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第53話 公爵と伯爵

「みんなは、ああ言ってくれたし…竜の件が片付いたらチョコレートも売り出したいわね。あとはクッキーもパンもケーキもいいなって思うし…悩むわ。」

食文化の起点になれたら、この上なく強いと思うのだけど…

「でも、私自身が弱小子爵の家じゃあね…バレれば金目当ての伯爵とか、没落上位貴族の嫁に売り飛ばされて、その旦那の権利になっちゃうから気をつけないと…」

自由もなく、ただひたすらに料理を開発させられる人生はお断りだ。

「お金積んで向こうから縁を切ってくれたら、1番いいのだけど…あの人達は一回もらったら満足できるような人達じゃないからなあ…」


そんな事を考えていると、フローレンス様に呼び止められた。

「あの…コーデリア様?」

「フローレンス様、どうかいたしましたか?」

「実は、父がまた明後日、面会を申し出ておりまして。」

「そうなのですね。もちろん喜んでお会いしますわ。」

改まってなんだろう。

ワインやブランデーの買い取りなら、いつも直接手紙がくるのに。

「ええ、なんでも直接お会いしたいと。ブランデーが高位貴族とドワーフ達に人気のようですから、そのお話かもしれませんわね。」

「もしそうなら、とても嬉しい事ですわ。」

それだけ言うと、フローレンス様は帰ろうとしたので、メレンゲ菓子とクッキーの入った袋を渡す。

「フローレンス様、もしよろしければこちらをどうぞ。」

「あらまあ!ありがとうございます。コーデリア様のお菓子は、例えようもなく美味しいので、私の人生の喜びですわ。」

頬を薔薇色に染めながら袋を受け取る。

スキップしそうな勢いでフローレンス様はウキウキと帰って行った。


面談の日…

セシルにお願いして、今日は仕事用のドレスを用意してもらう。

前回リュカ様と買い物に行って選んだ、紺地に金糸で刺繍がされている仕事用ドレスだ。

なんとなく、知的に見えるといいなと思って買った品だ。

アルメリア伯爵だし、これにしよう。


幼女と侮って欲しい時とか、幼い方が有利な場面ではふわふわのドレス…と使い分けていこうと思う。

使えるものは使っていかないとね。


「お嬢様、髪型はどうしますか?」

「うーん。ハーフアップにしてもらってもいいかしら?」

「かしこまりました。」

セシルに手早く支度を整えてもらい、応接室に向かう。

「おお、ハヴェルカ嬢。時間をとってもらって悪いね。」

「いえ…何か問題がございましたか?」

前回販売したチーズが不評だったとか…?

「いやいや、問題などないとも。むしろあのブランデーという酒は素晴らしいね。あの頑固者達が面白いように…。」

はっと我にかえると…

「今日来たのは、もちろんそのお礼もあるのだがね。実はちょっと、相談があるのだよ。」

「相談?…でございますか?」

「ああ、ワインもブランデーもチーズも…どれも大変素晴らしい品だ。しかも、娘がいうにはまだまだ、ハヴェルカ嬢は素晴らしい品のレパートリーがあるという。」

伯爵は目を輝かせている。

「そこでだね、いくつか考えている事があってね。」

「はい…」

「一つ目は私達で商会を立ち上げるのはどうか…という案。これにはメリット、デメリットがあってね。メリットとしては、私の顔がきく事。デメリットとしては、立ち上げに莫大な初期投資が必要な事と、信頼できる人間を雇用する必要がある事。さらに、君の実家にいくばくかの権利が発生する事。ここまではいいかな?」

「はい。」

商会立ち上げまで考えてくれていたのね…

まあ、今までのお酒とはもはや別物レベルの美味しさだから、わからないでもないけど…

「もう一つはね。私の養子に入るのはどうか…という事なんだ。その上で、家族経営の商会を立ち上げる。」

メリットは今後ウチの両親への支払いが不要な事で、デメリットは両親への身売り代金かな。

「どうかな?もちろん、どちらも君が嫌なら無理強いは…」


伯爵はそこまでしか話すことが出来なかった。

なぜならば、戸口に第三者が闖入して来たからだ。


「あ!貴方は…!」

伯爵は突如現れた青年に怒るどころか、心底びっくりしている。

誰?

