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9日目 ~公園~

さて、ウェーイ系と関わっても、どうせおっさん扱いされて囮にされたり、馬鹿にされたりするだけで碌な目に合わないと判断した俺だが、下手に出てく事もできずに、そのまま茂みの中でじっと様子をうかがっていた。


しかしこんな公園で何やっとるんだあいつらは。

住宅地は人口密度が低いとはいえ、ゾンビがいないわけではないのだが。

ウェーイ君たちはゾンビが出てようが外で遊ばないとストレスがたまる欠陥人間なのか?俺はパソコンの前から1週間動かなくても生きていけるのにアホちゃうかあいつら。

そう思って、聞き耳を立ててみると、細かい話は聞こえないが、怒ってる男と女の宥めるような声が聞こえる。どうも揉めているようで、そっと茂みの隙間から様子をうかがってみると砂場で若い男が女に馬乗りになっていた。


マウント状態から殴りかかる男。たちまち甲高い女の泣き声が響いてくる。

泣き声の余りの大きさに周りが止めに入った。


「コイツのせいでシイナが。」「とにかく助けに行かないと」

など断片的に話が聞こえてくるが、基本ぼそぼそ声の上、女の泣き声が大きくていまいち状況がつかめない。


そのうちに泣きじゃくる女を鉄棒に縛ってウェーイ君たちが公園から過ぎ去っていく。

縛られた女は『待って待って、死んじゃう』と言ってるが、『オマエの自業自得だろ!』とブルーグレーの髪の若い女が怒鳴り返すのを合図に、ウェーイ君たちは近くに止まっていたトヨホンの電気自動車に乗ると音もたてずにすぃーんと去っていった。


ウェーイ君たちがいなくなると、女は泣き声を押し殺して、無茶苦茶にもがき始めた。しかし、よほど強く縛られているのか、全然解ける気配もない。しばらく見ていたが、変化もないのでそっと茂みから頭を出し、周囲にゾンビが居ない事を確認して茂みから出ると、鉄棒に向かって歩き出した。


女はしばらく俺に気づかずにもがいていたが、足音に気づき俺を見てひっと声を上げた。が、すぐに近づいているのがゾンビでなく、単なる禿げたおっさんだと気づくと、落ち着いて媚びるような笑みを浮かべた。


「ねえ、お兄さん。私、悪い奴らにつかまって縛られたの助けて」

女は俺に向かって必要以上に体をクニャクニャよじらせながらそう言った。ぴちぴちのタイトスカートに胸元を大きく開いたレース付きのブラウス姿で、ぷりぷりした唇を甘えるように突き出したり、丸い胸をアピールしている。

おそらく俺の見た目から、女に縁がないおっさんと判断して、誘惑しているつもりなんだろう。

しかし、本人は気づいてないのだろうが鼻血が出ているし、右目が少し腫れてて内出血のようになっていて、見た目がちょっとハードすぎる。俺はレイプ物では抜けない男なのだ。



「そうなんだ。なんか揉めてたけど。」

言いながら、女の後ろに回り、縛られている腕を見た。太めのインシュロックを二つそれぞれの手首の肉に食い込むまできつく繋がれてる。なんとなくやった奴に相当恨まれてるか信用されてないなと思った。


「あ、見てたんだ。悪い奴らでしょ。私、医者なんだけどさ。あいつらに協力してたのに騙されちゃって。」哀れっぽくそう言う彼女の鼻血をシャツの袖で拭って拭いてやる。ギリギリ20代ぐらいだろうか。若さと熟した女体が同居してるかのような体のパーツ一つ一つが丸みを帯びてて、ぷりんとしたブドウの房のようなみずみずしさと熟しかけた柔らかさを感じた。


「お願い。このまま放置されたら間違いなく死んじゃうわ。ね、助けてくれたらさ。好きなだけやらせてあげるから。」同情を買うように上目遣いでいう姿が妙に官能的で、思わず胸や腰のくびれ、丸みを帯びた尻に視線が向いてしまう。


「助けるのは別にいいけどさ。そんなドスケベなカッコで医者には見えないし。嘘ついたり、体で釣ろうとか俺をなめすぎじゃない?」

俺は平静を保ってそう言いつつポケットを探るが何もない。体で釣れなかったのが意外だったのか、『嘘じゃないって』と言う女をスルーしつつふと周りを見ると、ゾンビが道路をゆらゆらと歩いて来るのが見えた。慌ててしゃがんで姿を隠す。女も可能な限り地面に体をくっつけて見えないようにしてるが、なにせ格好が派手すぎて、焼け石に水だ。いずれすぐに見つかるだろう。


「ね、ね、私のポケットに爪切りあるから。」

ピチピチのタイトスカートを横向きに突き出し、焦りながらも女が言う。柔らかい尻に密着したポケットを探ると、ぽろっとストラップ付の磁気カードが落ちた。『古神美容クリニック 院長古神美彩』と書かれた顔写真付きのものだ。

