても暗い印象がする男だった。
トゥサイはその男をよく観察する。真っ黒なローブを被り髪は肩あたりまで伸ばしている。目は暗く淀んでいて目の下には隈がある。
「俺はトゥサイだ。今回の任務にあたりお前と協力して魔結晶の除去をする者だ。よろしく頼む」
その人物はトゥサイを睨みつけるだけで一言も喋らない。この男が着ているローブにはカラクリ師の紋章が入っている。そのため今回の任務に同行する人物はこの男で間違いないのだが、一言も口を開かないため中々任務に移行できずにいた。
トゥサイにはこの男が全く心を閉ざしているように感じた。世界全てを恨んでいるかのような陰鬱さがローブの下から滲み出ていた。
この男が口を開くと思えなかったトゥサイは諦めて隣の女性の紹介をすることにした。
「こっちの美女はガナラクイだ。今回の任務には護衛として同行してもらっている。」
説明をしただけなのだが、先ほどよりもイラついているようにさえ見える。それに並行してトゥサイにガナラクイのジト目が突き刺さる。
男の口角がさらに下がったと同時にガナラクイの心にあるトゥサイへの好意メーターも下がったようだった。
「説明にあずかりました、ガナラクイです。以後お見知りおきを。貴方の名前はシャード、シャード・マリシュディンですね?」
男はガナラクイをちらっと見るとすぐに目を逸らした。目線を下にしながら何やらぶつぶつ言っているようだがトゥサイには聞き取れなかった。
「いいか、暗い性格なのは十分わかったが返事くらいしないと意思疎通ができない。せめて頷くくらいはしろ」
トゥサイはシャードと呼ばれた男に注意を促す。数々の死線をを潜り抜けてきたトゥサイにはコミュニケーションがいかに大事か身に染みて理解していた。しかし男はその直後チッと舌打ちをしただけだった。
「おいおい、何舌打ちしちゃってんの! そんなんじゃ先が思いやられるな」
男がトゥサイを一瞬睨みつけるとすぐに視線を下にした。
埒が明かないと思ったトゥサイはシャードという男を正すのは諦めて今回の任務の説明に移った。
「聞いてると思うが今回はヘリアンカ神殿にある魔結晶の除去を行う。実際に中に入るのは俺とお前だ。ガナラクイは神殿の入口で怪しいやつがこないか見張りをしてもらう」
ローブの男はぶつぶつと何かを言っているようだったが気にせず説明を続けた。
「極力目立たないよう行動するが、戦闘になることもあるかもしれん。その心づもりはしておけ」
男はトゥサイのことを一度も目を合わすことなかった。聞いているかいないのかガナラクイには分からない。この男で大丈夫なのかと不安になってきた。
「トゥサイ殿、この男で今回の任務が務まるのでしょうか。私にはこの男の態度が任務に不適格だと思われます」
ガナラクイは男に聞こえないように耳打ちした。
「態度がどうとか今更どうしようもないでしょ。こいつじゃ不安だから明日にしましょってわけにはいかない。俺たちはただ任務を遂行するだけだ」
トゥサイから正論を返されてガナラクイは黙る。返す言葉を探すも何も見つからず眉をひそめることしか出来なかった。
トゥサイはライトを取り出しとシャードと呼ばれたカラクリ師はヘリアンカ神殿へと入っていった。夜だということもあるが、そもそも光が届かないため中は明かりが一つもなく何も見えない。
「おい! シャードさんよ! 今回の任務にあんたがどんな思いを抱いているのかは知らねえが、帰ってもらってもいいぜ。やる気がないなら邪魔なだけだ」
ローブの男は口を開けない。
「嫌々なのはお前さんの態度からわかるがこれは任務だ。任務ってのはチームワークが大事だ。俺はお前さんを魔結晶のところまで連れて行くが、それにはお前さんを守らないといけねえ。少しでも安全にあんたを運ぶには信頼関係を築く必要がある」
カラクリ師のほうを向いて続ける。
「そうでないといざって時に守れないかもしれないからな」
カラクリ師の男は何も言わずにトゥサイの後を下を向いて付いてくる。
「こりゃ、無理だな」
何の反応も示さないトゥサイは男とのコミュニケーションを諦めた。何もなくただひたすらに足を進める。トゥサイは何も話さないこの男の空気間に内心イライラし始めていた。
そんな時だった。
「待て。何か音がする」
奥から微かに音がした。カラクリ師は気付かなかったかもしれないが、トゥサイの耳はしっかり音を捉えていた。
