12話 天空里のクッツオ
カンナが入院しているフルはカンナのベッドの上に座り、先日ヨカチとのカブンナ遺跡での調査報告を伝える。
カンナはフルからの報告を相槌を打ちながら聞き、フルの言葉を聞いてどこか気になったのか、意味ありげな顔をし、フルはそんなカンナの顔を見逃さなかった。
「カンナ先輩? 何か気になるところありましたか?」
「気にしないで。フル。そ、れで。詳しい、話し。あ、るでしょう?」
フルはカンナの様子を見て多分大丈夫だろうと一旦胸の奥で思っておくことにした。
「そうなんです! 説明した通りなんですがどうやらアンリレにまつわる秘宝の近辺にはどう言うわけかヘリアンカについての記録が沢山あって。それを集めるとヘリアンカのことを知ることができると思うんです! これは絶対卒業論文でも使えますよね!」
フルは堂々と大きな声を出す。それを聞いてカンナはフルの口元に人差し指を当てた。
「声、迷惑」
「あ、すいません」
フルは顔を真っ赤に周りを見た。
そもそもこの部屋自体個室だから迷惑ではないと思うが、もしかしたら壁が薄いのだろうとフルはとりあえず納得した。
「そ、れなんだけど。大学、どうする、の? み、つかるまで、何年?」
「——あ」
「フルは、まだ、一回生。そ、れに。この時期に、休学。少し評価が——」
カンナは心配そうな目を向ける。
それに合わせてフルは肝心な部分を忘れていたことに気がついた。
なぜならアンリレの秘宝は昨日のモラモイノの民が話すにはカラクリ師が持ってきて、現地に住んでいたリアート人にお願いしてどこかに納めたと伝わっている。
そのためどこかにおいたとしても伝承を探らないと場所の特定が不明なのと、問題なのはケウト帝国のある部族の伝承であって、さらに遊牧民の時点で風の噂のように実は遠い場所での話の可能性があるのだ。
こんな感じだとカンナが言ったように大学生活が終了しても見つからないほどとんでもない年月のはずだ。
——そんなことをフルは考えた。
「フル?」
「いえ、その問題を解決する手段は一つあります!」
フルは興奮気味に話し始めた。
「ふと思ったんですがリアートにはかなりの商人が来るはずです。そこでその商人たちと親交がある人を頼りに商人と接触して遠方に伝わる話を知っているか? もしくは著名な考古学者がいるのか。それらを聞けばいいと思うんです! それを元に調査していく感じです。もちろん、チームを組んでです」
「フル」
カンナは真剣な圧のこもった声をフルにプレゼントする。その声が耳に入ったフルは一瞬ぎこちなくビクっと反応し、口を静止した。
「はい。ナンデショウカ?」
「い、まね。何度も、話すけど。大、学は。今休学。し、市外へは経済かく、活動以外。制限なの」
「そ、そうだったー!」
フルはベッドから降りて頭を抱えた。
よくよく思い出せば今リアーと市街へ行くのはかなり制限されているし、もし商人が紹介した人に連れて行った場所が完全に犯罪者の基地であったらその場に居合わせやフルはかなり怪しまれる。
もう一つは今まさに戒厳令でいつ解除かは不明だ。
フルが考案した内容は起承転結の起承の時点でとっくに破綻していた理論だったのだ。
しかしカンナは別にフルのことは軽蔑した目では見ず、まるでお姉さんのような雰囲気でフルをじっと見つめた。
「だけ、ど。大学から、書類来た」
「あ、それいつ来たんですか?」
「フルが、来る少し、前」
「あー入れ違いな感じだったんですね」
カンナはゆっくりとフルに大学からありがたく届いた書類を渡した。
フルはカンナの心をすぐに理解し「わかりました!」と元気いっぱいな声で返し、読み上げた。
「キタレイ大学はこの度の戒厳令発令及び、皇帝陛下からの勅令に伴い学生諸君らの学業を制限し、学問の平等に反しないための処置。そして、学生諸君らの安全を確実なものとするべく以下の条件のもとでの学業を許可する。
・授業再開は一ヶ月後。
・部活動は戒厳令解除までは治安維持の観点から地方政府及び大学からの許可が必要。ただし恐怖のもとでの労働者の自由を謳う団体。それから過激な信仰心を持って他民族を冒涜する団体の許可は行わない。
