第45話 お買い物
残りのフレンチトーストは、自分の分とせっかくなので、レオナルト様の分を焼き、2人で食べた。
メルヴィンには、作り置きを地下室に置いたから、気が向いたら多分食べると思う。
その後は自室に戻り、セシルに支度をしてもらう。
「今日は外出ですので、こちらのドレスでよろしいでしょうか?」
セシルは手にビリジアンの生地にペンシルストライプが入った、上品なドレスを持ってきた。
ビリジアンの、少し青みがかった緑色って綺麗で好きだわ。
私の瞳の色とも合っていると思う。
「外出だし、それにするわ。」
しばらくするとリュカ様が迎えに来て、いよいよお出かけする事になった。
「今日はよろしくお願い申し上げます。」
「こちらこそ。とても楽しみだよ。」
リュカ様はキラキラの笑顔だ。
2人で馬車に乗り、街を目指す。
なんだか、授業をサボって遊びに行くような高揚感がある。
もっとも、私の場合そんな余裕がなかったから、大学で途中から取らない事にした講義が空きコマになったから遊びに行った…とかしかないけど。
あの時も、他の子たちとは違う事をしている背徳感というか、解放感があったけれどそんな感じだ。
育った町以外の異世界の町はほとんど行った事がないから、とても楽しみでもある。
「これから行く町はどういった町なのですか?」
「そうだね…規模としてはそう大きくないけれど、この辺は保養地がたくさんあるあたりだからね、貴族向けの商品を扱う店が多くて…有名店の支店もたくさんある、なかなかに賑やかな町だよ。」
「それはますます楽しみです!!」
「コーデリア嬢の欲しいものも、無事に見つかるといいね。」
「はい!今日はたくさん買い物しますよ。」
「私は、自分の屋敷の倉庫へ直接物を送るスキルがあるのだけど、コーデリア嬢は買ったものはどうする予定かな?もちろん、町には配送を請け負う業者もいるから、頼む事もできるよ。」
リュカ様になら、言っても大丈夫かな?
「私は、この本の中にしまえます。」
「本に?」
リュカ様が目を見張る。
「ええ、この本に倉庫のページがあって、かなりの量を収納可能です。」
「それは、なかなかユニークなスキルだね。他にはあまり聞かないな。コーデリア嬢が信じられないほど美味しい料理を作れるのも、そのスキルがあるからなのかな?」
あ、やっぱり気になってはいたけれど、聞かないでいてくれたのだな。
やっぱり、リュカ様優しいな。
「ええ、この本にレシピがたくさんあるのです。」
「そうか…料理を手伝わせてもらっている時に、絵本を読んでいるように見えていたけれど、スキルの擬態だったのだね。」
そうなの?
聞いたことなかったけど、他の人がこの本を見ると絵本に見えるのか。そういえば家族もこのスキルを、童話か何かが読める役に立たないモノ、だと思っていたっけ。
「そうです。私は擬態していたとは知りませんでしたが…」
「希少なスキルは、元々スキルを隠蔽するしかけがあるものも、少なくないからね。」
やっぱり魔法だのスキルだのがある世界でも、この能力は珍しいのか。
リュカ様とおしゃべりをするうちに、あっという間に町に着いた。
リュカ様の話では、馬車は魔道具で速度が補正されているので、馬単体の速さよりもずっと早い速度で移動できるのだとか。
「わあ!賑やかな町ですね。」
そこは思った以上にたくさんの人が行き交う、賑やかな町だった。
「今日は市場が開かれるから、特に人出は多いね。」
出店も多く出店しており、色鮮やかな商品は見ているだけでワクワクする。
野菜を売るお店…
飴を売るお店…
怪しげな魔道具のお店…
不思議な水球がぷかぷかしているお店など見ていて飽きない。
「こっちに市場が出ているから、広場に行ってみようか?」
「はい!リュカ様。」
広場に来ると、そこもたくさんのお店がひしめいているが、さっきよりはなんとなくきちんとしたお店が多い気がする。
店主の身なりも心なしか、清潔でピシッとしているような。
「やあ!お嬢様、いらっしゃい。ウチの砂糖は上等だよ!まじりっけなしの真っ白!!どうだい?」
店主は白くてサラサラの砂糖を勧めてくれる。
グラニュー糖かな。
たしかに不純物が無く上質な砂糖だ。
買っていきたいけど…
「あの、砂糖以外に、サトウキビはありますか?」
「ん?貴族のお嬢様が欲しがるモンじゃないんだがね…」
店主は奥からサトウキビの束を出してくれる。
「コレは、ちょっと裕福な平民の子らのオヤツなんだが…」
「サトウキビ!!」
よく見ると、若芽がついたままのものがたくさん混じっている。
欲しい!!