「お前はここで待て。俺が見てくる。絶対に動くなよ」
トゥサイはライトの明かりを最小限にし、音がした方へ進む。
「誰だ?」
そこには数人の若い男たちが明かりを中心にして座り込んでいた。しかし、彼らはただの観光客ではないとトゥサイにはすぐに分かった。普通の観光客ならこんな真夜中に観光に来るとは思えない。さらに一つ観光客とは決定的に違う点があった。彼らは皆、武装していた。
トゥサイはそれを見てしまったと思った。まさか、先に神殿内に潜伏している連中がいるとは思わなかったのだ。
もう少し急いで真っ直ぐ神殿に向かっていたら武装してた者たちが着く前に神殿に侵入することが出来たかもしれなかった。
「過去のことを悔やんでも無駄だな」
トゥサイは過ぎたことは気にせず今目の前のことに集中する。
「ただの神殿荒らしか。まさか、反帝国連盟の奴らか、それとも別の組織か。考えるのは後にするか。捕らえて聞けば済む話だしな」
トゥサイは敵がこちらに気づいていないことを確認すると、自分のことを悟られないように明かりを消して一気に近づく。
目の前に急に現れたトゥサイに男たちは一瞬たじろぐ。トゥサイはその一瞬で敵の分析をした。
「数は5人。武器は腰にあるライフル銃だけ」
一番早くトゥサイに反応した男が腰の銃に手をかける。しかし座り込んでいたためトゥサイの攻撃を避けられない。
トゥサイはその男が銃に触れる前に鉄拳を顔面に食らわせた。
「まず一人」
すごい勢いで吹き飛ぶ仲間を見て残りの男たちは急いで立ち上がる。
「そうこなくっちゃな」
トゥサイは右手の親指で小石を弾く。石は一寸も狂わず一人の男の手に直撃した。男はその衝撃で銃を床に落とす。
その隙をトゥサイが見逃すはずがなく綺麗な横蹴りをお見舞いする。
「残り三人」
一瞬にして2人もやられた男たちは大慌てで銃をトゥサイに向けるがその場所にはトゥサイは既にいなかった。どこにいるのかと辺りを見回そうとしたがいない。はっとして下を向いた。
トゥサイはしゃがみ込み懐に潜り込んでいた。そのまま華麗にアッパーが顎に入る。
「よし、あと二人」
トゥサイが次の男に目線を合わせる。すると何かおかしなことに気づいた。それは小さな違和感だった。
「何かおかしい、なんだ」
トゥサイの脳が理解する前にその圧倒的な戦闘センスによって先に体が動いていた。トゥサイは後ろのカラクリ師に体当たりしてギリギリで弾を避ける。
「危ねえ!」
トゥサイの感じた違和感とは敵の目線であった。二人の残った敵のうち一人はトゥサイの方をしっかりと怯えた目で向いていた。
しかし、もう一人の視線はトゥサイを捉えていなかった。トゥサイのもっと後ろを見ていた。その視線の先にはシャードというカラクリ師がいた。
「何やってんだよ! 死にてぇのか!」
トゥサイはローブの男を怒鳴りつめる。怒鳴られた本人はトゥサイのことなど目もくれず残った男のうち銃を向けてきた相手を見つめていた。
「ッチ。マジでそこ動くなよ」
トゥサイは何故カラクリ師がここにいるのかではなく、トゥサイではなく何故カラクリ師に銃を向けることが出来たのかを考える。
目の前で仲間を殴り飛ばされている中で目の前の脅威となるトゥサイよりローブの男を撃とうとした。それはトゥサイに勝てると思っているため脅威だと見なしていないからの判断なのか。
「そうじゃねえ」
先の男からは強者が持つ特有のオーラを感じられなかった。どんな者にもトゥサイと同レベルの強さを持つ者には似たような気迫がある。もっともトゥサイと同等の強さの者などそうそう会うことはなかったが。
そうなると一つしかない。覚悟だ。あの男の目からは尋常じゃない覚悟があった。
それはまるで目的のためならば自らの命を捧げることなど厭わないかのようだった。
「面倒だな」
トゥサイは経験上この手の相手が一番厄介であると心得ていた。
「ただ力が強いだけの奴や権力を持っているだけの奴ならやりようはいくらでもある。だが、強い信念を持っている奴はそうはいかねえ」
絶対の覚悟を持つ者は持たない者と決定的に違うことがあった。それは手段にある。どんな犠牲を伴っても目的を達しようとするその行動には時に人の想像を軽々と超える。
二人いるうち怯えていたもう一人の男を見る。先に倒すならこの男からだと考えたトゥサイは男に距離を詰める。
