幕間 孤児院
たまたま父の視察について行った時の事だった。
コーデリアは、公爵領の首都にある、孤児院のそばを通りかかった。
「お父様?あれは?」
「ん、あれは孤児院だな。親を亡くして行き場のない子供達を集めているのだ。」
「大人になった子供達はどうしているのですか?」
「そうさな…町場の大工や食堂に引き取られたり…まあいろいろだが、途中で逃げ出してしまう子供も多いのが現状よな。」
「私、ちょっと見てみたいのですが…」
ちょうどいろいろ事業を始めたので、平民向けの仕事についてくれる、信頼できる人材が欲しい。
ゆくゆくはスカウトできないかな。
そう思ってお願いする。
「構わないが…そう面白い場所ではないぞ?」
「ありがとうございます。」
困惑するお父様に笑いかけ、馬車から下ろしてもらう。
その建物はかなり大きく、一般的な公立高校を二つくらい合わせたような広さがある。
思ったより広くて快適そうな場所で少し安心する。
お父様はこういう子供を蔑ろにする方ではないのね。
「これはこれは公爵様!!ようこそおいでくださいました。」
老エルフの院長が転がるように出てくる。
「突然すまないな。娘がみたいというものでな。」
「おお、コーデリアお嬢様ですな。では、応接室にお茶を用意しましょう。」
「いえ、子供達を見たいと思いますわ。」
「そうですか、もちろん構いませんが…少々粗野な子もおりますが…」
「問題ございませんわ。」
お菓子をバリバリ食べて空気と化しているが、こちらにはカロンがいる。
怪我をする事にはならないだろう。
「こちらは男子棟ですね。現在は150名程の子供達がおります。」
部屋の中は二階建てベッドが二台あり、4人一部屋になっている。
「あ!院長先生。」
ベッドに腰掛けて本を読んでいた、ネズミ耳の少年がこちらにトコトコやってきた。
「やあ、イアン。こちらは公爵様とお嬢様だよ。みんなはどこにいるかな?」
「こんにちは、公爵様にお嬢様。みんなは運動場だと思います。」
「ありがとう。」
イアンくんを見る限り、不潔すぎたり痩せすぎたりはしていない。
女子棟も見学したが、綺麗だし特に不満で出て行く要素が見当たらない。
厨房では料理の真っ最中だったが、こちらはさすがに非営利施設らしく、かなり質素な食事内容だ。
作っていたのは、施設の女の子と男の子が半々くらいだった。
それでも、この国基準からすれば中々悪くないけれど。
「ここではみんなどう過ごしているのですか?」
「そうですね。先程のように料理するもの、洗濯をするもの、掃除をする者に別れて作業を行っておりまして…終わり次第自由に過ごしておりますね。」
今は余暇時間なのね。
次に運動場では子供達がわいわいと遊びまわっていた。
中々にワイルドに遊んでいる。
「この子達は何か就労支援は受けないの?」
「シュウロウシエンといいますと?」
「読み書き算数や、縫い物とか大工仕事とか…いろいろやってみて適正を見つけるのよ。」
「そう言った勉学関係は貴族以外だと…そうだな商人や職業に就いている者のだけが精通しているな。」
「ここの子供達に、私から教えても構いませんか?」
「ああ…構わないが…」
こうして教育係になった私は、まじめに参加すると、美味しいお菓子や肉をプレゼントする…という極めて即物的な方法で子供達の教育を始めた。
ついでにノーマン畑の採れたてお野菜や私の焼きたてパンを納入して、美味しいご飯が食べられるようにする。
さらに、勉強以外にも刺繍、絵、陶芸、魔道具開発、大工仕事などにもポイントを付けて、高いポイントを現金化したり、お肉やお菓子と交換できるようにする。
出来がいいものはそのまま買い取りをする。
いつのまにか子供達の先生には、エルフの長老達が続々と集まって来てくれた。
お父様曰く、無駄に長生きでヒマらしい。
空いていた場所を改装して始めたこの取り組みは、中々に上手くいっていた。
しばらくすると、ハンナとリュック少年が見事な刺繍の腕を見込まれてブティックの見習いとなり…
ステファンとジークは早すぎる計算能力を買われて、モリスさんの商会の見習いになった。
読み書き、計算が出来る人物は町場のお店でも人気が高く、この孤児院は人気施設となった。
数年後には、噂を聞きつけ国中から孤児院を抜け出してやってくる子供達が現れるようになった。
その上、一般の子供達まで授業に出入りするようになり…
期せずして、この国で初めての学校を作ったのだった。
父からこの施設を譲り受けたコーデリアは、この施設からたくさんの従業員を雇っていく事になる。
後にこの学校は国の各所に作られる事になるのだが…それはまた後でのお話だ。