「あ、ダメそれだめ。拾って」と言われ、拾って自分の首にかけた。そのまま探ったが爪切りはない。

「他のポケットかも。」ゾンビが気付かずに道路を歩いていくの見ながら、美彩が泣きそうな顔でそう言った。遠慮せず、胸ポケットを探る。薄いブラジャーなのか妙に柔らかな感触がする。布地の奥に硬い金属を感じ取り出したが、なんかの鍵。使えなさそうでそのまま『ずぼっ』と奥に戻す。タイトスカートの逆ポケから小さなカードサイズの箱が出てきて、開くと裏が鏡でピンセットと爪切りのエチケットセットだった。


爪切りを取り後ろに回り、柔らかな肉に食い込んだインシュロックに刃先をあてる。グッとやるがなかなか切れない。パチパチ端から切っていくと、ようやく左手のインシュロックが切れた。


「ねえ早くしないと死ぬってば!」

軽くパニック状態の美彩が俺から爪切りをひったくり、自分の皮膚ごと右手のインシュロックを断ち切る。

それを確認し、「じゃあ、逃げるよ」と声をかけ走ろうとしたら、後ろからズボンを引っ張られ、すっころんだ。振り向くと美彩が俺のズボンをがっちりつかんでいる。


「まって、まって。おいてかないで!」

逃げようとする俺の足に縋りつく美彩。


「ちょ、放せ。」

俺はカンダタよろしく、縋りつく美彩の頭を手で押しのけつつ、そう言った。


「無理。あいつらにつかまった時に足くじいてるの。歩けないの」

見ると、美彩の左足首が青紫色に変色した酷い捻挫になっていた。

しょうがねえな。と腕をつかみ無理やりたたせると、おぶって走り出す。重い。が背中に感じる柔らかな双丘と耳に吹きかかるくぐもった泣き声交じりの甘い吐息に男の本能が刺激され、ふらつきながらも落とさずなんとかトイレの陰に止めてあった自転車にたどり着く。『ごめんねぇゴメンねぇ』と殊勝に謝りながらしがみつく美彩を連れて夕焼けの中、二人乗りでフラフラと漕ぎだした。



――――――――


「ね、すぐ近くに寄ってほしいところがあるの」

美彩は公園から200mほど離れた交差点に差し掛かった時、俺にそう声をかけた。

「いや、こっちもやる事あるし。俺が飯を持ち帰るのを待っている女性がいるんで」

俺は背中に当たる柔らかな胸の感触に集中しつつも、断固としてそう断った。


「そうなの?じゃあそれも解決できるから、行きましょう」

そう言った美彩の指示でたどり着いたのは、住宅地のはずれのレンタルコンテナスペースだった。


「誰かいる?」

「人影はない・・・な」

看板の陰に隠れる美彩にそう言うと、自転車にまたがり器用に右足だけで地面を蹴って美彩が姿を現した。


こっちと、手招きされて付いていくと、太陽光パネルや室外機がついていて、周りのコンテナより一回り小さいコンテナが敷地の奥にひっそりと存在していた。


「ここ、さ。あいつらが食料保存してる冷蔵コンテナ。」

美彩は怒った顔でそう言うと、胸ポケットから鍵を取り出す。


「もとはわたしの医薬品とかの保管庫だったんだけどね。」

美彩から鍵を受け取り、コンテナの鍵を開けると翻るビニールカーテンとともに冷気がひんやりと俺の肌に纏わりついてきた。


「暗いな」

「そこで止まってね」

言われたままに入口で止まっていると、美彩が開いた扉の裏にあるタッチパネルを操作する。

すると電気がつき、中の様子が明らかになった。


「こりゃ、すごいな」

コンテナの中は多数の買い物かごや段ボールが積まれていて、そのすべてに食品が詰まっていた。

米に冷凍野菜。ソーセージやハムといった加工肉。ベーコンやステーキソースまである。


「好きなだけ持ってっていいけどーあんまり時間はないからねぇ。」

好きなだけと言われても、自転車に乗せれる分は限られてる。俺が歩いて美彩が自転車に乗るとしても買い物かご二つぐらいか。

いろいろ迷ったが、米を自転車の籠に入れ、その隙間に出来るだけソーセージを突っ込み、片方の買い物かごに日持ちのしそうなパックされた加工肉をできるだけ積み込む。もう片方には、大根などの根菜類と野菜ジュースのパックを可能な限り詰め込んだ。


「そんなに持てるの?」

俺が食品を漁っている間、タッチパネルをポチポチ弄っていた美彩は、俺がふうふう言いながら持ち出した買い物かごを見て呆れたようにそう言った。まあ普通なら多すぎるぐらいだが、うちには流音が居るのだ。多いに越した事は無い。