ガタガタ震えながらその男は急いで銃口をトゥサイに向けていた。もう一人の男も同様にトゥサイに銃を向ける。
トゥサイは壁に右足を掛けると一気に壁を蹴った。その動きについて行くことが出来ず震えていた男は迫ってくるトゥサイに対処できない。
そのままトゥサイは飛び膝蹴りを男の顔面に叩き込んだ。
「残るは一人だが」
最後の一人の男が異常な目つきでトゥサイを睨みつけている。
「おそらく、あいつでは俺に勝てない。そうすると先のカラクリ師を狙ったのはせめて一人でも道連れにしようって魂胆だったんだろうな」
トゥサイは少しでも油断を誘おうと敵に聞こえるように言う。銃口を向けた男にゆっくりとトゥサイが近づく。
パン。パン。パン。パン。
男が立て続けに4発の発砲をした。しかしどれも狙いは出鱈目でトゥサイにはかすり傷すら付かなかった。それどころか、その4発は不運にもトゥサイに倒された男の仲間に一発ずつ当たっていた。
「致命傷だな。残念だがもう助からねえ。まさかここへ来てやけくそに発砲してくるとは」
トゥサイは少し以外だった。この男のような覚悟を決めた相手は無謀なことはしないからだ。
「こういうタイプは無茶しない。…いや、まさか!」
その男はトゥサイを睨みつけたままその銃口を自分の口に向けた。
「クソ!」
トゥサイはその意図に気づくと止めようとする。その男は適当に銃をぶっ放したわけではなかった。
トゥサイに勝てないと知っていたから敢えて仲間を撃ちとどめをさした。
パン。
乾いた音と共に男の首の後ろを銃弾が貫通した。床は赤く染まっていく。
「まさか、俺に勝つ方法ではなく自分たちが敗れたあとのことを考えていたとはな。俺たちに目的を聞かれるくらいなら味方も殺して自分も死ぬ、か。こりゃ、俺の負けだな」
トゥサイは倒れて動かなくなった死体を見ながら呟いた。
トゥサイたちは男たちの正体を聞くことが出来なかった。死体をそのままにしておくのは忍びなかったが今は先を急ぐことが先決だと考え足を進めた。
「お前、何でこっちに来たんだ。俺は待ってろと言ったよな?」
トゥサイは危うく撃たれそうになったカラクリ師の胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「また、だんまりかよ」
今までと同じ態度を貫き通す男に嫌気が差しトゥサイは男を突き飛ばす形で解放した。男が何やらぶつぶつ言っているようだがトゥサイは気づかないふりをした。
「次に俺の言うことを無視したら助けねえからな」
返事がなかったが無視して先へ行く。
遂にトゥサイは魔結晶のある場所までたどり着いた。そこは開けており小さな広場のようだ。
「おい、ローブ野郎。早く魔結晶を取れ」
トゥサイは苛立たしげに命令した。
男はトゥサイに言われるがまま魔結晶を取り出そうとする。魔結晶を手に取ると突然地面が揺れた。
「なんだ、罠か」
トゥサイは警戒し、全神経を集中させる。すると地面から機械を模した像が現れた。その像は合わせて3体あり3メートルを超える大きさだ。そして今にも動き出しそうであった。
「なんだこれは?」
トゥサイはこの像が何なのか確かめようと一歩近づく。するとそれを待っていたかのように像が突然動き出した。
4体ある機械像のうち1体がトゥサイではなくカラクリ師の方へ跳躍した。男が魔結晶を取り出そうとしているところに機械像は容赦なく横っ腹に鉄拳を食らわせる。男は横に吹き飛ばされた。
「まぁ、死んではないだろ」
それを冷ややかな目で見ていたトゥサイは先ほどよりもハードになりそうだと思う。リュックを脇に置き戦闘態勢に入った。
残りの2体もそれに合わせるように動き出した。
「やっぱりな。一体なわけないと思ったぜ」
トゥサイは目の前で動く異形な機械の像を前に気合を入れ直す。3体の内の一体が左腕をトゥサイに突き出した。トゥサイは手に持ったランプを横に投げ捨て急いでその場を離れる。
ライトが落ちた途端に壊れ、暗闇が広間を支配した。と同時に一筋の光がトゥサイが居た場所を的確に狙い撃つ。
機械の像は左の手から光線を放ったのだ。床にはしっかりと焦げ跡が付いていたが再び暗黒が訪れたためトゥサイは確認できなかった。
「ビームが撃てるとは聞いてねえぞ」
