10話 ヴァクトルに捧ぐ
フルがクレラットの暴走にビクビクと怯えながら待って2時間、ようやくフローレスが目覚め、同時にエリオットはすぐに頭を下げて謝罪をした。
フローレスは至って冷静にエリオットを責めず軽い警告のみに留めた。
後日。フルがその理由を聞いたところフローレスはこう言った。
「人を守るための道具を作って、私を侵入者と誤解して攻撃しただけだ。本当ならそれだけでは済まないが、彼は自身の家族を守ろうと弱いながらも戦った。それは素直に認めるべきだ。たとえどんな人であっても敬意を払うのがケウト軍の伝統だよ」
その時のフローレスは純粋な瞳でエリオットを誉めていたと言う。
それからフローレスはエリオットからアンリレの秘宝ことバリアボールくんを拝見した。
するとまさかのアンリレの秘宝の情報と一致していたらしい。
そして何も知らなかったエリオットは冷や汗を流し、逆にこの状況下に慣れたのかフルは真顔でその光景をお茶を啜りながら見ていた。
その状況下でエリオットは「あ、これ実は廃墟で見つけたんです!」と言った途端、この場の空気は一時凍ったのだった。
三人だけの重たい空間、口を開いたのはフローレスだった。
「廃墟はキタレイ大学のところのか?」
フローレスの目が険しくなるとエリオットは顔が真っ青になった。
それを黙って見ていたフルはそろそろ助太刀しようと一度息を吸った。
「えっとあそこ侵入禁止だったんですか? 柵とかなかったからてっきり」
「あそこは昔すぎて誰の所有者かが不明になって一応国が所有ということになっているが、別に入る分には問題ない。あるとしたら勝手に持ち出したことだな」
フローレスは親切にフルとエリオットに廃墟に入りまえ、調査に行くときにやり方を親切に解説した。
「あれ? ということはこれ窃盗じゃ……」
エリオットは石のように固まった。
「フローレスさん。これどうなるんです?」
「まぁ、あそこはカラクリ師が管理しているらしいから彼らが許可をしていれば良いと思う。別に彼方からも持ち出すのとは言っていないからどうだか」
「許可……」
フルは頭を回す。
そういえば昨日の夕方カンナと廃墟に入り、地下に入った時ウマスという男に会った。彼がカラクリ師という保証はないがあそこにいるのならカラクリ師と関係がある?
だけど問題はそうじゃなかった場合だが、確かウマスはアンリレの秘宝のことを言った際、お前達なら大丈夫と言っていた。
もしウマスがカラクリ師であれば許可を出したのも同然ではないか。
「えっと、カラクリ師にウマスという人はいますか?」
「——その方に会ったのか?」
「はい、一応持って良いよ〜と言われたので」
「え、そうなの!?」
エリオットは驚きの声をあげる。
なぜなら本人の知らないところでまさかの議論が起きていたからだ。
フローレスはそれを聞いて頷く。
「だったら問題ないだろうが……。その魔道具はあまり外に出さない方がいい。厄介なことに巻き込まれやすくなる」
「大丈夫です。これを知っているのはフルとカンナ先輩だけなんで」
エリオットは指で知っている人数を確認しながら答えた。
「なら良い。であればこれ以上外にアンリレの秘宝のことは言わないように」
「分かりました」
エリオットは頭を下げ、フルも続けて下げた。
そしてフルは頭を上げるとエリオットのバリアボールくんを取る。
「あ、ちょっとフル返してよ」
「もう、フローレスさんが話してる時ぐらいいじるのは我慢」
フルはそう言いながらじっとバリアボールを見る。よく見るとバリアボールには文字が刻印されていた。
「ヴァクトルに捧ぐ……どう言う意味かしら。」
「——て、そんなことよりフルはウマスさんとどこで?」
「ほら、あの廃墟であったの。エリオこそなんで知ってるのよ」
「授業でやったからさ」
エリオットはカッコつけえて眼鏡を少しあげると流れるようにフルからバリアボールを取り戻した。
フローレスはお茶を飲み終えると席を立った。
