表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬の空  作者: 加藤 健作
7/17

入院の拒否

    幸雄の場合、あのふしだらな秀子との淫乱な関係を断つ必要が先ずある。あの女と幸雄がくっついている限り、アルコールもヒロポンもやめられない。幸雄自身がそれらに体も精神も依存しているのもあるが、秀子が幸雄のアルコールやヒロポンの使用を助長していることは明確だ。幸雄は女にも依存していて、ヒロポンの力を借り、秀子との性の交わりを日夜繰り返している。幸雄は中毒体質(今では依存体質という)でアルコール、ヒロポン、女に依存している。幸雄は暮らしのあらゆる面で秀子に過剰に依存し今で言うセックス依存症にもなっていた。




    明夫は外祖父に上に書いた事を具体例として挙げながら幸雄の入院の必要性を説明した。精神病院(今は精神科病院という)に入院の必要性があるから即入院できるわけではない。精神保健福祉法が精神科病院への入院を細かく規定している。幸雄の同意を得なければ、医療上いくら必要であっても幸雄の入院はかなわない。明夫や外祖父が幸雄を入院するよう説得するのは無理な話だ。そこで母の幸子が幸雄を入院するよう説得する責務を負うことになった。この頃から家の誰もがしたがらないことを幸子が率先して行うことが度々になって来た。このようなわけで外祖父も外祖母も次第に母の幸子に一目置くようになって来ていた。




   「兄さん、ヒロポンもアルコールも体に悪いのよ。兄さんのように飲んでいたら、肝臓も相当やられているはずよ。この際、一度入院して体の悪いところを全部調べて貰ったら?」と幸子は柔和な口調で幸雄に語りかけた。妹にそう言われても素直に従う幸雄ではなかった。第一、幸雄は幸子を「もらいっ子」だと侮蔑し、血縁を有する本当の妹だと思っていなかった。幸雄はヒロポンやアルコールに依存するだけでなく、あのふしだらな女の秀子にも依存していた。ヒロポンを打ち打ち日に何度も秀子を抱くという日々が続いた。秀子は何度幸雄の子を身籠って中絶を余儀なくされたことか。ヒロポンの打ちすぎで眠れなくなると幸雄は大量に飲酒した。終戦間近のこの頃、酒などの嗜好品の不足も相まって、人々が精神を昂揚させるためヒロポンが手軽に入手できる薬物としてはびこった。問題は酒が入手しづらい時代であったということである。お金の問題ではなかった。普通の生活を送るのに必要の生計費を外祖母は未だに幸夫に渡していた。秀子は幸雄に好きなだけ酒を飲ませたかった。もう幸雄は大量の酒を飲まないと夜は眠れなくなっていた。当時、お金が有っても酒が入手できるとは限らない時代の流れの中にいた。秀子は一升瓶を幸雄に持ち帰る為酒屋の親父に体を許すことが常態となっていた。




     明夫の話を聞き、幸子は幸雄からヒロポンやアルコールを取り上げる手段は入院しかないと確信した。秀子と幸雄を引き剥がす唯一の方法でもあった。幸子は秀子が心の底から幸雄を愛しているのだと思っていなかった。秀子は「幸雄を愛してます」と外祖父や外祖母に繰り返し訴えていたが、幸子からしたらそれは愛情という名の支配で、単なる一種の自己満足であると感じていた。秀子が幸雄から離れないもう一つの訳があった。秀子は元遊女で博打中毒で遊郭を追われた身である。賭博中毒の人は借金を抱えてることがが多い。秀子も例外ではなかった。秀子は外祖母が幸雄に渡す生活費の一部分を借金の返済のため流用していた。幸子はこのことを察知していて、外祖母に「秀子さんがお兄さんの側を離れないのは愛情なんかではない。あの女は元遊女で博打中毒で遊郭を追放されたのよ。お兄さんの金目当てなだけの人よ」と忠告したが、何と外祖母は幸子の警告を一顧だにしなかった。




    幸子が入院を勧めたかことに対して幸雄は疑心暗鬼になった。山倉家は地元でも有名な資産家であったが、幸雄は最近病気がちの外祖父が、亡くなった場合、遺産は外祖母が相続する以外の財産は全部自分が相続し、養女である幸子には一銭もわたさないつもりでいた。元々、幸雄と幸子は兄妹だという意識が希薄だった。殊に、秀子に対する入れ込みの度合いが増すにつれ、ヒロポンやアルコールの悪い影響も手伝ってか、幸子を余計警戒するようになった。幸雄の入院の話は遠のくばかりの状態となって行った。




 


    

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