ライトが壊れてしまい、一切見えなくなった。今までの戦闘で培った直感で頭をずらす。鼻先を何かが掠めた。それは機械像の腕に違いなかった。
「くそ、こっちは見えねえのに向こうはばっちり見えるのかよ」
トゥサイにはその仕組みは分からないが、今の攻撃の精度からして見えているとしか思えなかった。
「これはまずい、一旦引いて立て直すか」
トゥサイがローブの男が吹き飛ばされた方角に走る。男を拾ったらすぐに脱出するつもりだった。
男はそこでじっとしていた。吹き飛ばされて壁に叩き付けられたのにも関わらず何事も無かったかのように突っ立っていた。
「…きた」
男が何か呟いた。
「こっからは俺の領域だぜ!」
男が急に大声をあげた。
「うわぁ!」
あまりに唐突の出来事にトゥサイが驚きのあまり声をあげてしまう。
「おらよ」
男はトゥサイに何か渡した。それはゴーグルのようだった。トゥサイはゴーグルを掛けてみる。
「なんじゃこりゃ!」
一気に視界が開ける。闇が晴れた。ゴーグルのおかげで敵の位置が丸見えだ。
「これならいける」
トゥサイは機械の像に突進していく。それに合わせて像が腕を横に薙ぎ払う。しかし、トゥサイはその腕に乗り像の頭に手をつき軽々と飛び越えた。そして頭後ろ部分にナイフを突きさし、足で押し込む。機械像は動きを止めた。
「まず一体だな」
次は、トゥサイが見ると既に残りの2体は横に倒れていた。
「お前、何者だよ」
「俺は影の王! シャード様だ! 俺を敬え」
トゥサイは先ほどまでとのあまりの変わりように叫ぶ。
「キャラさっきと違くないか!」
「俺は真の闇に生きる男。光がある所で力は振るわん」
「えっと要するに、つまりお前は暗いところでは中二病になり、明るいところでは全く話せないと」
「なんだと殺すぞ!」
シャードはトゥサイに怒鳴り殴りかかろうとする。それを見越していたかのようにトゥサイはリュックからもう一つのライトを点ける。
「大人しくなったか」
明かりによってシャードの性格が変わることが分かったが今は任務中だと気を引き締め直す。
「任務でなけりゃライトで遊んでやりたいところだが、今は魔結晶を回収するぞ」
トゥサイはシャードのことを理解した。シャードは明かりが極端に怖く昼間や少しの明かりがあるだけで何もできなくなる。しかし、辺りが闇に包まれると中二病全開になり活発になる。
どんない暗くて目が使えなくてもシャードはその中を自由に動くことが出来た。それはシャードの才能だった。音や匂い、肌が感じる風などから暗闇でも完璧に把握することができた。
さらにローブの下には魔結晶が使われたスーツを着用していた。銃弾を弾くほとの強度があり、その腕から繰り出される拳は石をも砕く。その力によって機械像をなぎ倒していた。
「まさか、お前があのとき来たのはローブの下にそんなもん仕込んでたからとはな。自分の身を守れるなら早く言え」
シャードの背中をばんと叩く。
「うるっせえ。着易く闇の王である俺に触れるんじゃねえ!」
シャードはトゥサイに暴言で嚙みつく。
「分かったから早く取り出せ」
シャードは機械像から魔結晶を器用に取り出した。
「これで今回の任務は完了だ。戻るぞ」
「いちいち影の王である俺に指図するな」
「お前その設定めんどくさいな」
トゥサイの言葉に耳を貸さないといったようすでシャードはさっさと来た道を戻って行った。
トゥサイたちが神殿から帰ってくるとガナラクイが律儀に出迎えた。
「こちらは異常はありませんでした。トゥサイ殿は魔結晶を回収できましたか?」
「ああ。この通りだ」
トゥサイの手には淡く光る魔結晶が握られている。シャードはというと星の光に当てられて初めに会ったときと同じ無口に戻っていた。
「実はな、中で戦闘があった。全員死んだが組織に連絡する必要がある」
「反帝国連盟ですか?」
「断定はできんが、おそらくはそうだ」
「どこかで情報が漏れたんでしょうか? いや、偶然居合わせたと考えるべきですね」
ガナラクイは真剣な面持ちでトゥサイを見つめる。その目には裏切り者は組織に居るはずがないという絶対的な確信があった。
「ああ、詳しいことは上層部の判断に任せよう。これが災禍の前兆などではないといいんだが」
トゥサイは遠くの星を見上げながら独り言のように呟いた。トゥサイたちの間を夜の冷たい風が吹き抜ける。その様子をただ静かに星々が照らしていた。




