1/5
起点
文罪 ぶんざい
時に、この世に犯罪者というのは一体どれほどいるのだろうか。
人を騙してカネを取った、物を盗った、はたまた、なにかしらを殺めた……とか。人間にのみ与えられてしまった犯罪という行い。種類を上げたらキリがない。
そんな犯罪を取り締まる為に施行された「法律」は、罪の大きなものから小さなものまで、例外となる國民はおらず、誰しもがその引かれたレールの上をはみ出さぬよう生きている。はみ出してしまった者が犯罪者というわけだ。
そんな日々改正され変わりゆく犯罪、法の中にほんの一時。
「本を読む、書く」という大罪があったことをご存じだろうか。
そして、その法を犯した者は一体どれほどいたのだろうか。
文罪。己の思想や理念、子供向けの童話から頭の中で練り上げた非現実な空想物語に至るまで、執筆すること、またそれらを読むこと。販売すること。全てを十把一絡げに禁じた刑法。
その刑法が施行された日、この日の國に生きる約五千万の國民が総じて犯罪者になった。