「では魔道具の確認とフルの護衛はこれで完了だな。失礼した」
「あ、待ってください!」
エリオットは突然フローレスの服の裾を掴んだ。
「どうした?」
「僕の家のドア、弁償してください」
「——そうだったな。上に連絡する」
フローレスは忘れていたのか、それを聞いた途端無線機を取り出してどこかに連絡を入れた。
それからフローレスからの上司を介してエリオットの家の前にトラックがやって来た。
エリオットは最初は反応に困ってたものの、作業自体は手早く終わった。
簡潔にいえば業者の親父たちがエリオット家のドアの大きさを調べ、エリオットから元のドアのデザインなどを聞いてそれを持ってきて以前のものとすぐに取り替えた。
壁なども同様に修理を開始した。
フローレスは来てもらった業者に頭を下げ、帰ったのを確認するとエリオットに近づき頭を下げた。
「面目ない。行動を誤った」
「大丈夫ですよ。頭をあげてください。僕こそ早くドアを開けにこなかったのが悪いので——」
この時フルは、とはいえ銃でドアに大穴を開けている時点で本人は割と乗り気で開けたのではと考えたが、口に出すとどうなるのかが分からないため何も言わないことにした。
その後フルはエリオットとクレラットにお邪魔しましたと頭を下げる。その後フローレスに家まで送って貰った。
キタレイ大学での事件は昨日の夜に起き、大学から出たのは明け方でそこから宿に行って昼ごろにエリオットの家に到着。
そして夕方にである現時刻、フルは家に帰還した。
フルは車から降りるとフローレスに感謝の気持ちが籠ったお辞儀をプレゼントする。
「本当にありがとうございました。アンリレの秘宝はエリオが持っていても大丈夫なんですよね?」
「あぁ、今は所在だけで問題ない。上から指示があれば預かりに行くかもしれないからその旨を彼に伝えておいてくれ」
「分かりました。今日は本当にありがとうございました!」
「あと最後に——」
フローレスはそう言うとメモ帳を取り出し、何か書いたあとフルに渡した。
「今は戒厳令が敷かれてる。滅多なことがないなら外出を控えてくれ。ただ、大学の研究棟は当分入れないのは承知してくれ。多分近々大学側が生徒に書類を郵送するはずだからそれを参考にしてくれ」
「なるほど。ありがとうございます」
「では、またどこかで」
フルはお辞儀をし、それの返答にフローレスは手を振ると、そのままどこか遠くに車を走らせた。
フローレスがさった後には空虚の風がフルを包んだ。
その風はフルに昨夜のキタレイ大学での一連の事件の終焉を知らせる手紙となりつつも、どこか寂しさを感じさせるものだった。
「あ、マトミお姉様のこと忘れてた」
フルはすぐに家に中に入る。
中に入ると玄関が空いた音に反応してか、マトミが大慌てでフルに飛びついた。
「良かった、無事で本当に良かった!」
「ま、マトミお姉様苦しいです!」
マトミは抱きしめる力を弱める。マトミの顔を見てみると目が赤くなっていた。
「もう、一体どこにいたの? 大学に行ってもいないし、とても心配したわ。その後学外に二名が出たって聞いて青ざめてたんだけど、黄緑色の髪のエルフィンが逃げたって」
マトミは涙声で説明した。
フルは髪の毛がゾワワと背筋か凍るのと合わせて少し震え、フルは堂々とした土下座を見せた。
「あらあら〜。冗談なのに」とマトミは少々おもしろそいなものを見る顔でフルを見下ろした。
フルは顔を真っ赤にして不貞腐れた顔でマトミの隣を歩く。
フルからすれば堂々と戒厳令を破って校内から逃亡したヤバイ人なのが世間一般に広まったことに対して後悔した。
マトミが言うにはその情報は大学にフルを迎えに行ったさい、キバラキの少女、おそらくカンナだと思うがフルを探したところ見つからず、偶然にもカンナはマトミにフルの行方も聞いたらしい。
それも外見の特徴も詳しく。
それを聞いたマトミはフルがいないと気付いて、近くにいた兵士に聞くと黄緑色のエルフが外に行ったのを見たと聞いて唖然としたという。