・研究は大学側が把握している範囲内であれば、戒厳令中でも担当教授の許可があれば大学内での作業は可能。ただし、在住している市外での研究の場合は同行者が必須。そして研究目的の調査は軍及び警備員による監視の下行う。
キタレイ大学理事長 ブダクザヤ・エサック
って、行けるじゃないですか。教授の許可があれば」
フルは長々と書かれていた文章を読み終えてホッと一息をつく。簡単にまとめると大学が再開するのは一ヶ月後。しかし、それ以降も治安維持の観点から研究や部活動は制限する。
研究とは言ってもカンナの研究はヘリアンカの遺跡を調査をするだけだし、やましいことなど見られないだろう。
少なくともヘリアンキ自由信徒軍と同列に見られそうなだけどとフルは内心思った。
そしてカンナを見るとすでに見ていたのか、先程のカンナの行けないと言うのは冗談だとフルは気づいた。
フルは頬を膨らませながら髪を耳にかけて書類をカンナに返した。
「そんな感じのことが書かれていましたよ」
「ありがとう」
「研究は多分許可おりますよね? ヨカチ先輩も良いみたいと言っていたので」
「うん。次、行く場所はね。天空人が、住んでる、村。そこ、は。リアートから南にあるアーセ山に、あるの」
「アーセ山に天空人の村があるんですか?」
「小さ、い。村。クッツオ村。」
「ふむふむ。ですがアーセ山は確か大陸名山で世界で一番高い山ですよね? 確かリアートの南西でしたっけ? 一応留学前に地図で見た記憶はあるんですよ」
カンナは心なしか嬉しそうに頷く。
「うん。わ、たしも。行きたかっ、た。けど、目が、見えなく、て。無理、だった」
カンナは少し悲しい声を出しながら言う。
アーセ山はフルは本で読んだ情報のみでしか知らないが、標高は大陸で一番高く、斜面が急で並の人間がいくと死亡率がかなり高く、フルはもちろん雪山など登っていないしもし登ったら一合目でも生きれるか怪しいほど登山経験がないのだ。
だが登る手段は他にありそうだとフルは頭を回す。
ともあれフルはこれもしかしたら自分が行かされる恐れがあるのではと冷や汗を流すが、悲しいことにカンナは希望に満ちた表情をフルに向ける。
フルはそのカンナの気持ちを自分は登れないから代わりに行ってと受け取った。
「——はい! 任せてください!」
フルはカンナの希望、夢を叶えることを引き換えに自分の命を捨てることにした。
フルはカンナにまた明日と告げ、マトミの家に帰った。
フルはマトミに帰って来たことを伝えると自室に戻り、机にうつ伏せになって足をバタバタさせた。
「あー! 何でこのお願い受け入れちゃったのよ!? バカバカバカ!」
フルは本棚に置いてあるケウト帝国の地図をとってアーセ山周辺を見る。アーセ山の近辺は山岳地帯で、地図を見るとアーセ山の麓に天空人のクッツオ村を見つけた。
「——このクッツオ村がそうよね。どうやって行くんだろう? それにリアートからは余裕で三日掛かるし、一人で行くのは不安ね。——あ、誰かにお願いして同行してもらうかな」
フルは犠牲者を増やすことを決意した。
次の日、明るい朝日が入り込むフルの部屋は色々とメモが書き記された紙が散らばっていた。
フル本人は紙に埋もれて椅子に座ったまま寝て、当人は朝日に気がついたのが目を開けて体を伸ばす。
耐え難い痛みが走るのを我慢してゆっくり立ち上がり、洗面所で顔を洗って紙を整え、荷物を用意して外に出る準備をした。
今からフルが向かう先はエリオットの家だ。
その前に、フルはマトミの所に向かった。マトミは今日は休みなのか、ソファーの上でくつろいでいた。
フルが近づくのを確認すると目をゆっくりと開け、顔を合わせた。
「どうしたの?」
「突然ですがマトミお姉様はアーセ山に登ったことはありますか?」
「アーセ山? ないけど弟は登りましたね。って、それがどうかしたの? もしかしてまたあたしに隠していけないこと考えてる?」
マトミは少し怖い笑みをフルに向けた。
