幕間5 頑張るヒロイン
私はこの世界のヒロインだ。
だってここは乙女ゲームで、私が主人公なのだから。
世界が私を中心に回っているというのは、なんともいいがたい万能感がある。
このゲームの主人公は、希少なヒーラースキルを持っている上、将来は竜の巫女にまでなるのだ。
ヒロイン属性バッチリでとても好ましい。
設定は好みなのだが…
「アリア、実はアボット子爵夫人がお前にぜひぜひ、一度でいいから頼みたいと言っているのだが…できるかね?」
そう。
不満点の一つがこれだ。
ヒーラースキルを持つ故、回復依頼がちょいちょい来る。
なぜちょいちょいかと言うと…
アリアは魔力がそんなに多くないので、そもそも大勢は診られないからだ。
もし、膨大な魔力を持っていたら、そもそも男爵家より上の家を狙えたのだろうし…
「はい、お父様。問題ありません。」
そう言ったものの、内心は不満たらたらだ。
なぜかというと、治療した反動で、相手の痛みや苦痛が跳ねかえってくる。
それでも、痛みに強いのか、ゲームの主人公は、父から依頼された治療で苦しんでいる描写は、全然なかった。
陽だまりのような笑顔でこなしている、とか書いてあったっけ…
元々痛みに強くない自分は、部屋で密かにギャーギャー叫んでしまう。
目の前で叫ぶほど主人公らしくない事はしないが、顔はかなり引き攣ってしまっているかも。
ゲームをプレイしていた時は、主人公が攻略対象の傷を肩代わりして、あまりのダメージに崩れ落ちる。
床に倒れ伏す前に、サッと抱き上げられ、イケメンの腕の中で気絶するスチルとか、気絶したヒロインを珍しく慌てたイケメン達がお姫様抱っこで運ぶシーンとか…
魔力の限界を超えて治療して、3日3晩みんなに見守られながら眠るシーンとかは、ため息が出る程、素敵な場面だと思っていたけど…
「どうして主人公に反動あるようにしたのよ…」
いかにも主人公らしい能力だけど、いざ自分がとなると、本当にいらない。
「反動あるの、イケメン治療した時、限定で良くない?なんでオバサンの太り過ぎの腰痛とか膝の痛みを、私が引き受けなきゃいけないのよ!!私に頼るな!痩せろー!」
いくら叫んだところで、自分は貴族と言っても男爵の令嬢。
それよりも、上の身分の人間からの頼みは滅多に断れない。
まして自分は、その能力を買われて平民から貴族に養子に入ったのだ。
「たしか…メインストーリーでは、反動を気にしてイケメン達が治療禁止にしてくれていたはず…そこまでの我慢よ。」
それでも、優しいヒロインは治療をやめなかったけど…
……私はやめていいよね?
ダメかな?
選択肢で続ける、やめるとかなかったって事は、やめてもストーリーに影響はないよね…
あまりにも苦しがり、痛がる娘を見かねて、男爵が数を限りなく減らして、内容もできるだけ軽い物に絞ってくれている事に、全く気が付かないアリアであった。
そしてこの事がちょっとした問題を起こすのだが、アリアはまだ知らないのだった。
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