しかし、それから一時間ほど大学の本校舎で待機していると、フルが見つかったと聞いて、安堵して帰宅したらしい。
もっとも、最初のガラルクイに懇切丁寧に話して確認し行って貰えば良かったのだが。
フルがリビングまで来るとそこには豪華な料理、そして何故か堂々と椅子に座っている奇抜な格好をした男トゥサイが悟ったかのような顔をしていた。
そも椅子の上に座って。
「あ、トゥサイさん」
フルがそういうとトゥサイはニヤリと笑みを浮かべ、ゆっくりと立ち上がった。
「フルちゃん。これだけ伝えておく」
「は、はい」
そしてトゥサイはフルに指をさす。
「戒厳令なうで外に出るとか、俺と同じだなぁ!」
「いや、私だって出たくなかったし、戒厳令自体出されてるの知らなかったんです!」
「まぁーとりあえず。しばらく休学やからのんびりし〜」
「きゅう、休学!? ってもう知っているんですが」
「ふふ……ふぅー。天才だなオメェ」
トゥサイはそう言うと真顔になり席に座った。
「入学してテロ起きて休学って……。それに列車でもテロが起きるし。不幸でしかないわ」
フルは放心状態に入る。
フルからすれば「よしっ! これから始まるぜキャンパスライフ!」と息込んですぐにテロで休学。
誰だって嫌に決まっている。
するとフルはトゥサイから懐からきれいに閉じられた封筒を渡される。
「で、それとだな。ホイッ、手紙」
「あ、どうも——カンナ先輩!?」
トゥサイから受け取った手紙の送り主の名前を見てみるとカンナで、カンナは無事の連絡と記されていた。それから現在カンナが入院している病院や容態なども詳しく書かれていた。
一番最後には必ず来るようと
フルは前のめりになってトゥサイに顔を近づける。
「これ、いつ貰ったんですか!?」
「うーん。戒厳令なうの時?」
「ふざけないでください!」
フルは早くカンナのことを知りたいが余りトゥサイの方を掴んで上下に揺らす。
トゥサイは間抜けな声を上げながらも懇切丁寧に説明した。
「まぁ〜言ったらな〜。姉貴が今から料理するから自分が忘れた時ように持っといてーって言われたからやで〜。意味分からんよね〜」
「な、なるほど。ありがとうございます」
フルは脳死状態で聞き流すことにした。
フルの中での予想はマトミは泣いていたから安心しきって忘れてしまうそうだったからだろう。そういうことだと信じることにした。
カンナからの手紙には無事の報告、それから病院の住所が書かれていた。
どうやら現在カンナはヨクシム病院と言うところに入院しているらしい。
フルは胸を撫で下ろす。
「良かった——」
その後フルはマトミの空気に流されるがまま食事を取った。
それから就寝時間までくつろぎ、トゥサイが帰宅と短く長い時間を経た。
今夜フルは眠れず、テラスに出た。
テラスには雪が若干入っているものの、昼あたりで解けたからか床が濡れている。
「——う〜ん。なんだろうここ最近不幸ばかりだわ。まさか一ヶ月以内にテロに二回会うなんてどう言うことよ。だけどカンナ先輩が無事で良かったわ」
フルは空を見上げ、月を見た。
月はフルの故郷スタルシア王国とは模様が違ったが、それでも見ているものには違いがなかった。
「遠く異国のケウト帝国。やっぱり故郷のスタルシア王国と星空が違うわねー。スタルシアはこの季節だと春風で暖かいのにここはひんやりとというかまだ冬よね——明日、カンナ先輩がいる病院に行こう」
その時、フルに強い風がぶつかった。
目を細めて空を見てみると人型の翼が生えた人、天空人が降り、テラスの柵の上に立った。
その天空人はどこか見覚えのある風貌で、とても中性的な女性。
フルはなんとか服の形状からある特定の人物の名前を出した。
「ガナラクイさん?」
「はい。ガナラクイです。よくお気づきになられましたね」
さらに中性的な高い声を聞いて確信した、ガナラクイだと。