「あ、そうじゃなくて……。カンナ先輩の研究に協力で向かうことになったんです。ですけど行き方がさっぱり」
「あーそう言うことね」
マトミはそう言って子供みたいに少し唸り声を出しながら頭を回す。そしてまとまったのかゆっくりと話し始めた。
「行き方は知っているけど、登るのは知らないわ。確かちょっとややこしかったって弟から聞いたけど」
「ふむふむ。ついでなんですかその弟ってトゥサイさんですか?」
「ううん。違うわよ。トゥサイの二個下の弟」
「——もしかして兄弟たくさんいます?」
フルのその質問に、マトミは何も答えず優しい笑みを浮かべるだけだった。
マトミから情報を手に入れたフルはケイオスのエリオットの家に向かった。
電車は運良く運行が再開されており、ケウトのインフラ整備がいかに進んでいるのかをフルは実感した。
フルは今度こそは財布を取られまいと周りの通行人に警戒しながら歩き、駅から10分ほど歩いてようやくエリオットの家に到着した。
フルはエリオットの家の綺麗なドアをノックした。数秒もしないで開き、エリオットは扉を開ける。
多分フローレスがこじ開けたことがトラウマになっているのだろう。
当のエリオットは少し驚いた顔をフルに見せた。
「こんにちはエリオ」
「あ、フル。どうしたの?」
「ちょっとカンナ先輩関連で話がね……」
エリオットはフルが遠い目をしているのを見て大体のことを察して笑みを溢した。
「まぁ、外は寒いだろうし中に入ってよ。クラは今お使いに行ったばっかだしゆっくり聞けるよ」
「そう、ありがとね」
フルは家の中に入り、リビングに案内されて椅子に座った。
エリオットはお茶を入れ、フルの前に置くとフルの正面に座り、目を見た。
「で、カンナ先輩がどうしたの?」
「エリオってアーセ山行ったことある?」
「いや、ないけど。それがどうかしたの? もしかして登れって言われたの?」
「そうよ。アーセ山にあるクッツオ村って言う天空人の里に行くんだけど、そこへの行き方が地図に載ってないからわからないのよね。それに一人だとちょっと不安というか、護衛としてエリオに来て欲しいなって」
「うん。なるほどね。確か僕の友人で行った人がいるからその人に道のりとか聞いてこようか?」
「え、良いの!?」
フルは前のめりで目を輝かせながらエリオットに顔を近づける。
「うん。なんだかんだとてもカンナ先輩とフルには世話になってるからね。あと大学が一ヶ月もないし暇だしね」
エリオットは笑、フルもそれに釣られて笑った。
「僕は行っても大丈夫だけど、クラも連れてって良いかな? やっぱり可愛い妹を一人残して置いてけないしね」
「妹さんの学校も休校なの?」
「うん。昨夜にフルが言ってた反帝国連盟のメンバーが一斉に検挙されて一部が暴動未遂を犯して、さらに同時刻に犯行予告。だからキタレイ大学の一ヶ月休学じゃなくて年を入れてみて一週間休学なんだ」
「ふーん。うん。カンナ先輩に来てみるね」
「それは良かった。ありがとう」
エリオットはお茶を啜る。
アーセ山に向かう犠牲者は二人増えてエリオットとクラレットが追加された。
フルはクラレットが帰宅する前にお茶をさっと飲み、エリオットの家を後にした。
それからフルは道中、ケイオスで割と大きい商店街の中に堂々とある書店に立ち寄り、登山指南書を読む。
その中で何冊か候補を決め、一番予算がかからなそうな物を選ぶ。装備などは母親からの仕送りで何とかとフルは考えたが、そもそもここに売っているのか疑問に感じた。
「まずないのが驚きよ。あの村はどう考えても登山して道中立ち寄る感じなのに。もしかしたら別の行き方があるのかも」
フルは本を棚に戻し、書店を後にする。
フルはケイオスの地図をみて百貨店の位置と、現在地を確認した。
「百貨店はここから北に20分。で、現在の時間が13時か。そういえば昼ご飯食べてないわね。お腹すいたけど今日はどっちにしろお金はそんなに持ってないし買えないか」
「あら、奇遇ですね」
フルの首筋に鋼色に輝く突起物が当たり、そして耳には殺気立った鬼の怨念に包まれた言葉が入ってきた。
