幕間7 ヒロインの誕生日
ある日、今までカチッカチで食べられた物ではなかったパンが、突然ふわふわになった。
その日は男爵はすごくご機嫌だった。
なんでも、いつぞやの治療のお礼にと、王宮での仕事の帰りに王都のお店で、ご飯をご馳走になったらしい。
「その店の品はどれも美味しくてなあ…そうだ!今度の誕生日は、その店に連れて行ってあげよう。もちろん、パーティは別に開催するがな。」
パンはその店の支店が近くにあるらしく、毎日買い付けに行かせているらしい。
「ありがとうございます。お父様!楽しみですわ。」
これだけ美味しいパンを出すお店であれば、他のメニューにも期待できそうだ。
少なくとも、少しは食べられる物ができ、生活が少し楽しくなった。
その日の晩…
「はあ…やっとまともなモンが出てきたわね…長いわよ。この世界、いくらゲームだからって食べ物の手抜きすぎよ。」
「今頃コーデリアが公爵家に引き取られて、ワガママ放題し始める頃ね…」
子爵家から公爵家に引き取られた事で、今まで手に入らなかった宝石やドレスがなんでも手に入るようになる。
さらにはどこにいっても公爵令嬢と持て囃されて、すっかり有頂天になり、どこにいっても威張りくさり散財を繰り返すのだ。
「あーあ。私も思いっきり宝石買い漁ったり豪遊したいわ…」
健気なヒロインってちょっと損なポジションかも…
設定上宝石買いまくったり派手なドレス着て遊びまわったり出来ないし。
でも、あの地味な子がどうして?!って思われながら、自分より遥かに家柄も見た目もいい子を差し置いて王子と交際するのは考えるだけで気分がいい。
「まあ、コーデリアの場合バッドエンドでほぼ死んでるし、良くても追放とかだし…変わりたいとは思わないけどね。」
そして、当日…
「ネムスノヴァへようこそ。」
イケメンエルフが出迎えてくれる。
そこは、広々としたホールや2階、3階席まである素敵なお店だった。
「アンゼリカ男爵。こちらにお席を用意してございます。」
一階の壁際の落ち着いた席に案内してくれる。
手前の席より、ソファやテーブルが豪華な気がする。
テーブルには、匂いが控えめな薔薇が飾られている。
「食前酒です。お嬢様にはリンゴジュースをお持ちしました。」
エルフが恭しく飲み物を持って来てくれる。
「では、誕生日おめでとう。アリア。」
「アリアちゃんおめでとう。」
「ありがとうございます!」
早速口をつけると、香りが良く本当に美味しいリンゴジュースで、思わず一息に飲んでしまう。
「まあ!あなた…ワインがこんなに美味しいなんて…」
「驚いたろう?まだまだ、料理も驚きの連続だよ。」
出てきた料理はどれも素晴らしく、はじめてこの世界で美味しいと思える料理だった。
…それにしても。
メニューが地球的だった気がする?
前菜の野菜のテリーヌ、スープはミネストローネ、魚のヒラメのムニエル、肉のビーフステーキ、デザートプレートは白桃のケーキとティラミス、ガトーショコラとプリン。
なんとなくだけど、馴染んだ味に近いような…
でも、あれね。
きっと王都だからよね。
お城で暮らすようになれば、美味しい物を毎日食べられるという確信をより強くしたアリアは、せっかく感じた最初の違和感を追求せずに終わってしまったのだった。




