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冬の空  作者: 加藤 健作
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幸子が山倉家に迎え入れられた経緯

    幸雄は「入院するぐらいなら死んだ方がましだ。」と入院を頑なに拒絶した。「入院」の話になると激昂し、外祖父や幸子にも暴力を振るいかねない勢いだった。幸子は強運の持ち主であった。幸子は遊郭から里子として迎え入れられたが、それ自体異例のことであった。普通、遊女が妊娠するとその間お客をとって稼げないため、妓楼にとっては大きな痛手となった。そのため、遊女が妊娠した場合、堕胎医による中絶手術が行われた。




    しかし、人気のある遊女が妊娠した場合は、出産させることもあった。ただし子どもは仕事の邪魔になるので里子に出されるか、女の子なら遊女の見習いとして育てられる子もいた。幸子が山倉家の里子になり得たのは彼女の母キクが外祖父のお気に入りだったからだ。外祖父は幸雄に負けず劣らず好色家であった。但し、外祖父はお酒は弱く、ヒロポンも妓楼へ遊びに行く前に服用する程度であった。外祖父は地元の遊廓に通い詰めているうちにキクが在籍する妓楼の常連となった。次第にキクの体に執着し、毎日のように妓楼に出入りしキクを連日抱いた。その度に外祖父はキクの体内に激しく射精したのだった。




     後に山倉家に里子として迎え入れられた幸子はキクが出産した子だった。キクは子を孕んだと知ったとき、その子を絶対に産むと決意した。人気のある遊女だったキクは遊女家の女将に子を産むことができるようにと嘆願した。女将もキクの強い望みを袖にすることができなかった。以前から長男幸雄の将来の世話役として、女の子を里子として山倉家に迎え入れたかった外祖父は、妓楼の女将からキクの妊娠を聞いたとき、男の子でも構わないから「女将さん、それなりの御礼はしますし、立派な山倉家の一員にして見せます」と頼み込み、更には、「是非その子を自分の家の養子にしたい」、と申し出た。外祖父は未だに毎日のようにキクがいる妓楼を訪れ、訪れる度にキクを抱き、果てた後には毎回必ずキクの子を山倉家の里子として迎え入れたい、と懇請した。その提案を聞いたキクはまんざらでもない、という顔つきをした。ここ一年間、キクを知ってからよっぽどの用事がない限り、連日キクの元を訪れては性の交わりを持ってきた外祖父はひょっとしたら生まれて来る子は自分の種ではないかと妄想した。





     当初、キクは子を産んだ後は実家のある山形の農村に住む貧農の従兄弟に子の将来を託そうと思った。養育費も月毎に送金する覚悟でいた。 しかし、キクは外祖父の懇願と子を山倉家へ迎え入れた後の子供の処遇の説明を受け、自分の子の将来は安泰だと信じて疑わないようになった。資産家である山倉家に入れば養育費の送金も必要なくなり、かえって希望額のお礼も期待できる。キクは「山倉様はこれほどにも私を可愛がってくれているので、きっと生まれてくる子は貴方様の子に決まってます」と断定調に外祖父に話した。しかし多数の男に身を委ね、その男達の種の全てを自らの体内に受け入れることを生業としているキクは生まれてくる子の父親は外祖父でないことを直感した。

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