声色は少し幼い少女で、それもフルにとってはキオ樹から抜けることができない声。
雪化粧で白くなっている建物がこの冷たい空気を完璧に表現していた。
「あークラレットさん?」
「覚えていたんですか。では死にます?」
「うーん。ちょっと冥土の土産を取ってからで良いですか?」
「兄の貞操と言ったら首が飛ぶより悲惨ですよ?」
フルとクラレットは感情のこもっていない渇いた笑い声を出す。フルとしてはまだ死にたくないため、エリオットにした行動に胸に手を当てて考えたが一点も出てこない。
そこで出たのが助命懇願だ。
「生きて、良いですか?」
「——まぁ、別に殺す気はないのですが。そんなに死にたくて? ではこの世の名残りとして一言話す権利をあげます。さぁ、早く」
フルは優しい笑みをし、ゆっくり振り返ってクラレットの顔を見た。
フルがみたクラレットの顔は一昨日エリオットの家に訪問した時のと比べて化粧をしているからか少し顔が大人びて見える。服は橙色を基調としたケウトの伝統衣装を来ていた。
「さぁ、早く——」
「ついさっき本当にエリオの家に行って二人きりになってすいませんでした!」
「——は?」
クラレットは望んでいた言葉じゃなかったのかフルのすねを蹴った。
フルは予想以上の痛みでその場に倒れ込みすねを抑える。
「痛い! 暴力は良くないと思います!」
「あの、私が怒っているのは雪山に行くことです」
「え、もしかしてダメだった?」
フルは涙めでクラレットを見上げた。
「どうせそう何と言って二人きりになるチャンスを探って、良いタイミングであんなことやそんなことする気ですよね?」
「しないから! それに先輩の研究の手伝いだから別に登らないし!」
「本当ですか?」
「本当だって! 嘘だったら殺しても構わない。そんな状況になったら腹を括るわ」
クラレットは疑いの目をフルに向ける。それに反してフルは涙目ながらも決意のこもった目をクラレットに向ける。
クラレットは少し言いたげな顔をしたが、呆れた顔に変わりため息をついた。
「まぁ、私が怒っているのは兄さんに義手のことを言っていないかの確認だけです.。恐怖の対象がいても一度言いかけると言うことは、恐怖の対象がいないと必ず言うのです」
「あ、あーそのことですか。安心して! 私は嘘なんてつかないから!」
フルは自身で太鼓判を叩いて自慢をする。
「でしたら良いのです。その目だけでも本当だと丸わかりなので」
どうやらフルは現段階は殺さないと言う判定になったらしい。
「それと兄からアーセ山に登ると言うことで悩んでると聞きましたが。あそこまだ閉山だったと思いますよ」
「あ、うん。だから今悩んでいるのはどうやって登るかなの。雑誌を見ても雪山登山でしかいけないやら自動車でいくとしか書かれてないからかな」
「多分それ上級者向けのだと思いますし。村へ行くのなら指南署には書いてないですよ。私の友人に天空人がいますけどロープウェイで行き来しているんですよ」
「え、あ、そうなんだ。——ロープウェイ!?」
「あるんです。アーセ山は天空人でも迷う人が多いので、天空人がピト族と一緒に集落そして中間地点などに繋げていって、今では道路が通っている近くには集落へ向けてのロープウェイがあるんです」
「へー。妹さんは賢いね!」
「兄さんに追いつくために勉強していたので」
クラレットはドヤ顔でフルをみる。
「ありがとう! それなら大体アーセ山の情報がまとまるわ!」
フルは目を輝かせながらクラレットの手を握る。クラレット本人はあまりの感情の起伏の若干引いている顔をしているが、ため息を一度吐いて苦笑いへと表情を変えた。
「なら良かったです。ですが、泥棒猫の監視は継続しますので♡」
フルはその時の幼い笑みの中から噴き出るクラレットのおぞましい部分が垣間見えて一度全身が震えた。
フルはクラレットに別れを告げると大急ぎでリアートに帰っていった。
カンナが入院している病院に到着するとフルは大急ぎでカンナがいる病室に目掛けて全速力で走った。
そして扉を勢いよく開けてカンナの元へズシズシと自信に満ちた靴音を鳴らしながら歩いた。
