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冬の空  作者: 加藤 健作
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幸雄の死

 幸雄は幸子、外祖父、外祖母に入院するよう何度も説得されたが、幸雄は頑なに入院を拒否した。相変わらずヒロポンの注射とお酒の大量飲酒を続けて、時間構わず秀子を抱いた。ヒロポンは精神的依存を起こし、アルコールは身体的依存を惹起する。精神的依存は欲しいという欲求が我慢できなくなり、身体的依存はお酒が切れると不快な離脱症状が出る。離脱症状とは不眠、抑うつ、不安、焦燥、幻覚、妄想、けいれん、異常な発汗などである。幸雄は半年前から、自室の窓という窓全て一面に新聞紙を貼り付けた。さらに部屋のカーテンから日差しが漏れないよう隙間が絶対にできないように締め切り、部屋は真っ昼間でも真っ暗だった。「俺は○○宗教組織に追われていて、絶えず監視されている」などと迫害及び監視妄想の存在を示す言辞が頻繁になった。お酒が切れると「壁に虫が群がっている」などと大騒ぎし、料亭の使用人達が幸雄も部屋に駆けつけることも度々であった。




 幸雄の体は見る見る衰弱して行き、三度の飯どころか丸一日何も食べない日も続いた。外祖母が料亭の板前に特別に作らせた弁当を使用人に幸雄の自室まで運ばせたことが数回あったが、幸雄はその弁当に一切手をつけなかった。秀子は幸雄のことをさぞ心配していると思いきや、その様子は全くなく幸雄と飲酒するか性の行為に耽るかで、もう二人の暮らしぶりは地獄そのものと言っても良いくらいだった。次第に、幸雄はお酒も受け付けなくなったのか、お酒を飲んでは吐き、吐いては飲む状態がしばらく続いた。ヒロポンの注射は続けていたが、幸雄は秀子が机の上に置いてあった2万円を盗んだと大騒ぎし、料亭の使用人が二人の喧嘩を取り成す場面もあった。二人が暮らしていた部屋はヒロポン使用者が発する独特の匂いや吐物の異臭が充満していた。




 幸雄の思考はますます障害の一途を辿り、次第に、女を抱く意欲も能力も失った。秀子に対する盗人呼ばわりは相変わらず続き、以前は性の交わりが二人の間を取り持ったが、今ではそのような情事もなくなり、秀子はだんだん幸雄に愛想を尽かすようになった。秀子は、ある冬の曇った寒い日に幸雄の机に隠してあった五十万円を奪い、疾走した。料亭の料理人たちが外祖母の指示に従い、町中秀子を探し回ったが、秀子はもうとうに町から出奔していた。




 秀子が行方をくらましてから、1週間後に幸雄は突然意識を失い、倒れた。幸雄の自室の前の廊下を掃除していた山倉家の使用人がいつもは騒がしい幸雄の自室が妙に静かなのを不審に思い、自室をノックしたところ、しばらく待っても返事がなかったので、部屋を覗いてみることにした。使用人は床に意識をなくし倒れている幸雄を発見した。それを目撃した使用人はもうすでに料亭の帳簿や使用人の管理を任されていた幸子に真っ先に連絡をした。幸子は急いで、幸雄の自室に赴き、冷静に幸雄の脈がなくなっていることと呼吸が完全に止まっていることを確認した。「死んでいる」と思った。彼女は次に救急車を呼び、幸雄を地元で最も規模の大きい病院に搬送させた。その病院の救急室に到着後まもなく死亡が宣告された。幸雄は突然自宅で死亡したため、また医師が看取っていなかったことから、変死体扱いとなり、警察官による検死が行われた後、隣町の大学病院の法医学教室の検案によって死因の判断が行われた。なお、幸雄の場合、犯罪死の可能性がなかったことから、司法解剖ではなく、死因を知りたかった外祖父の承諾による任意の解剖が行われた。解剖の結果は心不全であった。病理所見としては心筋細胞の融解が認められた。




 外祖父も外祖母も幸雄が突然なくなったことで、魂の抜け殻同然となった。

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