第46話 動き出す公爵
アルバート・アッシュベリー公爵は、部下からの報告に目を通していた。
コーデリアと同じく、美しい金髪に緑色の目をしている。
その見た目から年齢を推し量ることは難しく、青年にようやく差し掛かったほどにしか見えない。
アッシュベリー公爵領は海に面した広い領土で、代々王家から自治を認められている。
財力、軍事力、生産量どれをとっても、小国程度では全く相手にならないほどの力がある。
個の領地にして大国と渡り合える、それがアッシュベリー公爵領だ。
それゆえに、歴代の王家のどの王朝とも過度に馴れ合う事なく、自由に顔色を伺う事もなく生きている。
その土台となっているのは、公爵本人も含めてアッシュベリー公爵領は、魔力の高いエルフが人口の多数派を形成しているからだ。
そんな領地を治める領主アッシュベリー公爵は、滅多な事では驚かない。
だが、部下が持ってくる報告には毎回驚いてばかりだ。
まずは数年前、妹が死んでしまったという訃報が入った。
そのうちに、ハヴェルカ子爵が再婚したという知らせが入り…
定期的に様子を、知らせるよう頼んでいた姪のコーデリアの情報が全く入らなくなった。
調べを進めてみると、姪はどうやらハヴェルカ子爵の屋敷には住んでいないらしく、屋敷にいた頃は後妻からずいぶんと嫌がらせを受けていたらしい。
ようやく居場所が掴めた場所は、サバルディ男爵の保養地だった。
保養地の屋敷に、家に置いておくと都合が悪い子供達が集められている事は知っていたが…
まさか、自分の姪まで送られているとは…
「至急、養子縁組の書類を用意するように!」
早く妹の子供を助け出さなくては!
使命感に駆られた公爵は部下に指示を出す。
正式な縁組には時間がかかるが…
大至急進めて、保護するつもりでいた。
もちろん、ギリギリまでハヴェルカ子爵にはわからないよう内密に進めてだ。
あの子爵の事だから、金を積めばアッサリと娘を手放すだろうと予想はできるのだが、念のため、ハヴェルカ子爵の後妻がコーデリアを虐待していた証拠集めも行っていた。
食事を十分に与えない、使用人の部屋で暮らさせる、などは軽い方で…
「なんと、毒まで盛られていたのか…」
幼いのに、なんと不憫な。
最近社交界では、ハヴェルカ子爵の妻がコーデリアの悪評を流して回っているらしい。
いわく…
コーデリアは、自分の元旦那の能力を封じた魔道具を盗み出し、腐敗能力を強奪したのだとか。
「あの子は…元夫の忌能力を封印した魔道具を勝手に発動させて、腐敗能力を身につけたのです…女の子には、いえ、むしろ貴族とは思えぬような下賤な能力…ゴミを肥料に変える力など…不憫で…このまま、あの子はきっと結婚することもなく、貴腐人となるのですわ。」
など泣き真似までしているらしい。
そして、裕福な農民の嫁にでもせめてなれれば…などと言っているらしい。
これでは、コーデリアの縁談は絶望的になったと言える。
「そちらがそう出るなら…この国で1番の縁談を用意してみせる。」
公爵は密かに決意を固めるのだった。
しかし、そんな心配をよそに…
次に来た報告に公爵は目を疑った。
「なんと…ダイアウルフを味方につけたのか。」
その上、行方不明の王子の世話まで焼き始めた…
公爵からすると、王位問題に争いに巻き込まれるのはごめん被りたいが…
「まあ、あくまで知らなかったとシラを切り通す事もできないわけではない。」
すべては子供がやった事で片付けられる話だ。
問題は…
養子にした後に、王子の後見を申し出られた場合だが…
「王子を保護するとなると…国政の実権まで欲しくなったと取られかねないが…」
でも、姪は引き取りたい。
いざ本当に申し出を受けたら、それこそ偽名でも名乗っていただいてあくまでも娘の友人とでもするか。
後の事は姪と王子本人に任せて、要所で力を貸してやれば良い…
などと力のある貴族らしく、深刻には受け取らないアッシュベリー公爵だった。
彼には姪の望みを叶えられるだけの力と、王子には正統性があるが…
報告を読む限り、聡明で行動力のある姪は喜ばないだろうと思った。
「それに…我家門の姫君であれば、解決してこそのものだろう。」
公爵は庇護すべき者と、試す価値のある存在を明確に分けている。
どうやら姪は試す価値があるのでは、と思い始めたのだった。
もし本当にそうであれば、女の子であっても跡取りの資格があるし、領地運営に関われる。
そんな領地なのだった。
それから少しして…
部下が報告と共に一本のワインを持ってきた。
「こちら、コーデリアお嬢様がお造りになったアイスワイン、という酒でして。王都の貴族の間で高値で取引されているものです。」
「ほぅ…特有のすえた香りが全くないな。それどころが、果実の香りまで感じられる。色も美しい黄金色で…」
一口飲んだ公爵は言葉を失った。
「なんと…これがワインだと言うのか?!今まで飲んでいた物が出来損ないと思える程の差だぞ。」
そういえば、部下は取引されている…と言っていたな。
「…これは、販売されているのか?」
「はい、アルメリア伯爵が販売元となっております。」
「これは…あの子が作ったものと公表されているのか?」
「いえ…こちらは、産地不詳の幻のワインとされておりましたので、私の能力で調べました。その結果、製作者がコーデリアお嬢様、必要年数は一年と出ました。」
「一年?」
「はい、他にも必要年数が30年を超えるものもあり…」
「あの子のスキルか…」
「おそらくは。」
「しかし、これほどの品を他人が販売しているとは…」
「申し訳ございません!!せめてコンタクト相手に適当な貴族を紛れ込ませるべきでした。」
「よい、あの子が想定以上のタマだっただけの事。」
「至急、アルメリア伯爵とコンタクトを取ります。」
「いや、それより養子縁組を急ぐのと、追加で新しい商会の設立を頼みたい。」
「!!はっ。直ちに手配いたします。」
長年の腹心の彼は正しく理解していた。
公爵はその商会を姪に与えるつもりなのだろう。
こうして、事態は少しずつ動き出しているのだった。
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