当のカンナは大きな皿に盛られたピラフを平らげている最中で、フルに気がつくと食事を止め、口にある物を飲み込んだ。
現在の時刻は外はもう薄暗く、面会終了時間まであと少しだった。
カンナは首を傾げる。
「フ、ル? どうしたの?」
「カンナ先輩! 天空人の里に向かうためのチーム編成しました!」
「チーム?」
「はい!」
フルは興奮気味に前のめりになってカンナに顔を近づける。
「アーセ山に行くのに作業の効率化のためにエリオにも来てもらうんです! そして行くための——」
「べ、つに。私も、行くよ? 明日、退院だから」
「え、そうなんですか!?」
カンナはゆっくり頷く。
「だって、フル。い、るでしょ? 見えな、くても。良いの。だ、から」
カンナは頬を少し赤くするとフルの手を握った。
「大人数、で。行くの、は。楽しみだか、ら。良い」
フルはカンナの言葉を聞いて顔でもわかるぐらいに喜びが満ち溢れてくる。フルはカンナの気持ちに応えるように手を握り返す。
「はい! 私も楽しみです!」
フルは元気よく返した。
その翌日フルはカンナの退院を祝いエリオットと共に病院へ行き、カンナを家まで送った。その後はカンナの自宅でアーセ山で何をするかを話し合い、順路としては現地にある友人の家に泊めてもらい、三日ほどそこで生活。
その間遺跡を調査することになった。
遺跡自体の大きさはカンナが研究室の教授に聞いたところとんでもないほど大きく、目的は不明であるという。
調査は良くて地下三階ほどまで終える予定となった。
フルとカンナ、エリオットとクラレットはアーセ山に向け、準備に取り掛かった。
そしてアーセ山に向かう翌日。
天気は快晴。時間帯はまだ深夜のため外には警察が歩いているぐらいで何も変わらなかった。
まずエリオットとの合流はケイオス駅で合流し、そのまま乗り換えてジブリル海前駅行きの列車に乗って向かう。
その後はバスに乗ってクッツオ村と繋がっているロープウェイの駅まで行って向かうと言う算段だ。
フルが駅前で待っているとカンナがようやくきた。
「先輩。おはようございます!」
「おは、よう」
「では、早速行きましょう! 列車がそろそろ来るので」
合流したフルとカンナは小走りで切符を買い、改札を通って電車に乗る。
その後はケイオスに行って駅の改札でエリオットたちと合流してジブリル海前駅行きの列車に乗り換える。
この列車は駅まで三日かかると言う理由で割り勘で四人が寝れる部屋がついている列車をフルがマトミに頼んで予約してもらった。
それから列車に乗り、部屋に入ったフルは誰よりも早く布団に飛び込んだ。
「ハァ〜。三日間ここで過ごすのね」
「フル、はしたないよ」
エリオットは呆れた視線をフルに向けた。
「カンナさん。荷物は私が置きます。寝るのは一階ですよね」
早速自堕落となったフルに変わってクラレットは目が見えないカンナを気遣って荷物を持ち、ベッドの下にあるタンスにキャリーバッグを入れた。
そしてエリオットはまるで父親かのようにフルを慈悲に満ちた目で見る。
「もうフル。少しは荷物を整理しないと——」
「あーそういえばスタルシアから来るときは今以上に慌ただしかったわね。初めてで知らない場所。部屋もないし寝ようにも周りは男の人で気にしすぎて眠れなかったし」
「個室なかったの?」
「お母さんが間違えたのよ。そのせいで個室なしで5日かけて来たのよ。あ、もちろん一番安いのだったから椅子は木の板よ」
「確かフルって留学生だったよね?」
「うん。スタルシアから」
エリオットは見積もりだけでスタルシアからリアートまでよく硬い椅子に座れたなとフルを心の中で称えた。
カンナはベッドに座り、キャリーバッグから紙を何枚か取り出してエリオットの、そしてフルの頭に渡した。
フルは頭に乗せられた紙を手に取って見る。
「えーと」
フルは紙に書かれた文字と思わしものを見るが解読できなかった。
「教授、こ、来れないけど。代わり、人。来る」
「代わりの人ですか?」
フルはベッドから起き上がり、座り直す。