フルはほっと胸を撫で下ろす。
「こんな夜中にどうしたんですかガナラクイさん。軍人さんが勝手に職場から抜け出すのは大問題だと思いますが」
「一応まだ仕事中です。トゥサイ殿がきちんと仕事をしているのかを見に来たのですが、きっちり帰られましたか?」
「はい。帰りましたよ。けど情報は回っているはずですし、来るのはおかしくないですか?」
ガナラクイはフルの当たり前の疑問に即答したが、逆にフルは怪しく思った。
トゥサイの確認だけなら終わった際は必ず上司に連絡すると考えてみれば、わざわざトゥサイに連絡する必要があるのかと疑う。
もしかしたらトゥサイが帰ってなくて、ガナラクイが来たのはトゥサイを呼び出しに来ただけなのかもしれない。
「トゥサイさんならずっと前に帰りましたよ。何かご用事でも?」
「まぁ、そんなところです。言っても私的な用事ですが」
「私的——ですか」
フルはガナラクイの服装を見る。
ガナラクイの服装は毛皮の服でとえて分厚くてガタイがよく見える。もしかしたらガナラクイさんは休暇でトゥサイさんに「狩りに行こーぜ」的なことを言いに来たのかと思った。
「そういえばあなたの名前聞いてませんでしたよね」
「——フルです」
「フル殿か。あなたはどこかで見た気がしますがね、見間違いだと信じましょう」
ガナラクイは意味深なことを言うと。
「ま、私が来たのはフル殿に一つ渡したいものがあったからです」
「渡したいもの?」
ガナラクイはポケットから一切れの紙を取り出した。
「その紙はなんですか?」
「——ヘリアンカについての古文書です。欲しいですか?」
フルは少しばかり警戒する。
いや、警戒しないとおかしな状況だ。何故ガナラクイが突然きたのも最初はトゥサイに用事があったのは大体分かるが、フルにまで用事があるとは普通は考えられない。
初対面の相手に、それにフルの行動を見透かしていないとできない行動も垣間見える。
ガナラクイは少し首を傾げる。
「おや? 私はてっきり同じ古文書大好きっ子だろうから欲しがりそうだと思ったのですが」
ガナラクイは残念そうにポケットに古文書を入れた。
フルはガナラクイが何も反応せず古文書をポケットに入れるのを見て、これ大丈夫だったのではと後悔しつつも罠だと思ってガナラクイを見る。
「これを改めて欲しい場合はトゥサイ殿にお声をかけてください。トゥサイ殿経由なら安心ですか?」
フルは少し考えて——。
「まぁー。大丈夫ですかね?」
「分かりました。それではいい夜を」
ガナラクイは何も言い残さず、短い言葉を言ってそのまま夜の大空に姿を消した。
ガナラクイが飛び去った後のテラスの柵の上には雪がなかった。それは確かにガナラクイがその場にいて、今この瞬間に飛び去ったからだ。
フルはガナラクイの不自然な点についてまとめた。
不自然にもトゥサイのことを聞きに来たとしてもなぜテラスから侵入しようとしたのか。そしてなぜ古文書を持ち歩いていたのか。
「明日カンナ先輩に聞いてみようかしら」
フルはそう口から漏らし、部屋に戻って団に潜るといつの間にか意識は遠のいていった。
そして一夜が明けてフルは目が覚め、一度頭を振って寝起きの頭を覚醒させる。
「今日というか一週間は大学は休学。病院に行けるのかしら?」
フルは病院に行けるかを試行錯誤しながら掛け布団をきれいに畳む。寝巻きから部屋着に着替えて部屋からリビングにと向かう。
リビングではマトミが朝食の配膳し、今から朝食が始まると分かった。
「あのマトミお姉様。今からカンナ先輩が入院している病院に行こうかなと思うんですが、許可とか入りますよね?」
マトミは手を止めて少し考える。
「うーん。確かに戒厳令自体は私が小さい時から時折あったんですが、人目につく場所なら行っても何も言われませんでしたよ。心配でしたら病院に連絡して身分も全てお明かしたら良いと思います」
「なるほど! ありがとうございます!て連絡はどうすれば!?」
「あらあら〜」