図鑑で値段を見ると、一本小銀貨1枚と出た。
「あの、これ一本小銀貨2枚で全部売っていただけませんか?」
「えっいいけどよ。」
「あ、子供達の分が無くなりますね。」
しまったしまった。
楽しみにしている子がいたら可哀想よね。
「あー。それは、他の店でも売ってるから問題ないけどよ。普通は小銀貨1枚で売ってるもんでね。」
「コーデリア嬢が、それだけの価値を感じたのですから、よろしいのでは?」
リュカ様が助け船を出してくれる。
サトウキビをあるだけ買って、砂糖も買ったら、砂糖に黒糖をたくさんおまけしてくれた。
いいおじさんだな。
また、この人から買いたい。
その後、スパイスのお店でもスパイスを買い漁り、野菜屋で野菜をたくさん買い、果物屋、ハーブ屋さんとはしごをしてだいぶ満足した。
「じゃあ、モリスのところに行こうか。」
そうだった。
盛り上がりすぎてモリスさんを忘れていた。
モリス商会は広場のすぐ近くにある、大きな建物だった。
「これはこれは、ムーンリット様、ハヴェルカ嬢。ようこそ、お越しくださいました。少し中で休憩なさりますか?」
「ああ、モリス。久しぶり、なかなか繁盛しているようだね。」
「はい!ハヴェルカ嬢のおかげで、毎日酒類の売り上げが天井知らずにござります。」
モリスさんはホクホク顔だ。
「それは嬉しいお知らせですわ。」
エール販売順調だもんね。
ほぼ3日に一回くらいの勢いで追加の依頼がくるくらいだし。
しかも毎回、量増えてるし…
まあ、私のスキルだとまだまだ余裕な量なのだけどね。
そろそろホワイトエールにちょっと香りをプラスしたものも販売計画中で…
今は関係ないか。
「できれば、君のおすすめのお店で食事をとってから、ブティックに行こうと思っているのだけど。」
「はい、それでしたら、町1番の店に予約済みですので…その後、マダムガゼルの店へ行くのがよろしいかと。宝飾店でしたらエステルという店が質の良い物が揃っております。」
「モリスさん、ありがとうございます!行ってみますね。」
モリスさんは予約とってくれたなら一緒にと思ったが、仕事が立て込んでいる、との事で来られなかった。
「リュカ様、美味しいお店でしたね。」
モリスさんのおすすめだけあって、出てきたラムのステーキとりんごのコンポート、ニンジンのスープはシンプルな味付けながら、この世界の食べ物としてはなかなかに美味しかった。
「そうだね。でも、正直なところ私はコーデリア嬢の料理の方が好きだよ。」
「嬉しいです。」
料理を褒めてもらう方が、容姿を褒められるより嬉しい。
その後はブティックで買い物をして、日常着と最近増えて来た商談用のドレスを新調した。
モリスさんやアルメリア伯爵の時はリュカ様にいただいたドレスで会ったけれど、いつまでも貰い物ばかりと言うわけにもいかないし…
そう思ったのに、結局リュカ様にドレスと揃いの宝石のほとんどの支払いをさせてしまった。
「コーデリア嬢が、ワインをたくさんプレゼントしてくれるからお礼だよ。」
などと言って払わせてくれなかったのだ。