「そういえば研究は教員に言わないとダメだったと思いますが、許可は取ったんですよね?」
エリオットの問いにカンナは頷く。
「せ、先生の、友人。大、丈夫だよ」
カンナは優しい笑みを見せた。
クラレットは何の話をしているかわからなそうな顔だったが、多分大学のことだろうとはおおよそ予想はついた。
クラレットは気を使ってかバッグからトランプを出した。
「ここで無駄に過ごすより。息抜きぐらいはしませんか?」
「——」
「あ、クラ!」
「大丈夫。で、きる」
カンナは少し悪知恵をは集らせているような笑みをする。
そしてキバラキの象徴であるツノ、そして顔をフルに向けた。
フルは多分二人でならいけると言うことかと理解した。
「分かりました。やりましょう!」
フルたちは三日間の列車の旅をトランプやテーブルゲームで費やすことに決めた。
フルがアーセ山に向かったのと同時刻、リアート郊外の街頭がぼんやりと当てられ早朝の公園にトゥサイはやってきた。
この時の空気はさっきに覆われたと追うべきか、人の気配が感じなかった。
そんなトゥサイをよそに、一人寂しくベンチに座り犬を愛でる老けた男がいる。
トゥサイはその男に近づいた。
「ウマスさん。俺が呼んだ理由、分かりますよね?」
犬を愛でる男——ウマスは、トゥサイの言葉を聞くと手を止めた。
「あぁ、例の秘宝だろ」
「——それをどうして俺に秘密にしていたかだ。反帝国連盟の資料に書かれていた秘宝についてはすでに把握した。とは言ってもカラクリ師が関係していると言う以外は知らない」
「まさか、狙っている組織がいるとは俺も予想外——」
「嘘をついても無駄です。カラクリ師の内部に反帝国連盟が紛れ込んでいる。そうでもないとそんな厳重にしていた情報が漏れているとは思いませんが。違いますか」
「俺も内部事情を調べているが不明瞭だ。何ならクリムタン内部が調べること自体拒絶されるからな。クリムタンの者たちのことは政府不干渉と密約があるだろう」
「——」
トゥサイはため息をつく。
トゥサイとしては秘宝の件、それからカラクリ師との繋がりも調べたかった。だが今のウマスの状況では言わないだろうと誰であろうともそう考えに行き着く。
「はぁ、では証拠が出て強制捜査が開始されたらどうするんです? 抵抗しますか?」
「抵抗はせん。好きにしろ。むしろ強制捜査ができるほどの証拠が出たら。もうそれはお前たちの勝ちだからな」
トゥサイは納得できなかったが、ウマスを見る感じそこまで敵対行動を取ってないのを一番理解している。
トゥサイはウマスに背を向けた。
「俺が聞きたかったことは以上です。最後にアンリレの秘宝を管理しているのは本当ですか? なぜ俺に何もう言わなかったのか」
ウマスは少し考える。
「アンリレの秘宝を管理しているのは本当だ。だが、場所は知らないため、あるとされる場所を比定地としているだけだ。そしてお前に言わなかったのはただ単にお前に与えた仕事ではないからか」
「——なるほど」
トゥサイは疑問に感じていた謎が大体明らかになって安心したのか笑みを浮かべた。
「ではそう言うことにします」
「あぁ。そう言うことだ」
ウマスもホッとしたのか犬を再び撫でる。
「それから、今からお前はアーセ山に行ってくれ」
「へ?」
「まぁ、そう言うことです」
ウマスがぽつりとそう呟いた途端、空からガナラクイが降りてきた。
トゥサイはガナラクイをまじまじ見る。
ウマスは犬を膝から下ろし、ゆっくりとベンチから立ち上がった。
「あそこは少し厄介だ。ガナラクイのお供をお願いしたい」
トゥサイは拳を握り表面上は面倒臭いというアピールを出しつつも、表情は笑顔という問題ないという気持ちをウマスに見せた。
そのトゥサイの気持ちはこの沈黙も間に吹き続ける冷たい風が見事に表現してくれた。
「よろしくお願いします。トゥサイ殿」
「——明日色々と仕事が入っているんですが?」
「向かうのは今月中であれば構わない。お前の上官には俺から伝えておく」
「了解です」
トゥサイは苦虫を噛み締めた顔で任務を達成することを敬礼で伝えた。