フルはマトミに詰め寄る。
「とりあえず朝食ね」
「分かりました!」
フルは元気よく返事をした。
食事を終えたフルはマトミに連れられてマトミの部屋に案内される。
マトミの部屋は見た目通りというか、机はとてもシンプルで、昼用のあるものしか置いていない。
本棚や着替えが入っているであろうタンスと机、ベッドしかなかった。
そしてベッドの隣には今までの人生でフルがみたことがない箱が壁についていた。
フルはその箱に興味津々に近づく。
「マトミお姉さま。この箱はなんですか?」
その箱には小さな拡声器のようなものが線で繋がれていた。
フルは頭の中をじっくり回転させ記憶を探る。これはスタルシアでは市役所にしか置いておらず、使うのは大金が必要だと言われたもの。
「え、電話?」
フルは驚いたかのような声をあげる。
なぜならフルの中では電話は市役所で金を持った人しか使わないという認識だからだ。
「そんなに驚くこと?」
「いや、電話ってすっごく高くないですか!? 普通政府の役人さんしか使わないものですよね!?」
「うーん。まぁ懐に余裕がないと持てないわね〜。ほら、まずその受話器を取ってダイヤルを回して」
「ダイヤル?」
「えっとね。まずこれをとって」
「あ、これが受話器なんですね」
フルは小さい拡声器と呼称した受話器を持ち上げ、マトミに言われた通りダイヤルを回した。
それから少し時間が経って受話器から音が聞こえた。
『こちらヨクシル病院です。ご用件はなんでしょうか?』
「私はキタレイ大学1年のフルと申します。そちらにカンナさんは入院なさっていますか?」
フルがそういうと電話越しで紙が捲れる音が聞こえる。名簿を探っているんどあろう。
『はい。フルさんですか。カンナさんから面会したいと要望があったのでこちらからお電話をかけようとしていたところなんです。一応カンナさんの保護者様からのご希望ですので、いつほど来られるのでしょうか?』
「——突然ですが今日は大丈夫ですか?」
『はい。問題はありません。最後に確認ですがお住まいはリアートですよね? ただいま戒厳令が敷かれているので、市外であれば許可出来かねますが——』
「リアートなので大丈夫です」
『分かりました。それではお気をつけて。最後に身分証明書は必ず所持してきてください』
病院側はそう言って「それでは是非お越しくださいと」言って電話を切った。
フルが受話器を元の場所に直すとガチャっと音が聞こえた。
「ふぅ〜。これが電話。なんだろうとっても緊張したって。電話ってもしかしてというかやっぱり料金かかりますよね?」
「えぇ。電話は誰でも素早く使えるように電気を使っているので。魔結晶よりもとても高いですよ」
マトミは”とても”を強調して言う。
フルは青ざめるが、マトミは気にしないでとのんびりとした口調でフルを安心させる。
それからフルは素早く外出の用意をし、学生証を持って玄関に行き、マトミに行ってきますと言い病院に向かった。
病院の外観は質素な石造りの五階建てで、塀にはヨクシル病院と書かれたネームプレートがかけられていた。
病院の場所自体はリアートの郊外にあり周辺はとてもお穏やかで過ごしやすそうだった。フルは病院の扉を開けると中は患者さんやその家族が受付と椅子に座ったりと十人以上いた。
病院自体そこそこ広いのが外から見ても分かる。
フルは受付に向かって学生証を出した。
「先ほど電話をしたフル・フリィーペンです。面会の予約を取ったのですが」
「フルさんですね、少々お待ちを。——はい、確認しました。カンナさんは入院棟三階、108号室におられます」
受付の人はフルに許可書を渡す。フルはそれを受け取り「ありがとうございます」と頭を下げて広い病院内を歩いた。
それから5分ほど移動し、カンナが入院している部屋に到達した。
扉を開けるとそこにはベッドの体を起こしながらピラフを美味しそうに食べていた。
現に今は昼過ぎだから当たり前だろう。
