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文罪  作者: 梃子
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起点-4

起点4


 あまり広いとは言えない部屋に足を踏み込んだ途端響いた快活な声に、截はびくりと肩を震わせた。彼の短い十九年の人生と、その内の長すぎる十二年の中で知り合いと言えば、監獄に入れられる前まで自分を育ててくれたじいちゃんと、毎度手紙を受け取ってくれる隣の看守に、それと偶に相部屋になる他の囚人が数名程度で、狭すぎる交友関係のどれにも当てはまらない声音だった。期待から急転。本能的な部分が働いたのか、緊張で息が詰まった。

 そろり、と顔を上げる。素朴な古木の長机を挟んで向かい、男が二人。細長い男と、頑丈そうな身体をした男。その中の細長い、限りなく中性的な顔立ちの方がどうやら声を発したらしい。

 どちらも自分の期待していた人物ではなかった現実に截の思考は簡単に停止する。

「おお少年! 固まってるな。まぁ力を抜け」

「……誰、ですか、あなた達」

 当たり前だが全く心当たりのない人物たち。引き攣った声は室内に響くことなく静かに沈む。

「ん? なんだ少年。俺たちの事を知らないのか? なら対話をしよう!言葉を紡ぎ、連ね合い、己を互いにさらけ出せば心も自ずと通うものだぞ」

 全く截の声を耳に入れていなさそうな男は、薄暗い室内でも神々しく輝く灰髪を揺らし、実に楽しそうに笑う。

 ただ純粋に気味の悪い変質者、と判断を下した截は、獲物からは目を離さずに数歩後ずさる。隣の看守に数瞬目をやると、白けきった瞳からは何も感じ取れない。

「截、貴様は何も見ていない。俺も何も見ていない。目の前の変態は意識から除外しろ」

 恐らくこの看守もこの珍妙男の行動に理解が追い付いていないようだった。少しばかり慣れた様子で己の思考から追い払っている。

「そう敵意を剥き出しにされると、我々も心苦しい。君が疑問を抱くのも分かるが……とりあえず座らないか?」

 飄々とした男の隣で簡素な木椅子に腰掛けるガタイのいい男が口を開く。灼熱のような燃え盛る赤髪と、蜂蜜色の光を放つ鋭い目付きからは少し意外性のある、落ち着いた声音が截を諭すように着席を促した。どうやら此方は少しは話が出来そうだ、と判断した截はゆっくりと腰掛けた。亥戒も隣に腰掛けると、赤髪の男はゆったりと指を組み、「さて」と口を開いた。

「はじめに自己紹介しておこう。私は碧彌(あおみ)(いさむ)という。先程から煩い隣の奴は喜戟。こいつのことは気にするな。お前も、立っていないで座りなさい」

 低すぎず爽やかな声音は腹から発声されていなくとも力強い。碧彌の節くれだつ指が仁王立ちで憤慨する喜戟の脇腹を小突いた。

「碧彌、それは俺に失礼だぞ。やぁ少年! 俺の名は喜戟 蓮太郎(れんたろう)だ。ふ、言わずとも良い。良い名だとな」

「そんなこと思ってないです」

 脳が処理を終える前に本能で口から飛び出た否定はそのまま喜戟を突き刺す。かなり大袈裟に胸に手を当てた喜戟はがくりと椅子に崩れた。

「みなちぃとばかし、俺に冷たくはないか、碧彌」

「いや、截くんにいたっては初対面でよくここまで冷静に対処できていると、私は感心しているよ」

 肩にのしかかって来る喜戟を腕で押し退けながら、碧彌はにこやかに笑う。

「……お前たち、囚人が戸惑っているからはやく本題に入ってやれ」

「あぁ、すまない。我々は人が多いほど話がまとまらなくなるのでね。さて、截くん。君と面識のない我々が、君に会いに来た訳を話させてもらおう……まずその前に聞かせてくれ」

 亥戒が長机を指で叩き、呆れた様に急かしたのを皮切りに咳払いを一つ。碧彌は白金に燃える瞳を沈ませて、真っ直ぐに截を見た。


「君は、何故己がこの監獄に囚われているか。理由を……知っているかい」



メチャ…………ヒサシブリ……また書いていきますネ……

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