幕間6 ヒロイン参上
今日から、待ちに待った旅行だ。
アリア・アンゼリカは、ワクワクが止まらなかった。
メイドに思い切りおしゃれをしてもらい、馬車に乗っている。
そんなアリアを、両親は優しい眼差しで見つめている。
馬車というから、ゆっくりしか進まないのだろうなぁ…と思っていたが、車並みに早い。
父がいうには、魔導具のおかげなのだとか。
「アリア、大丈夫かい?疲れたかね。」
「いえ、お父様。大丈夫です。」
本音を言えば、暇すぎるのでスマホで動画でも見ていたいが、この世界にはスマホはないから仕方ない。
「アリアちゃん。大好きな絵本がありますよ。」
母様が絵本を出して来てくれる。
「ありがとうございます。お母様。」
正直ちょっと飽きているけれど、無いよりはマシだ。
アリアは本を読みながら、これから会える未来の旦那様を想い、ドキドキしていた。
そしていくつかの町を抜け…
平原を抜けて、昼前にサバルディ男爵の保養地にやってきた。
館で休むという両親に、決して遠くにはいかないと約束して自由行動をさせてもらう。
「さあ!!探しに行くわよ!」
大好きなキャラクターの本物に会えるとあって、緊張と期待が最高潮に高まっている。
「ギルバートだから…絶対絶対イケメンだよね!」
興奮が抑えられない。
「森って書いてあったから、あの森よね…」
躊躇わずズンズン森に入っていく。
しばらく進むと…
小道が見つかった。
「楽勝、楽勝!」
上機嫌でむかう。
小道の先に小さな家があった。
「あ!これね。」
そもそも、森のどこって書いてあったかな?
勝手に入っていい感じ?
近寄ったアリアは思わず叫びそうになった。
玄関口には、魚の骨やら動物の骨、カビたパンが積まれている。
見た目の割に全く悪臭がしないのだが、アリアは気がつく余裕がない。
「なんなのよ!ここ…」
思わず口に出してしまう。
すると、ドアが細く開き中から少年が顔を出した。
うわっ!!
汚い。
それが第一印象だった。
ぼろぼろの薄汚れた布を頭からかぶり、痩せて不健康そうな見た目だ。
あ、そうか…
コーデリアと王妃が嫌がらせしているからか…
そう思ったものの、正直楽しみに、していただけにガッカリしてしまう。
ダメダメ!
いずれイケメン王子になるのだから、我慢しないと!!
自分を奮い立たせる。
「あの…どなたですか?」
少年が口を開く。
「あっ、私はアリア・アンゼリカよ。」
「アリアさんですか…ここには何か御用が?」
「ちょっと旅行中に立ち寄っただけよ!あ、あなたによければ、これあげるわ。」
持ってきたパンのバスケットを、丸ごとプレゼントする。
いくら未来のイケメンでも、生ゴミの上を歩いて近寄る気になれず、立っている場所から差し出した。
「僕に…ですか。」
ギルバートはゆっくり外に出てくると、バスケットを受け取った。
差し出された手は痩せて痛々しいが、清潔では無い様子の方が気になってしまう。
「ありがとうございます。優しいのですね。」
ギルバートは受け取ると、少し微笑んだ。
やっぱり笑顔はなかなかイケメンじゃない。
この様子だと、無事にイベント達成ね。
それなら…
せっかくの洋服が汚れないうちに屋敷に帰って、他のキャラクターを探してみないと。
会話はしなくても、ちょっと視界に入るとか、可愛く笑う姿を見せておくとか…
次のイベントの下準備はできるかも。
「そんな事はありませんわ。ではまた…」
足早に森を後にする。
後に残されたギルバートは…
ゆっくりと本来のヴァンパイアの姿に戻った。
そう、留守を任されたリュカの配下だ。
彼は、王に今あった出来事を伝えるべきか…
しばらく悩むのだった。