「カンナ先輩。お体は大丈夫ですか?」
カンナはフルの声に気づくと今進めている手を止めて顔をフルに向いた。
「フル? ど、こに行ってたの?」
「え、え〜と。話せば長く——」
フルは声を震わせる。
カンナはフルの表情はわからないはずだがフルの不自然なビブラートで大体のことが理解できたのかゆっくりと手をフルの頭に近づけた。
「カンナ先輩?」
「フル、絶対、いけないことした。兵隊、さ、ん。困って、たよ?」
「え?」
「そ、れ、に——」
そこから30分ほどフルはカンナに説教された。
カンナは昨日フローレス経由で情報が病院にいったらしく、カンナは昨日心配で一睡もできなかった。
そして今日フルが電話した時、その情報はいち早く看護婦から伝えられため早く食事を終えようとしたようだ。
説教を終えたフルはその場でものすごい憩いで頭を下げた。
「も、ういい。で、おねが、いあるの」
「お願いですか?」
フルは涙目でゆっくり顔を上げる。
「ヘリアンカ、の。こと。しら、べに行って欲しい」
「ヘリアンカのことですか? 全然いいのですが、多分許可が入りますよね」
「市内なら、良い、の。図書館、にある、はず。そ、それから郊、外にも。遺跡ある」
「要するにリアート市内にある遺跡を調べて来て欲しいと。その許可はどうすれば?」
「よ、ヨカチが、行ってくれ、る。許可も、取ってくれる」
カンナがそういうと同時に病室に獣の耳を生やしたケモフ族の男、ヨカチが入ってきた。
「当たり前だろう。カンナが一人でいけるはずがない。それに戒厳令は本来なら研究も今回は全てストップさせられているが、4回生の研究は戒厳令中は政府が認可した範囲でできる」
フルはヨカチを見ると手を上に向かって伸ばす。
「あ、ヨカチ先輩? うっす!」
「うっす! ——そうじゃなくて。なぜここにいるかだ」
ヨカチは愉快に返したあと眼鏡を少しあげる。
「いや、カンナ先輩の許可はもらいましたよ?」
「なら良い。で、話の続きだがカンナの研究は政府が設けている戒厳令時の行動制限の基準を満たした研究だから許される。原則禁止されているのは薬物及び魔道具の研究などだ」
「へぇ〜。結構厳しいんですね」
ヨカチは褒められたのが嬉しかったのか、無言でメガネを二回あげる。
「ともかくだ。カンナの研究の手伝いとしてなら問題はないが、俺の監視の下のみだ」
「分かりました! けど学生二名だけの行動は大丈夫なんですか?」
「安心しろ。軍の監視下の範囲で行ってもらう」
フルは少し納得した。それなら安心だと。
フルはヨカチに手を伸ばす。
「それでは、よろしくお願いします」
ヨカチは少し考えたがフルの手をしっかり握った。
「お前こそ、怪しい行動をするんじゃないぞ」
「あ、ふ、フル」
カンナはか細い声でフルの名前を呼ぶ。
フルはカンナの方を振り向くと、カンナはベッドの隣にある棚からどこかで見た古文書をフルに見せた。
「け、さ。今朝。天空人、の。兵、隊さん。もてきったよ。ふ、フルが廃墟で見つけた、設計図。だ、だけどフ、ル受け取らなかった。確認しに来たの。私に」
「え。すみません。見せてください!」
フルはカンナが持っている古文書を取り、内容を確認する。
古文書はそのままフルが廃墟で見つけたバリアボールくんの設計図そのものだった。
「えっと。もしかして昨夜来たのって私が大学の本校舎に逃げたときに言っていた設計図を持ってきてくれたから? そして私の家を知っていたのはマトミお姉様か大学から私の住所を聞いたと仮定すると、わざわざ私を探しに行ってくれていて、私を見つけて返そうと思ったら私がいらないといった。だけど持っていてもという理由でカンナ先輩のところに行って今に至る——」
フルは病室の窓に近づいて勢いよく開ける。
そして息をいっぱい吸って——。
「ガナラクイさんごめーん!」
フルは大きな声を出してガナラクイに謝罪した。
その後ヨカチに本気で怒られたのはまた別の話。




