第70話 事件発生?
店舗開店から数ヶ月が過ぎ、もうじき保養地からも立ち去る時期だった。
あれからも売り上げは伸び続け…
パン屋とケーキ屋は商会本部の委託スペースから、王都に支店を構えるまでになった。
さらに、レストランは主要都市5つに支店を拡大。
商会本部は、調味料をたくさんの大店に卸すようになり、こちらもかなり順調だった。
私のパン講座は初級編、中級編、上級編、各回定員15名と定めながらも未だに満員が、続いている。
地方都市では、製法を学んだパン職人が貴族から独立し、ぼちぼちパン屋を始めているらしい。
そんなある日。
私はレストランに出向いて、新人の料理を覆面で食べていた。
覆面調査なので、カロンを連れて来ている。
カロンはあれこれ注文し、いたく嬉しそうに食べているので、このシェフは合格かな…
などと思っていると、厨房の方から騒がしい声が聞こえて来た。
「何かしら?」
「気になるなら行けば?」
「そうね…」
カロンは食べてていいわよ…と言おうと思ったのに、意外と義理堅い白竜は、私にぴったりとついている。
「行かないわけ?怖いなら僕が行ってあげてもいいケド。」
「ううん、大丈夫。行きましょう?カロンがいればどこだって安全だもの。」
カロンの色白の肌がサッと赤くなる。
見なかったふりをして厨房へ向かう。
「だから!!いいだろう?」
「ダメだ!帰れ。」
「嫌だね…なんとしてでもオレ達は…」
虎耳の大柄な男性と、ライオン耳の男性が、シェフのエルフに詰め寄っている。
「…なんの騒ぎ?ホールまで聞こえましてよ?」
「?なんだこのガキ。」
「オイ、嬢ちゃん。ケガする前に帰んな。邪魔だぜ。」
柄悪いなあ。
どう見ても平民だろう。
ゆすりかな?
恐喝かな?
「おっ…オーナー!?どうしてここに?」
口をアワアワさせながら、シェフが叫ぶ。
「オーナーだあ?このガキんちょがか?」
「いいとこに来たな。オーナーさんよぉ。」
「私はたしかにオーナーですが、貴方達レディに対する口のきき方がなっていないのではなくて?」
「レディだあ?」
「レディがどこにいる。」
…。
失礼な連中ね。
「それで、無粋なあなた達の要求は何かしら?聞くだけ聞いてさしあげるわ。」
恐喝なら、カロンにシメてもらおうかな。
そう思った時だった。
2人が顔を見合わせると、一斉に頭を下げた。
「「お願いします!!弟子にしてください!」」
「………はあ?」
「「弟子にしてくだせえませ!!」」
「聞こえてるわ。」
「俺たちに料理を教えてください!」
「料理ってあなた達…シェフになりたいわけ?」
こんな廊下はどうかと思うので、厨房の脇にある、私専用の私室へ案内する。
「失礼しやす。」
「まあ、おかけなさいな。」
2人が着席したので、カロンの分の料理をこちらに運んでもらい、ついでに2人にも肉料理をお願いする。
「ありがてぇけど、金ねぇぞ?」
「ああ、売るもんもねぇ。」
「いらないわよ。サービスよ。サービス。」
2人はそれを聞くと、ガツガツとステーキにかぶりつく。
「うわっやっぱりウメーな。」
「生きててよかった!!」
「…で、どうして弟子入りしたいのかしら?」
虎の方が口を開く。
「見ての通り、俺たちは先月まで傭兵をやっていやした。」
そうなの?
わからなかったわ。
それで筋骨隆々なのね。
「ですが、そろそろ教官にでもなるかどっかの軍に腰を据えるか…そんな事を考える歳になりやしてね。」
「ええ。」
「2人で傭兵最後の給料はパーっと高いもん食おうって話になって、先週来たんでさ。」
「そうなのね。」
「俺たちを見るなり、追い出しもせず服を貸してくれて…」
「出されたメニューは見た限り、他の客より安い。俺たちでも十分に食える値段ばかり…」
「なのに出てきた料理は、この世の物とは思えん美味さ。」
「感動した…」
「ああ、感動したな。出来ることなら、この美味え食い物を他の平民連中にも食わせてやりてぇ…そう思ったな。」
何よ。
いい連中じゃない。
気に入ったわ。
「それで、弟子入りを?」
「そうだ。嬢ちゃん。」
「オーナー。」
「ん?」
「オーナー、師匠でもいいわよ?」
「まさか!!」
「ええ、でもこの店で雇うわけには行かないから、あなた達2人に新しく平民向けに出すお店を任せたいわ。…でも、料理センス皆無だったら容赦なく叩き出すわよ?」
「「アイ!!サー!」」
「オーナー…でしょう?」
「…失礼!!オーナー嬢ちゃん。」
「まあ、いいわ。口はすぐには治らないわね。」
「それより、2人の名前を教えて頂戴?あと変な敬語はいらないわ。」
「オレはロイ。虎の獣人族だ。」
「そういう事なら…オレはジャヤ。ライオン族。」
「私はコーデリア・アッシュベリーよ。こっちは護衛のカロン。」
「…よろしく。」
カロンは食べる方に夢中でこっちを気にしていない。
まあ、危ない連中じゃないからいいけど。
試しにロイとジャヤに鍋を振らせてみたところ、2人とも筋が良かった。
素材の切りかたに関して教えた時も。
「筋肉に対してこうナイフを入れる訳だな…」
「戦闘訓練が役に立つな!」
などと物騒な事をいいながらも、スルスルと覚えていった。
もちろん、2人がアヤシゲな事に変わりは無いから、教える前にキッチリ魔道具で誓約たててもらったけどね。
こうして、講師で荒稼ぎした金額の一部を投入し、庶民向けの食堂をオープンしたのだった。
名前は安易にR&Jキッチンだ。
メニューは…
ロイの得意な洋食。
オムライス
からあげ
オムレツ
スパゲティ
コロッケ
マカロニグラタン
チキンソテー
ポークソテー
トンカツ
ハンバーグ
ジャヤの得意な中華。
八宝菜
麻婆豆腐
麻婆茄子
エビチリ
チャーハン
春巻き
餃子
焼売
カニ玉
青椒肉絲
材料やパンは商会から仕入れるようにし、2人には店舗費用と、売り上げの一部を私に支払う以外は、売れた分はそのまま自分の取り分にしてもらう事にした。
フランチャイズみたいな形態だ。
ついでに、2人が弟子をさらにとって、店舗を増やす時はそこからもお金もらうっていう契約になっている。
余談だが、このお店は想定以上に繁盛し、2人の筋肉が傭兵時代よりさらにムキムキになったのだが…
それはまた別の物語なのだ。




