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冬の空  作者: 加藤 健作
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香港に到着後

 いよいよ香港への研修旅行の日が到来した。幸子は料亭の若い板前亮司とベテランの仲居佐久間を連れて行くことにした。亮司は刑事事件で起訴された料亭の元板前長の泰造の一党に属していたが、幸子に巧みに懐柔され、幸子の側に寝返った人物だ。将来はヤムチャ・レストランでも調理場で重要な働きをするものと幸子は期待していた。同行したもう一人の初老期の佐久間は幸子のこどもの頃の世話係であった。毎日幸子の小学校への送り迎えをしてくれた仲居でもあり、幸子が山倉家に迎え入れられたとき、夜なかなか寝つかなかった幸子に添い寝した人でもある。




 朝の八時に羽田空港の国際線出発ロビーに林梅蓮と合流した。今でこそ香港国際空港はアジアを代表するハブ空港となったが、当時は狭い、着陸時が怖いと言われていた啓徳空港であった。昼前には香港の空港に到着した。そのまま林梅蓮のガイドに従い、タクシーに乗り、予約を取っていたビクトリア・ハーバーのウオーターフロント、尖沙咀鐘楼、有名なアベニュー・オブ・スターズから徒歩数分以内の便利なロケーションにあるザ・ロイヤル・ガーデンに向かった。お昼はヤムチャすることに決めていたが、日本から到着後すぐに町にでるのは、いくら若い一行であっても疲れるので、ホテル内のヤムチャ館で昼食を取ることにした。本番で最初のヤムチャの試味である。美味なスープたっぷりの小籠包、海老蒸し餃子、ジューシーな肉まん、葱油餅、各種のシウマイ、大根餅や酸辣湯を食した。デザートには黒胡麻あんこのごま団子に本格ダン・タッ(エッグ・タルト)、杏仁豆腐などを食べた。どの一品もおいしく、脂っこい中華系の料理ではあったが、一行の誰もがこの料理なら幾らでも食べられるという印象を持った。同時に幸子は自分たち日本人がこれほどおいしいと感じる料理ならば、日本でヤムチャ・レストランを開業したら繁盛するのではないかということを再確認した。




 昼食を取ってからはホテルへ戻り、各自荷物の整理をしたり、朝が早かったので、短いを昼寝を取るものもいた。幸子と林梅蓮と同室に泊まり、板前の亮司と仲居の佐久間は別の部屋に宿泊した。林梅蓮はせっかく研修旅行に来たのだから、食事は毎日一回はヤムチャにしようと提案した。シンフォニーバイジェードや添好運點心専門店など幾つかの試食すべき店の名前をあげた。高級店だけでなく、大衆向けのヤムチャ館も食べ歩くことも推奨した。「お店の作りなども見学したいね」、と幸子は林梅蓮の提案に応えた。




 夜はホテル近くの中華料理店で上海料理を食べた。上海は四季があり、風土的に日本に近いせいか、味に違いはあるものの、食材にしろ、調理法にしろとても日本料理と共通項が多い。幸子らはこの料理店で豚の角煮、上海蟹の蒸し物、むきエビの龍井茶入り炒めなどに舌鼓を打った。




 食後は滞在中のホテルに近い夜景の名所として人気の高い「ヴィクトリア・ピーク」を散策した。標高約552メートルもある香港島で一番高い山である。ヴィクトリア・ピークから見下ろすヴィクトリア・ハーバーを含む夜景は世界三大夜景のひとつとして知られている。何度もここを訪れている林梅蓮は別として、佐久間も亮司も夜景の美しさにいたく感動したが、幸子は景色を眺めはしたものの特に何の感情も示さなかた。ホテルでトイレで用を済ませ、ロビーに出て来た時の表情と何ら変わりない。同行した三人は日本の同僚たちとこの感動を共有しようと思ってか写真を撮りまくったが、幸子はレストランの建築や料理は撮影するものの「ヴィクトリア・ピーク」ではカメラに手を触れることさえしなかった。







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