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海の民 第一章  作者: 来栖 傳
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第一関門の突破

いきなり、初戦の終りをアップします。

その間のエピソードは、後から埋めます。

意図は有るのですが、作者の都合が大きいです。

今日、小説を読んでもらえる方に、戦闘シーンの余韻を楽しんでもらえたらという思いです。

「助かった」

シオジは腰を下ろし、正直な心情を吐露する。どうせ「賢者(笑)」なのだ、このようなざまを兵たちに見られても今更軽蔑するも無いだろう。

「うむ、奴が大人で良かったな」

カイジは、普段シオジが嫌っている大人という言葉をあえて使って見せる。

「奴の喉笛まで刃は迫ったが、我々の切っ先はまだ届いていない。それをこの段階で負けと宣言できるのは、相当な胆力と権威を兼ね備えているものだけだ」

戦を続けることは双方が出来た。

民の損耗を顧みず、本国からの援軍を得て。しかし、その先にあるのは泥沼でしかない。どうせ長く駐留することもあるまい。そのような読みも彼らには有るのであろう。戦勝を譲り、名誉の降伏をすることで、新しい権力者への信望も得られる訳だ。地方に根付いた彼らの権勢には、いささかの痛痒でもないであろう。

「けが人は?」

ヒメが叫ぶ。その顔には油断は見られない。けが人の数だけを確かめるのは、知っているのだ戦没に至った者が居ることを。そしてそれは、今聞いてもどうしようもできない。

「今、各将からの報告をまとめて居るところですわ」

疲れ果てた顔をしたサクラが傍による。ヒメをそれとなく、座らせようとする。

「できる限りの治療を、最優先はそれよ。守りを固めること。偽の降伏はシオジの専売特許ではないわ」

「「「センバイトッキョ?」」」数名がいつもの反応をするが、深堀をするものは居ない。


見張りたちが騒めきだしたのが見えた。

「来ましたな」

「何とも早い。短気なのかな?それとも、わが軍の被害を探るつもりか?」

「あれだけの長期対陣を仕掛けられる男が短気とは思えませんが…」

「いや、短気者ほど我慢に長けていることもある。ほれ、あの賢者(笑)でさえ」

「そうそう、いつまでも靡かない者を想って、幾星霜」

(うるさいわ)

当の短気者がここに居るのを知っていても、大人どもは彼らの分析や戦評をやめる気が無いようだ。自然に幕僚として働いている彼らに共通するのは、図々しいというところだ。評さられるのは当代の英雄(笑)たちである。いつものことだ。


「三関の守将、あんべ たじかおと申する」

岩のような風貌をした男が平伏をするが、その高さでもヒメと同程度では無いか?

「これは大物のお越しですな」

前線でまみえたカンジが苦々しげに答礼を行う。敗戦の記憶はまだ新しい。

「海の国のヒメミコトです。正々堂々の戦振り、良い兵をお持ちと感心しておりました」ヒメが恨みはありませんと、先ずは赦しの言葉をかける。

「その方たちの国土を荒らすつもりは寸毫といえど我らに在りません。向後は共に手を携えて、民の生活を向上させていく所存です。私に、いえ我らに協力いただけますか?」

この国の民は訛りはきついが、海の民とも会話ができる。やはり何らかの交流が以前よりあったのだろう。

「勝者の権利の行使について、敗軍の将がとやかくは言えますまい。ただ、当軍は決して逆らわぬよう申し付けるゆえ、それなりの扱いを望むのと、はやく奴らを家族のもとに返してやりたい」

タジカオは、悪びれる風を微塵も見せずに、試合が終わったからシャワーを浴びて夕飯に帰りたいといったことを言い出す。

「兵の束縛はいたしません。実は、当軍も兵糧が尽きそうで、あなたたちの糧食まで面倒を見てあげられ無いのです」

「「「ヒメ様」」」

馬鹿正直なのか、懐が広いのか、事実をあっさりと打ち明けてしまう。タジカオでさえ、虚を突かれた表情を隠せない。

「な、なるほど、これは勝てない。こだわりを超えた善意。これに常識外れの戦術家と強兵。どうやら神は、わが国土に君主をお授けになるおつもりらしい」

膝を打ったタジカオがさらに言葉を重ねる。

「困ったことに当方では一度集めた兵糧を、民に公平に戻すほどのまつりごとは行っておらず、このままでは腐らせるしかない品々を、君主の扱いとさせていただきたいのですが」

打ち捨てていくものの管理を託したいとの申し入れであるが、もちろん勝者への気配りであり、今後の引き立てにも期待しているのだろう。

「それは、双方得難い繋がりのきっかけとなるでしょう。ウィンウィンですわ」

またしても、誰もが理解不明の言葉が出てきた。

さすがは当代の聖女、古語にも秀でていると思われる。

「また港への係留は、文官を差し向けます」

「ご配慮感謝申します」

面談は終わりだ。これから双方、言葉に尽くせない地味な残務処理が待っている。


「はあ、まだまだ黄金は遠いなぁ」ヒメはつぶやく。

瑞穂の国の最深部への侵攻を続けるのかどうかさえ、今は決められない。

それほどの反撃を、この国の民は見せつけた。

話に聞いていた穏やかで豊かな国民性は、一面だけに過ぎなかった。

(愚直に戦を続けるのは悪手ね)

彼女は思う。こんな時こそ、ヒンチ先生が仰っていた「概念を破り、突き抜ける」思考が必要になる。そのためには、甘いもの。なんでリサを連れてこなかったのかしら?そうそう、あの子は戦と聞いて、ぶるぶる震えて「今まで、お世話になりんました」と噛み噛みで辞意を申し出てきたので、王都に残してきていたのだ。

黄金だってヒメ自身がたくさん欲しいわけでは無い。両手に持てない程度には欲しいかもしれないが、それほど欲があるわけでは無い。ヒメミコトである以上、そのくらいはいただけるわよね?片手で持てないくらいでもいいけど。それよりも、民の間に黄金の装飾品が広まり、エンゲージリングの習慣が当たり前になれば、自分も誰かに贈られるかもしれない。

(まあ、素敵)

自身に向けられる恋慕には鈍感でも、ロマンスには憧れているのだ。

「ヒメさん、妄想で忙しいところ、悪いけど打合せの時間だ」

楽しい思索の時間に突然邪魔が入った。

「師匠って、本当に意地悪ですね」

「そりゃ、どうも。ヒメミコト様には、美味しいものの妄想くらいは、赦して差し上げたいところですが」

「何で、私の妄想が食べ物限定なの?いいえ、妄想と決めつけているのも酷いですが」


師弟の微笑ましい口喧嘩・語り合いを周りの大人たちは、横目で見守っている。

「どうだ、王族と宰相の一族、どちらも英雄なら、有りか?」

「いや、無いんだよなー、俺の見立てでは」

「さすが口説きのオトマツ、俺も無いと見る」

「だよなー」

「本当に残念だ」

「残念な、方々だ」

さて

ミズホの国での初戦が相当の苦戦になったことが明らかにされました。

なぜ大軍を擁しても、簡単に勝つことができなかったのか、今後説明をしていきます。

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