「さて、ここからがやりたかった事。」

美彩は買い物かごを外に出したのを確認すると、俺を連れて、再びコンテナの中に入っていく。

そして積んであった買い物かごを移動させ、奥のスペースへと片足で跳ねるように進んでいった。


買い物かごで隠された裏には、大きなゲージがあった。

その中に白いワンピースの幼女が入っていて、こちらをぼんやりと見ていた。


「おい、これ・・・」

「感染してるのぉ。あの銀髪の女の子供。」

話し声を聞いて幼女は興奮してゲージを掴み、ゆさゆさと揺さぶり続けている。

美彩はゲージの横の台に乗っている注射器を手に取ると、台の下のクーラーボックスを開けてアンプルを取り出し、注射器で中身を吸い上げ、ゲージを掴む幼女の腕に薬剤を注射した。たちまち幼女がゲージから手を離し、フラフラと崩れ落ちた。


「殺したのか?」

「まさか。感染後にワクチンを投与すると拮抗して昏睡するんですぅ。」

美彩はゲージを開けると倒れこんだ幼女を引っ張り出し、さらにクーラーボックスから取り出したアンプルを次々と投与していく。何をしているかわからんが、ワクチンがあるなら持って帰りたいと思い、注射器と俺が打ったやつと同じアンプルを見つけ出すと、美彩に断ってセットでもらってポケットに入れこんだ。


「これで、開けてびっくり玉手箱。感動の再会ができると。」

眠ったままの幼女を床に放置したまま美彩はとても嬉しそうにコンテナを施錠した。


なんだかんだ言って、医者だから患者のことが心配だったんだなと俺は美彩を少しだけ見直した。




――――――――


「なんで、増えてるのよ」

床にへたり込んだ俺たちを見て、あきれ顔の流音がそう聞いてきた。


「・・・・・・」

一方のルナさんは張り付いた笑顔で何も言わずにこちらを見ている。


「いや、医者だっていうんで。病気とかケガとか…したとき…」

首にまとわりつく腕と責める視線の板挟みとなりしどろもどろの俺。


「…に、美容クリニックの人に見てもらうんですか?」

ルナさんは笑顔を崩さず、俺の首から下がる磁気カードをまじまじと眺め、割ととげとげしい感じでそう言った。


「えー。まあ、こんな貧乏そうな人には自費診療とか縁がないかもしれないですけどぉ。わたしセレブ相手の医者ですしぃ」

敵意を感じとった美彩が嫌がらせのように俺にベタベタくっつきながらそう言った。どうも男に頼って生きていくタイプらしくアパートに着いてからも足が痛いと言って俺から離れようとしない。


「そうですね。私、親からもらった体にメスを入れてサイボーグにする必要ありませんから。不自然体形にわざわざする必要ないですよ。」

ルナさんは先ほどよりさらにきれいな笑顔で、先ほどよりとげとげしくそう言った。


「あ、はいはい…居るんですよねぇ。なまじ美人に生まれたばかりに年を取った時に年齢にあったケアが出来ない女って。そんな女すぐに劣化しますよぉ。ねえ。そう思いますよねぇ。」

美彩は俺の右手を取り、誘うように自分の膝に乗せて二の腕に胸をあててくる。


「でもサイボーグは子供ができたら困りますよ。両親に似てない子供の気持ちを考えると、悲しくなりますね。実篤さん。」

ルナさんは笑顔で軽やかに俺の左に来るとぺたんと座わりこみ、俺の左手を両手でやさしく握りこむとふわっと頭を俺の肩に乗せてきた。


「あれ、これ俺モテてる?」俺は生まれて初めて俺を取り合う女たちを目の当たりにして、思わず流音にそう聞いた。


「あ、うん。たぶん気のせいだと思うよ。」

流音は腹が減りすぎて、もう姉も見知らぬ女もどうでもいいとばかりにそういった。目が完全に玄関に置いてある買い物かごにいっていた。


「そっか・・・流音。おまえのハム食ってゴメンな。好きなだけ食ってくれ。ルナさんも、ご飯にしよう。」

俺は飢えた流音の正直な一言に、そうだよな。と冷静さを取り戻して立ち上がろうとしたが、ルナさんにものすごい力で阻止された。


「ごはんなんて私はしばらく食べなくても大丈夫です。どこぞの泥棒猫は不自然体形でぷくぷくの大飯ぐらいのようですが」そう言ってルナさんは俺の肩に頬ずりしてくる。


「わたしは、医学的見地から理想的な体重を維持してますからぁ。出るとこ出て引っ込むとこは引っ込む系の。健康を維持したダイエットもお手の物ですしぃ。加齢による脂肪がついたむちむち貧乏人とは違いますよぉ」

対抗するように美彩はほら触ってみてとばかりに俺の手を体に当ててきた。


「なあやっぱこれモテてないか?」

両手を美人に取られて俺は再び流音にそう聞いてみた。


「ううん、やっぱり気のせいだと思うよ」

流音はハムの真空パックを素手で破りながら悲しそうにそう言った。


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