すごく美形な青年が入ってきた。

なんとなくだけど、私に似ている気がする。

若く見えるのだが、上に立つ者の風格を纏っていて、年齢不詳だ。

「アルメリア伯爵…息災か?」

「はい、もちろんでございます。」

そう言うと、サッと上座の席を譲って私の向かいに移動する。

「コーデリアも、元気そうだな。」

「はい、おかげさまで。」

膝を折って挨拶しながら、誰だろうと考える。

「アッシュベリー公爵におかれましても、ご健勝のようで…何よりでございます。」

「ふむ…実は今日は、姪のコーデリアに会いに来たのだ。」

「左様でございますか。」

「邪魔をしたな。」

「いえ、私はまた日を改めますので…」

「いや…伯爵にも関わる話だ。同席するが良い。」

伯爵は心なしか、やられた!という顔に見える。

逢いに来られたら面倒な人とか?

さっき姪って言ってたけど…

お母様の兄弟かな。


セシルが手早く公爵の分のお茶も用意する。

「ありがとう。」

セシルに礼をいうと、お茶を優雅に飲みながら話し始める。

「実はな、コーデリア。」

「はい。」

「昨日、名前が変わったのと、プレゼントを用意したので、渡しにきたのだ。」

「名前が?」

「ああ、昨日からコーデリア・アッシュベリーに変わったのだよ。」

「それは、つまり…私が公爵家に?」

急展開すぎてついていけない。

「ああ、私の娘だ。」

あの家族から自由になりたいと願っていたのに…

まさかこんなに早く叶うとは…

でも、この人がどんな人かまだわからない。

だから安心するのはまだ、早いだろう。


「あとは、プレゼントだな。」

後ろにいる従者に合図をすると、書類と鍵を2本くれる。

「これは…?」

「ああ、お前の趣味に使えるだろうと思ってな、商会を立ち上げた。建物も買い取り、従業員もある程度選別済みだ。」

「えっ?」

商会は先程、アルメリア伯爵が提案してくださったばかりなのに…

もしかして…だからあんなやられたって顔していたのかな?

「あの…実は先程アルメリア伯爵からもお話をいただいていて…」

「わかっている。お前はまだ幼い、商会の顔にはまだまだ信用が足りない。だからな、アルメリア伯爵を会頭に据え、実際の商品開発や、方針決定はお前が主導で行う…というのはどうだ?」

聞いているうちに、どんどん伯爵の顔が明るくなってくる。

「伯爵としても、王宮の仕事がある身。ある程度の雑務は任せつつも…今、1番旨みに感じているであろう、酒販売の窓口の立場は維持できる。さらに、新製品や限定販売の際の人選に絡む立場が、初期投資無しで手に入る。悪くない話だと思うがね。もちろん、働きに応じて娘が給金も出すだろうしな。」

ここまで来ると、最早伯爵は上機嫌と言っても良かった。


「願ってもないお話です!!」

伯爵はノリノリだ。

こんなに喜ぶほど、商会立ち上げって、やはりお金がかかるのだろうな。

「コーデリアは、どうかな?不満はあるか?」

まさか自分がいきなり社長のような事ができるなんて自惚れていないので、大歓迎だ。

でも、私はやりたい事があるから…

しばらくはここにいたい。

「とても嬉しいですが…あの、公爵様。」

「お父様と呼びなさい。」

「はい、お父様。私、ここにたくさんの素敵なお友達がおりますので、しばらく、ここにいても構いませんか?」

「ふむ…まずは一年。ここで過ごしても良いが…季節に一度は帰って来る事、それを約束して欲しい。」

「はい!もちろんですわ。」

「だが…いいのか?領地に今よりも広く、美しい部屋を用意してあるぞ。」

「ええ、私はここが気に入っておりますので。」

「わかった…無理強いはするまい。」

もらった書類には、商会の場所や間取り…

従業員の名簿などなどがある。

うっ。

この人数、食べさせていかないといけないのね。

商会って大変。

でもやりたい事だらけだわ。

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