怪物
ある日、とある男が人への憎悪により触れるものを破壊する力を身につけました。男はその力を使い、気に入らない物を破壊し、気に入らない者を破壊していきました。
その男の空気は人を近づけない鋭い空気を放っており、誰もが恐れいずれ人は周りから離れていきました。
その結果に満足していた男でしたが、、ある時ひとりの女性が男に近づいていきました。その女性のことをめんどくさい女と思い関わらずにいた男でしたが、女性は人の温かさを知ってほしいとめげずに話しかけていました。
次第に男は女性へと惹かれていき、男と女性は一緒にいる時間も多くなりました。その結果、女性は男と打ち解けることができたことに満足していき、男はもっと女性のそばにいたいと思うようになりました。
しかし、自分が触れるものは破壊されてしまうことを思い出した男はその心を自分の中に押しとどめ、女性を自分のそばから離れるように仕向けました。
女性は急に態度が冷たくなった男に対して何故冷たくなったのか困惑していました。
しばらくして男と連絡がとれなくなってしまった哀しみから女性が家で呆然としていると、男がまたモノを破壊したと人伝に聞きました。
女性はもう一度会おうと決めて男の自宅まで行きました。久々に会った男は髭が伸びて髪も長くなり、部屋もぐちゃぐちゃになっていました。
女性は心臓の奥がギュッとなり、自分の身の危険も顧みず思わず男を抱きしめてしまいました。
「あなたは自分を守るために攻撃的になっていただけで、本当は寂しかっただけなんだよ。」
それを聞いた男は子供のようにワンワンと泣きじゃくりました。その姿を見た女性も男と一緒にワンワンと泣きだし、ひどく泣いていた両者はぐちゃぐちゃになった互いの顔を見て二人で笑い合いました。
実は、男の破壊する力は自分でかけた呪いなのでした。そして、その呪いは女性との愛によりすっかり溶けました。この世は皆が思っている以上に優しい世界なのかもしれない。
と思い安心していたのも束の間、男の過去の過ちがなくなったわけではありません。男が破壊した物により傷ついた人、生活が立ち行かなくなってしまった人が現れ、男が破壊した者と親しかった者達の負った心の痛みはもう戻らなくなってしまっており、その者達からの恨みは脈々と受け継がれていたのです。
心を取り戻し安寧と平穏を取り戻した男でしたが、男の行いを許せない者たちがこの世の中には大勢おり、失態を犯した男がのうのうと生きることをこの世は許さないのだと知りました。
男は過去の精算として自分の命を断つことを決意しました。呪いの力はより強固なモノとなって男の体にまとわりつき、誰も寄せ付けることのない、かつてより恐ろしいオーラが空気を陽炎のように揺らしていました。
そうして男は自らの手で自分の心の臓を突き刺さそうと腕を振り上げ、心の臓目掛け目にも留まらぬ速さで一直線に振り下ろしました。
するとどうでしょう、女性が男の体に抱きついているではありませんか。しかし、振り下ろした手は男の制御でどうこうなる速さではなく、女性の体ごと貫きました。
「貴方に出会えてよかった……。
貴方との日々は私の宝物よ。貴方一人に寂しい思いなんてさせないように……。
これからも貴方のそばにいるわ……。」
その言葉を最期に女性は笑顔で息絶えました。
その言葉を聞き届けた男は「バカモノめ、お前さえ……お前さえ生きていれば私はそれで……。」と言う言葉を残して息を引き取りました。
二人寄り添って地面に横たわる亡骸を見ると、それはそれは幸せそうに笑顔で向かい合っている男と女性の姿が見られましたとさ。
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次回作のタイトルは決まってますので、近いうちにまた投稿予定です。
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